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私の武闘力は……

みんな大好き! 私の武闘力は……


___________________________________________

[シミュレートルーム]

___________________________________________



 ギルドの2階にある戦闘室は、ランクアップで解放された施設の一つだ。


 中に入ると、教室サイズの真っ白な空間が広がっていた。


 ここでは、冒険者やモンスターの"幻影"を生み出して戦うことができる。

 ライセンスカードを備え付けられた筐体に差し込むとタブレット画面で操作可能になり、ランクごとに機能が解放される仕組みだ。


 『Fランク』だと、【ライブラリ】に登録済みのモンスターの再現や冒険者を模した幻影との対戦などが主な機能のようだ。


「――この『武闘力』っていうのはなんですか?」


 僕の隣でハラハラと見守っていたマナが黒羽さんに質問する。


 ――あーそんなこと言ってたな……。

 

「まーなんていうか、"強さの概算"だな。ランダムマッチングのバトルなんかで基準になるんだよ。一応忠告しておくと、過信はするな」


 ……過信って?


「だいたい、誰もが一度は通る道だ。武闘力で"カードゲーム"をして痛い目を見る。相性や環境、条件次第で勝ち負けは左右される。要は、絶対視するなってことだな」

「もしかして、『英雄列伝』の"強さ"みたいなものですか?」

「あ、そーそー。公式がやるからドツボにハマりやすいんだよなぁ。……ちょっと待ってろ。俺も興味ある。戦闘中のラクミヤの数値は見てたけどこっちのが正確だしな」

「そんなの見てたんですか……」


 卑怯な、とも言えないか。


 そして、『測定モード』が始まり、部屋の中心に魔法陣が現れた。


 それは複雑緻密な幾何学的図形の集合体で、時間経過で模様は変化している。

 高度に暗号化されているらしく、僕にはさっぱり意味が分からなかった。


 ともかく、このシュワンシュワンと波打つ円柱に入ればいいのだろう。


「よし。ジッとしてろ。――武装はなし、防具は普段着の衣類のみと」

「さっそく役に立ったよね。Tシャツ」


 装いは――安物のシャツとパリッとした半ズボン。

 道場では、靴は脱ぐので無事だったのだ。


「そんじゃ――測定スタート」


 タブレット端末をタップすると魔法陣の色彩が変化して七色に輝き、急激な気流が鼓膜を揺らす。


 ――測定は数秒で完了したようだ。

 なんかドキドキするな。


『これで、"0"って出たら私のお仲間ね?』


 ――や、やめろミカ!


「ほら、先に自分で見ろ。そして不都合があるなら見せなくていい」

「そのへん、ちゃんとしてるんですね……」


 二人の声がする。



 ―――はい、ドン!



『あなたの武闘力は 480 。この数値は一般的な"Dランク冒険者あるいはCランクモンスター"に匹敵します。大変すばらしい結果です。――ぜひ、今後も邁進してくださいね』


 ――おお〜〜!?


『さすがに高いわね。強さだけなら今すぐにランクアップできるって意味ですもの。……ちっ』


 ―――おい。


 ………まぁ、僕は寛容だから許すよ。



「―――"当たり"ですよね?」


 と、画面を見せると、黒羽さんは眉をへの字に曲げてうなる。


「――だから、ソレだよ。気持ちはスッゲー分かるけどな、クジじゃないんだから。……しかし、"基礎値"がこれなら……やっぱスゲーわ。――"ギフテッド"の暴力的才能はいつ見ても心を動かされるな」

「……ギフテッド……僕がですか? ユニークスキルの発現はなかったですけど……」

「ただの天才なわけねーだろ。心当たりがないってんなら、そういうタイプの"神様"なんだろう」


 ―――神様……?


「……………………次、私いいですか?」


 会話の途中、ずっと大人しかったマナが怖い顔で僕を押しのけた。



『あなたの武闘力は 65 。この数値は一般的な"Fランク冒険者あるいはEランクモンスター"に相当します。無茶をせず、慎重に一歩ずつ前へ進みましょう。諦めないことがあなたのもっとも大きな財産となるでしょう』



 ―――ミシ、と何かが軋んだ。


 部屋の室温が何度か下がった気さえする。

 殺気立ったプレッシャーだ。

 この恐ろしいマナが僕より弱い? ――何かの間違いだ!



