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ドミネイト

あと二話です。ここを耐えれば勝てるんだから!




「―――は、は、はっ」


 浅い息を吐き出し続ける。究極の気弾は強いが、その分だけ消耗もすごい。


 MP的には問題なくとも、体力が持たないのだ。


 手傷を追うごと、巨大化していく魔剣。しかし、度重なる負荷に砕けて使いものにならず――


 勇猛で、目覚ましい強さの高レベルモンスターを前に未熟な技は完封とは至らず――


 残り10体以下となってからが辛い。


 なにが辛いかというと、やはり体力だ。

 勝てる戦いではある。だけど、心臓がこれ以上ないほど高鳴っており、すでに死を意識する段階に達している。


 ―――お腹減った。

 ―――帰って寝たい。


 猛烈な飢えと乾きに支配される。


 餓狼のように戦い続けて、精魂尽き果てた僕の体は、いよいよ糸で吊られる最終段階に達した。



 人形のごとき、奇妙奇天烈な挙動をとり始めたのだ。

 戦闘中にあり得ない脱力と軽妙なステップは敵陣を翻弄して飛び跳ねる。


「ウゥゥ……」


 本能と欲望に身を委ねた人という名の獣。


 それを、僕はやや俯瞰して見ていた。


 ここからが強いと断言できる。

 血だらけになって弛緩した体がゆらゆらと動くのだ。

 すでに首元は力が入っておらず、カクカクと動いて不気味に見える。だが、強い。


 骨は砕け、垂れ下がった両腕を鞭のようにしならせて戦う独特の戦闘スタイル。


 明らかに見た目が不可解だ。本来の手足を伸長させて瞬間的に遠方まで届く手足は、弾性に富み、ロックイーターの体表から着想を得た、しかし真逆の攻撃的技術。


 身体操作の魔法。


 パチン、パチン、と。銃声にも似た破裂音がそこかしこで鳴り響く。


 固定観念が邪魔をしていたのだ。てっきり筋肉と骨を硬くすることだけが――身体強化だと思っていたのだ。


 しかし、違う。違った。戦闘中にのみ得られる圧倒的自由がもたらすイメージは創造的だった。


 そう、僕の体は――タコのように軟体だったのだ!


