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傍迷惑な戦闘狂

第四章「畏怖との遭遇」編スタートです! 「ダンジョンライフ・四日目」! 寝起き!


 悪の組織との激闘を終えた――その翌日のことだ。


 いつもとは勝手の違うホテルの一室。その窓を叩く雨音に目が覚めた。……なんだか胸騒ぎがする。嫌な気配に思わず――薄目を開けて窓際に意識を向ける。すると、カーテンの向こうに"人影"があった。


 ガタガタと雨風が窓を揺らす。傍らに眠るマナの呼吸音に耳を澄ませ歩き出す。あるときを境にフッと音がかき消えた。――僕らのベッドをすっぽりと覆う魔法の結界から出たからだ。


「びっくりさせないでくださいよ――黒羽さん」


 横開きのガラス窓を開けて、部屋に入りこんできた雨粒を空中で静止させる。


 手を差し出してふわり、そっと押し出すように風の流れを変えると"横殴りの雨"が人影を叩いた。


「おっぷ。……と、こりゃ手痛いな」


 後ろ手で窓を閉める。その向こうで相変わらず寝息を立てるマナの様子を確認し、人影と向かい合った。


「よぉ、相変わらず痺れるねェ」

「なんでわざわざこんなところに? びしょ濡れで風邪引きますよ」

「いやいや、おっさんも空気くらい読むって」


 だからと言って、こんな雨の中待機させるのは忍びない。それならばまだ、廊下のほうがマシだ。


「気遣いはありがたいが、自分の"現状"をちと思い起こしたほうがいいぜ? 昨晩もクズどもが群れで襲いかかってきたからな」

「………全然、気づきませんでした」


 昨晩はぐっすりと眠っていた。

 少なくとも部屋の近くでは何も起きなかったはず……。


 僕とマナの眠るベットの周囲は魔力で満たした結界の範囲内。自分の手足のように動かせる無属性魔力を注ぐ"器"としての機能だけを持たせた、防御性能の低い膜のようなもの。


 たとえば、昨晩のブラックレギオンの銃撃に晒されても瞬時に《オーラフィールド》を展開して要塞を築けるだろう。


「そりゃあ、遠方で捕らえたからな」


 やはり動きがあったのか。

 護衛は明日からだと思っていたが、近場で待機してくれていたのかもしれない。


「今のとこ、冒険者崩れの小物が"悪知恵"働かせて仕掛けてきてる程度だが油断のならねぇ"大物の登場"もありうる。こっちは全力で護らせてもらうからな、文句は言わせねぇぞ?」

「なら、いいですけど……風邪、引きそうだなと」


 ……しかし、明らかに只者ではない。

 同じDランクで言うと獅子島さんが挙げられる。フレンドにもなった。


 彼はなるほど心強い味方であったが、それともまた違う"強者の風格"をかもしている。どこにも隙が見当たらないのだ。


 不自然に隠された威圧感。――擬態か?


 ちょっと試してみようか?

 眠気覚ましにちょうどいい。


「――《剣閃界》」

「《抜刀》」


 発動していた《オーラフィールド》を即座に切り替えて、《剣閃界》という無数の刃が閃く空間に転じる。


 先ほどまで傘にしていたスキルの効果がなくなり素通りした雨滴がそこかしこで弾ける中を――恐ろしい速度の刀剣が現れ、稲光が脳裏に焼き付くと。


「!」


 進路上に置かれた幾筋もの剣線を突き破り、僕の首元でピタリと止まった。


「オイオイ……まさか、護衛対象に抜かされるとはなぁ。てめぇ、ラクミヤ。――ナメてんのか? ちょっと修羅場ァ、潜ったくらいで粋がってんじゃねェよ……!!」



 ――つ、と首の薄皮から、血のしずくが垂れる。


 僕はごくりと、唾を飲み下した。


「――ラクミヤ? おまえ本気で"ヤる気"だったな? ところ構わずそんな調子だと近いうちにくたばるぞ」


 外套からファサッとこぼれ落ちた漆黒の長髪が雨に濡れておでこに張り付く。


 力強く伸ばされた刀からは、ほんの僅かばかりの動揺を伝える。


 僕は何度もパチパチと瞬きをしてから――瞳を見開き、問いかけた。


「それでッ! どうでした?」

「………ああん?」

「感想ですよ! 都合のいいことに――まさか剣使いだったなんて!」


 僕のテンションが急激に上がる。

 まさか、完封されるとは思わなかったからだ!


