殺伐の快楽
いっけぇ〜〜〜!!!
「――な、なんだこれっ!!?」
凄まじい突風が発生したが、その中心にいるのに驚くほど静寂だったのだ。
「あっ………そうか! これだから―――スキル化はたまんないぃ〜!」
自傷もやむなし、と認識していた。あふれんばかりのエネルギーをこれほど滑らかにコントールするとは……。――スキルめ、やりおる……。
空気がビリビリと震え、頑丈な石材に亀裂が入り崩壊を呼び、軽い足取りで移動を開始した。
気弾は、信じられないほど柔らかく僕の疾駆についてくる。
スキル《アルティメイトバースト》は、どうやら使い切るまでに拳を何十も振るうことができるらしい。
そのたびに、悲鳴と怒号が鳴り響く。
僕は、そこかしこに破壊をもたらして闊歩した。
"初心者を蹂躙するはずだった"暴虐の強者たちが泣き叫びながら死んでいく光景は――なんだか気持ちいい。
手に残る、加害の感触は、無粋なものどもを弾き飛ばした過去の悲鳴。
この状態の僕に触れたものは、自動で反撃をくらう証左だ。
標的を追い回し、両の手にある破壊と暴力を振るうだけの時間は――あっという間に過ぎ去っていく。
涙を溜めて笑みを我慢した僕は、無言ながらも圧倒的な愉悦感を感じていた。なぜなら、究極の気弾はこれまで手にしたどの"オモチャ"より遊び甲斐があったからだ。
「あ〜〜〜! たのしかったぁ!! ――やるっ! もう一回やるぅっ!!」
生存をつかみ取るため、逃走に専念したモンスターたちはしぶとい。
彼らは、災害を前にした小動物のように遠巻きに観察している。だがその目は死んでいない。
「まさに究極! 今の僕でもここまで強い!!」
消費MPは――たったの『160』。いっぺんに解放しても10秒間は持ち、パンチに合わせてピンポイントに放てば、余計な破壊を生まずに生物を破壊できる。
――さて、次弾を装填しよう。
そうかと思ったが、さすがにクールタイムがあるようだ。この強さだ、当然だろう。……自分でも同じことはやれるか?
『あくまエレファントLv30を倒したわ!』
『――経験値を433取得した』
『おめでとう! レベルが10に上がったわ!』
『HP+10、MP+100、ちから+10、かしこさ+17、まもり+7、せいしん+20、きよう+16、びんしょう+13』
『――ジョブ《冒険者見習い》のレベルが"10"に上がったわ!』
『スキル《励起》を獲得したわ!』
『ジョブ《冒険者見習い》の全スキルがマスタースキル《第二の人生》に統合されたわ!』
―――あ、ミカ……。
『ちょっと、こっちも忙しいのよ! レベルアップが早すぎて色々大変よ。……あんたもね?』
戦闘中の急激な変化は――正直、困るよね……。
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称号《第二の人生/セカンドライフ》
マスタースキル。冒険者見習いのレベルを最大まで上げたものに贈られる。
-いつか真の冒険者になるんだ
-死の超克
-鑑定
-暗視
-生活魔法
-アイテムストレージ
-緊急脱出
-ショッピング
-セルフヒール
-励起
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あー、なるほど。
仮にジョブチェンジをしてもこんな形で残るんだね。
とくに復活スキル《死の超克/スタンドアップ》はなくなったら冒険者業そのものが成り立たないし……。
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[ライセンスカードのアップデートを実行します]
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[ガイドエンジェル・ミカが《ガイドコマンド》を使用可能になった]
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『えーと、これからは【ログ】の文言を自由に変更できるようになったみたいね! それと、一部のスキルを私が使用可能にもなったみたい!! ……じゃあ、さっそく今役立つものから順に……』
手探りではなく、あらかじめ知っていたように天使ミカがリニューアルされた【メニュー】を操作する。僕もちょっと慣れるのに時間がかかりそうだったのに……。
『まずは、極端に武闘力がアップする装備の覚醒スキル《励起》を使用するわね!』
…………おっ、体が急激に変化した? 先までの破壊の最中も右手に握りしめていた魔剣が、青白い紋様を刻まれて淡く、光り出した。
とんでもない"剛力と魔力"。
生まれながらに強靭なモンスターに匹敵するためのスキル《励起》は、本人のレベルアップ以上の飛躍的な戦力向上を与える。
しかもミカが僕のスキルを使っただと!? これで戦闘中も役割分担ができるのかも?
『ジョブチェンジが可能になったわ!』
『ジョブ《魔法使い(ウィザード)》になりますか?』
ちょっと待ってよ。……《アルティメイトバースト》発動中はたしかにすごかったけど、生き残りはまだ大勢いる。往々にして、モンスターは手負いの方が強く恐ろしいのだ。
「―――いや! ジョブチェンジは後回しだ!」
このまま、数を確実に減らそう!
『あ、もうやっちゃった』
―――は?
『固有スキル《連続詠唱》を手に入れたわ!』
『――ごめん! このスキルはマジックスキルを"連続使用"するたびに最終ステータスの【魔法攻撃力】が最大30%上昇するわ!』
―――オイ! 勢いでごまかすな!!
『固有スキル《多重詠唱》を手に入れたわ!』
『―――このスキルは"一度に二つ"マジックスキルを発動できるようになるわ! ……もー、あんたならヘーキでしょ?』
――そうなんだけどさ……!!