 思いこめば、なおも高まり続ける魔力が燃料となって実現してくれる。僕の肉体は可哀想に酷使されるが、自分の体だし文句はないだろう。


 高速で振るわれる鞭が嵐となり敵の肉を穿ち、骨を引き裂き、破裂させる。


 空を飛びながら、腕を振るい、逃げ惑うモンスターに追撃を仕掛ける。

 その場で、うずくまる小悪魔の全身が破裂する。

 広範囲に散らした殺意の鞭は、超反応で動く強靭なモンスターたちの皮膚を突き破り、部位を弾けさせた。


 僕の魔法が、新たなステージに達したのだ。これは接触の瞬間にだけ最大の効果を発揮する。


 魔法を単にぶつけるのではなく、相手がのけぞる前に破壊の余波を伝播させて効率的に体内を破壊する高等技術。これなら、最小限の労力で相手を殺し切れる。


 身体操作と衝撃の伝播。これまで操ってきた無属性の真髄、その一端に触れた心地である。


 ひたすらに硬い『剛の技』で、ボロボロになった躯体を再利用する『柔の技』。



 ここに、戦いは終結した。

 気力や体力が、底をついた。………もうすっからかんだ。


「…………」


 そして、僕は無防備に立ち尽くした。

 すべてを出し切り、その余韻に浸っているのである。



『お疲れさま! いつも思うけど驚異的な集中力ね。私の声もゼンゼン聞こえてなかったでしょう? 目も閉じていたし、まるで幽鬼のようだったわ』



 その言葉に眉をしかめて、首の接合部をなぞり、貫かれた心臓の調子を確かめる。どうやら回復は上手くいったみたいだ。


 途中、何度か死に掛けたが、いつものことである。



「………まぁ、ね。べつせかいに、いたみたい」


 猛烈な吐き気と倦怠感が襲う中、平静を保つために口を開く。


 意識が浮遊したときの記憶は曖昧だ。ただ、ひたすら戦闘のことだけを考えているのはたしかだろう。


「…………ふ、ぐ。かえりたい」


 激烈な痛みにさらされて、意識が飛び飛びになる。

 しかし幸い、まだ立ち続けている。


「……ミカが、つかってくれたの?」


 まだ僕の脳内で先までの戦闘が繰り返されている。

 俯瞰映像で、ミスの瞬間や理想との一致がハイライトとなって、コマ送りされ、血肉に変わる過程。


 無我夢中になったときの自分の視点だろうか、高い位置から見下ろす視界と主観が混じり合って最適化されるのだ。こうして、また僕は――強くなる。


『いいえ、あんたが自分の意思で使ったんだと思うわ。極限状態だとそんなものでしょう?』


 うーん、そうかな……。


 それでも、戦闘前と大差ない肉体に復元できたのは強固に"ヒトの形"を心に持ち続けているからこそだろう。

 そうじゃないと、たぶん回復したときに"両腕がタコ"みたいになると思う。



 少しして――HPは全快した。



『………満足した?』


 まぁね、お腹いっぱい。


 "震える老人"が、がむしゃらに炎の魔法を暴れさせ僕に触れた途端打ち消される絶望に狂ったような金切り声を上げる。


「―――じゃ、最後に言い残すことある?」


 死してなお、動き続けるのは、僕だけの特権ではないのだ。



『―――『ユニークモンスター』ね。その証であるユニーク称号《傀儡使い(パペットマスター)》を持ってるわ。これで、みんなを操り偵察を出して陣形を整えていたようね。――全部、台無しにされちゃってたけど』


 あまのじゃくで、デタラメな動きをしない場合は厄介な敵となったはずである。おおよそビギナーで占められるパーティは壊滅必至。


 信じられない難易度だった。



 ―――ミカ、こいつ連れて帰りたい!



『そうは、言ってもね……?』


 困った顔のミカ。

 改めて、ボスの姿を見てみよう。


________________________________________________

『《傀儡使い(パペットマスター)》くろまどうし Lv.40』

【HP】 106/320

【MP】 260/1083

________________________________________________



 初めて会ったユニークモンスターだ! ボロ布を着たしわしわの老人の顔面を片手でつかめば、彼は絶叫をあげて、手足をバタバタとさせた。


『どう、なんでしょうね。テイマー系ジョブにつくか専用のアイテムがないとダメそうに思えるけど』


 うーん。

 ――悩む。

 どのような魔法なら、いけるだろうか……? ヒエイにやったとき同様に心臓を死で染め上げて言うことを聞かせるか―――



『―――と。あちゃー。なったわね? こんなふうにテイムできるなんて世も末よ。愛と絆で結ばれる理想のテイマーよりかはやっぱり"邪悪な魔王様"って感じね』


 やったっ! ミカの懸念は外れて、無事にゲットできたようだ!


『スキル《ドミネイト》を習得したわ!』

『スキル《支配魔法》を習得したわ!』


___________________________________________

 《ドミネイト》

 闇属性。支配の魔法。

 対象の根源に触れて"魂"を支配し服従させる。

 相手の抵抗力に応じて必要な魔力が増加する。

___________________________________________


___________________________________________

 《支配魔法》

 闇属性のひとつ。

 物質や魔力の半永久的な支配を行える。

 魔力の支配を強め、あらゆる魔術の強度を増す。

 また、関連するスキルを習得しやすくなる。

___________________________________________




 ―――ありがとう、ヒエイ! あなたのおかげで上手くいきました!



『たぶん、二つともユニークね。私のアクセスできる情報だと、やはり魔人と呼ばれる禁忌のモンスターが使うそうだわ。……あんたは人間よね?』


 まぁ、ユニークスキルってそんなものでしょ……。

 僕の場合、スキル自体は存在しているパターンが多いから、習得条件を無視できる"レアな体質"なのかもしれない。



「……不思議な心地デス。アナタサマは天上の楽園にほど近い境地を与えてくださった。なんと感謝をすればよいのか思案しております」


 ――ほら、見てよ? あの醜悪な老人が恍惚な笑みで仲間になったよ!


________________________________________________

『《傀儡使い/パペットマスター》アンデッドマジシャン Lv.1』

【HP】 60/60

【MP】 300/300

________________________________________________




 切り札の蘇生や、支配の途中に一回ショック死したせいか、『アンデッドマジシャン』と名前が変わっている。


 レベルも1になった。

 どうやら『Cランクモンスター』に昇進したらしい。成長後は格段に強くなる。

 しかし、こいつのせいでもう、MPが半分以下だ。


 MPや魔法のレパートリーからして後衛の魔法使いとしてはたぶん格上だったけど――僕って、接近戦に力を入れてるんだよね。


 ザクザク切って踏みつけて、消耗させてからだと低コストでも支配できた。


『しっかし、魂もろともの支配ってなに?? なんか怖いんだけど! いまさらか……。そもそも"魂"って実在するのかしら』


 ――さぁ? 哲学的なことはよくわかんない。


 マジックポーションをごくごく飲んで体調を整える。

 帰還したときになるべく平常に見えるようにするためだ。――マナが……。こんなとき《生活魔法》は便利だ。


「………」


 静かになったモンスターハウスに転がる瓦礫の一つに腰掛ける。

 気を抜けば、眠ってしまいそうで、あとは帰り道を探すだけだが……?


