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トラップジャマー

続きます。


 そんな苛立ちをぶつけるわけじゃないが、さらに高頻度の罠を踏み抜いて、破壊して進む。


 即死級の罠は少なく僕が対象ならほぼノーダメージで凌げる。厄介なのは二人狙いの罠で、どうしても防げない損傷が出てしまう。それでも、パーティを分断する罠に当たらないだけマシだろう。

 エイポンの回復や《自然治癒》、《大精霊の恩寵》で体力を引き換えにして進めるのだから。




「今回のはまた一段と派手だったな」


 ぽっかり空いた穴に吸い込まれていく大量の水を眺める。


 別のパーティが引いた罠の"洪水"が各通路に流れ出して僕らの元までやってきたのだ。僕らは水浸しになった通路の高みから見下ろす。


 もちろんモンスターも一緒に流れるのでしっちゃかめっちゃか。積極的に関わるつもりもないが"誘導気弾"を大雑把に当てといた。大漁大漁とはしゃぐ他のパーティにトドメは差してもらおう。


 このように、たいへん楽しい探索となったが5Fの階段から一番近い水晶広場まであと少しという距離までやってきた。合計1キロ以上は歩いたかな。


「これが最後の戦闘だね」


 暗がりから現れた三匹は、連携して襲いかかる。


 僕は身体強化にものを言わせて狼人間『コボルト』を魔剣で叩き割った。次に大火球がゴブリンを丸焦げにして、残ったDランク『ゴブリンファイター』を三人で囲んでめった打ちにする。


「『チェーンバインド』」

「『炎縛』」


 飛び出た鎖。炎の蛇が、足元から絡みつく。筋肉質なゴブリンファイターは強引に引きちぎろうと地面を転げる。


「フシュッ、フシュッ!」


 凄まじいスピードで変則的に動いた。だがそこに大量の触手が殺到してぐるぐる巻きにすると"光るミイラ"が磔にされるみたいになった。突き出された拳から放たれた圧。炎理さんが弾かれる。


「うべゃッ」

「はいやぁあっっっ」


 壮絶な顔で威嚇したゴブリンファイターの脳天に大剣が落ちた。少し狙いはズレて鎖骨を叩き折り、この世ならざる絶叫がする。


「ん〜ッ!!」


 食い込んだ大剣を引き抜けないでワタワタしてるマナのその頭上から僕が現れて片手で倒立をやる。土台となったゴブリンファイターの頭部は、強引に捻じられてぶちぶちイヤな音を鳴らすとクルクル回転して、鬼の頭がすっぽ抜ける。


 ブシャーッと間欠泉が噴き上がった。……あっ虹が見えた!


