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みんなの反応

短め



「―――もうさ、ダンジョン行くのやめよっか」


 

 転移水晶の輝きに包まれて、懐かしの白道に帰ってきた。


 てっきり、誰もいない中を一人でトボトボと帰るハメになるかと思っていたが……。僕の落ちた通路では、みんなが待っていたのだ。


 感動の再会。

 思わず、涙腺が緩んだ。


「ダンジョン、行くのやめよっか」


 そこに、マナの痛烈な一言がよこされる。


 くたびれた僕を、背中に抱えた風変わりなおじさんに目もくれず、空中で折り重なった武器防具の数々を無視して、ただ一心に――僕のことだけを見つめている。


「…………」


 疲労困憊で重いまぶたを持ち上げている状態だ。何も応えられない。


「ううん、もう、絶対行くのやめる。――やめさせる」


 半ば、現実逃避しつつ、白道の上でこの場にいる面々を眺める。


 ――炎理さん、武蔵さんに黒羽さん。――みんな久しぶりだ。


「――お、おかえりー……。さすがにダメかと思ったけどよ。ヘーキそうじゃんか」

「うん。ただいま、炎理さん」

「―――いや誰だよソイツ!? そのモンスターはちょっと……アンデッドじゃん! ――り、理知的な目をしてやがる……」


 炎理さんは困惑して、雑に集めた金属装備の山を二度見、三度見してから、今度は、僕の顔を見て《鑑定》した。


「……ん〜〜?」

『――ノゾミ。ログの同期もきたんだメラ……が、これは……? ―――なんッ? ……え……? ―――えっ??』

「―――ら、らくみや………英雄になっとるー!!? こんな短時間で!? ええええ〜〜〜〜!!??」


 炎理さんが大声で叫び出し、その後、パーティメンバーが黙々と情報を読みとる。静かな時間が過ぎる。


「――そのアンデッドマジシャンは調伏扱い、ですかね? モンスターと純粋に心を通わせて改心させるとかいう……ちょっと、わかりませんけど……《支配魔法》? ……まぁ、いまさらか」


 武蔵さんが、本人も納得してなさそうなテキトーなことを言う。


「ラクミヤ……おまえにしては長かったな。……と、言いてェがキメェ……!!」


 タバコをスパスパ吸っていた黒羽さん。取り出した魔人のドロップを差し出すと、彼は盛大に引いて「オエオエ〜」と演技する。


「ムチャクチャなログだぞ……? モンスターハウスは――まぁわからんでもないが"フィアー"はありえん。……ありえんぞ……」

「――クッ……クソー!! なんでオレもその場にいなかったんだぁ!! だぁあーー!! 英雄になるチャンスをみすみす逃したぁぁ……!!」


 わちゃわちゃと雑談する、この四人は置いておこう。


 ――問題なのは、それ以外の人たちだ。


「――無事なのは喜ばしいことだ……とも言えないな? ―――楽宮。俺も見ていたが――本当にこの程度の罠を回避できなかったのか? 水和に攻撃魔法を放ってまで危険な目に遭いたかったのか?」


 ――なんだろう……。

 力強い意志で見つめる男子と、その周囲にいる三人の女子生徒が取り巻きのように立っている。


「――わ、わたしは気にしてないって!! ら、楽宮君。ムシ、ムシしていいからね? こいつ謎の正義感持ちだからさっ」


 小動物っぽい女子は見覚えがある。


「――はぁ……あっ、あのときは……ごめんなさい」

「だから気にしてないよ! 腰が『グギ』って変な音して死んだかと思ったけど全然平気だよっ?」


 それは平気なんだろうか……。

 媚を売るみたいな笑顔を見せる小柄な少女はウィザード志望らしく、魔法には強いのだろうが……。


 ――さて、と。


 それより、この熱血漢をどうしたらいいか……。


「あー……B室の……?」

「ハシトだ。話を聞いた限りだとパーティメンバーを無用な危険に晒したとしか思えないな」


 ――はい。


「お前のその『破滅願望』に文句を言うつもりはない。――ただし、周囲を巻き込む場合は別だ! 明日からソロで活動すると約束してくれないか? ―――彼女たちが可哀想だ」


 言いながら、マナと炎理さんを見つめるその目は、下心よりはむしろ使命感に燃えている。


「――ぅ、うん……。考えとくよ……」

「そうしてくれ。―――また明日答えを聞くからな」


 ――ええ〜……やだなぁ……。


 結局最後まで、かっこいい立ち振る舞いを貫き通した男は、戸惑う少女たちを連れ立って、迷宮の奥へと進んでいった。


「――ヒュー、青春してるねェ。……ちと、相手が悪い気はするが……あの坊主も"勇者の素質"があんのかもね」

「――フッ。笑わせないでください。"自称勇者"ならいくらでもいますよ」


 ――さて、いろいろごちゃついたが……。さっさと帰還しようじゃないか!


