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エピローグ 魔王系勇者

第四章「畏怖との遭遇」エピローグです。サイテー注意。


 さて、今日は信じられないほど疲れた。

 【メニュー】の通知を示すマークと重なる数字が誇張されているのが鬱陶しい。


 細かい部分の確認は明日にしよう……。


 ――でも、気分的に湯船には浸かりたいな……。



「あ〜〜〜」


 そして、一番風呂はもらった。心地よいまどろみを感じると……今日一日の濃密な時間がよみがえる。


 ―――朝。目覚めの一本とばかり。黒羽さんに切り掛かって瞬殺された。その後、武道場を破壊し、シミュレートルームで武闘力を調べた。さらに、マナと一緒にロックイーターと戦ってバイキング。部屋で、新たに異質な魔法/ホワイトホールを習得して倒れた。


 ―――昼。あんまり記憶に残っていないショッピングモールを連れ回される時間が過ぎて、ギルドマスターに呼び出され、ヒステリックに喚き散らすアリアさんたちと挨拶をした。


 ―――午後。解禁されたダンジョン。急遽準備をして、過剰戦力ながらも入場した。大人気ない引率はありながらも順調に攻略を進め、そして、得られた大きなチャンスにたまらず突撃した。


 ――過去のイメージがよみがえる。血走った目で通路の床を踏み抜く誰かさんの後ろ姿だ。曲がり角で勢い余って肩が当たり破砕させ、滞空してる女の子に魔法をぶつけて通路に弾き、嬉々として落とし穴にダイブする荒ぶる猛獣みたいな僕。


 助けてくれようとした二人を空中で撒いてまで、望みを叶える強欲さ……。


 自分に対してツッコミを入れる。


 ――もっと……どうにかならないか? と。ハシトくんではないがもっと小マシなやり方がないだろうかと真剣に考える。


 ――けれど。いまは、実際に欲望が満たされたからこそ冷静でいられるだけだろう。

 あの殺意に満ちた空間を生き抜いた。

 それがなければ、僕はまだ――同じことをやろうとしたはずだ。


 実際、欲望が満たされるまで。


 最後に――炎理さんと仲良くなれたこと。火の精霊の神秘的な魔力と彼女の繊細な心に触れたこと。

 

 今思い出してもすごかった。国宝級だろう。

 ――火炎。爆炎。大爆発! ほんとに一つ一つの技が派手だからなぁ。

 僕の魔法は基本的に地味なので憧れる。



「そうだっ! 5Fのモンスター」


 【ライブラリ】を開く。

 前回との差異を眺めながら、考える。大迷宮の全体踏破率は『0.3%』と低いが、これはマッピングをあんまりやれてないからだ。全ルートを舐めるように探索しなければ、なかなか増えにくい。


 モンスターコンプ率は『0.6%』。この調子でいけば半年でコンプリートできる計算だが、ネットで調べると『80%』くらいが最高らしい。まだ攻略されていないからね……。


 しかし、改めて確認すると、ネットで『5F』までのモンスターの名前一覧はちゃんと調べられるのに、それ以降は空白だ。

 ランクアップすれば情報は解禁されるが、どのサイトにも載っていないということがありうるのだろうか? 個人のブログですらそうだ。

 躍起になって調べてみると、急に頭がぼーっとして――何を考えていたのか忘れてしまった。


『――ラクミヤ? アンタが見たいのはあの魔人でしょう?』


「――なんだっけ……あっそうそう。魔人」


 ミカに促されて、指を動かす。――あの闘いは、あまりにも鮮烈だった。いまも思い出すだけで、頭上から魔人の手に押さえ付けられてるような、圧迫感を感じる。錯覚だろう。


______________________________________________________________________________________

 -フィアーモンスター

 魔人ルハネス★

 -討伐数:1

 -基礎スペック

 初期レベル:60

 取得経験値:13500

 ランク:A

 種族:亜人/悪魔

 スキル:『超再生』『デモンズプライド』『暗黒閃』『絶死の魔眼』など

 耐性:『魔法に極端に強い』『物理に極端に強い』『状態異常に極端に強い』


 せつめい:悪魔と適合したニンゲン。かつては人々を守る聖騎士だったが、現在では破壊衝動と嗜虐に満ちている。


 -ノーマルドロップ(20%)

 大魔石-360000G

 悪魔の凶爪-999999G

 ?????

