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純白の死が、いま目覚める

ずっとホテルに缶詰め


 部屋に戻ると、やはりテレビは同じようなことばかり言っていた。


 仕方なく、チャンネルを変えて『教育番組』をつけたら、ちょうど英会話のレッスンがやっていた。


 例文を読み上げるコーナーで僕も何度か真似してみて、でもやっぱり実際英語で話しかけられたら何も返せないよなと結論づける。……しかも、それ以前の問題か。

 知らない人に話しかけられるシチュエーションがまず怖い。さっきの人もそうだったけどさ。


「またシミュレーターやりに行く? なんだか浮かない顔ばっかりしてる。……急に目立って、びっくりしちゃったの?」

「………かも。……勝手にステータス調べられた………」


 このホテルは冒険者が利用する。すれ違った人やわざわざ見物しに来た人。


 掲示板では、僕のステータスが勝手に晒されているらしく他者の悪意に触れたのだ。


 知らない人が自分の欲を満たすために僕を狙ってるのだという。悪寒がする。"10億円"もあれば、『激レア装備』で身を固めることだってできるだろう。


「―――はやく。……はやく……強く、ならないと………」


 自然回復する魔力は常に体内で流動させ、発動の際に少しでも速く効果を発揮できるように練習中だ。


 毎日。

 これだけでも勝手に強くなるだろう。


 しかし、足りない。……不安なんだ。勝てなかったんだ。

 あの魔法剣士にも黒羽さんにも、結局勝ち越せていない……。



「エイ、くん。………なにそれ?」


 焦りが行動を起こし、マナの震える声がした。


 僕の両手で渦を巻く大きな力は、感情に影響されて、荒ぶる奔流となる。


 空中に圧縮した《エネルギーバースト》をさらに内側に凝縮すべく意識を注ぐのだ。おびただしい量の魔力が轟々と唸りを上げて、"災害の前触れ"を感じさせる。


「―――マナ。死にたくなかったら離れてて」


 スキル《エネルギーバースト》も長期間使い続ければ、きっと強くなる。


 それでもいいんだけど、スキルよりも自力で編み出す方が早くない? ―――僕は堪え性がないんだ。


 我慢しようとしたけど、脳に栄養が行き渡らないのだ。


 ―――ダンジョン。ダンジョン。ダンジョン……恋人の名を呼ぶように口ずさむ。

 

 だが現在、ギルドは『活動自粛』を呼びかけている。


 ギルドナイトも多く駆り出されていて、ダンジョンでのトラブルに対処する人員が不足してるからだ。それでも、自己責任で行けるそうだが、真っ当な神経なら今日は自粛するだろう。


 フラストレーションが溜まり続ける一方。いつ解禁されるかもわからないダンジョンを求めて僕の苛立ちが重い場となって空間に負荷をかける。蓄えられたエネルギーは、今まさにあふれんばかりに散ろうとしている。


「―――きゃ〜〜〜っ!?」


 猛烈な気流が発生して雷光が瞬く。暴れん坊な気弾を、それ以上の魔法で押さえつけて凝縮するのだ。


 内側から、弾け飛ぼうと躍起になる気弾をねじ伏せるこの瞬間―――いま、僕は戦っている! 勝てない相手に挑んでる!


「はっははっ……!」


 格下の敵を相手にするよりも遥かに上質で、飛躍的な成長。

 それは―――必要性から生じる魔法。圧縮の魔法。やらなければ、このホテルの一室は吹き飛ぶだろう。


 悲鳴を上げてベッドの後ろに隠れたマナ。

 何事かと扉を開ける黒羽さん。


 まだ、周囲の状況に意識がとられている。


 ―――そう言えば僕ってまだ、一度もMPをゼロにしたことないよね?


