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難易度:エクストラ



「―――そこかッッ」


 死亡後に浮遊した"僕"は、それでも何故か意識だけを残していて――頭上から幽霊みたいになって戦場を観察していた。



「――悪いことは言わん。もう眠れ。―――《破邪滅光の仏手/ニルヴァーナ・エンド・フィスト》」



 だが僕の視界が―――真っ白に染まる。怨霊となって浮遊する僕に、気付いたのだろう。


 あのオーガ同様に、死んだ後の方が強いこともある。そうなる前に消してしまうのが最善なのだ。


 そう考えると、あの死体オーガにも《オーリー》がよく効いたのだろう。だからと言って、完封などはしなかったが……。




***




 ―――こうして、壊れたテーブルや血痕、人肉がそこかしこに見られるまごうことなき修羅場は、幕を下ろしたのである。



 会場では、事件が解決したことで弛緩が生まれ、みなが雑談の時間に興じる。


 やはり一番多い話題は、"僕ことイカれ勇者"のレベルに不釣り合いな"戦闘力"や"精神性"についてだ。


 戦闘中は、遠くから超人たちの足を引っ張らない程度に攻撃を加えていた彼らから視線を切って、本命の人たちに目を向ける。


 僕のことを、一方的に叩きのめしてくれた彼らだ。


「………無事か。武蔵の」

「…………………ぁあ、チッ、ぬかった。あのガキ、どうかしてるぜ……」


 圧倒的格下にまんまと土をつけられた上級冒険者が業物の剣を腰に納めて、僕の死体を見下ろす。


「あのよ。俺が言うのもなんだが、ヤバいやつに力を持たせたら駄目な典型ってやつだな。助けにきた人質もろとも殺しやがるんだから」


 それをさらに見下ろす僕は――なんなのだろう。


「ダンジョンの復活機能を考慮すれば、足手まといを早々に切り捨てる妙手ではあるのだろうが……」


 どうにか僕のフォローをする武闘家は今度気づいてないみたいだ。


 ―――これって。……どうやって終わらせるんだろう?


 僕は不思議に思った。


「だからと言って、平気でやるもんがあるかよ。ところで、アリア、このガキどうすんだ? いらないなら俺にくれ」


 高そうな杖を揺らして怯える人々から離れてやってくる女魔術師。


 なんか、こういうのって舞台裏を見てるみたいなワクワク感があるよね。


「――ふざけないで。今回の被害総額がどれほどになるか………少しでも元をとるに決まってるでしょ? 『アギト』様にも、なんと申し開きをすればいいのかわからないわ」

「いくらで売るつもりだ? 言い値を出す。あいつは上に行くぜ? 俺が断言してやる」

「そんなこと、あなたに言われなくとも理解できるわ」



 ―――おお、素直に嬉しい。褒められちゃったね!



「それで、返答は?」

「お金に変えられるわけないでしょう。ただ、育成方法に悩むわね。『無属性特化型の魔法剣士』なんて、このラクミヤエイって子は"英雄の器"かもしれない。『"時空間魔法の使い手"』なんて、下手なギフテッドよりも貴重よ。―――決して、使い潰させはしない」


 使い潰させはしないって。……うーん、奴隷にするとか? この人たちは悪人だろうから待遇に期待はできない。


「あーハイハイ。デスヨネーって感じだわ」


 しばし、無言が続く。

 そんなとき、人垣の中から偉そうなおじさんが身を乗り出す。


「この、こいつ……!! 戻ってきたら後悔させてやる! 蛮勇の報いを受けさせるのだ!! こうはしておれん」


 おじさんは、ボロボロになった僕の体を踏んづけて、唾を飛ばす。



 ―――あーあ、覚えたからね? ちゃんと見てるからね?



「四天宮アリアよ。当然、此度の補填はあるのだろうな?」

「ええ、そう思ってもらって構わないわ」

「ふん、ならいい。出直す」


 おじさんは、僕にどんな屈辱的なことをさせるかのアイデアを募って人を集める算段を立てている。


 ―――ま、この人たち。そういうの好きそうだからなぁ。

 いったいどんなことをさせられるんだろう?



