第三話 守るべき日常《もの》
翌日俺たちはしっかりと目覚め、共に朝ご飯を食べる。
テレビではここ数年、行方不明事件が増えていることを報じている。
朝ご飯を食べている俺たちに姉さんが話しかける。
「魔使ちゃん、あなたの服、洗濯して乾かしておいたから」
魔使さんが申し訳なさそうにお礼をする。
「何から何までありがとうございます」
そんな魔使さんに姉さんが答える。
「いいのよ、これくらい、それと刀也!ちゃんと魔使ちゃんを送り届けてあげるのよ」
俺は姉さんからの叱咤に答える。
「そんなこと、言われなくても分かってるよ」
その後支度を終えた俺たちは家を出ることにする。
「それじゃあ、行こうか、魔使さん」
俺の言葉に魔使さんが返す。
「えぇ、少し話しながら行くことにしましょうか」
魔使さんと共に学校に向かいながら話しをする。
「今更なんですけど魔使さんって俺と同じ学校だったんですね」
俺の言葉に魔使さんが答える。
「日魔長決議の間も学業を疎かにするわけにはいけないから決議が始まる数日前に転校してきたのよ、
あなたとクラスは違うけど知らなかったの?」
魔使さんの質問に俺は冷や汗をかきながら答える。
「えっ⁉︎えっと、そういえばそんなこともあったかなぁ」
俺は黒峰刀也の記憶は断片的にしか持っていないので
こういったことは知らないんだよなぁ。
俺は深掘りをされる前に話題を変えることにする。
「そういえば魔使さん以外の候補者ってどんな人なんですかね?」
俺の質問に魔使さんが答える。
「そうね、ほとんどは七大魔家の当主が選ばれたそうよ、
でも魔使と術木の当主だけは候補者に選ばれなかった。魔使家の枠は私だけど、術木の枠が誰になったかが分からないのよねぇ」
俺は新たに疑問が湧き、魔使さんに質問する。
「候補者の選別ってどうやるんですかね?もし、全国の魔術師が対象なら見つかりっこないですよ」
俺の質問に魔使さんが答える。
「私も詳しくは知らないのだけれども、あくまで候補者は決議が開始された時点で三重県内にいた魔術師のみから選ばれるそうよ、また期間内に三重から離れれば強制的にリタイアと見なされるとか」
なるほど、つまり誰か分からない最後の候補者は三重県内にいる魔術師ということか。
それが分かっただけでもマシと見るべきか、ぜんぜん絞りきれていないと悲観するべきか、微妙だな。
そうこう言っているうちに学校に到着し、お昼にまた話すことを約束してそれぞれのクラスに入った。
そしてすぐに授業が始まり、俺は黒峰刀也の席に座って授業を受けることにした。
何人かのクラスメイトや廊下ですれ違った人を見て気付いたのだが、この学校はあまりにも服装が自由すぎる。
なんと、この学校は制服が学ランとセーラーの他にブレザーなどもあり、なんと私服でもいいようだ。
クラスメイトのほとんどは学ランやセーラーだが一部の人は私服やブレザーを着ている。
……もしかしてだがキャラを立たせるために服装を特殊にしたいが、モブキャラの作画コストを減らすためにこんな制度にしたのだろうか?
黒峰刀也は学ランを着ているが、魔使さんはブレザーを着ているし、遠目に見ただけだが巫女服のようなものを着ている人もいた。おそらく学ランやセーラー以外を着ている人はネームドキャラということなんだろう。
ゲームの制作事情が見えて嫌だな……。
午前中の授業が終わり、昼休みになったので魔使さんと合流しようとする。
そのとき、一人の男が教室に入ってきた。
「刀也〜!一緒にお昼食べよ〜!」
その男が教室に入ってきたときクラスの女子がざわざわし始めた。黄金色の髪を持つ美少年であり、黒峰刀也の親友らしい、術木薔薇である。
そういえば、彼もまた【術木】だが、魔術師なんだろうか?
俺がそんな疑問を浮かべながら魔使さんとの約束があるので薔薇の誘いを断ろうとすると、魔使さんが教室にきた。
「黒峰くん、屋上でお昼を食べましょう」
その時、魔使さんと薔薇の目が合った。
薔薇はあからさまに不機嫌そうな顔で魔使さんに話しかける。
「君って確か数日前に転校してきた魔使さんだっけ?
