序章エピローグ 崩れ去る楽園
序章のエピローグです。
「もう〜やめてよ、ソレ」
温め直した高級弁当をパクつく。テレビを見ながらスマホをいじるマナがついに指先まで操れるようになった僕の不思議な体に文句を言う。
「アーン」
何の力も入れずに割り箸を使って上等なご飯を口に運ぶ。
完全に脱力した唇を無理やりこじ開けて咀嚼する、ところまでを魔法でやるのはさすがに難しいので、普通に食べる。
恐らく死体であろうと生きてる人みたいに動かせる。
スキル、サマサマだ。これで死んでも戦える、ってね。
「《グリッターボール》は、調べても出てこないよ。てことは、新スキルだよ、ユニークスキルだね。《シールド》と《アロー》は、汎用スキルだからまだ理解の範疇だけど。《オーラフィールド》は、動画で見た感じだと個人差があるみたいだね」
「そうなの?」
「うん。エイくんのソレは範囲内で魔力が操作しやすくなるんだよね?」
「うん」
「でも調べたら《オーラフィールド》って範囲内にやってきた魔法を弱体化するスキルだって書いてあるよ」
「…………うん。それもできると思うよ」
範囲内の魔法を弱めるくらいなら簡単だろう。
ね、天使さん?
『高位の鑑定で、スキル効果の分解をしないと正確には分からないけど、複合スキルではあるでしょうね』
ほぅ。
『範囲内の空間把握と知覚強化、魔法の強化と弱体化。一つずつが別個のスキルになっててもおかしくないくらい。たぶん、これは雑に名前だけ偽装してるパターンね。元スキル《オーラフィールド》は"自他とも"に放出系魔法を使えない空間を生み出す能力。それって下位互換でしょ? なんでそんなことになってるかは分からないし、知りたくもないけど……』
以上、脳内天使の解説でした。今は声だけささやくモードだ。
「それもできる、ね〜」
マナは目を細めて意味深に言った。随分と、僕が新たな力に目覚めることを喜べないらしい。
「だって、ダンジョンで私が足を引っ張る予感がするんだもん。魔法ずるいよ〜魔法。人の努力をあざわらう鬼畜だよ」
「うん。……これ、めっちゃ美味しい。いくらしたっけ」
「うーん? 『千G』はしたね」
どれどれ。
いい加減横着せずに自分で動いてレシートを探す。
ギルドのフードコートでお持ち帰りしたやつ。二つ合わせて『三千G』近い。
「はー美味いわけだ」
大人の冒険者の肉体にも近い豊富に魔力を含んだ牛肉ステーキだ。
ダンジョン産の素材ドロップを使用しているはずで、僕も毎日、これを食べれば体力がつくこと間違いなしの一品。
「晩ご飯、何がいい?」
今日の献立は未定か。
『何でもいい』は用をなさず。かと言って、本当に食べたいものを言っても却下される質問だ。
『どっちの服が似合うと思う?』よりはやや簡単だが、頻度はこちらの方が上。
「今日くらい出前で良くない? それこそまたコレでもいいくらい」
「う〜ん。なるべく節約したいからなぁ。今日の探索成果、一人当たり『100G』だよ。ワンコイン」
「もともと入るだけの予定だったじゃん。天使が誘導してきても無視していいって話だったような」
「クラスメイトはみんな競争だーって『マウマウ』のタイムラインでも自慢ばっかり。―――ほら」
「見せんでいい。てか手が早いよ。もう連絡先の交換してるんだ」
僕は、マナとだけです。アハハっ。
「ハァ………そういうとこマジ劣等感だ」
「何言ってんの。全部いらないだけでしょ? ホントに欲しいんならあげるよ。―――ほら、見て」
「参った参った。どうせ『人見知りのコミュ障』ですよーだ」
「やっぱりそうじゃん」
SNSは、無数のエゴの集積場だ。人混みや満員電車にも似た圧迫感に酔ってしまうから。
「でもFランクに昇格したら、活動報告上げないとだよ確か」
「……………そうだった」
長期間活動していない冒険者は、ランクの降格やライセンスの失効などの措置が取られるのでアピールは盛んだ。
「まぁ、何とかなるでしょ。積極的な交流が義務として発生するでもなし」
「冒険者は人気商売だよ。外聞にも気を使わないと」
「ハイハイ」
「絶対逃げるやつだ」
そんな雑談をして過ごした。気軽に話せる相手はそれこそマナくらいのもので彼女がいなければ僕はいったいどうなってしまうのだろう。
焦燥感に突き動かされるように魔法を使う。
MPは、時間の経過で回復する。それもそのはずで、空気中の魔力はつねに生体に取り込まれているのだ。この『魔力の吸収効率』を一気に引き上げれば、回復は早そうだと思えるが……。
けれど、問題が生じるのは予想がつく。害なく魔力を取り込めるペースがあるのだ。
のんびり食事をとったこの数十分でも少なくとも『100』は回復してる。なので、扱える魔力は潤沢だ。