 ゼロにはならないんだけどさ、一発の魔法で全魔力を放出する。


 ―――『エネルギーバーストアタック』。アイデアは良かった。

 ただ、あれはスカスカで、レベルの低い冒険者を粉々の人肉に変えることはできても、大きさは見た目だけ。――中身がなかった。


「――けど、今ならやれる……」


 僕はてっきり《無属性魔法》のスキルレベルを最低3以上にしなければならないと勘違いしていた。

 それは多くの大魔法を獲得するスキルキューブの条件に含まれるからで、下級ランクのうちはまず使えないと思い込んでいたからだ。


 ほとんどの場合、MPの不足と一度に扱える魔力量の限界が原因だ。それを満たしさえすれば先行して覚えられるのに僕は無意識に力をセーブしていたのだ。



 ―――魔法とは意思の具現化。イメージを現実にする願いのチカラ。


 だから死の危機に瀕する冒険者は、そのときもっとも求めている肉体の強化と回復を習得しやすい。

 反面、自分の体から離れるほどにイメージしにくくなるから、興味がなくなるから、大気に還元される。


 そのような解釈でいくと、《オーラフィールド》の範囲内は、僕の居場所だ。固定観念を打破して、これ以上はムリだろうという限界を超える。


 《エネルギーバースト》は素晴らしいマジックスキルだった。

 でも、だからと言って、その上がないわけじゃない。

 そして、それは単純な効果範囲や、見かけ上の大きさを必ずしも増やさない。


「MP500で一発の魔法を作る」


 幸いなことに、範囲内の魔法は何度でも利用できる。

 『圧縮の魔法』を再利用して中心の気弾にぶつける。


 ビリビリと空気が震え出し、取り逃したエネルギーが碧光となって渦を巻く。


「…………い、いける! もう少しだっ!!!」


 巨大な大玉の気弾がお手玉サイズに。さらに耳障りな騒音をあげて"ビー玉サイズ"にまで凝縮されたとき。一気に静寂が訪れた。


「――は、ハハ………なんだこれ?」


 空間にハッキリと"穴"が空いたのだ。


 ――ぽっかりと。


 どの角度から見ても真っ白の"穴"が大人しく、ひっそりとたたずみ――こちらを見ている。世界の裏側には、ナニが隠されているのだろう……? ひょっとして僕でも―――壊せるのだろうか? 


 ―――壊したい……壊したい……。



「な、んてもんつくりやがった……!? ………『次元の歪み』は、防御不能の即死罠ッ! その発動前によく似てる……ちゃんと制御されてるのか?」


 背景の壁や床が一切見通せない『純白の穴』を見つめて――僕はガチガチに強張った肩の力を抜いた。


 両手のひらに収められていた『白い死』は、僕の意思に応じて跳ねるように動く。


「――え、エイくん、それ大丈夫なの? 見てると寒気がしてくる。…………なんでだろう、ほら見て? ―――手が震える」

「《魔力感知》を持ってなくともわかるだろうよ。アレは――当たれば消滅する。どんな物体だろうと阻めやしない。………ラクミヤ。―――それ、どうするつもりだ?」


 類似の現象を知ってる彼に、人差し指を向ける。


「これなら、黒羽さんにも勝てますかね」

「……俺の負けだ。――降参する」


 仄暗い笑顔を見せる僕のノリに付き合うつもりはないらしい。ひらりと無防備に両手が開け放たれる。


 ―――それじゃあダメなんだ……。本気で戦って、死ぬ気であらがった黒羽さんに勝たないと意味がない!


 それに――


「当たったら、の話ですよね? ――その程度いくらでも対応してくる」


 そして、そうじゃないと面白くない。

 ただ、これはマジでヤバそうだから、さすがに人には撃たないよ? どこかで試し撃ちをしたい。


『…………ふー。踏みとどまったわね。クロバの消耗する高価な装備品や巻き添えになるかもしれないヒグレのイメージを巡らせたのは、ご愛嬌ねー』


 僕の意図を察した黒羽さんが《オーラフィールド》に入って『鉄のカカシ』を置いた。その際に口元を押さえたのは、範囲内の圧迫感がゆえだろう。


 大規模な魔法の行使は警報器に感知される。だから微塵も外に出す気はない。


「………ふ、『深層』を思い出すな……。ここ最近で一番緊張するわ……。つくづく得難い経験をしてるとは思うが終わったら金輪際縁を切りてェ」


 ―――なんてひどい! 憤慨しながら僕は、カカシに指を向けた。


「『純白のデスホワイト』」


 真っ白の軌跡が描く放物線。

 当然のことながら動かないカカシが着る鋼鉄の鎧をすり抜けて、止まった"純白の死弾"。


「開門」


 効果が発揮される。鎧はひしゃげて、その体積を瞬く間に減らし、白い穴の中に引きずりこまれていった。一緒になって中身の藁人形も消えていったのだ。何か恐ろしいものの片鱗を味わった気分になる。


