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突っ走る火の申し子

おいおいおいまだ続くのかよ……。


『戦闘に勝利したわ!』



 ミカの声を聴き、ドロップを眺める。

 ドロップした武器が二つもあった。幸先はいいが、僕とマナの損害は大きい。


 僕は魔法でなんとでもなるが、マナのウッドシリーズは半壊、装備効果も上手く機能していない。


「ノゾミちゃん、予備を出してもらえる」

「あ、ああッ、ほれ」


 森の番人の胴体は、都市化するように"鉄の鎧"に変更。《木精霊の守り》はなくなるが、《火脆弱》は思ったより致命的に思えた。

 寡黙なマナがいそいそと着替えて話しかけるなオーラを出す。ちょっとふざけすぎたかな……? 


「…………」

「…………」


 炎理さんと目を合わせる。


「マナ機嫌直してよ」

「ん、別に怒ってないよ?」

「ヒグレ、すまん」

「だーかーらー、なんでもないって」


 そうは言うけど……。


 わだかまりがあるはずだ。戦闘中ふざけるのはアウトだろう。


 今回、僕はそれほど悪いつもりはないけど、ゴーレム団子もちゃんと自分の仕事はしたあとだしさ。途中まではよかったんだよ、途中までは。


「マナ……説教しないの?」

「――してほしいの」

「ンー。まぁ、正直言うと……」


 漠然と失敗だったな、と感じてるだけで、具体的になにが悪いかよくわからないし。


「ハァ……じゃあ聞くけど。あの"炎の渦"はなんだったの? "エンギ"絵巻ってノゾミちゃんは役者だったの? 警戒してた通り、やっぱり『サークルクラッシャー』じゃん! ――"逆ハー系乙女ゲー主人公"のテンプレみたいな人だと思ってたけど、身近にいると結構キツイ。人間関係ぐちゃぐちゃにして、好き放題荒らしたら去っていくんでしょ?」

「お、オレそんなんじゃ……」


 ミカと同じようなこと言ってるね。そして僕は、あんまり悪くなさそうで安心だ。


「じゃあエイくんから離れようね〜。ノゾミちゃんホント良くないと思うよ。パーティに色恋持ち出すなんて論外だよ」


 手元を操作しながらマナが顔を上げる。


「冒険者の才能ないよ。……エイくんもね? …………ただ、そんなことがどうでも良くなるくらい、"規格外の強さ"があるというだけで……。私、今すっごく惨めな気分だよ」


 しょげたマナに僕らは、何も言えなかった。




 そんなことはあったものの、なにはともあれ、初戦闘は勝利だ。


 伝え聞く、5F『試練の迷宮』は、多種多様なモンスターが致命的な特性やスキルを使ってくる。


 学園の冊子でも、主要なノーマルモンスターの見た目と要注意事項をピックアップされていた。


 そのフロアを安定して探索できる目安。適正レベルは『10』。

 そのため、いつでも撤退できる位置で戦闘を始めるか、前の階で実力を高めるかに分かれる。

 一般的には、1〜4Fのボス攻略を目標にして周辺のモンスターを倒し基礎的な実力を高める『地固め』をやる。

 僕らも比較的安全な場所でレベリングと行こうじゃないか。


___________________________________________

[近くのパーティに救援を要請されました]

