第五話 強者の誓い
どんどん行こう!
「とことん、やってみよう」
マナの連撃を受け止めた防御の魔力を引っ張って、宙に浮かせば『魔力の盾』となる。《無属性魔法》と《オーラフィールド》の組み合わせによって、僕の魔法は神がかったとさえ言える。
『魔法強度』とは、術者がこめた魔法の効果をどれくらい維持できるかという目安。跳ね上がった魔法強度により、思いつきで実行した魔法が強固となる。
想像が、具体的な形を持って現実に現れるのだ。まさしく魔法、夢のような時間だ。
「『亀さんの甲羅』」
コレを完全に体から切り離した瞬間。スキル《シールド》として【ブック】に登録された。
僕自身、造形的に全然ダメだな、と思っていたので少々意外だった。
まぁ、イメージしてた『亀さんの甲羅』とは似ても似つかない"板チョコ"みたいなやつだったからなぁ。
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《シールド》
魔法の盾。一定の耐久力をもつ障壁を生み出す。
レベルが上がれば、耐久力や形状を変更できる。
また、同時に展開できる数も増える。
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「《シールド》」
さっそく使ってみると、"ホームベース型"の『透明な板』が空中で固定された。その形からして、魔法の盾を形成できた時点で得られる汎用的なマジックスキルなのだろう。
その場所から離れても《シールド》は、相変わらずたたずんでいたが―――しばらくして儚く散った。
魔力を供給すれば継続可能だが時間経過で減少する『盾の持つHP』がなくなると消滅するらしいと、ミカが教えてくれた。
たった10秒で消えるように設定されているが、消費魔力からしてコストパフォーマンスを優先してるのだろう。
魔法の苦手な人でも使える、MPと引き換えにした使い捨ての盾といった印象だ。
でも、それで十分なのだろうか? 《無属性魔法》保有者は、これを材料にして新たな魔法でも作るべきか。はたまた、そのまま利用するべきか。夢が広がるなぁ〜。
これを『最低単位』として、中規模の防御魔法や大規模の魔法などに発展できるだろうか。少し考えても、先は長そうである。
『難しいこと考えてるみたいね』
うんうん、うなって考え続けていたので、彼女が話しかけてきた。
天使はとくに用事がなければ出てこない。僕の意思が招いた形だろうか?
『そうね………あんたが、どうしても出てきてほしくないとき以外は案外と自由よ?』
そうなんだ。
「それでさ、誰でも使えるスキルなんかは習得が容易くなっている代わりに、効果や自由度が著しく下がる。……合ってる?」
『全然、話がつながってないのはともかく! 合ってるんじゃないの? ……知らないけど』
「いや、テキトーだなぁ。ガイドエンジェルはダンジョンに詳しいはずだよね。……少なくとも僕よりは」
世間的に僕は情弱だ。入試の対策くらいはしたが、あれらは実用的か否かに重きを置いていて厳密なルールや仕様は二の次。そのような配点だった。
僕の疑問は、研究者や学者の領分。細かくて軽視される部分だ。
『というより。この場合アーツスキル《シールド》の基本効果にオプション的につけ足し可能なのが、統合スキルでもある《無属性魔法》の強みよ。単体アーツの効果・威力補正の上昇、同時展開数なんかをほんのちょっぴりだけ増やすのに苦心するのが昨今の冒険者みたいね。……同じスキルでも、使い込みでまるで別物になってしまうから』
やっぱり、詳しいじゃん!
『あんたはちょっと違いそうだけれど』
「ふーん?」
話を聞きながら、再び取り出した《シールド》をマトにしてブロックの破片をめいっぱい叩きつける。
『だって自力で勝手に強くなりそうなんだもん。ガイドのし甲斐がないわ〜。スキルの『熟練値』がものすごい勢いで溜まっているのがほわわ〜っと分かるわ』
ほわわ〜っと、ね。
『俗に言う天才ってやつなのかしら。ガイドとしては喜ぶべきなんでしょうけど、あいつも言ってたように、私ってば落ちこぼれなのよ』
原始人の使う、鋭利な石器でこすりつけるようにしても引っかき傷が生まれるのみ。ではガラスみたいに横からの攻撃には弱いのかと叩いてみるが、不思議なことに、どの角度からでも一定の耐久性を発揮するようだ。
『聞いてる? まぁ、愚痴よね。パーティ内の戦力格差が解散の危機を招くように私とあんたもいずれ、解散、するんでしょうね』
何度もこちらをチラ見してくる上目遣いの天使。……うわ、《容姿端麗・極み》だったか……? シールドの破壊に集中してなければ、関心を抱いてしまったかもしれない。
『いやそこは見惚れなさいよ。ウソでしょワタシ唯一の武器がっ!?』
何度か全力で殴りつければ、ようやくヒビが入り……。
最後の一回で砕け散ったかと思えば瞬く間に破片すら残らず溶けるようにして消えていった。
「面白い」
毎度毎度同じ規格のシールドが出てくれるのはありがたい。
グリッターボールで試せば、どんなに上手く当てても一回は防がれる感じだった。二回目で木っ端微塵。
次に、素手で殴ってみる。
「ぅおりゃッッ!! ………痛ッ」
わりかし本気で殴ったからズキズキと骨が痛む。
ステータスで強化されたパンチだったはずだが、シールドは頼もしく、びくともしていない。
「フーフー。今度はこっちか」
真っ赤になった右拳を魔力で包みこみ、シールドをまとうイメージで保護する。
コレで触れれば……。コツコツ、と硬質な物体がぶつかる音がする。
ゴ。ゴ。ゴッ。
みたび、同じ箇所を殴ればシールドは破壊されて……しかも痛くない!
