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第二話 【♪〜戦の気配〜】

続きです。大体一話5000文字前後に分けますね。不自然に話が切れる場合はすみません(サブタイトル付けるのにハマった)



『…………ッッ!!』


 岩肌が剥き出しの薄暗い道が見えてきた。くちびるを噛みしめて睨みつけてきた天使は、そちらに身をひるがえす。


 たぶん、そっちに行け、ということだろう。


「ほら、大丈夫だよ。一緒に行こっ?」


 立ち止まって、暗がりを注視していた僕は、さぞ怖気付いたように見えたことだろう。


「……………」


 差し伸べられた手は、健康的で頼りがいがあった。

 けれど、僕だって男の子だ。いつまでも甘えるわけにはいかない。


「えっ………?」


 その意思を込めて首を振れば、唖然としたマナが硬直した。そのあとで、ゆっくりと、さまよう手を下ろした。



『モンスターが現れたよ! 戦う準備はできたかな?』


 突然、くるっと振り向いた天使は、指をぱちんと鳴らす。

 この切り替えの早さ、あらかじめ決められていた動作なのだろう。


 目線の先に、人影が現れた。


 大きさは、幼児くらいだろうか。トコトコと歩くヒトガタは濃い暗緑色のボロを着たモンスターだ。その顔は喜悦に歪んでいて、僕の目にはひどく醜く映った。



 ―――どーんどーんチャンチャンっ! どーんどーんチャンチャンっ!!



 唐突に鳴り響くメロディ。


 思わず、モンスターから視線を切って浮遊する天使を見やるが―――彼女は、無表情で僕を見下ろしているだけ。


「『はぐれゴブリン』だよ!」


 隣から注意を促すマナにハッとして、正面に意識を戻した。


『はぐれゴブリン』は、学園の入学試験でも出題された。

 代表的なモンスター『ゴブリン族』の幼体で、そこまで強くはないはずだ。試験でも、保有スキルのうち最大の注意を払うべきはスキル《繁殖》とされるくらいで、戦闘能力自体は低く、誰でも倒せる。


 なにせ、装備を整えた僕とマナに対して、あちらは素手だ。むしろ、敗北した冒険者と交配して強力な幼体を産む・あるいは産ませる性質こそが忌み嫌われている。


 そんなことより、さっきから僕が気になるのは……。


「なんだ、この音楽」


 天使の合図がきっかけで、脳内に切迫感をあおる音楽が流れ出してきたのだ。


 軽快なイントロから始まった壮大な物語の序章を思わせるBGM。軽度の戦意向上効果があるのか、にわかに体が熱くなる。


「あ、ビックリしたよね。ココで調節できるみたい」


 チラ、とメニュー画面の下に増設された欄を覗けば確かに文字が光る。


___________________________________________

【♪〜戦の気配〜】

___________________________________________


 音符マークを押せばシンと静まり返った。

 そして、もう一度押せば、続きから流れ出す。


 タップして現れた再生バーを横に動かせば、音楽の好きな部分に戻ったり、進めたり。


 音量ボタンの目盛りを調節すれば、ささやきレベルから爆音まで変化できるみたい。戦闘中に音楽を聴く。知識として知ってるのと体験するのではまるで別物だ。脳みそに熱を注ぐ効果があるのは確かだ。


 音楽は、まだこれ一つのようだ。


『初心者は最初戦えないことがあるポン。でもこれを流せば最低限戦意を維持できるポン。そうは言っても過信は禁物ポン。強力な『プレッシャースキル』には通用しない場合が多いポン』

『ポンポンうるさいのよ! 変なキャラ付けして媚びを売ってるつもり?』

『フッ……持たざる者の嫉妬は、なんてみにくいんだポン』

『な、なんですって……!』


 まったく仲間意識のない二人の天使がいがみ合う。

 

 そんな中、はぐれゴブリンが襲いかかった。


 両の手に白塗りされた剣と盾を力強く持ち、腰を落とすマナ。

 僕も同じく白塗りのナイフを構えた。あと数歩で接触するといったとき、やつは勢いよく息を吸い込み、一斉に吐き出した、この世のものとは思えない耳障りな鳴き声を。



 ―――キキィキュヤァアッッ!!!