『ああ〜! ヒグレマナのことが好きになれそうだわ〜』


 ――珍しいな。ミカが心からの笑顔を浮かべるのは。

 タイミングはどうかと思うけど……。


「マ、マナ………単なる数値だから。……適性検査でもよくあるパラメーターの一つだって」

「お、おい」


 ―――よせ、と肩を叩かれる。


「エイくんはいいよね。何をしても上手くいくんだもん」


 光を一切通さない瞳、幽鬼のように迫る女に、思わず、あとずさった。


「よーし、俺がいくぞ。いっちゃうぞー? 貴重な"元Bランカー"の武闘力………ォオオオープン!」


 そこで、すかさず空気を変える。

 できる大人だ。


『あなたの武闘力は 4870 。この数値は一般的な"Bランク冒険者あるいはAランクモンスター"に匹敵します。弛まぬ努力と並外れた才能がなければ届かない境地。今度ともよろしくお願いします』


 ―――おお〜っ? ………え? ………どう、なんだろう? 僕が"十人分"と考えていいのだろうか。


「ていうか、やっぱり上級ランクだったんですね! Dランクって――詐欺じゃないですか」


 それこそ、僕と同等だと騙るようなものだろう。


「その通り。――だが、テメェにだけは言われたくねぇ」

「ちょうど、"上中下"と三人揃ってますね、あははっ!」


 ついに壊れたマナ。

 "数値化"は明確になるぶん残酷なのだ。


 ―――想像する。

 マナが六人になってパーティを組んだらどう戦うかを……。


 『グリッター×6』

 『エネルギーバースト×1』


 これで一人脱落した。

 以下繰り返し。


 接近されたら《オーラフィールド》に絡めとる。――うん……。


 それから次に。部屋の機能を使ってモンスターの幻影を生み出してみた。


「――うっわ。キモ怖い」

「なんでゴブリンをチョイスしたの?」


 マナの不満も理解できる。

 しわくちゃの老人みたいな卑劣さのにじみ出る醜悪な顔相。

 しかも全身から黒靄が噴き出す。動くたびに墨汁のようにたゆたうオーラがとてもユニークだ。


 ―――キギャァッ!


 奇声をあげて、つかみかかるゴブリンの爪を――寸前まで引きつけてから回避する。僕の頬の中を爪が通り抜けたようにも見えた。


「わっ、えっ!? 当たって、ない?」

「回避系の『テクニカルスキル』か。そうそう狙って出せるもんでもないが……どういうカラクリだ?」


 『テクニカルスキル』は、ごくごく短い時間に効果が限定されるが、"攻撃の無効化"や"すり抜け"がおこなえる。


「……??」


 訝しげに手元を見比べた『シャドウ・ゴブリン』が今度は逆の手でひっかく。


 爪が閃いた。

 またしても同じように引きつけて――今回は前に進む。

 やはり無傷で通過した爪。そのあとにくる手首を切り落とす。


 ――ギャギャア、とゴブリンは鳴いたが迫力はあまりない。

 あくまで再現であってナマの息遣いや必死さが感じられない。高度に組まれたプログラム通りに動いている印象だ。


 ―――ザシュッ


 二つの斬撃が重ねられ、ゴブリンの腹を叩き割る。鈍い――肉を断ち切った感触。しかし、どこか軽い。


 再現されたゴブリンは《スラッシュ》と《スーパースラッシュ》のコンボでたたらを踏み、構成材料である闇がたちまち崩れていって最後は霞となった。


「任意で無敵時間の延長と感覚の強化をしてんのか? ……なるほど、場が必要とはいえ実質ウォーリアーの《見切り》の上位スキルってとこか――レアだなぁ。それでいてまだ未完成ときた。………う〜ん、これは発狂するやつがいても不思議じゃねェな。―――ラクミヤ、刺されないようにしろよ?」

「怖いこと言わないでくださいよ。……次、マナやる?」

「…………うん。――何にしようかな……」


 Fランクのうちは、出現時間や回数の制限がキツめだが、今回は黒羽さんに出してもらえば無制限だ。


「―――"ロックイーター"でしょ? マナ、リベンジしないと」

「えっ」


 絶句する彼女。

 でも、強くなりたいなら迷ってる暇はない。経験値はもらえないけど、アレは僕が倒しちゃったからね!


「―――で、でも……」


 マナの瞳が不安で揺れる。

 無意識の癖で髪の毛をスーッと上から撫でつける。

 ふんわり、と花の香りが漂うが―――ごまかされはしない!


『えぇ……?』


 困惑するミカ。


 これまた一昨日の話だが。あのときのマナはレベル2だった。

 今はレベル4。アビリティの上乗せ分は―――"二倍"だ。


「やってみてもいいんじゃないか?」


 マナの気持ちを知った上でのフォローだ。

 いい機会だし、僕も攻撃はせずにマナの援護に徹しよう。



 ―――ンギョョオオオンンン!!!!!