「アイテムストレージから取り出したにしては速すぎる! ――"空間収納系"のスキルではない。あらかじめ隠しておいた鞘から? "隠蔽系"スキルには、完全に騙されるもんなぁ」


 僕の首に触れた刃先を見る。

 このキラリと輝く業物は――彼の抜刀の体勢から急に手元に出現して一気に抜き放たれた。


 鞘はあった――彼の左手に。


「おい、もういいか」

「ちょっとまってください」


 片手を挙げて静止する。


 ――あのおやぶんコボルトなんて目じゃない速さだったが……認識自体はできた。


 昨日新たに習得したスキル《即応反射》は、"知覚強化系"スキルと認識速度向上の"マジックスキル"。二つの側面を併せ持つ。


 《オーラフィールド》内で追加消費する魔力に従って効果は上がり、"刹那の閃き"でも見るだけならできるのだ。――対処できるかは別問題として。


 先ほどまで、両手を組んで脱力していた姿勢から一気に《アイテムストレージ》を使って取り出す時間はなかった。


 このスキルは便利だが、戦闘中に使うにはあまりにも遅いのが理由だ。


 まだ使い方が下手な僕なら一二秒かかるし、どんなに早くても認識できない道理はない。つまり、あの暗殺者ヒエイと同じく、"在るもの"を認識できなくしてるのだろう。


 そんなことを高速で思考しながら、内容が断片的に口から飛び出る。


「それにしても―――……………―――くっそー負けた! 言い訳ができん!!」

「おい」

「あーーー! くっそ勝てると思ったのにぃ! 必殺技は上手く決まらなかったときの悔しさがハンパない! 《剣閃界》発動中は――本体が無防備になる弱点はそのままにしておけない。保険の《アーマメント》はシンプルに強度不足かぁ、つらい」


 ふぅ、と。


 ひと通り吐き出すと爽快感があった。


 結局のところ、寝ても覚めても"昨日の敗北"が一番印象に残っていたのだ。


 そして、黒羽さんは期待通りの実力者。少なく見積もってCランクだったわけで、やはり実力不足だったと念押しする結果になったわけである。


「…………満足したか?」

「いえ! それで感想はありますか? どこが足りなかったと思います?」

「常識や配慮、じゃねーかな」


 そういう冗談はいいんで。


『おはよーっ……いきなりだけど、あんた進化してない? 色々とね』


 ―――ミカ、おはよー。


「――いや、シンプルに"レベル不足"じゃね? おまえまだ『見習い』じゃん! 工夫は確かに感じられたが、それが通用するのは"同格"だけだろ。………っつーか、今ので先手とられてたら俺の人生、全否定。マジでやめろ! ヒヤッとするわ」

「―――あはは。いますぐダンジョンに行きたいです!」

「いや、おまえ、状況わかってんのか? 狙われてるっつー話をしたよな? ――オーケー? ダンジョンだとやっこさんらの仕事がしやすくなるの。…………わかる?」

「まぁ、でも……。地上もダンジョンも危険度はあまり変わらない気もします」

「変わるわ! それともゾロゾロ護衛を引き連れて"殿様行脚"のつもりか? 無理すればいけると思うが」

「うぅん、悩みますね」


 そうは言ったものの、昨日習得した技の定着もそこそこ。

 考えるほど、この人に技をぶつけるのが最善な気がしてきた。


『あんたね……もう少し落ち着きとか習得できそうにない? ………ないかー……ないわよねー』


 天気は雨模様。だがしかし、今日はテンションが高い日だった。――察するに、寝込みを襲われる錯覚から戦闘用に頭が切り替わったのだろう。


 ステータスを見てみよう!


 ___________________________________________

 【名前】 ラクミヤエイ

 【レベル】 5(あと355)