「みんな待っててくれてありがとうね。……マナ?」

「………フーンだ。しらない」


 彼女はそっぽを向いてしまわれた。


「とりあえず、帰ろうよ。――お腹減ったし、疲れたよぉ〜」

「だなー。ここも長くいたから占領みたくなるしよ」


 階段付近は石橋を叩こうとするパーティが順番待ちしたりもする――が、だからと言って、一箇所にとどまり続けるのはマナー違反だ。


 宝箱の固定ポイントや、効率的なレベリングが可能な人気スポットは諍いの原因。ココはそうでもない通路だが、絡まれるのは避けたい。


「…………」


 身につけていた防具は――その大半がスクラップになり、お陀仏。

 いつもの戦闘服は肩あたりで焼け焦げて、二の腕が剥き出しだ。


 それほど、フィアーモンスターがヤバかった。

 希少級の《シルバーメイル》もありがとう。――南無……。


 魔人ルハネスだ。――あいつ……いまだに勝てる気がしないぞ……。


「……?」


 そこで、垂れ下がった指先をちょこんと握られる。

 マナの伏せた目は、水分を多く含む。


「…………」


 ――ああ〜! 胸が痛いぃ〜!


 さっきのハシトくんの言葉が頭に残る。


 ――ソロ活動か。


 進化した称号《孤立無援の勇者ロンリネス・ブレイバー》のメイン効果は、『単独行動時に限り、大幅なアビリティ強化が得られる』というもの。


 そう考えれば――福音かに思える。


 一考の余地ありだろう。

 それはともかく――


「見て見て――新技の《ドミネイト》」


 人差し指を伸ばすと、向かいから「ポスっ」と間抜けな音がした。


「???」


 すると、襲いかかったコボルトは疑問顔になった。突如"漆黒の糸"が脳天を貫くと立ち止まり――反転し今度は、仲間を襲い始めたのだ。


「バウアッ」

「グギィィ〜!!」


 この唐突な裏切りは、狂ったかに見える。


「――ねー! 面白いでしょーっ! ――ふふっ」

「…………面白いっていうか――"邪悪さ"が増したな。どうすんよヒグレ? こいつ……絶対自由になっちゃダメなヤツだぞ……」

「――言われなくても。エイくんはちゃんと私が"管理"しなくちゃ………」

「………おまえも大概だったわ。―――このパーティ大丈夫か?」


 闇魔法ドミネイトの画期的なところは――手足となったモンスター越しにも支配できるってこと!


 コボルトに傷つけられた――毒の粘体ポイズンスライムに侵入した闇の魔力。これに意識を向ければ、体内のコアへ侵食していくのが分かる。なので、スライムの抵抗に合わせて都度魔力を追加する。


 コボルトを中継することで、最小の魔力消費で手駒を増やせるのだ!


「――いや、もうおまえが"魔王"だろ! 仲間ってそんな感じで増えるの? 倍々ゲームで勢力拡大とか狙ってんの!?」


 炎理さんがそうやって騒いでいる最中も戦闘は続けられた。


 最後に残った『アフロスタチュー』が溶かされ、切断されるサマは、非常に悲哀を誘った。


 アフロヘアーな石膏像は、植物モンスター同様に、どこか一点を支配すればイイわけじゃないので、コスパが悪そうだった。


 こうやって、遭遇するモンスターにモンスターをぶつけて進む安全な帰路。

 ――最後まできっちり働いたコボルトはどうしようか……。

 お行儀よく座り込んだ――彼の頭上に浮遊した魔剣が――殺意の刃を向ける。


「……いやっ殺すのかよっ! おまえは鬼か悪魔か!?」

「――え………でも、これ以上連れ帰るわけにもいかないし。おじさんと違って隠れられないし」


 アンデッドマジシャンのおじさんは《影渡り》というスキルで街中だって歩ける。


「それでも……こう――なんていうかなぁ? 可愛く見えてこねぇか?」

「うぅん。――じゃあ、切腹させよう」

「サイコパスかよ! おまえちょっと倫理観が死んでるぞ!!」


 そうかと言って、ほかの冒険者に討ち取られるのは許せない。

 僕のものを壊してイイのは――僕だけだろう。


 そのへんで見かけるコボルトはともかく、おじさんはレアだ。持って帰りたい。


「ここまで"言うことを聞く"モンスターなんて逆に知らないけどな? 卵から孵したなら別だろうけど、会ったばっかでここまで従順になるもんなのか?」

「……いや、知らない」


 他の人がどうやってるか知らないけど、ここまで見てきた限りだと、特殊なアイテムで使役する感じだろうか。マジックアイテムの『首輪』や『ボール』などで制御下において、言うことを聞くと証明できればいいのではないか。


 ――とりあえず連れて帰ることになった。……僕にとっては、自分のものであり続けるなら別にどっちでもいいが……。



「………そう上手くいくかな?」


ドミネイトは"尊厳破壊"魔法です!

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