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大迷宮5F:試練の迷宮

行きます!


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[5F 試練の迷宮 ]

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『ギルドクエスト【星刻の大迷宮5Fに行こう】を達成した!』

『ギルドクエスト【試練の迷宮に挑もう】を達成した!』

『クエスト【はじめて環境効果を体感する】を達成した!』



 いつものごとく長い階段をのぼった先に広がるのは――発光する白壁に囲まれたお馴染みの空間だった。肩に乗るミカも珍しく神妙な顔をして、『いよいよね……』なんて言って喉を鳴らす。それを横目に僕も深呼吸をする。


「……すぅ〜は〜」


 階段を登ってすぐの場所で深呼吸。このルーティンは毎回恒例だ。すると、体全体に行き渡った栄養が僕の中でパチパチと気泡を弾けさせ、視界に映るすべてをキラキラと輝かせた!


 白道の模様、つなぎ目、発光の度合い。温かい抱擁と魔力の歓迎に、快楽の海に浸かるようにして立ち止まり―――しばし忘我した。


「ちと寒くなったか……?」

「こわい、ね……。胸のあたりがザワザワする。……初めて、ダンジョンに来たときみたい」

「―――て……えええっっ!? ラクミヤおまえっソレどういう顔だよ! だらしないニヤケヅラ!!」


 わっとと。………マナの怯えようからして……な、なるほど。………たしかに不吉でピリピリする空気だな。神妙な顔をつくる。


『―――環境効果《魔境》は、ここら一帯が高い魔力を有している証ね!! 出てくるモンスターがうんと強くなり! 環境が変化しやすいなどの効果があるけれど、注意するのは、"魔力酔い"や"萎縮"・"戦意の喪失"。……でもアンタはむしろ、実家に帰ったような安心感を得てるわね! ―――極めて高い魔力を持った人がダンジョンの奥から帰ってこなくなるのは有名よね?』


 あ、ああ。……"力に溺れた冒険者"の末路は、倫理観を失って犯罪者になるか―――急に音沙汰がなくなって行方不明になるかのどちらかのイメージだ。


『ラクミヤ、あんたはエンリと違って"精霊の加護"もない。だけど、本来ならあり得ない量の魔力を収めてしまえる体質よ……。それは巨人が窮屈そうに教室に入るようなもの。だから、ダンジョンの奥に行けば行くほどアンタは肩の力を抜ける。―――そこが"自分の居場所"だと錯覚してしまうのよ』


 まさかダンジョンの入場時間に制限があるのは……!?


『低レベルのうちから急激に魔力を取り込み続けたら……行き着く先は―――"魔人"よ? そうならないために、私たちガイドエンジェルは存在してるの!』


 と、自分の存在意義をことさら強調するミカに頷いて、さっそく探索を始める。


 ………しかし魔人か。


 "ヒトの持つステータス"を全て失っても、より強くなるという"敵対種族"の名だ。


 真っ黒な瞳をした、超怖そうな悪魔の見た目をした"元人間"が建物を薙ぎ払ったりする映像を見たことがある。


 あの、ドス黒い闇を操る魔人を、僕はそこまで嫌いにはなれなかった。なぜなら、純粋で磨き抜かれた闇の魔法は―――美しいとすら感じていたからだ。



「―――『ニョロニョロヘビ』」


 想像も楽しいが現実も負けてはいない。魔剣を引き抜いて放出した、僕の魔力に反響する白道の魔力は、以前よりどこか"ふてぶてしい"。そう簡単に従ってやるか! という反抗心を強く感じさせた。


 白い螺旋を描いて前方を網羅していく魔法『ニョロニョロヘビ』の感触に満足しつつ、仲間の様子を確かめる。


「もう〜っ!! エイくんっあいかわらず元気そーだ! 『ぼくもうおうち帰るー!!』って泣いて駄々こねていいんだよエイくん? ―――ね、そうしよっ?」

「……ん? 行かねーのか?」


 ここではないどこかを見て、うわずった声で話しかけるマナは少し気にしたほうがよさそうだ。表面上平気です、というアピールが少し剥がれ欠けてる感じ。……炎理さんは平常通りか。