 【ジョブ】 冒険者見習い

 【HP】  89/89

 【MP】 1196/1196


 【ちから】  28

 【かしこさ】 53

 【まもり】  23

 【せいしん】 66

 【きよう】  44

 【びんしょう】42


 【スキル】

 《いつか真の冒険者になるんだ》

 《死の超克/スタンドアップ》

 《小さな勇者/リトル・ブレイバー》

 《鑑定》

 《暗視》

 《生活魔法》

 《アイテムストレージ》

 《無属性魔法Lv2》

 《エンチャント》

 《魔力操作Lv2》

 《魔力感知Lv2》

 《グリッターボールLv2》

 《シールド》

 《アーマメント》

 《アロー》

 《ブースト》

 《ヒューマンドミネイト》

 《セルフヒール》

 《ドレインテンタクル》

 《エナジーバースト》

 《オーバーリミット》

 《オーバーロード》

 《ホーリー》

 《オーラフィールドLv2》

 《即応反射》

 《回避跳躍》

 《剣閃界》

 《剣術》

 《スラッシュ》

 《スーパースラッシュ》

 《魔断の太刀》

 《自然治癒》



 【装備】

 なし


___________________________________________




 ――ふむ。


 やはりアビリティが貧弱か。


 とくに戦士職に必要な【ちから】と【まもり】が不足してる感がある。


 その反面、スキルは豊富でこれからも増え続ける期待がある。問題は"局面ごとに最適な組み合わせを選ぶ"ことの困難さだ。


 ベランダでの一戦がそうだが、たった一瞬のうちでやれる行動には限りがあるのだ――


 僕は、ウキウキのまま、マナを起こして黒羽さんを引っ張り、さっさと部屋を出た。



___________________________________________

[武道場]

___________________________________________



 というわけで早速やってきた。一面畳張りの大部屋だ。


 ―――ここなら自分の力を試せる!!


 遠くには、縁側らしき場所から雅なお庭が望める素晴らしい施設。

 前回訪れたのは――龍崎さん一行に連行されたときで、悪印象しかなかったが気持ちのいい朝だ。


 弟子らしき人々が各自、朝のルーティンを行なっている。


 白い道着の見習いが雑用に励み、カラフルな衣装に身を包む先輩らしき人々は威風堂々たるたたずまいで武器を振るっている。


「――やってるねー。まだ朝の五時半だよ? エイくん……見てこれ、私の髪。―――ボッサボサでしょー??」


 手櫛するマナを見る。

 ――いつもの"さらさら感"はない。


「……まぁ、黒羽さんもそんな感じだし」

「一緒にしないで!!」

「……くっ! 俺に流れ弾が…………ちくしょう。……だが、まぁここなら問題ねェか。――そんで何しに来たんだ?」


 うーん。

 ここは別に使用許可とかいらなかったと思うし、近くの人にテキトーに剣を振れば、"流れ"ができるかな?


『いやそうなの? もっとなんかこう、あるでしょう』


 ここはジョブ《戦士/ウォーリアー》を目指すものが集まる場所。


 冒険者ランクを問わず、接近戦が得意で、打たれ強いメンバーが大勢いる。武器種も問わない武芸百般の気風。

 だから道場破り的な振る舞いをしても問題ないと思うが、そう考えたら恥ずかしくなってきた。


 ――ふぅ。


 仕方なく、人のいない端っこに行き、連れてきた黒羽さんに―――マジックスキル《グリッターボール》をぶつける。


「うおっ、なんだ?」


 ――しかし、回避動作をとらずに軽く手を振るだけで気弾はシャボン玉みたいに弾けてしまった。――ステータスの暴力だ。


「手が痺れる……『浸透衝』の遠隔バージョンか?」

「やるぅ! 次いっきますよぉ〜!」

「おい」

「はへー。黒羽さんってとっても強いんですね! エイくんの《グリッターボール》はノックバック性能もすごいのに……体幹のブレどころか払った左手も微動だにしなかった」


 とりあえず、地力の差を埋めるため、身体強化ブースト魔法鎧アーマメントをかけておくとする。


 スキル化した『魔力装甲』は、"淡く発光する半透明のフルプレートアーマー"となり、造形も匠の技でかっこいい。

 

 "聖騎士"の出立ちだ。


 自作のは若干素人のつくった粘土細工みたいで洗練されてなかったからね!


 ――ともあれ、足元の畳を踏み抜く勢いで一歩詰める。

 足裏から放出される衝撃のその反発を利用した跳躍だ。


「―――《エンチャント》」

「やる気か?」


 さらに急加速する空中で"二振りの刃"が完成する。

 両の手を、刀身に見立てた気刃黒羽さんを襲った。


 一撃目は――引きつけてかわされた。

 二撃目は―――間違いなく当たる! ――引き伸ばされた一瞬が成果を教える。


「よっと………! トリッキーかつ実用的。だが怖さが少し足りないな?」

「くっ」


 素手で握りしめられた光の刃が砕け散る。


「よっとっと」


 ――その足元。軽やかにステップを刻まれると、畳にトトッと魔法の矢が何本も生えた。


「―――フゥ」


 やはり、根本的なフィジカル差だけでねじ伏せられる。何もかも通じない。


 ――遊ばれてる! 