早めにお風呂を沸かしてシャワーを浴びる。髪の毛が濡れるまで一時的にバリアが生まれるあの現象を魔法で延々と続ける遊びをやったり。
水滴を動かして、どこまで操れるか試してみた。
散乱した水滴のすべてを静止させるのはかなり難しく、離れた位置から湯船のお湯を持ち上げるのもたいへん厳しく、バケツいっぱい分がやっと。
けれど、体を洗って浸かった状態からだとお湯の大半を持ち上げられた。
魔法は万能だが――このように、距離や重量、精度には限界がある。
しかし、日々訓練を続ければ上達する類いのものだとも実感できた。喜ばしいことだ。
***
僕らの就寝は、かなり早い。
だいたい九時半くらいには寝室に移動して眠り始める。
「―――――どこに行ってるの?」
まぁ、寝室というか自室だね。僕にあてがわれた部屋にはベッドと机とそれから本棚くらいなもので。
正直、ほとんど使わないと思う。
「今日はそっちで寝るの?」
何も言わない僕に、マナは少しだけ苛立った。
寝巻き姿のマナは足早に自分の部屋に行ってから、すぐに戻ってきて……。
その手には自分の枕が握りしめられている。うつむいて何も言えない僕の手を引いて、結局同じベッドに入った。
「…………」
本当はおかしいって思うけど……。そんなことを言えば彼女がどれほど激しく怒るか分からない……。
もしかしたら、考え過ぎかもしれない。笑い話になって、別々の部屋で寝ることになるかもしれない。
けれど、もし、そのことが彼女の逆鱗に触れた場合。
それを想像するだけで身が縮こまる。せっかく魔法で強くなったのに、これじゃ全然ダメじゃないか……。
「ぐすっ……」
落胆と失望が胸を重くする。そして、じんわりと涙が滲んだ。背を向けても、スキル《魔力感知》は見えないはずのマナの表情を正確に捉えた。
「…………フフッ」
なんて言うんだろう……。慈愛の微笑みっていうのかな……?
心の底から幸福そうに見えて……それが何故だか不気味に思えて……。
僕はベッドの端から突き出した指先で魔力を繊細に操った。
数字やアルファベットを書いてみるのだ。今度は記憶にある精緻なデザインの魔法陣を描いてみて……。
まったくもって、上手く描けなくて笑いそうになったけど。
『タスケテタスケテタスケテタスケテたすけ……………………』
同時並行で書き連ねた文字の羅列は、ひらがなとカタカナを組み替えていく、最初は意味のないものだったはずだけど……。
『てタスケテたすけてタスケテ』
次第に変化していって、あるとき同じパターンの繰り返しになった。
『たすけて』
それに気づいて、ゾッとした僕は少しでも早く眠れますように……と、天に祈った。
願いが叶ったのか、ぷつんと糸が切れたように僕の意識が途切れた。
ああ。
MPの残りが三割を切ったのは初めてだった。
『0は死亡時』、天使も言ってた。そうなる前に気絶するのは僕も知っていた。
生きている限り、魔力が絶無になることはあり得ない。
「おやすみなさい」
最後に、囁くように。
マナの微かな声が聞こえた気がした。――こうして僕の長い一日はようやく終わったのだ。
『ごっ、ごめんなさい。わ、私どうしたらいいのか、そのわからなくて』
…………あぁ、気にしなくていいよ。脳内に響く弱々しい声があまりにもか細く震えていたから、僕は優しい気持ちになった。
生まれたばかりの天使さん。キミは何も間違っていない。傍観者でいるのは学習の機会とでも思ってくれれば幸いだ。
じゃ、今度こそおやすみ。
『………………おやすみ、なさい』
優しく微笑んだ天使の顔が見えた気がした。
これにて初日は終了です! とりあえず投稿してみた。読んでくれた人がいたらありがとね!
途中ちょこちょこホラー感出てたけどジャンルは一貫してラブコメです!(そう見えたかな?)エイよ世界中から愛を探すのだ。愛なくして人は育たぬ。愛さえあれば世界も救えるのだ。……だといいなぁ。
次回からは、「誰かの足跡」という括りで、いろんな人視点の数百文字くらいの短いのをやってから、第二章「白き怪物のアギト」に行きます! 待たせてごめんね! ダンジョンです!!
以下はステータス置き場
___________________________________________
【名前】 ラクミヤエイ
【レベル】 1
【ジョブ】 冒険者見習い
【HP】 62/62
【MP】 830/830
【ちから】 6
【かしこさ】 15
【まもり】 8
【せいしん】 18
【きよう】 10
【びんしょう】12
【スキル】
《いつか真の冒険者になるんだ》
《死の超克/スタンドアップ》
《無属性魔法》
《グリッターボール》
《シールド》
《アロー》
《オーラフィールド》
___________________________________________