 それにしても、お腹が減った。

 仕方なくクッキーを取り出して口の中でふやかし、満腹感を得る。


『――ヘンね。色々と言いたいことはあるけど、モンスターの掃討を終えても脱出手段がない……? パズルや謎掛けのギミックもないし、おかしいわね……』


 いつになく、険しいミカが、小難しいことを考える顔で視界を横切った。


『―――ねぇ。《緊急脱出ダンジョンエスケープ》を使ってみて』


 ジョブスキル《緊急脱出ダンジョンエスケープ》は、レベルアップで誰でも手に入るダンジョンから脱出するためのスキルだ。


「《緊急脱出ダンジョンエスケープ》」


 明確にスキルの発動を意識し、口頭での発音までやったが、シーンと静まるだけで、なにも起きない。


『――まぁ、そんなわけないか。そのスキルは逃走用だけどモンスターハウスのような罠にかかれば使用不可だし。……あと、交戦中でも使えないわね』


 ……意外と使えないね。


『実質のショートカットよ。帰り道を短縮できるわね!』


 ………そう聞くと便利かも?


 ともかく不穏だ。

 ちゃっちゃとドロップアイテムを回収してマナたちと合流したいんだけど……。


「――アナタサマ。ワタクシは確実に一度死にました。故にまだ続きがあるのかと愚行しマス」


 筋張った皮膚で、僕よりも病弱そうな老人の目には青白い炎が宿る。

 流暢に言葉を操るのは、いずれかの魔法によるものだろう。声に魔力を感じる。


「――そうなんだ。結構ね、燃え尽きた感あるよ。―――いちおう……もう一戦くらいなら……やれるかな?」


 トントン、と。その場で飛び跳ねて、心身の状態を確かめてみる。


 ――と。

 平衡感覚を失って足元がぐらついた。


「………ちょっと、長期戦はキツそうだ」


 呼吸も荒い。

 短期決戦を所望する。


 僕の現在のレベルは12。ジョブは基本職と呼ばれる《魔法使い(ウィザード)》。接近戦が弱くなる代わりに魔法系技能が大幅に強化される。


 《アルティメイトバースト》は、まだクールタイム中だが、術理は理解している。《オーラフィールド》を使い、圧縮魔法コンプレッション等を利用して究極の気弾を作れる。


 実用には達している。


 どんな敵がやってきても、開幕に湧き潰ししてやる。



『…………ラクミヤ。――覚悟はいい?』



 ――ああ、いいよ。


 僕はテキトーにマジックスキルを打ちまくり、固有スキル《連続詠唱マジックチェイン》でアビリティの底上げをする。


 それと、《励起》スキル。やはり、これは革命的なスキルだった。


 装備品を自身の一部とし、隠された能力を引き出す。


 今は魔剣一つで『励起コスト』がいっぱいになるが、レベルアップに伴い同ランクの防具をさらに励起できるようになる。


 だからこそ、冒険者は強いのだ。



 最大までアビリティを強化し、青白い光を発する魔剣を横手に構えた。


 ――少しして、部屋の中央。瓦礫で散乱する穴の上空に突如魔法陣が出現した。


 その規模は――縦横5メートルはあり、黒い稲妻がほとばしる。あからさまにヤバそうだった。


 さらに、魔法陣は部屋全体を刻むように、床や天井に大きな亀裂を生じさせて、暗黒の光が漏れ出し、莫大な魔力を発する。


______________________________________________________________________________________

[フィアーモンスターが現れた! 畏怖すべき大魔よ鎮まりたまえ!]

______________________________________________________________________________________



 その圧は、《アルティメイトバースト》で無敵と化した僕よりも上――!!


『―――ま、マズイわね。せっかく生きて帰れると思ったのに……ここで、『フィアーモンスター』とは、あんたもほとほと、運がないわね……』


 『フィアーモンスター』とは、通常出現しないレアモンスターの最たるもので、全世界のダンジョンで確認される。


「―――マジ?」


 その種族も性質も豊富で、対策はとれず、しかしどの個体にも共通する特徴として『"まず勝てない"』ということが挙げられる。


 まさに冒険者にとっての災害のようなもので、たとえば――あのアリアさんたち『Aランクパーティ』が全滅すると言えば分かりやすいか。


「――くっそ、帰らせろよっ」


 ただならぬ気配に、思わず、唾を飲み込んだ。


「!? 《オーバー……リミット》……?」


 とっさにかかげた左腕を見て、かつてないほど高まった魔力に、本能の底力を知った。


「ウォ〜ッ!?」


 そして、所作はそれだけにとどまらず、場全体を支配するべく重さが増すと『アンデッドマジシャン』がくぐもった声をあげて膝をつき、地面に倒れ伏した。




 【♪畏怖との遭遇】



 心を折るメロディーが流れ始める。


 胸がザワザワして堪らなくなった僕は、目を見開いて全身全霊、弾かれるように魔法陣に向かって飛び出した。そして、完成した魔法をお見舞いしたのだ。


 ジョブの恩恵で、消費MPが大幅に減少し、それでも300近くを使う大魔法――



「『純白のデスホワイト』っっ!!!」


 ――ありったけの魔法をくらえ!!


 生成された白き死弾が伸びた。それは今まさに魔法陣から召喚された、圧倒的な存在感を放つ人影に進み―――そして……。


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