「《オーラフィールド》」


 以前よりも一回りほど大きくなった紅色の球体オーラフィールドの中にいる僕は――外界と隔てられたこの空間では、別次元の認識能力を手にする。


 ――瞬間、飛翔した僕とそれを追い抜いて――"大気弾"が先行して衝突した。


 ―――パァンッ


 見事に手の甲で弾かれて爆散したが。


「………!!」


 時間差で来た、もう一つの大気弾に鋭く視線を飛ばすと――次の動作として手のひらを差し向けた。


「ッ!!」


 術理はともかく誘爆の予兆を感じ、下げる。直前で手前に引っ張り、オーラフィールドに収め僕の背後に回した。


「――重い。バフの高まりが尋常じゃないな? "霊装"や"宝具"でもなし、"場とスキルシナジー"だけにしては信じられん上昇率」

「―――ハァアアア!!!」


 ここで――やや後ろに身を引いた黒羽さん。正面から拳をお見舞いすれば、蓄えたエネルギーの放出によって防御の手もろとも跳ね除けた。


「おい話を聞け」


 その次手で、上半身を完全にのけぞらせることに成功。


 それでも僕は――注意深く観察していた。

 回避動作の予兆。

 体勢を整える目的で片足が浮く。


「おい……!」


 声が上がったのは、思惑を封じたからだ。


 狙いは――回し蹴りだった。

 残る軸足に――絡みつく鎖の群れ。


 その蹴撃は、装甲ごと蹴り砕く勢いだったが、しかし速やかに移動させた余剰の魔力を集めて保護し、吸命の触手テンタクルハンドが瞬く間にとらえる。


「これっ……跳ね上がり、えぐっ! やっぱ下級のシナジーじゃねぇ……!」


 なんらかの魔術か、マジックスキルを即座に打ち消す。


 ――滞空中。

 無防備な姿勢で拘束した。普通ならこれで詰みだが、ありえない。


 一切の油断も容赦もせずに背中の大気弾を差し向ける。


 ――重ねられた二の腕。触手はバラバラに破壊され、しかし、多少なりともMPを奪い―――付近で爆発した。


 放った大気弾は、突如急上昇して頭上に打ち上がり――下では鎖が引きちぎられる。


「オラァッ」


 その頃になって――彼の土手っ腹に食い込む右腕が大きな破裂音を鳴らして床に叩きつけた。――直撃だ。


「か、うっ……! このッ、下手に出ればいい気になりやがって……!」


 呼気を漏らし、瞠目する黒羽さん。


 ――チュイン、チュイン、と独特の音を立てて右肩に魔力が集中。


 ――次弾が装填された。"釘打ち"される彼の体躯で起こるすべての"魔力的防御"を打ち消す。


 そのとき――真上から落ちる"大気弾"。


「くそっ」


 陥没した畳から飛ぶように抜け出した。黒羽さんの移動先に――"足の甲"をお見舞いし――もう一枚ほど畳がめくれ上がってバウンドした。


 黒羽さんを追う。


 とりついた触手がカエルの舌みたいに巻きこみ――すぐに目の前にきた黒羽さんを――思いきり拳で打ち抜く。


「グゥッ」


 ――岩を殴った感触が残り、皮膚が切れ、血が飛び散るが、構うことなく両腕を回転させて連撃を叩き込んだ。


「ァアァアア!!!!」


 ――逃がさない。《オーラフィールド》の範囲から抜け出されたら手の打ちようがないからだ。


 真下の畳に向けて、振るわれる怒涛の連撃は、そのすべてが中級魔法エネルギーバーストの直撃に匹敵する威力。


 それでも足りぬと《オーラフィールド》の全魔力を使った――自分自身が一つの《エネルギーバースト》となって突貫する"最後の大技"を前に―――彼は驚愕した。



「―――おい、待てっ! 死ぬッ! お互いにッッ!!!」



 とっさに放たれた、なんらかの中級魔法を巻き込んで大爆発が起こり―――



 道場の一角が、弾け飛んだ。




 遠くで場が騒然とする。

 少女の張り上げた声が聞こえる。


「…………」


 HPがイエローゾーンに達し、顔半分が血染めになった僕は――これでまだ「倒せた」と慢心することなく、右腕を掲げて、僕の打てる"最終奥義"《オーバーロード》の予備動作をとる。


 尋常ではない負荷のかかるバフスキル《オーバーロード》は、満タンまで魔力を溜め込んだ《オーラフィールド》を使い捨てにして発動する。


 このスキルは一度使えば、"必ず死亡する"ことと引き換えにして――なんと! 


