絶望の部屋
鬱イベントはすぐ終わる予定ですので、心の弱い方、優しい方はさっと流れで読んでください。胸糞の悪さは解消されるはずです。(たぶん)
「―――ガッ」
体勢を崩し、前方に倒れ込んだ獅子島さんの後ろ姿が―――スローモーションで見える。
彼は、とっさに腕を掲げたものの、防具を切り裂いた刃が、数滴のしすぐをこぼしている。
"襲撃者"は、追撃の動きを見せている。
外套に身を隠した"白仮面"がその手に持つ鎌のような"鋭利な刃物"を、続けて振るう。
確実に、殺傷する目的と見て―――瞬時に、僕も決断した。
「―――《エネルギーバースト》!!!」
白く輝く気弾が向かう。
獅子島さんを横合いから暗殺しようとした犯人。
その後方からぶつける形だ。
完全な不意打ちが―――決まったかに思えた。
しかし血飛沫を背景にした下衆人が横手に武器を振るったのだ。
切り裂かれた気弾が、勢いそのままに白仮面に衝突、大部分の効果を阻害されて魔法の破片が散る。
―――カラン、カランと、音を立てて仮面が落下した。
素顔が明らかになる。
「ッッ!!」
茶髪の女性だ。
驚愕に目が見開かれている。外套の効果なのか気配は薄く、すぐそこにいても消えそうなほど……。
「《鑑定》」
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『タイラヒエイ Lv35』
【HP】 966/966
【MP】 563/563
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狙いとは少しズレたが――顔を目視できた。あの仮面は正体を隠す効果があるらしく、そして"身分を隠す"ということは、やましいことがある証拠。
「っっタイラヒエイ、あんたは何者だッッ!!」
僕は、腹から声を出して誰何した。敵への牽制と味方への報告も兼ねたものだ。
「ミカっ撮影を!!」
『了解したわ!』
ダンジョン内で犯罪行為を見かけたら通報する義務があり、それは【メニュー】の【問い合わせ】の欄からリアルタイムで伝えられる。
「や、やめなさい! 今すぐ消せッ、消しなさいッ!!」
黒い外套で顔を隠し、僕に向けて命令する。途端に群がる"針で刺すような殺気"と"濃密なプレッシャー"が襲う。
「ぐぁっ……」
僕個人に向けた殺意に、全身が粟立ち、脳が揺れ―――体が硬直する。
「…オーラ………フィールドッ!」
腹の底で溜めた勇気を振り絞る。
スキルの展開と同時に寒気のする圧が一気になくなり、僕は緊張と弛緩から、やや前につんのめった。
「はっ……なっ、なにが起きてる!? 大丈夫か、おっさんっ!?」
「………………タイラヒエイ……本日の5F担当の…………Cランク冒険者だ……」
「ちっ……しくじったッ! 一旦いったん、畜生ッ……!!」
涙すら滲ませて、歯噛みする女を注視する。
「…………作戦は継続する。このまま猟犬に食いちぎらせろ」
すでに体勢を整えた僕らを"一息では御せない"と判断したのか、女は虚空から手のひらサイズのアイテムを取り出した。
見た目は、鈍い光沢を放つキューブ。
「この屈辱は忘れんぞ、ラクミヤエイ。後日、許しを乞えば、少しは待遇がマシなものになるだろう、覚えておけ。……お前たちが行き着くのは―――この世の地獄だ」
先程までの慌てようをごまかすような大物ぶった語り口調。
女は満足すると背を向けて、再び気配が朧げになる。
「いったいどういうつもりだッ! あなたほどの人が何故このような悪事に手を染めるッッ、答えろっ!!」
獅子島さんが絶叫した。
それほど信じられない出来事が起こったのだと理解できる。
「フ、フン。わたしはもう戻れないのです。………では、もし生きていたらまた会いましょう。―――次は地獄で」
声だけが残された。
遠くから猛犬の唸り声がする。
「…………………」
……………。
『スキル《ソナー》を習得した!』
まだ足りない。
痕跡を追え! どこに隠れ潜んでも見つけられるように。
探知魔法を使うと僕を中心とした魔力の波動が周囲の物体に反響して返ってくる。
これまでやっていた探知魔法を自動化してくれるスキルだ。
それでも、足りない。
《オーラフィールド》内で濃密な魔力を収束させたニョロニョロヘビを全方位に散らしていく。