単にレベルアップで増加するのとは違い、ジョブ《魔法使い(ウィザード)》のアビリティ補正で、HP・ちから・まもり・びんしょうは――むしろ下がった。
けれど、スキル《励起》によって装備に隠されたアビリティが追加されたのもあって、現在ぐわんぐわんと頭が揺れてる。
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【名前】 ラクミヤエイ
【レベル】 10(あと894)
【ジョブ】 ウィザード
【HP】 102/109
【MP】 1033/2035
【ちから】 53
【かしこさ】 169
【まもり】 37
【せいしん】 203
【きよう】 139
【びんしょう】 81
【物理攻撃力】183(+130)
【魔法攻撃力】299(+130)
【物理防御力】 37
【魔法防御力】203
【操作力】 139
【素早さ】 81
【装備】
E 魔剣ブラッドソード(物理攻撃力+130、魔法攻撃力+130)
E シルバーメイル
E セーフリング
E ゆうどうのイヤリング
E ヘルスエンゲージメント
【武闘力】 1240
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―――と、なってる。
なにやら数字がごちゃごちゃしてきたが、体の調子を整えるのが一番難しい問題かもしれない。
これはしっかり訓練をしないと、むしろ弱体化しかねないな……。
「………」
破壊の余波で静まり返っていた部屋に再び活気が戻る。
脱力して、棒立ちになった獲物は、もうすでに力を使い果たしたと見たのか。
「『真空気弾』」
「ブモォオオッ!!」
魔剣の切っ先。
進路上にいたオークが二の腕を弾けさせる。同じオークでも5Fのとは比べ物にならない強さだったはずだ。
「―――うっわ〜、つよっ! 全然威力が違う〜〜っ!!」
体感の二、三倍は強力になっている。
これまでの僕なら――レベル20くらいの強さだろうか? 前衛としても攻撃力だけなら倍増したと見ていい。そのぶん、打たれ弱くなったのだが……。
『――悪かったわね! ほら、ちゃっちゃと倒す』
ウィザードの固有スキル《多重詠唱》で【ブック】から出せる魔法が二つになった。
とはいえ、クールタイムを無視できるわけじゃないので、瞬間的な火力が増すだけと捉えよう。
「―――『真空気弾、乱れ打ち』!!」
炎理さんの真似をして魔剣から気弾を飛ばしまくる。
スキル《エネルギーバースト》の方が強いが、一回使えば30秒間待つ必要がある。だから自前で出せる価値は高い。
魔剣を杖として扱いつつ、駆け出す。
圧倒的に火力が上がったので攻撃面に不足はないが、物理的にはもろいので注意だ。
「『大玉転シ』」
けれど、攻守一体の技ならここでも通用する。
長いクールタイムを待つことはせず、先ほどよりも上手くなった究極の気弾・『大玉転シ』が縦横無尽に旋回しては破壊をもたらし、苦悶と断末魔の呻き声が残る。
お手本は見たので、あとは真似するだけである。
強敵のレッドマンティスの灼熱の刃もヒビが入り、砕け散る。
ハート型の頭部が、二撃目でバラバラに砕けて完全に息の根を絶った。
しかし――
「………あ、切れてる」
呆然と、裂けた手の甲を眺める。
自身の死と引き換えにして、片手を奪ったのだ。
「ふふっ、くやしいなぁ」
そこらの雑魚ならともかくとして、おそらく中層に出てくるモンスター並みの強さを持った相手は一筋縄ではいかなかった。
自身の守りを上回る攻勢に晒されて、いつものごとく大怪我を負い、しかし致命的な負傷は避けて確実に一匹ずつ討伐する。
―――あれから、レベルは12まで上がり、急激に塗り替えられる性能と予測のすり合わせをおこない、《ブースト》や《シールド》のスキルが、高みに昇る。
気弾となった僕がつっこんで腕を振るい、遠くに離した『分身』を自身と遜色のない動きで戦わせる。
【魔法攻撃力】の高まりは、魔法全般の強化につながった。
できあがった"光の分身"に【ブック】からマジックスキルを使わせて小技をあちらにやってもらう。そして、本体の僕が拳を振るう。
擬似的な、前衛と後衛。
普通は逆じゃないかと思わないでもないが、いざとなれば分身は自爆できる。クッソ弱い『大玉転シ』と同じことを一度だけ放てるのだ。
『なんだか、別方向に進化してるわね。膨大なMPがなければ、こんなことはできないでしょうし』
そう、そう! レベルアップのたびに供給される『100ポイント』分のMPがあればこそ、未知の技術を実用化でき、時間経過で爆発的に高まる分身がさらに手数を増やす。
あくまでクールタイムは"共通"なんだけどね。そこが悩ましい。
『……!!』
途中、逆手に握っていた魔剣が自己主張をして俺も斬らせろと震えてきたので、仕方なく斬ってみると――
凄まじい大斬撃が、トカゲ人の戦士『リザードマン』を縦に両断し背後の壁を深々と切り刻んだのだ。
「――つ、つよい。……ちょっと引いた」
『私も同じ気分ね。こんなに大勢に囲まれてもあんたはまったく倒れないし、普通だったら十回は死んでるわよっ?』
今のところ最強なのは、《アルティメイトバースト》状態の魔剣で剣技スキルを使うことだろう。
『大玉転シ』も悪くはないが、スキルには負ける。魔法と剣技の両立は難しいが、スキルなら同時にやれるだろう。
悔しいが、殴るより遥かに凶悪だった。『天楼魔剣』……使う必要もない。
それでも、聖騎士の鎧は幾度も無惨に打ち砕かれて、新調した防具も使い捨て、なおも止まらない僕は狂ったように剣を振るった。
『………』
後方では、光り輝く分身がフォローの魔法を打つ戦場に無駄な思考は一切存在しない。
お互いを殺し、むさぼる以外の思惑がどこにもない。
人が呼ぶであろう狂気と狂気を押し付け合う殺伐空間。だが――この場所でしか、得られない快楽がある。