「? ああ、そうだな……」


 気になったので質問をすると、環境効果《魔境》は"燃やしにくくなり肌寒い感覚が僅かにある"のだという。

 魔力の通しやすさ、効果の決定などで僕が感じる"硬さ"と近いものだろう。


「マナ。いったん引き返す?」

「…………エイくんは……」

「え、と……そうだな。………水晶広場に預けて……」

「―――大丈夫だよ! ほら! はやく先導してっ」

「…………うん」


 ざっと周辺を探った感じ、マナはレベルアップしてから挑戦するのが安全だ。【マップ】を見れば、一目瞭然だがモンスターグループの"密度と質"は桁違い。白道でもお構いなしのありさまだ。


 すぐそこの、最初の分岐を曲がった時点で確実に戦闘が発生する。ミカを電球代わりに動かして、壁や天井を舐めるように《トラップジャマー》を使っていくと……さっそく一個目の罠の解除を確認した。注意深く観察する。下でも散見した炎の槍だ。


 だが魔法の強度が違う。消費したMPが『15』を超えた時点で、すべての罠を解除するのを諦める。通り道の床だけを重点的に魔法陣で調べて壁や天井は後回し。最初の分岐にやってくる5、6メートルの間に追加で二つ解除した上に、天井からの落石を結界で防ぐことになった。


「―――思ったよりMPが足りんかも……。最初の戦闘はどっちにする?」


 大した移動でもないのに数十単位で魔力がなくなる……。

 今日は本当に"一当て"するだけになりそうだ。【マップ】を片手にマナが言った。


「右の道はトラブルっぽいから左かな」

「いや、そこは右だろ!? 助けを求めてるかもしれねー」

「『救援要請』はないみたいだよ? 後々もめるのも嫌だし、僕も左かな」


 そう断言して姿勢もそちらに向ける。……幸いにも、炎理さんはこの"多数決"を受け入れるようでとくに食ってかかるということはなかった。……意見のぶつかり合いとかは見ていてヒヤヒヤするんでよかったよ……。


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[モンスターが現れた!]

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 最初の敵だ。武器や魔導書を構える。


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『まどうゴーレム Lv.10』

【HP】 650/650

【MP】  70/70

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『ゴーレム Lv.8』

【HP】 310/310

【MP】  30/30

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『レッドゴブリン Lv.9』

【HP】 230/230

【MP】 180/180

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 まだ遠目に現れた"白金の巨人"が駆動音を響かせる。シャープなボディを持つ"人造ゴーレム"の存在を、僕は凝視して穴が開くほど見つめた。その隣に立つ"岩石の巨人"と比べて洗練された躯体だとわかる。まるでボディの強度が違うのだ。


 とくに"風・水属性に弱い"ゴーレムとは異なり、この『まどうゴーレム』にそのような弱点はない。物理と魔法と、状態異常にも強い。

 グループに一体含まれるだけで勝利のハードルが倍増し、なにより必ず仲間をかばって先に死ぬ性質から―――『騎士/ナイト』の異名で"罵られる"モンスターだ。


「うおっ! カッケェ! ―――《ヒートサンクチュアリ》」

「《オーラフィールド》」

「―――『木精霊』よ!」


 炎理さんが『まどうゴーレム』に興奮する中、僕の背後でクモの足みたく折り畳まれた"魔力の矢"がオーラフィールドの強化を受けて解き放たれる―――ガンガンと盾を叩いて注意を惹きつけるべく突貫したマナには悪いが僕が初手はもらった!


「『クモの抱擁』」


 左右から六脚ずつ、合計"十二本の強化アロー"が飛んだ。


「!」


 白金のゴーレムはとっさに膝をついて伸縮する両腕を交差させる。――防御姿勢だ。スキル《インターセプト》が発動される。


 僕の放った12本の矢はそれぞれバラして当てたはず! なのに、HPが減少したのは―――真ん中で不動するまどうゴーレムのみだ。


「―――すごッ! ……早いね〜! 確実に当たったよ? 攻撃を全部吸われてる…? ―――モーションより先に効果発生してるな……」


 しかしキッチリと役目を果たした騎士/ナイトは、重厚な機械音を鳴らし石像のように固まって動かなくなった。


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『まどうゴーレム Lv.10』

【HP】   "1"/650

【MP】   53/70

【状態】   《"瀕死"》

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 "1発50ダメージの矢"をご丁寧に、自分から吸い取ってくれたので、一瞬にしてHPが溶けたのだ! 外見は大して変わってない。淡い光がなくなり装甲のデザインに刻まれた明るい蛍光色も暗くなった程度。重要なのは、中身のコアだ。