「ほぉ〜! キレイだなぁ〜強かったぁ!」


 ゴブリンファイターのハチマキがはらりと落ちる。地面に落下したクビはその後飛び上がり獲物を探すがどこにも行かせない。


 木っ端微塵に弾け飛ぶ。四方から浴びせられた気弾が容赦なく破壊したからだ。


「ハヒハヒハヒハヒ」


 断頭台のギロチンみたく噛み締められたゴブリンファイターのアゴだけが地面を跳ねる。遅れて、磔にされた胴体が崩れ落ちた。


「―――にゅびょおぉおおん!!?」


 その頑丈な躯体は、上下左右から密着した全方位の気弾にボロボロにされて、内部で骨格が砕け臓物が染み出した。


「じ、尋常じゃない倒し方!? なんかちょっと相手が可哀想に見えるけどッ、そこまでしないとダメだったんだね!?」

「ぅ、うぅ……いてぇ、鼻血がとまらん」

「まぁね」


 スキル《ヒートサンクチュアリ》を貫通したゴブリンファイターの拳打ゴブパンチを受けて鼻血を噴き出し倒れた炎理さん。


「き、気にすんなっ……」


 なんとか立ち上がったがプルプルと膝は笑ってる。


「健闘されると怖いから。ふざけた名前だけど《ゴブパンチ》もカバーできなかったし……」


 相手の強さは使用した魔力量からも明らかだ。

 効率の上がり続ける《魔力操作》をもってして50以上のMPを持っていかれた。Dランクはさすがにモアイアイと同格なだけある。


「一瞬で決まったけど………あの強さのモンスターが5Fでは普通かぁ〜。……ノゾミちゃんってホントに5Fまで行けたの?」

「…………う、ウソじゃないぞ!? いけたッ! 今みたいになっても、火力を増やせば勝手に死んでたからっ」

「だいぶ無茶してるねぇ……。そんなの真っ当な攻略法じゃないよ」

「ああ……。だから今はありがたい……」

「真っ当じゃないと言えば、罠対策もゴリ押し気味だよね。……僕はいいけど、そろそろ誰か死にそう……」


 きっと5Fの罠は無理だろう。対策スキルの自力習得もできそうだが今日中には厳しい。


「魔力で作動する罠以外も増えたもんね。一回、エイくんの魔法の鎧に弓矢当たって欠けちゃったのヒヤッとしたなぁ」

「ありゃあ魔力阻害効果のある矢だったな〜。毒液にかすらなくてよかったわ。状態異常だけはホント怖いからな」


 戦闘中と探索でずっと同じ水準の警戒をするわけにはいかない。移動中もオーラフィールドを張り続けるのって神経使うんだ。

 炎理さんのスキルも大抵の罠は燃やせるけど無敵ではないのはわかったことだ。


 僕らのパーティは潤沢なリソースをジャブジャブ注いで無理くり進んでいる感がずっと身を浸していた。


 しかし、なにはともあれ。水晶広場までやってこれた。


「とうちゃぁーーーくッ!!」

「だぁ〜つかれたぁ〜! なんか食いてぇ」


 激しく感情を露わにする二人の少女を見て広場の門番を務める人が微笑ましく笑う。二重の鉄柵を抜けて足元がレンガに切り替わると一気に安心してくる。


「…………」


 後ろを振り返り、広場の安全を確かめる。


 緊急時は鉄柵を閉めてバリケードでも作るのか通路や街の入り口にはいくつも溝や小さな穴があった。レンガの隙間から雑草が生える。外から持ち込んだ種子などはダンジョンが分解するが、ここは例外だ。人が自由に手を加えられる。