___________________________________________



「ラクミヤ」


 そんなとき、炎理さんがイキイキとしだす。


 パーティメンバーはリアルタイムで僕が反映する【マップ】を見ている。

 救援要請してきたパーティは最初の分岐でスルーしたやつだ。

 案の定、壊滅してる。問題なのは僕らのいる方向に逃げてきたことだろう。


「マークの大きさに間違いはないよ」


 魔法で判明する"魔力量"は健康状態とほぼ一致する。

 マップでは、弱々しいほどにマークが小さく表示されるのだ。


「逃走中のパーティは半壊。敵の数は三匹だけど隠密能力を持ったモンスターがいるかもしれない」

「よしっ!」


 すると前のめりになった炎理さん。片手で拳を包み気合いを入れる。


「さっさと助けに行こうぜ! 手遅れになったらコトだ」

「……どうする、マナ」

「エイくんは、どうしたいの」


 パッチリと見開かれた瞳と交差する。


 僕は正直、スルーしたい。

 ただでさえ、未知の場所で危険なのに、そこに対人トラブルまで背負い込みたくはないからだ。というかさっきまでしおらしかった炎理さんのテンションの方が気になる。


 僕の探知魔法は、《魔力感知》さえあれば気づける類いのもので、勘のいいモンスターなら僕の魔力をたどってこれるだろう。


 使い方によっては『撒き餌』にもなり、階段付近の通路でレベリングをしようかと考えていた。


「て、言ってる場合かっ! オレだけでも先に行くぞっ!」

「おい」

「ちょっと! ノゾミちゃんっ!!」


 もたもたした僕らに、とうとう痺れを切らした炎理さんは走り出す。


 大雑把に判明した罠も別のマークで注意してるとはいえ完璧じゃない。彼女なら大部分の罠を燃やして進めるかもしれないが……。


『ウーム。エンリノゾミには精神的な問題があるようね。誰かに必要とされたい。愛されたい欲求が強すぎるのかしら』


 そういう人生だったように思える……同情心が湧いてくるのを感じた。……あっ! 絵巻ちゃんと効いてるじゃん!


「行こう」

「もうっ!! 勘弁してよね……!」



 【マップ】で迷いなく先を進む彼女は、どうしてそれほど必死になるのか不明だが、別の分岐路から現れたモンスターに背後をとられる心配すらせずに突っ走る。


 やはりというか、作動した罠の飛び出す鉄槍を液状化させて、あたりを明るく照らし、炎が走った。


 ソレは全身が火だるまの"焼けたヒト"ではない。炎そのものがヒトの形をしたという表現が近い。パーティメンバーの合意もなく軽はずみに駆け出した火の申し子が、目指す先はもうすぐだ。



「はぁ、はぁっ、だれかっ……」

「いだぃイイイ!!!」

「やめろ……やめてくれっ」


 しばらくすると複数の悲鳴が聞こえてきた。ここまで接敵はなかったが前方から息も絶え絶えな男が縋りついてくる。


「ギュフッ、グフフっ」

「アッハハッ!」


 その後ろでは、嘲笑い、獲物をいたぶる愉悦に満ちたモンスターが影絵となって現れた。


「助けてくれーー! 報酬は払う、仲間の元にっ! あ、あっちにいるんだ! ……まだ息があった」


 おそらく、この男を含めて仲間は"四人"だろう。

 