「あーっ! ワンパンだっ! コイツやりやがった!」

「ふっふ〜ん! 僕のが速かったね〜」

「……うそっ! まどうゴーレムの耐久力は……第一環境トップクラスなんじゃ……」


 ビックリした身代わりスキル―――《インターセプト》で、味方の被弾を肩代わりすると本人が直接ダメージを受けるらしい。


 その頑丈な外殻でカバーできない範囲は、純粋に"スキル効果"だけで肩代わりするのだ。その際、グループで最も頑丈な自分の被ダメージに置き換えられるとはいえ(ミカ談)、僕の"自称"中級魔法『クモの抱擁』に投じたMPはなんと『73』ポイントだ。――大ダメージじゃないと困る!


『――ラクミヤっ! "食いしばりスキル"が発動してるわよ?』


 ミカの忠告通り、まどうゴーレムはまだ死んでない。HP:1で"食いしばった"のだ。そこにトドメを刺すのはマナの振りかぶった大剣の切っ先だろうか。頭上で、キラリと光った。


 ―――が、そうはさせじと、"赤い影"が迫る。


「!!」

「―――なにッ!?」


 Dランク"赤鬼"こと『レッドゴブリン』が嚇怒の拳を振るったのだ。凄まじい速さの拳撃がマナの"樹木"を薙ぎ倒すように激突して――ミシミシと嫌な音を立てる。しかし、拮抗はほんのわずかなことだった。踏ん張っていたマナごと吹き飛ばされたのだ。


「あヂィっ……!? ……ぎゃぁぅッ!!」

『《エンジェルヒール》!』


 焼け焦げた匂いが漂う。

 『ウッドシリーズ』の"致命的弱点"だ。立派な一本角を持つレッドゴブリンの拳は、赤々と燃え盛る。そのまま、次手を見定めたゴブリンの元に―――今度は"熱塊"が落ちた。


「まかせろォオ!! ―――猛火ァ、蹂躙、劇ィィ!!!」


 巨大な"火の滝"が通路に落ちた。――好反応で逃げ出したレッドゴブリンの半身を即座に蒸発させて、残りは炎の蛇がパクついた。


 彼女の執着が、決して手放しはしないだろう。


「ァァア………」


 地獄の亡者然となったゴブリンが――炭化しながら虚空を求めて手を伸ばす。


「ぎぃやぁァああッッッ」


 しかし最後の最後まで、なんの抵抗も許されはしなかった。技名にふさわしい"蹂躙ぶり"。同属性の使い手だからこそ、ハッキリと優劣が見える。


「………」


 残酷な光景だ……と心を痛め、立ち尽くした岩のゴーレムに優しく左手を当てる。豪腕を誇るゴーレムが僕の《オーラフィールド》に入った途端"ブリキの人形"に早替わりする。

 手のひらが触れたときには完全に接着されてその場から動けない。―――進むことも、退くこともできない。


「さ、今度は上手くやろう」


 やる気に満ちた僕は、飛び上がって巨岩の腕に乗りつつ"圧縮"を始める。《オーラフィールド》の圧を最大にしてプレス機の役割を与えるのだ! 徐々に縮小されるゴレームにきゃっきゃと笑う。



「………っ、ふぅ……。マナはどうなるか……」


 ふと周りの目が気になった。冷静になろう。


 あのモアイアイを彷彿とさせる、急速な回復力でHPが徐々に復旧していくまどうゴーレム。しかし魔石がやられてるので、修復は遅々として進まないらしい。鬼気迫る顔で無心のコンボを重ねるマナとの非常に苦しく粘るような戦いが続く。


 ―――キュインッ


 まどうゴーレムは防御スキルで時間を稼ぎつつ合間に"レーザー"を放った。―――ボォっと焚き上がる樹木。……あれやっぱ、厳しいよ。


 エイポンの回復を上回るダメージが蓄積してる。状態異常《火傷》じゃないだけマシか。


「やっぱし弱点が痛ぇな。自爆前に止めるんだろ?」

「ん、いや……ミカ」


 なんと言ったらいいか困って、ミカに丸投げする。


『まどうゴーレムの場合、食いしばりスキルを使ったあとでの自爆はないわ! "チョコチョコ削り"をしたあと、まだ無事なコアを引き換えにして発動するのが自爆スキルだから、トリガーを満たせない』