「―――それにしても長くねーか? なんで死体が消えない。というかストレージに何も入れてなかったのか?」


 ――うん、うん。


「言われてみれば、そうね。復活処理の過程には個人差があって死んだあとに"地獄"で苦行をこなさなくてはならないのは有名よね?」


 ―――"地獄"、ってあれ都市伝説じゃなかったんだね。


「まぁ、ハハ、そりゃあな。このランクで一回も死なないのは無理がある。俺は……ひたすら四大属性と剣に切り刻まれて死ぬやつが多いな」

「ふーん。私は溺死ね。死の間際の原因にもみくちゃにされるのは、全員に共通してるでしょうし」


 じゃあ、僕のこれも"死後復活の処理中"ってことか。

 ギルドでも、心が弱くて目を覚さない場合を除いて、例外なく復活すると言ってたし。そこに疑問を持つこともなかった。


「………む、アリア。ヘンだぞ。詳しく調べてみたら、小僧はまだ死んでいない」


 ――――え、そうなんだ?


 思わず、ふふっと笑っちゃったけど……あの"肉塊"がまだ死んでないとかどんだけだよ。……絶対冷たくなってるでしょ。


「ハァ? HPはゼロだし、食いしばり系のスキルがこんなに長いわけないし」


 と、ツンツン足先で肉塊をつつく男。


「なにかのシナジーで"生存状態"に固定されてるとか? ちょっと分からないわね。死体の回収すらされないのはどうしてかしら。………とりあえず火葬でもしてみる?」

「………ヘーイ、任せてくださーい」


 ―――どうなるんだろう? ワクワク。


「《四閃裂波》」

「《クリムゾンフィールド》」


 緩慢な動きで絶技が披露される。

 肉塊は瞬時に解体され、細切れになったのち―――焼却。


 炎理さんのソレと比べても遜色のない炎だった。


 そうやって跡形もなくチリとなった"僕の死体"。

 もはや、カケラも残らず"灰"となる。しかしそのあと異変に気づいたアリアが突如大声で叫び出した。


「そんなっ! 『ダンジョンマスター』の権限を何者かに奪取されている!? 侵入者以外の出入りも制限されてる……? 内から外には出られない……?」


 本能的な危機察知能力が高い人たちだ。ホールが徐々に緊張感に包まれていく。助かったと一安心した客たちが盛大に喚き始めた。


「何が起きてやがる。……嫌な予感しかしねぇぞ。俺らは誰にハメられた? これから何が来る?」


 注意深く周囲を観察して、懐の武器に手を置いた男。

 こんなの、ダンジョンではよくあることなのか。攻略済みダンジョンにしては過剰なほどの警戒をしてる。




 ―――数十分後……。




「――――【オイ】」



 その様子を眺めていても特に何も起きなかったので、さすがに「オイ」と突っ込んだら……その声がなぜかホールにこだまして、彼らを怯えさせてしまったようである。


「【あ、これってボク待ちだったんだ】」


 とうとう、そのことに気づいた僕が、ホールに立っていた。

 生まれたまんまの姿。素っ裸でね。


「【ィヤン……っっ!!】」


 変な声が出た。

 衆人環視の元で"裸になる趣味"などないのである。

 自分でも鳥肌が立つくらいの気持ち悪い悲鳴が聞こえたかと思ったら、そこに爆炎が放たれる。


「出たなバケモノめっ!」


 《オーラフィールド》で中和してもダメだったので、僕は盛大に焼かれて、飛び跳ねた。


「【アッチッチ……ってなにするんですか!? もう戦いは終わったでしょ? ボクの負けですって、ボクの負け】」


 「降参」「降参」と、白旗をあげる。


 しかし、その場の面々はまるで強大なモンスターを相手に戦列を組む冒険者のようであった。


「フッ……」


 四天宮アリアは、恐るべき水魔法の使い手で僕のオーラフィールドを塗り潰す。先ほどまでの気だるげな態度が嘘のような切り替え。戦士の振る舞い。


 僕だって、一対一ならどうとでもなったが、徒党を組まれれば勝ち目はなし。


 あのオーガを悠に超える"鉄拳"に吹き飛ばされて、壁を突き破った僕は通路を転がり、跳ね上がる。


 ―――ここらは、すでに瓦礫の山と化していた。



「【ま、マジでなに? そういう決まりが!? さっきまでがボクのターンだったとでも?】………あ…あれ、あーあー。なんか声おかしいなぁ」


 いつもの僕とは違い、人を不快にさせる耳障りな声質。


 いや、声質はそのままだが―――声に"何か"が宿ってる。


 これって……『呪文魔法スペルマジック』? 炎理さんも使ってた。


 専門家ではないから、詳しくは知らないし、うろ覚えの知識だけどさ。


 自分の言葉が魔法となるのか……?