「え、ええー??」

「マジで魔法として発現しやがったな……そんな簡単に成功する類の術なのか……? さすがに秘伝や奥義レベルの魔法に詳しくはねェが、理不尽を目にしたことだけは分かる」

「…………………」


 ―――く、苦しいッ!! 立っていられないほどの倦怠感と胸を掻きむしりたくなる衝動をコントロールして、人体操作を試みる。心配されるのはイヤだからだ。


 だが猛烈に魔力を失って、意識が飛びそうになった。

 視界が少しズレ始めて、自身の後頭部が見えたかと思えば浮遊感を得て、切り離された自分の肉体を動かせるようになった。


 ―――それにしても、あんなに小さい穴に物体が吸い込まれる光景は、見ていて信じられない面持ちだ。


 しかし、引力はなくならず、僕を含めて周囲のあらゆるものを飲み干そうと大口を開いたので、僕の左手がじかに包み込んでグシャリと握りつぶした。


「閉門」


 と。

 一応、言ってみる。理想のイメージは遠くからスタイリッシュに解除するものだったが。


「ハァ………きもちわる」


 しかも、アレじゃ黒羽さんは倒せないだろう。

 魔法の完成度も低い。すぐに効果は消え、きっと大雑把に魔力をぶつけられるだけでも霧散したはずだ。


 "想いの強さ"や"一時のテンション"で強くなるにも限度があるということか。


 "遥かな高み"に向けて、ジトっとした目を向ける。


「……なんだよ、その目はっ!? ……ここは喜ぶとこじゃねェのか? いくらなんでも高望みしすぎだっっ!」

「――いえ。スッキリしました。なんか壊したかっただけなので」

「よっぽどタチ悪ィわ!」


 要練習。

 と言いたいが、さすがにMPがもったいない。

 別途、簡単なスキルを覚えて補助する形になるだろうか。――圧縮のためだけのスキルを覚えて、足掛かりを作るほうが賢明かな? ロマンあるんだけどね。


「あー寝る」


 棒読みになるが、ベッドに大の字に倒れて目をつむった。


 MPは――『800』も使った。

 しばらく動けない。ダウンだ。一度にこれほど多くの魔力を使ったのは初めての経験……。気を抜けば、途端に大物と殺し合ったような疲労感がのしかかる。


 まるでベッドに沈んでシミになるような倦怠感。

 本来は気絶するのだろうが、吐き気と頭痛を得る代わりに起きていられる。


「ああ、そうしてくれ。――できれば一日中な」

「そっかー。さすがに疲れたよね。じゃあ、黒羽さん。私もお願いしていいですか?」

「………こっちもか。…………だが、いいぜ。嬢ちゃんなら歓迎だ。あいつみたいな理解不能なことにはならんだろう」

「それ、フラグってやつですよねっ!」


 言いながら、遠くでマナが豪快に蹴りを放った。

 興が乗ったみたいで、まともにスパーリング相手をしてくれる黒羽さんを殺す勢いで連撃を仕掛ける。


 あの気合いは見習いたいものだ。ガッツが違う。

 僕が同じことをやれば魔法を使うより何倍も疲弊するだろう。薄目で、その攻防を把握し、魔力の流れから技の起こりを見てとり、有効性の予測と結果のすり合わせ作業………を行おうとして頂点に達した吐き気が、僕を――のたうち回らせる。