 状況の把握をする。


 一人は………遠くで死亡した。動かぬモノと化した"元生物"は灰色マークで点滅中。じきに【マップ】に映らなくなるはずだ……。


 そして、もう二人はすぐそこで捕まっている。

 様子からして、男はあえて生かされた感じだろうか。


 追い詰めた獲物を利用して、さらに獲物を釣り出す。


 知能が高い。なだらかな曲線を描く通路の向こう側で、なんとか目視したモンスターは、愉快そうに瀕死の人間をもてあそぶ。


「《鑑定》」


 目に魔力を集中させて、モンスターの実像をハッキリと認識する。


 探知魔法や《魔力感知》ではスキルの条件を満たせず、あくまで目視する必要がある。


___________________________________________

『オーク Lv.8』

【HP】 418/432

【MP】  60/60

___________________________________________


___________________________________________

『おやぶんコボルト Lv.13』

【HP】 529/529

【MP】 140/140

___________________________________________


___________________________________________

『みならいサキュバス Lv.9』

【HP】 149/149

【MP】 270/270

___________________________________________




「手強そう……」

「"おやぶん"って……上位種!?」


 可愛らしい名前だが見た目は全然だ。さらに悪いことに、凶悪な犬ヅラのモンスターはダンジョン産の"金属鎧"を身につけている。レベルも一番高い。


 勝利を重ねたモンスターは、武装や実力が増していくから厄介なのだ。だから弱い冒険者の無謀な挑戦は、エサにしかならず"利敵行為"とすら言われることもある。


「……エイくんどうするの。………一緒に逃げる?」


 僕にしか聞こえないようにこっそりと伝えてくる。それもいいが。ここまで来たなら背中を見せる方が怖い。


「戦おう」


 僕の判断は――少しだけ、正しかった。


『ラクミヤ、ちょっと待って!』


 ミカの声を無視して、武器を引き抜く。


 下卑た嘲笑を浮かべ、動かなくなった冒険者を掲げる巨漢の豚ヅラ。

 百キロ越えの重量は力士にも通ずる、フィジカルで勝ち目はないだろう。


 僕の合図に、マナも本腰を入れる。

 いつでも盾と大剣で対処できるはずだ。


 僕はその背後にぴたりとくっついて《オーラフィールド》を発動し、初動に致命的な隙を生むプレッシャースキルから保護する。


 オークのプレッシャースキル《雄たけび》が空間を伝播して、敵対者の抵抗の意思を削ぐ。


「…………」


 これによって、助けを求めた男が倒れ伏す。

 しかし、そのあと彼を庇うように立ち塞がった"紅蓮の少女"が荒々しく激情を放出し、熱風をお見舞いすると―――


「!!?」


 この思わぬ反撃にモンスターたちは警戒するが、最前衛のオークなどは手負いの冒険者を"傘"にして、ことなきを得たようだ。


「チッ、ああ、胸糞悪りぃ……おまえら卑怯な戦いしかできないのかよっ!! この雑魚モンスターがッ!!」


 図らずとも人を殺傷してしまった炎理さんは動揺して身を縮こまらせると、そのあとで両手を強く握り締め、平静を保つべく奮起した。


 間違いだったのは――"夢魔サキュバス"に対しての理解だった。


「フンっ」


 高慢そうに顎をしゃくり上げてトコトコ。モデル歩きをするちびっ子悪魔『みならいサキュバス』は、"桃色の霧"を操って熱風を打ち消したあと、手のひらをこちらに差し向ける。