 思いついたら即実行だっ!



「―――【とまれ】」


 言って、壁の向こうから飛び出した男に手を向ける。もちろん左手は、股間に置いたままだ。


「ウッ!?」


 すると、どうだろう。

 追撃をかけてきた魔法剣士がピタリと静止したではないか。


 それはまるで、動画を途中で"一時停止"したような、不自然な光景だった。


「………!!?」


 驚愕に染まり、見開かれた目や、パクパクと開いた口元の飛沫ですら止まってる。


「―――あぁ、なるほど。大雑把な命令だと効果もそれなりってことか……」


 その証拠に、内部の抵抗を感じる。しばらくすれば自力で復帰するのだろう。


 ならば―――



「【心臓を止めろ】」


 

 しっかりと男を見つめて、彼の心臓に意識を向けて、発音した。


 これならより具体性が増して魔法の効果も上がるんじゃないか? 


「かはっ………!!」


 溺れるほどの血を吐き出して床に手をついた男は――瞬時に何某かのスキルを使って回復しようとする。


「……あっ……あぁっ……!! じっ……上位種族の……言霊……」


 さらに、虚空から取り出したポーションをいくつか飲み干す。

 ギルドで売られる最高級の消費アイテムを使用した。が、心臓は止まったままだ。


「―――ふ、ふふっ……ふふふっ! アッハハッ! すごいっ! すご〜い! すごいぞぉボク〜っ! サイキョームテキだぁ〜!!」


 だって、「止まれ」と命令したんだから止めなくちゃいけないだろう? その想いがちゃんと叶ってる! ボクは"全知全能の神さま"みたいだ!


 そのとき、脳が――心が――魂が、軋むような痛みを感じた。


 さっと、自分の手元に視線を落とす。


「ッ!?」


 そこにあったのは―――"禍々しい爪"だった。元々の自分の肉体に癒着するように"漆黒の魔爪"が生えてきてる。


「な……なんだこれ……?」


 ダメだ、これは……ダメだ……。脳に最大級の警戒音が鳴り響く。


 ―――そして、感じる。

 このままでは"元の姿"に戻れなくなる! まるで侵食されるように、僕の存在が書き換わっているのだ。


「――ミカ、出てこい」


 僕が低い声で命令すると、恐る恐るといった態度で視線の先に現れた。


『…………ら、らくみや?』


 出てきた彼女は、一度も僕と目を合わせない。判断材料がほしい。


 これから僕は、どうすればいいのか……その判断基準がほしい。


「―――【みんなっ! よく聞け!! 心臓は止めなくていいから、今すぐに知恵を振り絞って、僕を元に戻す手段を模索しろぉ!!】」


 その声が、フロア全域にまで届いたことを把握した。


「やっぱりだ……」


 これを使えば使うほどに侵食がひどくなっているのを感じる。


「《ハイドロミキサー》」

「――は?」


 そこに巨大な"渦潮"がやってきて、僕を散り散りに引き裂いた。


 それは猛烈な勢いで、上も下もわからずに目を回しながら肉が削ぎ落とされる現在、僕は冷静に思考していた。


 ―――抵抗は容易い。なんでもいいから『抵抗の言葉』を発すれば打ち消せるだろう。しかし、これは不可逆なもので、死んで元通りになる保証もない。


 いいや、絶対に元に戻らない。


 段々と出力の上がっていく魔法に中和はかなわず、僕はもう一回―――"死んだ"。



 そして再び、怨霊となる。



『………まずいッ! これも繰り返せば定着する。そう何度も死ねない』


 ピューっと遠くに逃げつつ僕は考える。ミカとのつながりも途切れた、再び一人で考えなくてはならない。


 さっきは命令を伝えたはずだ。

 あの命令は無視できる類いのものなのだろうか?