 水晶広場の街は、"人類の領域"なのだ。




『じゃあ探索レポートを出すわね』


 足早にギルドショップのフードコートに立ち寄った僕らに、現れたミカが言う。


『フン。華を持たせてやるポン』

『わっちも大人だメラ。問題なかったらそれを共有するメラ』


 ムキィ〜という言葉が聞こえてきそうな表情のミカがくるくると天輪を回す。



___________________________________________

 4Fの探索結果

 滞在時間 25分

 戦闘:3回

 休憩:1回

 罠:20回

 宝箱:0個

 採取:0回

 イベント:0回

 重症:0回

 死亡:0回

 逃走:0回

 全滅:0回

 主な討伐モンスター:ゴブリンファイター、スピノマン、ゴーレム、さまようぼうれいなど

 探索評価:B

 トレジャー総額:5500G

 〈素材〉

 小鬼の堅皮(1200G)、小鬼の魔石(600G)、恐竜のツメ(400G)ほか(2300G)合計4500G

 〈装備〉

 ウッドハンマー(300G)、ウッドロッド(250G)合計550G

___________________________________________



「まぁ、こんなものか……r

「大きな当たりはないけれど順調に効率は上がってるよ」

「そーだけどよ。一発デカいのが来たあとなんで、少なく見える……。宝箱はもっと奥に行かんとダメだろうし」

「なんにせよ罠だよね。回数は3Fとあんまり変わらないけど質が違う。どうやって対策するか……」


 『斥候役レンジャー』がパーティに必須な理由がよくわかった。

 同レベルのビギナーが何度も死んでるところを僕らは無理やり踏み抜いて進むことができたが、罠の大半を捌いた経験からしても、5Fの罠は作動するだけでも危険だろう。


「出費は気にしなくていいよ。私も出すから」

「もちろんあたしも。今さら現地の斥候役レンジャーを雇うのもな。ラクミヤがやってくれた方が信頼できる」

「……………いや、僕、斥候役レンジャー志望じゃない……けど」


 テーブルに置いた『誰でもできる斥候入門』の冊子をペラペラめくる。


 ギルドの公式マスコット『ゴーゴーギルドちゃん』という"看板エンジェル"の解説付きのやつだ。


『星刻の大迷宮1〜5Fの遺跡タイプに出現するダンジョントラップは、"機構トラップ"、"魔法トラップ"、"地形トラップ"、あるいはその複合が見られる』


 あるいはその複合、ねぇ。メガネをつけて教鞭をとるミカタイプの天使に懐疑的になる。


 『機構トラップ』は、物理的に構造が変化するもの。銃座や槍衾、大玉などが飛び出したり落とし穴が発生する罠。遺跡タイプに多い。


 『魔法トラップ』は、魔法陣から攻撃魔法やモンスターが出現する罠。僕とは相性がいいが根本的に発生を防げない。これも遺跡タイプに多い。


 『地形トラップ』は、ダンジョンごとの環境が強いるもの。どのダンジョンでも見られる。森では植物、水場では水流、洞穴では地盤がぬかるんだり崩落するなど冒険者に特異的に働く。あとモンスターが出てくる。


 ほかにも作動条件や殺傷性で分類する方式もある。

 冊子にも階層ごとの『要注意トラップ』が一覧されている。モンスターと同じく罠それぞれにも個別の名称があるのだ。


『ダンジョントラップは個人やパーティを対象として発生するので、なるべくパーティを組んで行動しましょう』


 ソロで六人集まるのとパーティを組んで集まるのでは"罠の発生率"が違う。統計的に、三人以上ならパーティにまとめた方が安全だと言われている。パーティは専用の連絡手段や"全滅判定の回避"などのメリットも多く基本的に推奨される。


『では斥候は何をすればいいのか。パーティの滞在・進行ごとに上昇するトラップの発生率をどうやって下げるのか。⇒便利な道具については4pを見てみよう。また、トラップが作動してしまったらどう対処するのか。⇒トラップの解除については12pを見てみよう』


 『4p』にはアイテムの紹介。

 『12p』には技能習得の合宿訓練やスキルキューブの紹介が並ぶ。


「…………」


 苦々しい顔になった僕は、テーブルにへたり込み、だらしない姿勢になって向かいを見た。


 マカロニサラダ。

 激辛坦々麺。

 そしてカレー。


「どうしたの。今日はもう帰る?」


 むしろその方がいいと言いたげなマナ。


「えっ、イヤ、こっからだろぉ!?」


 唇がてらてらの炎理さんが目をぱっちり開いて抗議する。


「そうは言ってもつかれたんだよ〜〜〜。《オーラフィールド》張るとつかれるしワナの理不尽な感じもほんときらいだぁぁ!!」

「溶けてるな」

「許容量超えちゃったんだね。慣れないことさせてごめんね。今日はもう帰ろうか?」

「………ラクミヤ」


 うん、と頷きそうになったが炎理さんの鋭い目が気になる。


「…………」


 ママに甘えるのか、という疑惑の目だ。


「…………………全員分の『羽靴』と、僕は『双眼鏡』、罠対策の『スキルキューブ』も試す」


 僕は起き上がって湯気の出るカレーを睨む。


「お、急にやる気になったな」

「ノゾミちゃんの熱が移ったかな?」


 ガツガツとカレーを口の中に放り込んで、"飲む"ようにして食べる。


 今の僕の所持金は約『26万G』。そして、罠解除魔法トラップジャマーのスキルキューブは『税込22万G』。正直かなり痛いが道具や消耗品でやるよりはMPで賄えるこちらの方がいい。


 冒険者はカラダが資本。一度覚えたら使い続けられるスキルは大きい。もしスキルの獲得条件を満たしていなかったらそのときだ。


「オイオイ、オレも行く」

「お会計してくるね」


 慌てて、ズルズル麺をすする炎理さんに振り返る。


 ショップへGOだ。


 『GOGO! GUILD!!』 のテレビCMで何度も何度も聞いたギルドちゃんの声がした。




『スキル《トラップジャマー》を獲得したわ!』



 おお〜!