「―――来るっ!」


 サキュバスは男を一瞬で虜にする《チャーム》や《石化の魔眼》など恐ろしい技を使うそうだ。

 とくに、この場において、もっとも危険なのは"僕自身"と言える。警戒し、異物の侵入に細心の注意を払っているときだった。


 ―――サキュバスの狙いは、万全の僕ら二人でも、燃え盛る攻撃的な女でもなく……。


「……炎理さんっ!!」


 先ほどまで倒れていた男が突然、ムクリと立ち上がった。

 不自然な挙動、一瞬だけ見えた表情は、とても正常ではなかった。


「…………………はっ?」


 横目になって、僕の意図を探ろうとした炎理さんがゆったりと視線を下げていき、それから―――呆然とした。


 自分の腹に、"剣が生えていた"からだ。


「ァッ……なんで………オレが……っっ! ううぅ……なんでだよっ……なんで……なんでなんでっ……」


 ついに限界に達したのだろうか。膝をついた彼女は、助けようとした人に刺されるという衝撃的なできごとに放心してしまう。


 現実の否認と、戦闘意欲の低下。それに呼応するように火勢が弱まる。その隙を待っていたとばかりにモンスターが急速接近した。


「グエッへっへ……」


 狙いは、無防備な彼女だろう。

 敵への注意を怠り、完全に自分の世界に入っているからだ。


「……なぁ、ラクミヤ。―――オレが間違ってたのか?」


 焼き切れた刀身が虚しく床を滑る。


 ホワイトソードより何段か上等な剣だったのだろう、融解しながらも彼女の鎧を、そして、肉を刺し貫いたのだ。


 HPは一割も減ってないが……。

 現在は傷跡が蒸発するようにして止血中か。ジュウジュウ、と香ばしい音がする。


「オレは……こいつを見捨てるべきだったのか? いったいなんのために無茶をしたと思ってやがる……? ぜんぶ、おまえたちを助けるためだろ……バカなのかよっ」


 涙を流して、独り言を吐き捨てる彼女に僕はこう返した。


「バカはお前だよ、炎理さん」


 炭化して黒焦げになった男が正気なはずもない。

 すでにサキュバスの《チャーム》にかかっていたのだ。

 モンスターにばかり意識が向いていて、彼のことは五体満足なのを確認して終わりだった。


 スキル《鑑定》は、そういったバッドステータスも教えてくれるというのに。これは、みんなのミスだ。


『わっ私が言おうとして……』


 ともかくとして。


 僕は、マナを追い抜くと全速力でジャンプした。

 腑抜けた炎理さんに代わって、振り下ろされる武器を受けねばならないからだ。


「スラ―――」


 周囲の音が、すべて消える。


 ―――ゆっくりと落ちる鉄の棍棒。


 特有の金属光沢を放ち、うずくまる真紅の髪に、一直線のコースで落ちる軌道だ。


 まもなく、淡い輝きを纏った魔剣と交錯する。


 ―――キィインッ


 無骨で、おおざっぱな鉄塊の真横から打ちつける瞬間、赤黒いブレードが先端からめり込む様子がハッキリと見えた。


「―――ッシュ!」


 極度の集中によって停滞した時間が元に戻る。瞬間、轟音と衝撃が通路を揺らした。


「ブゴホォッ!?」


 オークの棍棒はわずかに軌跡が逸れて、しなびた彼女の髪を揺らすに留まり、丈夫な地面を強く打ちつけたのだ。


 いくらか床が欠け落ち、きめ細かな煙が舞った。


 驚愕に目を見開くオークは、一度だけ手元を凝視して異変に気づくと、すぐさま血走って恐ろしいその視線で射抜いてくる。


「うっお……!」


 それでも僕の体は、勢い止まらず、宙に浮かび上がった。

 空気を蹴って移動してきた弊害がここにきて現れる。とっさのことで、どっしりと構える余裕はなかったのだ。


「『ブレード変形』」


 食い込んでハマった魔剣を回収しながら、僕は敵陣に流される。


 棒高跳びみたいになっちゃったので、上半身を制御して、どうにか体勢を整えようと奮闘する。


 《オーラフィールド》の中だと、重力に逆らって身を持ち上げることすら可能だ。滞空して無防備になった僕に、さっそく反応したオークの魔の手が伸びる。


 このままだと危ない。

 本能的な対応だと分かる速さ。つかみかかる"豚野郎"。


 僕は苛立った、けれど同時に高揚もした。


 こいつら、全員だ。

 本当に強いッ!



「エイくんっっ!!」


 分かってるさ。

 みならいサキュバスもおやぶんコボルトも。孤立した僕を狙い打ちにするだろう。


 仕方なく、変形途中の魔剣をオークにぶつけて、反動によってさらに浮かび上がった。もう少しで接触する天井を睨む。


 罠がないのはわかってる。


 ならば一時的な足場に使おうと思いつく。モアイアイ戦の動きは覚えてる。着地に集中した―――そのとき、黒光りする"強靭な爪"がオーラフィールドに侵入した。おやぶんコボルトの爪だ。


 ―――ッ! 速すぎるッ!!


 さっきまで床を蹴る体勢だったじゃないかっ。……もう、すぐそこかよ。あまりにも速い移動に認識が遅れたが、反射的に防御をこなす。


「くっ……!!」


 強靭でたくましい爪は、即時に展開したシールドに食い込むとほんのわずかな引っかかりを見せて、そのあと内側から破砕させた。


 攻撃はこれだけに終わらず、続けざまに逆の手がやってくる。


 凄まじく速い、破壊力のあるコンビネーションを前に二枚目のシールドはとうとう間に合わず、僕は、やむなく左腕を合わせた。


「ぐはっ……」


 血を撒き散らし、地上に真っ逆さまの僕を見て、マナは何を思っただろう。


「……エンリノゾミっ! さっさと立てぇーーっ!!」


 着地して、なんとか体勢を整える。

 左肩を白い壁にこすりつけて"血の線"を塗ったタイミングでそんな怒号が聞こえた。


「いつっ………つ、つよい、魔法、ぜんぜんダメじゃん」


 左手を血が伝う。


 しかし、ポタポタと音を立て、裂けた皮膚から染み出した血液の量は大したものではない。


 油断なく形を取り戻した魔剣を構える。横手に。負傷の程度を確かめていると……。突如として未知の魔法が侵入してきた。――方向からして、みならいサキュバスのものだと分かる。その射線上に置いたシールドが一瞬で石像と化して制御を失い、陶器を落としたようにあっさりと砕け散る。


 影響はそれだけにとどまらず、《オーラフィールド》内を侵食し始めた。

 だから僕は、異物の排除を強く意識してご退場を願う。


「『ブレイク』」


 そうすれば、開放感とともに有害な魔力がなくなった。

 場に満ちた魔力をかなり消費した。こうして何度も負荷をかけられれば、いつか処理能力を超えるときがくるかもしれない。


「ブゴォォッ」

「………」


 さらに、巨漢のオークが熱烈な抱擁/ハグを求めてくる。

 彼の背後に身を隠し、いつでも襲撃を仕掛けられる体勢の暗殺者然とした、おやぶんコボルトも……!