 中央の魔法陣から現れた――どデカいミミズのバケモノ。

 先端は、すり鉢状になってるクリーチャーの口が開く。


 まさしく――バケモノ。

 改めて、こいつ威圧感すごいな……。


 大型バスをいくつか連結させたくらいの見上げる体躯。

 禍々しい無数の牙。

 この世ならざる地の底から響く咆哮。



 そして、いつのまにか教室サイズの部屋が体育館くらいの大きさにまで拡張され、自由に動ける環境が構築されている。――黒羽さんが、部屋の機能を使って空間を広げたのだ。


「――少し、鳴き声が違う? これって僕らが倒した個体を再現してるんですよね?」

「そのはずだ。わざわざ参照したからな? 大きくレベルが違ったりはしない。だがまぁシャドウはそもそも"劣化版"だからな、弱体化してんじゃねーか」


 大きさは確かにこんなものだったような。あのときと比べて僕自身が強くなったのもあって、とりわけ"脅威"は感じない。


 どうやって削るかといった算段をつけることくらいだ。


___________________________________________

『シャドウ・ロックイーター Lv.15』

【HP】 1204/1204

【MP】 538/538

【武闘力】 680

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 VS

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『ヒグレマナ Lv.4』

【HP】 121/121

【MP】 104/104

【武闘力】 135

___________________________________________


 さらに、黒羽さんがわかりやすくステータスを表示してくれた。

 この戦闘中は、二人のステータスが反映されるようにしてくれたのだ。


 ―――いや、ごめん。ロックイーターつよい。……強くね? だがまぁやろう!!



「―――レディ…………ファイッッ!!!!」

「いやムリ! ムリムリムリ〜〜〜〜〜!?! 助けて、エイくーーんっっ!!」


 空から逃げ惑うマナの姿が見下ろせる。

 僕はイタズラ心で、マナの頭上に立って声掛けをする。足場はシールドだ。


「ファイト〜。本当にどうしようもなくなったら言ってね〜。黒羽さんの忠告にあったように武闘力だけで決めたらダメだと思う。――僕も今ですら負けてるし……格上に勝てない保証はない!!」

「――やぁっ! もうっっ! イジワルする気だぁっ! 絶対そうだもん〜っ!」


 ―――バキィン! と、重い金属音が鳴った。


 ロックイーターの大口からなんとか身をかばい、転倒したマナ。次の攻撃を凌ぐため懸命にタイミングを見計らう。


「――きゃぅッッ!! ……い、いったぁい」


 実際、どうなのだろう。

 ロックイーターは『Eランク』。

 だが僕は『Cランク』に匹敵すると言われた。

 ……だいぶ、テキトーでは?


「そのへんどうなんですか」

「―――んー、こいつはトラップモンスターとして出現したんだよな? なら通常より強い個体ってことだ。だから、Dランク相当と見ていい。それにこいつは、規格が大型の《メガスケール》だから、場所によっちゃ"ボス"を張れる」

「―――つまり、このロックイーターは『Dランク以上Cランク未満』ということですね」

「だな。――あと、あの説明は大雑把すぎる。実際、"強個体ハイレベル"の同ランクモンスターに負けることもある。こいつの場合、耐久力だけがCランクとかそんな感じで一括りにはできない」

「なるほど。――だから、僕でも倒せたんですね」

「それは知らんが……。弱点を上手くつければ格上だって倒せるさ」


 魔法の絨毯に乗って優雅に胡座をかいて戦いを眺める黒羽さん。


 マナは大声で僕に文句を言い続けるが、あれは鼓舞なのだろう。天使エイポンの笛による妨害も多少は意味があるようで、ほんの一瞬生まれる隙は貴重だ。


「ハァ……ッッ!! 目にもの見せてやるぅ!! わからせてやるー!! 立場を取り戻す」


 鬼の形相で鉄剣を叩きつけるマナ。気合いはじゅうぶん。


 ――もしかしたら……と期待させる。


 なにせ冒険者は、装備で補強できるのだ。基礎的な武闘力に差があっても、"技と工夫"で対抗するのが――"理想的な冒険者"のあり方だろう。

 それに、地中を掘り進めるアドバンテージはこの部屋だと無効化され、足場は安定してる。


「―――ぎぃひぁっっ!!!」


 とはいえ、さすがにソロプレイは無理があった。致命的なかぶりつきを見事に防ぎ続けたマナに苛立った巨虫は、地面を舐めるように首を振り回す。


 猛烈な勢いで"横殴りのブロー"が直撃したのだ。

 派手な音を鳴らしてゴロゴロと床を跳ねたマナは――左腕を骨折し、手放された盾も遠い位置に放られる。


 だが意地でも胸にかき抱いた、鉄の長剣の刃先が頬を切ったのが見えた。アレはオーガに破壊された大剣の代わりで、黒羽さんの支給だ。


『―――いいの? ラクミヤ、このままで? ……後悔しないの?』


 ―――するかもだけど。

 "成長の機会"を奪いはしない。

 なにより、死の危機に瀕したときこそ、人はもっとも強くなるのだから―――


 ――あれ? 俺なんかやっちゃいました? ……そう! 強さの数値化をやっちゃいましたねぇ。一度この快楽を知るともう元に戻らないねぇ。黒羽さんはめちゃつよです。

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