そのニョロニョロが―――かじりついた先で、『不可視の扉』に消える"女の背中"を見た。
「―――超加速、グリッター」
"空中に作った足場"。
そこに固定した輝く玉に両脚を踏み込んで炸裂させる。
―――ロケットが発射したのだ。
魔剣を握りしめて突貫する僕は――一瞬で女に突き刺さり、不可視の扉のその向こう側に消えていった。どこかで"女神"の声がする。
『―――まずは箱庭の支配から始めよう』
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[歌姫のコンサートホール 1F ]
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『って、なにしてんのよ〜〜〜!!?』
脳内に、ミカの絶叫が響く。
魔剣に振り返った女は、扉を閉めるか迎撃するか迷い、あるいは、単に呆けたのだろうか。
「!?」
いとも容易く、胸元に吸い込まれた魔剣越しに感じる女の抵抗を、ねじ伏せるべく地面に縫い止めた。
「はぁ……はぁ……」
「ハなせ〜っ!」
………あまりにも上手くいきすぎた、と感じた。
「がアッ……グゥ、ガフっ!!」
同時、《オーラフィールド》内に収めた女の首を左手で強く絞め上げ、僕の"全魔力"をぶつけて人体支配を試す。
"Cランク冒険者"。
"圧倒的な格上"。
思っていたよりも人体の魔力の密度は低く、急速に僕の魔力が浸透していく。
意外に"通り"がいいのは、ひとえに、正面戦闘用の装備ではなかったからだろうか。
ステータスの偽装も考慮して、ためらいなくフルパワーを注いでしまったが、抵抗は想定の半分以下に収まる。
あの神堂さんを相手にする気概で挑んだ結果。合計約『380』のMPで完全に支配できたようだ。
「あ、あなたッ……!」
限界まで見開かれた目は、信じられないようなものを見る目で、弛緩した口元からは涎の道ができ、あごを伝った。
「……………」
いまや、女は指の一本すら、自分の意思で動かせない。
それもこれも、至近であれば《魔力感知》と《魔力操作》のスキルレベルが3相当であるからだ。
「した、従うわ。従うから、こ、ころさないで」
「そんなことはしないよ……僕をなんだと思ってるのさ」
『目が完全にイってるのよ!! この戦闘狂ッッッ!!!』
うるさい。彼女の"動作テスト"と並行して、周囲の環境を目視で確認する。
正直ここまでの流れがあまりに綺麗に決まりすぎて、逆に違和感が生じるレベルだ。
「帰還は……」
だが先ほどまで現れていた扉が、消えている。
すぐにパーティメンバーのステータスを確認した。"現時点では無傷"なのを知る。
「はやく、帰らないと」
どこかの倉庫か? やけに埃っぽく薄暗い。速やかにあたりの木箱や金庫らしきものに魔力を放射していく。
『『歌姫のコンサートホール』という名前の攻略済みダンジョンみたいね』
ミカが画面を操作する。
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ダンジョン名:歌姫のコンサートホール
階層数:全2F
種類:大広間/安全地帯
時間倍率:1.0
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そうだったのか……。てっきり魔力の薄さからして地上かと思っていた。
『攻略済みのダンジョンを"拠点化"したものよ。レギオンの本拠地は、管理されたダンジョンだから』
なるほど……。
つまりここは、何らかの犯罪組織の拠点ということか? それもレギオンを結成できる実力者がいる。
「ねぇ、どうするつもりなの。こんなことをしても何にもならないわよ。―――勇者なんてどこにもいないんだから」
「ちっ……それだよ、それ」
「………は? なに?」
「あんな思わせぶりなことを言われたら僕は着いて行きたくなるに決まってる!! ……堪え性がないんだ」
ことは、一刻を争う。泣きながら言った。
「―――"脱出手段"ある?」
「………ないわ。わたしに与えられるのは使い捨てのレギオンキューブ。出るさいはまた許可をとらないといけない」
「だよね。……だと思ったッ」
つまり、見事―――袋小路に追い詰められたわけだ。
『本気で言ってる? 嬉々としてつっこんでおいて』
僕はいいんだよ!!