 "10秒間"も、極限の身体強化をおこなえるのだ。


 あのときは"三秒間"しか保たなかったのに! ずいぶんな大盤振る舞いである。


『――いや待ちなさいっ!! ――終わり!! おわりよ!! ラクミヤッッッ』



 その声がして、ハッとした。――右腕から刻まれ始めた発光する紋様がチカチカと点滅する。



 ――待機状態で停止したのだ。



「あ………」


 サーっと血の気が引く。


 いま冷静になると、自分が「とんでもないやつ」に見えてくる。冷や汗が噴き出した。先までの戦闘でかいた健康的なソレではない嫌なやつだ。挽回するには……。


 まばらに集まる人。

 怒鳴り声や罵倒。

 さっき空けた大穴は、床板を突き抜けて建物の基礎部分が「こんにちは」してる。


「………」

「……っ」


 細い目で見上げる少女から視線を切って、対戦相手の黒羽さんを探す。


 ボロボロになった畳と、へし折れた木材の散乱する穴に入り、暗闇に逃れるのだ。穴があったら入りたいというやつである。

 

 パラパラと細かい砂が落ちてくる天井に、多くの人が顔を覗かせ始めた。


「へ、へぇ、畳の下ってこうなってるんだ」


 とっさに目をそらし、周囲を探索。

 さすがに鉄筋コンクリートは半壊がせいぜい。

 それにしても、この道場には――地下があるみたいだ。


 緊急時のシェルターかな? 入り口はここにはないみたいだが、地下室の天井らしき部分が魔力を遮断する金属で挟まれているのだ――などと現実逃避をしつつ。


「………ひでぇめに遭った。……運がないね。こいつは――とんだ貧乏くじ引かされちまったな。ただでさえ危険な護衛任務だってのに、守るべき対象も敵と来た……たはっ、笑うしかねー」


 ホッとした。


 手応えからして"死んではない"と確信していたが、がれきに背中を預けて仰向けに倒れる黒羽さんは口から血を垂らし、細かい擦り傷は多く見られる。が――軽傷だろう。


 全力全開のエネルギーバーストを超える爆発もスキル化されていない現状は――どうやら練度不足のようだ。


「よっこらせっと。あ〜面目ねぇなクソ。……先に言っとくが謝るなよ」


 わりかし平気そうで、軽やかに立ち上がった。

 てっきりブチギレられると内心ビクビク身構えていたので、拍子抜けした気分だ。


「『武装の励起』はしてなかった。大っぴらに戦うわけにはいかない。――全部、言い訳だ。同条件で見事にしてやられたグズがこの俺様なわけよ。………つッ、クソ。―――しっかし、動き変わりすぎんだろ。あれくらいの『武闘力』の跳ね上がりは上級では珍しくない。――とはいえ、その前提がまずおかしいしな」

「………やっぱり、みんな、"天井"がこーんなに高くあるんですね!」


 見上げると光源がまぶしい。

 その中から、ひときわ強そうな武人が現れる。


「ふむ……黒羽よ。――何をやっとる?」

「…………見りゃあわかんだろ。負けたんだよ一対一の組み手でな」


 苦虫を噛み潰したような顔で、そう答える。


「――ふむ。どうやらそのようだな。『修理代』はお主に請求するとしよう」


 ――っ!


「あっ、いやさすがに僕が払いますよっ」

「ラクミヤよ。俺にこれ以上恥をかかせないでくれ――頼むわ」

「………はい」


 そういうことになった。……大人のプライドってやつだろうか。


 ……いくらになるんだろう?




 道場に上がると、ざわつきが大きくなった。


 師範らしき武人とその隣にいるマナ。《セルフヒール》や《自然治癒》で回復しているとはいえ、着ていたジャージは――無惨な姿になっていた。


 一方の黒羽さんは無傷だ。軽装だがランクの高い装備品を着ている。外套はともかく白シャツまで無傷なのはショックだ。


 《鑑定》すれば――秘宝級トレジャーのTシャツだった。


 ――いろんなアイテムがあるんだなぁ、と僕は感心した。



 ―――さぁ次はどこに行こうかなっ?



『もはや災害ね……。まだ満足してないのかしら』


 それと弁償は黒羽さんがしてくれることになったけど、師範から「いずれまた来い」と言われたので暇があったら体験コースに参加してみるかな!


 基本職はレベル10になってからだけど――別にその前から修行してもいいもんね!


第四章始まりました! 朝から元気だねぇ……。まだまだぐんぐん強くなりますよ! そして1日が長い!!


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