どうして君が刀也と一緒にお昼を食べようとするのか分からないけど刀也は僕と一緒にお昼を食べるんだ邪魔しないでくれるかなぁ」
喧嘩を売るような薔薇の態度に眉一つ動かさず、魔使さんが答える。
「悪いけれど、私は彼と約束があるの今日は引いてくれるかしら」
魔使さんの言葉に薔薇が驚き、俺に話しかける。
「なんだって⁉︎ちょっと刀也!どういうこと⁉︎
まさか君、僕とお昼を食べずにこの泥棒猫と一緒にお昼を食べる気かい⁉︎」
何故か修羅場のようになっているが、薔薇とも魔使さんとも別にそういう関係ではない。ひとまず今日は約束があるから薔薇の誘いは断ることにする。
「悪い薔薇、今日は約束があるからごめんな」
そう言われた薔薇は深いショックを受けているようだった。
「そ、そんな、刀也が僕以外と仲良くするだなんて嫌だ〜」
まるで幼子のように駄々をこねる薔薇。
周りのクラスメイトは苦笑しつつも受け入れているあたり、おそらく普段からこんな感じなのだろう。
そんな駄々をこねる薔薇の背後に一人の女性が忍び寄る。
「な〜にやってんすか兄さん!」
その女性は薔薇に手刀を叩き込む。
頭に手刀を叩き込まれた薔薇は後ろに振り返る。
「痛っ!ってなんだ百合じゃないか」
カッターシャツとミニスカートを着た女性は短い黒髪と
浅黒く焼けた肌によって活発な印象を思わせる。
ヒロインの一人である黒木百合だ。
彼女は親が離婚したので薔薇と苗字は異なるが、
血を分けた兄妹らしい。
「まったくもう、いつも先輩に迷惑かけて、ほら、私と一緒にお昼食べて我慢してください」
どうやら彼女は騒ぎを起こした兄を回収しに来たらしい。
去り際に百合が俺に言葉をかける。
「そうだ先輩、私今度陸上の記録会があるんでよかったら見に来てくださいっす」
百合の誘いに俺は言葉を返す。
「あぁ、きっと見に行くよ」
俺の言葉に百合ははにかみながら
「それじゃ失礼するっす」
そう言い残して薔薇を連れて出て行った。
その後魔使さんが近づいて来て話しかけてくる。
「あなた、ずいぶん愉快な友達を持っているのね」
魔使さんの言葉に俺は苦笑しながら返す。
「まぁ、長い付き合いなもんで」
そして俺たちは屋上に上がり話をしながら弁当を食べた。
これからの計画を俺は魔使さんに聞く。
「それで、これからどうしていくつもりなんですか?」
俺の質問に魔使さんが答える。
「そうね、まずは私たちのできることの確認よ、戦いに慣れていないと候補者との戦いに勝つことなんて不可能よ、
だから、今日から間界で魔獣と戦って戦闘訓練をしましょう」
俺は魔使さんの答えに異論は無いので了解の意を示す。
「わかりました、それじゃあ放課後すぐに行きましょう」
そして俺たちは午後の授業もしっかり受けた後間界に行った。
二度目の間界だが相変わらず空は赤黒く、街並みは先程までいた場所と同じだというのに不気味な雰囲気を醸し出している。
間界に入ってすぐに魔使さんが俺に話しかける。
「気をつけてね、ここはもう魔獣の領域よ、油断していると怪我じゃすまないわよ」
油断した結果一度死んだ俺にはとても沁みるお言葉だった。
「はい、しっかり気をつけます」
俺が油断していないことがわかったのか魔使さんはお互いの能力の確認を始める。
「まず私たちの能力を確認するわよ、私の魔術は【使役】、魔獣と契約して使い魔として戦わせる、私の魔力を使って使い魔の能力を強化することもできるわ」
魔使さんの魔術の説明を聞き、続いて俺の能力を説明する。
「俺の魔術は【切断】っていいます。
おそらくなんですけど、この魔術を使えばなんでも切れます」
俺の魔術の説明に魔使さんが驚く。
「なんでも⁉︎どうしてそんなことがわかるの?」
魔使さんの質問に俺はおぼろげな説明をする。
「なんていうか、この魔術を使うときに目に見えている全てが『切れるな』って思うんです、切れないイメージが湧かないというか、ともかく自信が湧き上がってくるんです」
俺の要領を得ない説明に魔使さんが困惑しながら推察をする。
「魔術の効果に対象の硬度の判定も含まれているのかしら?もしそうなら切ることのできる対象は切れると直感で判断できるということ?ともかく、あなたの推論が確かならシンプルだけど強力な魔術ね、言ってしまえば相手がどれほど硬くても、どんな防御をしても必殺の一撃を繰り出せるのだから」
少し思案した後魔使さんは訓練の内容を話す。
「あなたの魔術を攻撃の軸に置いて、ひたすらに攻撃を当てる練習をしましょう、しばらくは私の強化にも慣れる時間が必要でしょうしね」
魔使さんの話した訓練の内容に異論は無いので頷く。
俺たちは孤立している魔獣を探し、訓練を開始した。
「魔使さん、強化お願いします」
俺の要請に魔使さんが答える。
「えぇ、いくわよ、【身体強化】!」
魔使さんと繋がった経路から魔力が流れ込み、俺の身体能力を強化する。
さらに自分自身の魔力でも【身体強化】を発動し、高まった身体能力によって魔獣との距離を一瞬で詰める、
黒峰刀也の家にあった小型のナイフに魔力を通し、魔術を発動する。
「【切断】!」
魔獣とのすれ違い様になでるように刃を滑らすと魔獣の体は上下で真っ二つになった。
死亡した魔獣は魔石を残して消滅した。
俺はふと疑問が湧き、魔使さんに質問する。
「そういえば魔使さん、魔石って何か使い道があるんですか?」
俺の質問に魔使さんが呆れながら答える。
「あのねぇ、一応は魔術師ならそれくらい知っときなさいよ、魔石は各地方にある魔術組合に持っていくと換金してもらえるの、その後魔石は乾電池のようなエネルギー源として加工されるわ。日本のエネルギーの何割かは魔石よ」
なるほど、魔石はエネルギーとして使われるのか、魔術師が仕事として成り立っているのもこういった理由があるからなんだな。
その後俺たちは何体かの魔獣相手に訓練を続けた後、帰ることにした。
夕食をとり、お風呂に入る、そしてベッドに入って寝る。
訓練をしたことで疲れたのだろうか、すぐに意識が遠くなっていく、遠くなっていく意識の中俺は百合の誘いを思い出す。
「そういえば、記録会がいつあるのか聞いてなかったから聞かなきゃなぁ」
そうして俺は眠りについた。
百合に記録会の日時を聞くことを考えながら。
しかし、翌日俺が百合にその質問をすることはできなかった。
百合が行方不明になったのだ。