問題なのはっ! 置き去りにしてきたマナたちのほうだ。
獅子島さんが復帰したら、あの三匹のモンスターとも戦えると思うけど……。
「―――タイラヒエイ。あの犬は、誰の命令で、動いている」
冷たい目で淡々と問いかける。
「………。一頭につき一人、Dランカーが後詰めとして待機してるわ」
「そう」
その言葉に段々と胃がムカムカしてきた。
今になって後悔が襲う。……どうして無理して追いかけた、相手は退こうとしていたのに……?
どうして?
同じ人間とも、戦わなきゃダメなのか?
「………タチの悪い連中で、年少の女の子を平気で"襲える"やつらよ。組織の中でさえ扱いにくいとわたしに押し付けられたの」
「―――マナはどうなる」
「……マナ? ……あぁ、あと一人の子ね。わたしが言うのもなんだけど、"女に生まれたことを後悔させられる悲惨な目"に遭うでしょうね」
皮肉げに言い捨てた。―――女の心臓を握りつぶす。臓器もすべて"掌握済み"だ。
いつでもノータイムで殺せる。
魔法どころか"口頭での発音を必須としないスキル"の予兆を感知したら、脳をじかに締め上げて解除させる。意識を途切れさせると大抵のアクティブスキルは発動・維持できない。
「かひゃっ……や、やめて。やめてください。やめてください。お願いします、助けてください。…………し、仕方なかったんですッ、こうしないとわたしが犯されるから……家族も一緒になって」
この状態を切り抜ける、何らかのスキルを発動しようとした女の脳への酸素供給を阻害する。
もう何度かやらねば、大人しくはならないだろう。改めて、開幕の本気の無力化は正解だったと思うが―――それは突貫した自分が悪い。
とは言え、そうなった原因はもともと"こいつら"にある。
「―――クソが。ふざけるな! なんなんだよ、この展開は」
僕らは、これから帰ろうとしてたじゃないか!
なんで、たったそれだけ素直に帰してもらえないんだよ!? ちょうどいい感じの負荷があって!! 帰ってぐっすり寝たかったんだぞ!?
―――僕らは、冒険者の見習いだ!! こんな大人が対処するような、厄介ごとに巻き込みやがって!!
『………………ラクミヤ。冷静になった?』
いいや。
まったく、なってない。
「………はぁ、はぁ。頭痛い……。どうする。……どう、しようか……」
「投降すればいいじゃない? 逆らえば下手すると殺されるわよ。……あなたは利用価値があるから奴隷にされるだけでむしろ出世するんじゃない? こんなに"ふざけたコト"やれるわけだし、たったレベル5のビギナーの分際で」
わめく女を無視する。脱出路がない以上、この拠点を制圧するしかやりようがない。そのためにはどうすればいい?