これは『身体強化』というより、『身体保護』だろう。装備を身につけるのに近い。
カラダの内部から―――筋肉や骨格、神経を通して運動を強化するのもできそうだが体力的に厳しそうだ。
びっしょりとかいた汗が芝生を濡らす。それに息も浅く、ちっとも動きたくない。
それでも、まだMPは半分以上残ってる。
「ハァ……ハァ」
無性に何かを欠乏した感覚はあるが、それが何か思い出せない。
だけど構わず、魔法を続ける。生み出したシールドに矢を飛ばす。
現実の弓矢と同じサイズ、形状をイメージして加工したものを高速で打ち出すのだ。散漫な意識のなか、リズミカルにいくつも飛ばしていく。
自分の庭である《オーラフィールド》から伸びた触手をそのまま尖らせて盾に突き刺す。
一発ずつの威力はバラバラだが、かなり凶悪な攻撃なのは穴だらけになったシールドで一目瞭然。
何度も何度も。眠くなるまで同じことをずっと繰り返した。
マジックスキル《アロー》が【ブック】に登録された。
『あんた、一旦休憩しなさい。MPは0になったら死ぬのよ?』
ならば、次は身体強化だな………。そう考えたのが最後だった。
蓄積した疲労に抗えず、僕は芝生のチクチク感も気にならなくて、膝から崩れ落ちた。
その物音が聞こえたのだろう。デッキにいたマナが駆け寄ってくる。
「もう。いきなり無理するからでしょ? ご飯も食べなかったし、すぐに晩ご飯の時間だよ」
「うー」
「そこで反省ねっ。ペース配分を考えないから、そうなる」
言い返したいけどマラソンを終えた後みたいに疲れてる。
夢中になってるうちはまったく気ならないのに。
疲労を思い出したかのように"こう"なる。もっと自由に動ければいいのに……。
「そうだ……!」
「なぁに? 立つの手伝ってほしいの?」
違う、そんなんじゃない。
人形だ。
あのフィギュアだ。
手足が欠けてもさ、『人形ごっこ』は続くだろう?
自身を人形に見立てて魔力で動かす。気だるさがハンパではないが、魔力はまだまだ残っている。
僕の体力の無さも魔法で埋められるのではないだろうか。
「『マリオネット』」
上から糸で持ち上げられるイメージだ。右腕の肘と手の甲、肩を強引に引き上げる。
「うわっ、何その動き」
カクカクっと奇妙な姿勢で上半身を起こしたからだろう。
マナが悲鳴をあげる。
『被虐趣味でもあるの? 私は、あんたのことが分からないわ』
最終的に、魔力だけである程度は自分の体を動かせることが分かった。
コレで意識と魔力さえあれば何度でも立ち上がれる。
あのはぐれゴブリンがそうだ。負ければ一方的にすべてを奪われるのだから粘り強さは必要だろう。
たとえ、剣でお腹を貫かれても口からとめどなく血反吐を吐きこぼしたって……。
立ち上がりさえすれば、いつだってチャンスに巡り会える!
逆転の目はあったのだ。それが少し悔しかった。
ゴブリンの命の灯火が、儚く消えるさまを思い浮かべて、かわいそうだと思った。だが、すべてはお前が弱かったゆえに起きたこと。
―――弱者に、生存の自由はない。
『…………ラクミヤ、あんた』
僕は、強者の側に立ちたいのだ。マナに守られる弱者ではなく……!!
そう強く誓ったときだった。
…………?
背中に、誰かの視線を感じたのだ。砂場のある方向だ。
顔をそちらに向けず。そっと横目で確認した。すると……。
『…………………』
『…………………』
『…………………』
そこには………どろりと、血の涙を流す瞳が何対もあったのだった。
フッ、この世は所詮、弱肉強食よ……!! いいぞよく言った! エイくんは男の子だ! ぐんぐん強くなる子は見てて気持ちいいなぁ〜! マナちゃんはそんな彼をどう思ってるかな………。
見られてますねぇ……。