「っ! ………けっかい」


 片手間に結界を張ってあちらから見えないようにし、ゾンビのようにベッドから転げ落ちて、僕は、みにくい呻き声を上げる。


 過去最高の気持ち悪さだ。

 瞬間的に高まる希死念慮と、溺れるような倦怠感のコンボ。

 それに対抗しようと意識を強く持つことで、さらに増幅される負の連鎖が始まる。

 マジックポーションで魔力枯渇を治す手段はある。


 だが、そうすれば《自然治癒》のような体質スキルの習得機会を失う。《魔力操作》で直接的に首や目を傷つけて激烈な痛みが襲う中、僕は、もがくように天に向かって手を伸ばした。


 すでに意識は肉体と一致した。

 ――否、させた。

 そうしないと経験にならないからだ。遠くからゲームのコントローラーを握るだけでは身につかない。確信がある。


 筋肉と同じだ。しかもアビリティは例外なく負荷をかけることで増す。理論上、『毎日死ぬ寸前まで魔力を枯渇させて自然回復』すれば、たった一年でMPを100増やせるという記事もあった。


 ―――でもその人、急逝してたんだっけ……。


 ドツボにハマった僕は、床に背を預け瞬きもせずに天井を眺めていた。

 自分の呼吸に集中して湧き上がる雑念を俯瞰するのだ。


 あまりいい習慣ではないだろう。

 寝る前にやる癖ができてる。いつもならこのまま眠れるが、まだ午前中だ。夜眠れなくなるので、意地でも目を開ける。



「…………………………………………」



 数分が経過し、手合わせは終わったのかベッドの反対側に回りこんだマナがへにょりと眉根を下げた。


「―――もう。よくわかんないけど、ムリしてるでしょ? それで寝相が悪いは苦しいよ。エイくんってごまかすの下手だからね」

「……寝相が悪くて――っと本当に言おうと思ってた。……フフ、かなわない。……どうだった?」

「うーん。自信あるけど、エイくんの戦いを見たあとだからかなー? ――焦るよ。近いうちにスキルも手に入るだろうって、太鼓判を押してくれたけど」

「そりゃよかった」

「なんつーか、難儀なやつだなァ? ストイックというよりは――ヘキだろうな。昔からやってたのか?」


 マナとは違い、結界越しにも僕の状態を正確に把握できる黒羽さんは神妙な顔をしてる。


「………寝る前に、魔力の放出だけ、やってました」


 術と呼べるようなものは何もない。ただ体から力を抜くためだけにやっていて、どんなに不安な夜も気絶して乗り切れた。


「『メンタルケアユニット』……ガイドエンジェルはどんなタイプだ? アレは当たり外れがあるからな。テメェが実体化するために酷使するパターンもある」

「――ミカは……優しいですよ。僕が勝手に無茶をするから……」

「誘導じゃなければいいがな。俺もそれで苦労した口だ。ガイドエンジェルは基本的に無害で有益だが、何事にも相性ってもんがある。だからコミュニケーションは密にな」

「わかりました」


 黒羽さんの口ぶりから批判的なことを言われるといじめられる気配を感じたのか、ミカが警戒して、緊張したのが伝わる。だが、せめて心の中では言い返したいのか、僕の頭に声が響いた。


『…………………い、言われなくても分かってるわ! こいつがちゃんと話をする気があるなら、だけど!!』



 さて、床に寝そべる。

 回復を待とうか。


 頑なにポーションを飲まない僕に呆れたマナが自分の時間をとった。

 瞑想を始める。

 やや逡巡したのち黒羽さんはテレビをつけた。きっと僕を見張る気なのだろう。


 中継と続報が流れる。

 黒羽さんはギルドの人なので別の情報源を持っている。

 手元を見ながら、眉をしかめ、肩を回している。


 どうやら、各所での戦闘は大部分で勝利し、逃げ延びた残党狩りが始まっているのだそう。


 冒険者の中でも対人戦闘が得意な『賞金狩り』と呼ばれる人たちが活躍してるらしく、著名な人物が獲得したであろう賞金を計算してスタジオが盛り上がっていた。


 その規模感からして――10億はない。元Bランクの犯罪者でもギリギリ"億越え"という感じで、まさに僕はカモなのだろう。

 そっちは非合法というのが救いだが……。




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