………僕はこれからどう動けばいい……? 答えのない問いがぐるぐると思考される。………なにかがおかしい……なにかが………そんな気がする……。
「どうせあんたも、女を食い物にするクズになるのよっ。力があるんだからそりゃもう好き放題できるわよね〜」
「―――だまれ」
時間は敵に味方する。
この侵入がいつ露見するか。
強固に維持した支配も、魔力のロスが出てしまう。
自暴自棄に愚痴を吐き出すだけの女を見る。こいつは雑魚だったが、使い方次第では強い駒となる。
結構なMPのリソースと引き換えにして"高性能な肉盾"くらいにはなるはずだ。さすがにパフォーマンスはガタ落ちするだろうけど。
「おまえも……戦う理由があるんじゃないのか。利害が一致してるんじゃないのか、どうなんだ」
「―――ぷっ、ばぁか。協力なんてするわけないでしょ。わたしを巻き込まないで」
どうする。
どうする。
どうする。
「協力してくれるなら裏方でいい。しないなら矢面に立って派手に"討ち死"にしてもらう」
「……あっ。そ、そんな………くそくそくそッ」
床に座り、悪態をつく女を見下ろす。
ダメだ。
こいつを説得してる時間なんてない! だが、MPは節約したい。
敵が何人いるのか未知数だ。
探知魔法を使えば一発でバレる。一つずつ問題を解決していこう。
「敵は―――全部で何人だ」
「…………はぁ。このレギオンハウスにいる人数? 今日は盛大な"パーティー"があるから観客は多いわよ。目玉はもちろん、あんたたちだけどね! モンスターに食べさせられて"輪姦"させて客の飛び入り参加自由がウリのねぇ!! 富豪や政治家も皇都の権力者はみんな組織とつながっている」
どんなに大声で話しても周囲にいる限りは防音できる。
チラ、と左にあるHPバーを見る。
「―――組織はしらん。この拠点に駆けつける戦闘員の数だ、概算でいい」
「………えぇと? ……警備員は十人もいないわ。それとみんなCランカーよ」
この女と同格……。
だが隠密能力と奇襲に特化した女とは違い、正面戦闘の能力が高いはずだ。なるべく戦いたくはない。
「あとは―――個人の護衛が大勢。さすがに"Aランク"の『英雄』様はいないけど"Bランク"の『超人』はきっといるはずよ」
その全部と戦う必要はない。
最小限の労力で切り抜ける。マナの元に帰るんだ……!!
「―――最後に、脱出の許可はどうやってもらう」
すべては、この問い次第だ。
「……………帝王様直下の『四天宮アリア』様に許可をもらうか、殺害して管理権を奪取するか。………いずれにせよ、あんたは、もう終わりね」
やさぐれた女は、帝王うんぬんのくだりで恐れ慄き、自らの境遇を自覚したのか、それでも最後の方で安心の笑顔を見せた。
"今いる"らしい皇都とやらの支配構造が透けて見えるようだ。相当に野蛮な社会らしい。
御堂くんは――まさか安全のためにウチに来たのか?
そういえば――炎理さんも皇都出身だったような……。
「……それで、解放してくれるのかしら?」
鋭い目がキラリと光る。
油断した僕を無力化して仕事の続きをしようというのだろう。
信用は、できない。
「だめだ。今からおまえの心臓を"死"で染める」
僕のアタマを"悪意と殺意"で塗りつぶす。どす黒くにじみ出た不穏な魔力……これを、女の胸元に押し当てる。
「―――ぅ………ガハッ……ぁああッッ!!!」
さすがに抵抗が強いか。スキルの出力を上げていく。
場がビリビリと震え、倉庫内の床が小刻みに振動する。
女の意思を踏み砕くため、《オーラフィールド》で抵抗力を一つずつ打ち消し、空いた隙間から心臓に彫刻刀で刻むように僕の魔力を染み込ませる。
無理やり隷属させられるのは許容できるが死ぬのは、どうしても嫌らしい。突然、脂汗をかいて胸元を抑える。苦悶の声を漏らし始めた女。
攻防が激しくなる。
いざとなれば隙を見て逃げられる段階は終わり、尊厳を相手にすべて奪われるという状況だ。