「あー、なる。またぞろ爆発させる気なのかと思ってた」

「僕をなんだと思ってるのかな……」

「誰だってソレ見たら正気を疑うだろ。"呪いの品"かな?」


 二個目のゴーレム団子は自信作だ。ギチギチに詰め込んだ黒団子には、やはり呪いのように顔が張りついて何かを訴えかけてくる。今度は壊れないように細心の注意を払った。


 もしもゴーレムが"自ら壊れたいと願っても"何も起きないはずだ。しかしゴーレムの想念か呪詛かは知らないが打ち消すのに魔力が常時必要らしい。このゴーレム団子と中身の魔核コアは不可分の関係にある。


 彼が願う限り、こうやって何度でも、意思を持って自壊を目論むのだ。


「……………」


 すると、手に持った団子がなんだかとても"不愉快"に思えた。僕は急にどうでも良くなり団子を地面に投げつけた。


 ―――パキィン


 繊細な音がして、どろどろの土くれが地面に溶ける。消えていく。

 それは少しでも早く僕の元から逃れたいというメッセージにも見えて――思わず舌打ちを吐きたくなった。……しかしすぐ隣で観察する炎理さんの目もある。これをグッと我慢した。


「―――結局、壊すんかい! おまえの中で何があったんだよっ情緒不安定か! ニコニコ〜笑ってからフンッて……おまえフンッておまえ」

「うるさい」


 僕の仕草を大げさに真似されてイラッとしたのだが思わず口に出る。……やばっ! マズった! 


「……あっ、ほらっ見てみてよ、分解スピードおかしくない? まだ戦闘中なのにさっ!」


 小さな失態を隠すべく矢継ぎ早に話しかける。怖くて炎理さんの顔は見れない。――早く、なんでもないと教えてほしい。


「………うるさい?」


 だが期待した反応は返ってこなかった……。


 ――冒険者のパーティもモンスターグループもっ! 味方が全員死ぬまでは蘇生スキルなどの"待機扱い"でしばらく死体は残るのだ!!


 冒険者がパーティを組むメリットの一つで、これがソロだと死んだ途端に死体の回収が始まる。なのに、あのゴーレムときたら我先にと逃げたんだ! ……しかも"ダンジョン"がそれを許すというのも驚きだ。まだ戦えるかもしれないモンスターを怖かったねーって逃すのか? クソがッ……。


「……………なぁ? うるさいとか言うなよ。………なぁラクミヤぁ。……なぁ、うるさいってなんだよ。―――なぁ?」


 胸中荒ぶって地面を見つめていると、さっきから隣がしつこい。――粘っこい。僕自身謎にぐるぐるとネガティブな感情が渦巻いているので、そっとしておいてほしいというか――



「―――なぁラクミヤ? ―――――なんでオレを"一人"にしたんだ?」



 ……やたら近づいて、僕を熱してくるな……。今は一人で考え事をしたいアピールは伝わってるはずだと思うのだけど……いや……そんなレベルじゃないなっ……!!


「―――あっつ……!! なにやってんの!」


 とっさに超反応で地面に肩から落ちて距離をとる。――垂らした左手を見た。


「……ぐぅッ」


 焼け爛れてデロデロだ。革防具クロースアーマーごと燃えて"ボロ雑巾"と化したのだ。この戦闘で"一番の被ダメージ"。


 魔法の中和も間に合わなかった。………このひとアタマおかしいんじゃないか?


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[エンリノゾミが《大精霊の恩寵》を使った! 荒ぶる妄執が"贄"を捕らえて離さない!]

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 不穏な【ログ】が視界に入る。


 こんな文言は初めて見た。戦闘中は『《火属性魔法》を使った!』とか表示される。


 初見なスキルの使い方……炎理さん―――まどうゴーレムはあっちにいるが………?

チッ。


 5Fは"試練"というだけあって難関なんだがなぁ! こいつらチートすぎる……。こんな低レベルで呑気におしゃべりしながら初戦闘が成り立つわきゃねぇんだよ!  あまつさえメンヘラ発動して仲間割れかよオイふざけんなよダンジョン舐めんじゃねえぞオラァ! もっと苦戦しろやぁ! 初めてココに来たパーティは一戦して血だらけになりながら、泣き言吐いて撤退するのが普通なんだよ! それを見せてくれよぉ〜! 頼むからよぉ〜〜!!


 

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