 しなやかな体で弾かれるように移動する能力。分かってはいたが、想像の数倍は速かった。


 身体強化ブーストと《オーラフィールド》のシナジーで高まった認識を上回る速度は、現状、一番の脅威となりうる。


「グルゥ……」


 だが、あちらも魔装を修復中の僕に対して、警戒して様子を見ている。


 どうやら爪の調子が悪いみたいだな? 一連の攻防を終えて、お互いの力量は見定められた。こいつらは確かに強いが勝てない相手ではない。


「エイくん戻って!! ノゾミちゃんも戦えるから!」

「………すまねぇ。こっから取り返す」


 すでに炎をまとった炎理さんが懐からハンドガンを抜き取る。

 これは彼女の荒ぶる火炎を精密に扱うための『特注武器』だ。どうやら負傷も回復したみたいだ。


「おらおらおらおらァッ!」


 側面から襲う銃弾の嵐。

 モンスターたちは僕ではなくそちらに身を向け、威嚇し始めた。


 連射されるは特別製の『魔弾』だ。コレは彼女自身がこめた『エレメント弾』で、ヒットすればその箇所から燃焼が広がる。


「『火炎弾ッ……乱れ撃ち』!!」


 弾切れの心配がない魔弾の乱射を、すべて回避するのは難しく、あたりに炎の花が咲き乱れる。


 遠慮のない攻勢は、最前線にいた僕にも当たるが、体に触れるころには"残り火"となってほんのり熱するのみ。

 錯乱したときの熱量が異常だっただけで、普通は味方の攻撃でダメージは受けにくい。


 僕の手傷は、切り裂かれた左腕のみで、すでに止血も終わっている。


 剣持つ僕と、側面からの射撃。

 挟み撃ちの構図だ。


「ブモォオオオオッッッ」


 それを嫌ってか、身体中を燃やされながら僕に迫る丸太のごとき"二の腕"。

 

 生える強靭な指先。

 これを切り飛ばし、こちらもグリッターボールを乱発する。


 大重量のオークは地面に根を張ったように踏み止まり、背後に回る軌道で誘導したグリッターボールを、おやぶんコボルトが華麗に切り裂いた。


 残り一発分の行方は――


 みならいサキュバスは、したたかにのけぞって床に崩れる。

 それを見送って、僕は離脱に成功した。


「キャアァアァアア………!!」


 女の怒りの絶叫は、ヒステリーのようだった。

 三者との睨み合いが続く。


 射撃戦はこちらが有利。かと言って接近すれば、蜂の巣にされるだけと見て、相手方のジリジリとした焦燥を感じる。

 その動向に目を配りながら、死にかけの男を回復させる。


 上半身は丸焦げで虫の息。

 しかし、レベル6の格上だ。生命力は僕以上なのだ。


「……そんなやつ放っておけよ。……ポーションのムダだ」

「…………………え、助けるんじゃなかったの?」


 僕は少しだけ、引いた。

 そもそも、あんたが突っ走ったから起きた戦闘だぞ? まさか途中でどうでも良くなったか。


「………しょうがないだろ。裏切られるのも、燃やすのも、もうイヤだ」


 眉をひそめての片手撃ち。コレだけでも牽制になるし、何より低燃費の技だ。MP消費がほとんどないのは、彼女の漏れ出た魔力をもとに銃本体が弾丸を作成するから。


 一人でも5Fを渡り歩ける理由だ。相手が複数でも、近づけば焼き尽くす炎の守護ヒートサンクチュアリ

 MP切れの心配がない安定したダメージを与えられる"火炎弾"。

 さらに、スペルマジックで命中性能もアップした。


 こうやって挙げてみると、学園側が優遇して迎え入れるという特待生の重みが理解できるな。彼女の底に触れた身からしても納得だ。多少性格に難がある程度なら可愛いものなのだろう。



 たとえ、神隠しが起きるとしても――


もぉ〜!! ノゾミちゃんはなにがしたいの! 


 次回もダンジョンです! やはりダンジョンは人をおかしくさせるようだ……。


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