アビリティなしでは、この女の魔法に対する抵抗力は大したものではない。
逆に言えば、高レベル相当にアビリティで補強されているから、この女の意思に応じて"硬さ"が増すのだ。
「―――さっさと僕を受け入れろ。支配させろ。殺しはしない」
スキル化だ。
スキル化、スキル化しろ。と強く念じながら、彼女に"消えない烙印"を押す。
それは―――"外部からの魔法解除を受けて即死させる仕組み"。言うことを聞かせるためだ。結局、莫大なMPを利用して、女の抵抗の上限を上回り、魔法は成功した。
―――カクン、と力なく、頭を落とした女を見下ろす。
「……………はぁ………説明、しなくても、わかるだろ?」
「……ん、んぅ、なにを………したの? 胸が苦しいの。おねがい、ころさないで……! また家族に会いたいの」
「はぁ……」
今度は泣き落としだ。
僕は心を無にして、女に淡々と告げた。
「………僕の命令に逆らったら死ぬ。魔法を解除しようとしたら死ぬ。《オーラフィールド》の効果範囲をすべて抜け出したら死ぬ。最後に――僕が死んだら、お前も道連れに死ぬ」
「…………っっ!!?」
脳内でドン引きして怯え震えるミカの様子がちらついた。
死の魔法『ハートバインド』によってMPのリソースが完全に空く。
『―――よ、容赦ないわね。少し、可哀想に思えるわ……』
さっきは勢いでごまかしたが、本当に機能するかは賭けだ。
ただ、《オーラフィールド》内ではどのみち殺せるのは事実。背中から刺されて共倒れになる可能性もあるが、このくらいのリスクは許容する。
いがみ合いながらも、僕が歩けば着いてくるしかない女――ヒエイと倉庫内の探索を済ませる。
残念ながら、一発逆転のアイテムなどは見つからなかったが。幸いなことにMPを回復する『マジックポーション』が大量に見つかった。
武装も道具も先輩冒険者のヒエイなら持ってるだろうと思ったが―――組織とやらは、どうもケチらしい。
脅迫されて従った経緯から忠誠心を認められず、ヒエイの自由は少ない。
だが、それでも僕の装備よりはマシだ。
マナのウッドシリーズよりも数段上等な『アイアンシリーズ』。
パッと見、"無骨な傭兵"といった装いだ。
全身ゴテゴテした金属鎧だが、身体強化とフィールドを駆使すれば十二分に動けるだろう。
「あなた杖は使わないの?」
「―――魔剣が優秀だから」
ウィザードの杖は、魔法の増幅装置。しかし今は、魔剣以上の触媒になるものは見当たらない。
あの大技『天楼魔剣』も各種の魔法を最大まで強化したからこその威力だ。
ただ、そうだな……。
《エネルギーバースト》は無手で打ったことしかない。
魔剣を"杖扱い"にして打ち出すのもアリか……。
「準備は整った」
収納スキル《アイテムストレージ》を使ってせっせとマジックポーションやらのアイテムを入れて重い首を回す。
この部屋に来て、はや"10分弱"が経過してる。
ヒエイが強靭でしぶとかったからなのもあるが、僕自身そこまで動きが良くない……。時間の感覚が曖昧で気を抜けば意識を失いそうだ。
―――マナたちは無事だろうか……?
別の場所に来たからだろう。先ほどまでいた5Fの【マップ】を見てもパーティメンバーの足跡が同期されない。
僕のほうは、『歌姫のコンサートホール』と銘打たれた98%以上がブラックアウトしたマップ。
五人目のパーティメンバーでもあるヒエイのマップと同期して60%程度は埋まったが……。
最短経路で目的の人物の元に行き、交渉か殺害を実行するという算段。
いつもと違うテンションでどこまで走れるだろうか。
きっと、マナたちは無事だ。
HP・MPの増減からして、獅子島さんが奮闘しているのはわかる。
ただ、数は相手の方が上だ。
一人は獅子島さんが相手にしても二人空く。それに猟犬も三匹いる。さらに悪いことに、猟犬は炎理さん対策で火にめっぽう強いらしい。
それでもきっと、無事だ。
そうでなければ――すべてを壊してしまえ。