 -レアドロップ(0%)

 ????? -G

______________________________________________________________________________________



 改めて規格外だ。


 魔石は通常より優れたやつが当たったらしいが、あくまで大魔石扱いか。


 【ライブラリ】は『Aランク』の項目から調べても大量の『???』マークに埋まっている。


 『Bランク』と『Cランク』もおじさんを除き一つも埋まっていない。本来手が届く相手ではなかったのだ。


 有効だと記憶してるのは《ドミネイト》の魔法だろうか。

 アレのおかげで《オーラフィールド》の圧がさらに高まり魔法全般の強度が増した。


 調べたところ、似たようなものはあっても、同一の魔法はなさそうだった。

 僕の魔法は、"自己領域の定義"や"モンスターの支配"が特に強力なようで、長所を伸ばすべきだろう。


 それにしても、5Fの出現モンスター多いな……。

 新規追加だけでも、『16種類』か。


 見た感じ、あの罠はさらに奥で出るモンスターも混ざっていたようだが……。


 先行体験のためにモンスターハウスに突っ込むのはやはり効率的なのでは?


 ――ふと、悲しそうな少女の顔がよぎる。今日は買い弁だ。シャワー室から意識を遠くにやる。


「…………」


 現在マナはテレビのギルドチャンネルを睨みつけている。

 ちょうど今――『冒険者の資質や才能についての統計データから将来的な成長限界やランクを事前に決定することに対しての是非』という難しい話をしている。


 『適性試験』は絶対的な評価ではないが、各種パラメータのランクをG〜Sで教えてくれたり、属性の相性なんかも載ってたな。


 僕は――うん。クラスでまさに半分くらいの成績だから"平々凡々"なのだろう。

 具体的には、【MP】や【かしこさ】の評価がAやSで、あとはCが多かった。

 これはレベルアップごとの上昇値や上限に関係があるらしく、同レベルでも隔絶した差が生まれる。


 それこそまさに、あの学年主席さんが全パラメータ評価S(限界値の測定不能)だったと噂されている。


 …………うん。ちょっと落ち込むね。


 まぁ、でも僕も捨てたものじゃない。


 今日みたいな、まぐれ勝ちがなくても、一日ごとに強くなれる。


 知識にあるダンジョンや、冒険者の常識からすると少し逸脱しているのは察するし、黒羽さんのリアクションを見ても心底不快そうだった。


 ―――《孤立無援の勇者ロンリネス・ブレイバー》。


 おまえは、ソロで潜るべきだと言われた気がする。

 これ以上仲間を危険に晒す前に―――



「フッフッフ〜〜!!!」


 パシャッと水音を立てて立ち上がる。


 あの殺意に満ちた空間――狂気の時間は最高だったぜ!!

 僕は神堂さんに対する劣等感を覆い隠すために無理やり気分を上げる。


「――なんてゆーのかな……さいのう? それも孤高なソロハンター」


 案の定――脱衣所に気配があった。


 今は、一人になりたくない気分だったのだ。極度の疲労が情緒を不安定にしているのだろうか。……早く寝るべきだろう。


「―――ダンジョンに入ってまだ『四日目』だというのに、いくつものスキルが手に入り! 称号が進化した! この爆発的な勢いそのままに"英雄街道"をひた走るのは、どうだろう。――敵地でモンスターを次々と支配して、味方につけ快進撃を続ける『魔王系勇者』―――ラクミヤエイ」


 ――おえっ。


 熱に浮かされた頭で矢継ぎ早に大口を叩くが存外悪くない。うん。

 この際、僕が"呪われてる"とかどうとかは些細なことだ。


「――大事なのは。何を為すかなんだ。……どんなチカラを持ってるかじゃない―――何を為すかなんだッ!」


 そうすれば、僕だって活躍できる。――そう! みんなから認められるような冒険者になれば解決じゃないか!


 眼前にキラキラと夢が広がる。


 たしかに僕は少々――ヘンかもしれない。変わってるかもしれない。周りとは少し――違うかもしれない。だけど炎理さんだって孤独だった! 可哀想だった! 僕は一人じゃない!!