___________________________________________

 《トラップジャマー》

 罠解除魔法。消費MP:8 。魔法陣を設置して範囲内の罠を解除する。

___________________________________________



「よしっ!」


 無事、ゲットした。ギルドの職員が見守る中、"蒼白に発光する立方体"を握りしめて念じるだけでスキルが得られたのだ。


 自力習得とは違い、無制限に覚えられるわけじゃないので本当に必要なスキルだけ手に入れるように、と教わっていた。これは、必要なものだろう。


「高い買い物だったね〜」

「全財産はお亡くなりになられました」

「それくらい出したのに」

「でもでもっ! 罠対策は絶対いるから間違ってないよ! もしメンバーが増えても保険になるしね!!」


 つぶらな瞳で見つめる"お嬢さま"から視線を切って、マナが畳み掛ける。


 炎理さんは、だいぶ金銭感覚が死んでそうだ。中級スペルの魔導書なんて十万単位は当たり前。中級火魔法【フォムーラ】は、"追尾"と"火力"、"火傷付与"など、単体に対する攻撃面が強く人気も高い。50万Gは下らないだろう。


 お言葉はとても魅力的だが、この人に甘えたらパーティが彼女のものになってしまう。僕らは、誘惑を断ち切り甘言を聞かなかったことにしてこの場をやり過ごした。




「《トラップジャマー》」


 白道の上に、直径1M30センチくらいの魔法陣が現れる。


 魔法陣は、僕の意思に応じて動いた。


 水晶広場に向かう冒険者を避けて通路の壁面を移動させたり、天井に回して遊んでいると―――魔法陣の重なる壁面でカチッと音がした。


 ―――メキョッ


 突き出たノズル。火炎放射器だ。今まさに放たれる火炎の息吹。


 それより早く、魔法陣がひときわ強く輝いて無属性の蒸気が噴き上がった。

 僕の中から魔力が減り、処理が終わると、ノズルは沈黙して粒子化する。――残されたのは、壁に空いた穴だけだった。



『クエスト【罠を解除しよう】を達成したわ!』


「おーっ! 自動で捕捉した!」


 全然こっちがラクじゃんか〜。


「火も全然出なかったね。スマート!」

「ほーん。やっぱ便利だな……」

「こりゃラクだ。どんどん使ってみよう!」


 広場から出て購入した『双眼鏡』を片手に慎重に通路を歩く。


 "赤外線"や"魔力の可視化機能"がついてる高級な双眼鏡は確かに優れものだった。僕の《魔力感知》で見逃す罠の起こり、トリガーを発見しやすくなる。


「はぁ〜〜こうなってたんだ。――綿毛に、レーザー、シャボン玉っぽいのもある」


 《オーラフィールド》に入っても『無害』だと判別していた"罠の予兆"にハッキリと触れた心地だ。


「ああ〜、そこにぶつけるのか。―――《トラップジャマー》」


 目には見えない魔力の細かな揺らぎが発生する虚空。

 そこに魔法陣を設置すると見事、罠の解除に成功したようだ。

 もくもくと蒸気を上げた魔法に拳を握る。


「ヨシッ」


 今まではわけもわからず受動的に対応することしかできなかった罠を、これでいくらかは確実に減らせる。


「ハッ、ちっとは冒険者らしくなってきたなッ」

「全部が全部力押しで突破する、とんでもない"脳筋パ"だったからね〜」


 たしかに。戦闘力特化のパーティではあるだろう。同レベル帯のビギナーと比べて頭ひとつ抜けているのは間違いない。


 多くの気配が近づいてきた。


 結局、5Fの階段までの道中、戦闘は一度も起きなかった。



「………いよいよかッ! 緊張、してきたな」


 多くの冒険者の心を折って挫折させるという星刻の大迷宮の5Fは、わざわざそれ以前と区別して『試練の迷宮』と呼ばれる。


「………うん。でも、きっと私たちなら大丈夫……!」

「ああ。どんな冒険が待ってるんだろう……」


 僕らはついに、『試練の迷宮』に足を踏み入れた。


罠対策ができればこっちのもんよ! ……それにしても22万か……。

 ………た……たかいっ……! うまい棒何本買える……。そんな買い方絶対できひん……。最新機種が買えるぞ……。


 次回、"試練の迷宮"に挑みます。

 

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