 魔法剣士がそうだった。僕の命令を聞かずに攻撃してきた可能性はある。


 そうなるならば―――まずは"無力化"から始める。


 この能力は些細な命令ならともかくとして、大きなことをするには"爪の侵食率"の上昇という巨大なデメリットがある。


 その程度を見極める。

 あくまで些細なこと。その定義とは――"矛盾のなさ"、"無理のなさ"。――つまり、普段の僕がやれないことから遠ければ遠いほどにデメリットが増す仕様。そのように仮定する。


 ならば――やはり、普段の自分の延長線上で戦って、あるいは交渉して収めるしかない。



 目を覚まして、僕の死体に"祈りを捧げていた女"に声をかける。

 "まっパ"の僕がやってきても驚くどころか、平身低頭、謝罪するばかり。


 ―――どういうことだ?



「【――四天宮アリアよ。――――ことの次第を説明せよ】」


 てっきり、ガチバトルが再び始まるかと身構えていたが、この表情と無防備さ。到底、上級冒険者とは思えない頭の低さである。


「御言葉通り、以前のお姿に戻りたいということでしたので、早期に一度死亡すべきかと愚行したわけです。………申し訳ありません。………申し訳ありません」

「ああ、つまり模索した結果の行動というわけか」

「………は、はい」


 なるほど……。"死ねば元通り"というパターンは試せた。

 この"試行"に意味はある。――抜け出すには、僕自身に科せられた、なんらかの"制限"を理解し、"クリア条件"を満たす必要がある。


 故に、いくつかの条件を仮定する。

 一に、僕が死ぬことを除外できて、今度はこの場にいる全員が死ぬこと。


 これはまだ――試してないな……。


「よし、そう言えば……」


 鮮やかな水色の髪を伸ばす女を見下ろす。


「………?」


 コイツはダンジョンマスターだった。このレギオンハウスの主人だ。


「あ、あの……なにか……?」


 何某か、話しかけてきた四天宮アリアに――《エネルギーバースト》を連発して吹き飛ばす。


「―――ああんッ」


 無防備に床に叩きつけられた女があえぎ、その肢体をさらけ出すのは、なんとも言えない艶かしさがある。もっとイジメてやろうか!


「一発、二発、三発」

「あっはは! えっちだぁ!」

「【抵抗するな】【死を受け入れろ】」


 真上から魔法を直撃させる。

 彼女は、逆らう気がないのか涙を流して――恍惚の表情であえぎ声を漏らす。


 だが喜ばれると、気持ち悪いな……。



「な、なにをしている」


 そうこうしてると、一度は脱出方法を探ってフロアの端っこまで行っていた武闘家が戻ってきて絶句した。


「我は……ラクミヤエイ………お主のことを"人間"だと判断していた。―――神仏の類いにそそのかされた"哀れな被害者"だと」

「うん、そーだよ?」

「―――否。断じて否である。キサマは"邪悪そのもの"だとたったいま確信した」

「ククッ、ウソはつかなくていいよ」


 思わず、笑ってしまった。

 彼に興味を向ければ――おのずと答えが与えられるのだ。


「キミは状況を正確に理解している。ボクの状態も、そこのアリアの献身の意味も、すべてわかってるんだろう? その上で無為にしようというのは、単に"現実の否認"でしかない。ボクがこれまでやってきたように――そして、これからも行い続けるように」

「それ以上口を開くな! "至上の天を摩する鬼神"よ。―――いますぐにアリアから離れろ」

「プッ、それそれっ。……いや、ボク嫌いじゃないけどね? ―――アリアちゃんのこと好きなんだぁ? ボクも応援してあげようか? ボクの『"権能"』―――【悲恋】って言うんだけどね」


 何を言っている。

 誰が話している。

 体が独立して動き始める。ふと視界に"漆黒の外套"が見える。

 ――これは、悪魔の爪が手を侵食して、体全体を覆い始めた証拠か?


「【抵抗を禁ずる】」

「アッハハッ、ほぉら、ほら? 頑張らないとアリアちゃんが死んじゃうぞー?」

「―――合計26発、と。……あんた硬すぎでしょ? 今回はここまでかぁ。とくに何も起きないし」


 悪魔が嗤う。


 

 "純真無垢な邪悪"。


 これは確かに―――討伐すべき"悪"だ。



 だれか早く……ボクを――殺してくれ………。




そう言えば――タイトルは「魔神転生」なんだよね!


 そんなわけで。今度はブラックレギオンの"彼らにとっての"―――"難易度不明"エクストラモード"が始まりました! 


 アリアちゃんガンバ〜! 


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