「…………だいじょうぶ?」


 心底気遣わしげなマナの様子に我に返った。冷静になると――さっき自分で語った文言がとたんに虚しい響きに聞こえた。


「――いや、でもなんのためにって感じするし? ――僕はなんのために生まれたの?」


 無言だった。――返答はない。


 ――シーン、と静寂に満ちるだけ。そして、それが答えのような気がしてくる。


 あのときみたく、ふざけて入ってくるでもなし。

 扉の隙間から覗くマナは――くわっと目を見開いて呼吸を乱した。

 まるで、痛いところに触られたみたいに血相変えてさ……。


 ―――なんだよ、それ?


 そのリアクションだよ。――わかってるんだよ? 何か隠してるんだよね?


「…………っふぅッ……ぇイくん、だいじょうぶ……だいじょうぶ……大丈夫だから」

「なにが?」


 あの魔人ほどではない。

 しかし僕の高まった魔力はすでに他者に感情をぶつけるだけで格下を威圧する効果がある。

 本気を出せば、一瞬で気絶させることだってできるだろう。


「――生まれて。……わたしが、生まれてきてほしかった、から。生きてて……い、い……」

「ふーーん」


 ついには、立ってもいられなくなったみたい。

 その表情とその話し方で、信じろってのは無理があるよね。


「――じゃあ僕は―――なんでこんなにおかしいの?」

「っ……」

「あの、フィアーモンスターにあっさり勝てるわけないじゃん。そんな理不尽あってたまるか! スキル習得をするために数ヶ月単位でカリキュラムが組まれてる……。戦闘訓練だってそうだ。明日、黒羽さんあたりに確認してみるけどさ。―――マナ」

「っっ…………!! ――はぁっ……はぁ」

「――魔王系勇者、じゃなくてさ」

「もう、やめてっ!!!」


 絶叫が浴室に響く。この先は言わせないと明確な意志を感じる。


「魔王の――」

「…………ちがうっ。――違う違うッ。……違う違う違うっ!! エイくんは魔王なんかじゃないッッッ!! 人間だから! ちゃんと、人間だからっっ」

「ふーん」


 ――ま、それでもいいけどさ。

 もし、正体が暴かれてしまったら僕はどうなるだろうね?あの魔人は"元人間"だったそうだ。

 

 詳しいことは知らないが。もしあいつが――街中を歩いていたらどうなるだろう?


 確実に。"討伐対象"として、冒険者が出動する案件となるはずだ!


「逮捕されて――処刑されて――死ねたらいいね」

「――あっ……あぁぁぁっ〜〜!!? うぅっあぁあっ……はっはっ……」

「――アッハハッ………マナってば! とっても辛そう〜!」


 ぽろぽろと光る涙、整った顔をグチャグチャにして取り乱す彼女を見てると――だんだん癒されてきた。キラキラキラ〜と輝いて回復する。


 ――たとえ僕が鬼でも――悪魔でも幽霊でも魔王でも――どんなモンスターだっていい。


 ただ――マナが自分のために泣いてくれるなら。それでいい……。



「――ほら、一緒にお風呂入ろう」


 生気を失った死人のようなマナを魔法で操ってしゅるしゅると服を脱がせていく。



 ひと通り脱がし終えて、魔法で扉を閉めさせ、マナを座椅子に乗っけた。そして虚ろな目をしたままの彼女にお湯の塊を当てる。


「わっぷ……エイ、くん?」


 反応が鈍い。ずぶ濡れになった美少女の前髪を指で分ける。それから頬に添え、しばらくじっと見つめ合った。うんやっぱりマナは―――


「泣き顔が一番似合うよ」

「………ッ! ―――サイテーなこと言ってる自覚ある?」


 ――あるとも。でもすっごい悩ましいんだよね。まったく反応しない下半身は色々と複雑な事情が重なってダメになったのだろう。


 他の男ならまず、襲いかかると断言できる。嗜虐心を煽る、繊細で触れれば壊れそうなもろさ。――ああ、現在進行形で自己嫌悪が蓄積し、時間差で爆発しそうなことを除けば最高だぁ!



 ……今日は、どんな夢を見るだろう。――願わくば、心躍る冒険を……。


四章(Day4)を読んでくれてありがとう! どうだったかな! 


 しっかし、うーんこのメンヘラ……。だがもう、こっからは上がるっきゃないっ成長する一方だぜ! ってことでまぁひとつ。


 次回は「幕間」マナ視点です。ルーツを教えてくれる。

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