 不気味で、怖気の走る奇声をあげて威嚇したのだ。


「うぅっ……」


 その鬼気迫る威圧に全身の筋肉がこわばって小さく悲鳴が漏れる。


 はぐれゴブリンの持つスキル《なきごえ》は最下級とはいえ、れっきとしたプレッシャースキルだ。対象を威圧・萎縮させ、無抵抗の獲物をいたぶるための本能的な動作。


「…………」


 ヤツはその成果を見やってにんまりと笑う。実に嗜虐心に満ちた笑顔だった。そして、突然地面を蹴った。


「っ!」


 もちろん狙いは、僕を庇うように立つマナだろう。


 急加速した、はぐれゴブリン。

 素早い身のこなしでマナの持つ盾とぶつかった。

 金属音が高らかに鳴る。苦悶の声を漏らしたマナだが、体格差もあって少々バランスを崩す程度。……無傷だ。


「―――ぐうっ……ハァアアア!!!」


 そしてマナも負けてはいなかった。


 すかさず踏み込み、白塗りの刃を当てる。


 工房で専門の職人が作成した魔力鍛造の『エンチャントウェポン』。


 その鋭利な刃先が、接触の瞬間、淡く光を伴って鮮血を生んだ。


 ―――キギィヤッ!!


 苦悶の悲鳴が戦闘BGMを裂くように上がる。


 小石のいくつか転がる地面にゴブリンの血液が飛び散った。

 意外にも真っ赤な血。僕たちと大差ないように見える。


「―――ハァっ!!」


 手傷を負ってタタラを踏んだヤツの無防備な背中を睨む。

 とっさに駆け出して背後に回った、僕のナイフが首元を切り裂いた。さらなる深手を与える。


 これでも、最難関の『冒険者学校』に合格したのだ。

 持久力に難はあるとしても、この程度の相手に遅れはとらない!


 それにステータスの恩恵がさっそく現れたのかすこぶる動きもいい。


 再び上がる、血しぶき。


 だけど欲張って放った二撃目は、ゴブリンの本能的な回避にしてやられ、横腹を裂くにとどまった。


「エイくんッ、ナイス! よし、トドメだっ!!」


 逃げ場を失ったモンスターに、マナの剣が深々と突き刺さり―――


 その背中に光る刃が生えた。


 鈍光を発する刃の切れ味は驚くほど滑らかに敵の体内に侵入し、敵に取り返しのつかない致命傷を与えたのだ。


「ハァ……ハァ、倒した……?」


 たった数瞬のできごとだ。

 しかし、僕の息は上がり、手が震えている。それは単に激しい運動をしたばかりではない、生命を奪う行為そのものに対する畏れもあるのもしれなかった……。


『油断は禁物だポン』

『ラクミヤ。………大丈夫?』


 ぐったりとして動かなくなったはぐれゴブリンの生命はしだいに失われていく。


「そ……そうだね。……ッふ、だ、大丈夫っ……」

「エイくんはそこで見ててッ」


 手足をばたつかせ、最後の抵抗を見せる生き物に容赦なく、のしかかるマナ。


 ゴブリンの腹部に膝を食い込ませ、体重をかけて盾で身動きを封じ、その隙間から、ザクザクと肉片を削ぎ落とすのだ。


 アッ、と情けない声が出る。可哀想とか、ちょっと待ってとか、色々考えて伸ばした手のひらが意味もなく、さまよった。


「…………た、倒した。よね?」

『お見事だポン。さっすが、マナは筋がいいポン』


 唇から、どろりと塊のような血をこぼしたはぐれゴブリンは、己を死に至らしめる凶器を握りしめ、引き抜こうとする。


 そのとき、パックリと割れた手のひらが、痛ましく映る。


「……ァアァアアァアァアアァアァアア」


 ついぞ、ゴブリンに逆転の機会は訪れず、ギョロリとした眼光が弱々しく消えていった。


「………………」


 たった今、生き物が死んだのだ。その傍らで立ち上がる、精悍な顔つきをしたマナと、満面の笑みでうなずくゆるキャラ。



『経験値を6取得した』

『【クエスト】が解放された!』

『【ライブラリ】が解放された!』


 虚しく、天使の読み上げと【ログ】が視界に残る。心なしか、彼女の表情が柔らかく見えた。



***



「……なんとか倒せたね…。すっごい緊張したよ……」


 静かになった通路。周囲にモンスターはいないようだ。


「ほら見て。……汗びっしょり」


 全身を白色で統一した『ホワイトレギュラーシリーズ』に身を包むマナは、羽織った銀河のマントを広げ、首元を見せる。


「……っ」


 玉のような汗が滲むうなじ、思わず目をそらした。

 マナは、長剣『ホワイトレギュラーソード』を地面に突き刺し、ゴブリンの遺体をすがめて、見る。


 そこには、彼の骨が『ドロップアイテム』として残されている。

 傍らに置かれるビー玉より小さい石は、魔力を閉じ込めたもの『魔石』だ。


「ふふっ。だんまりしてそんなに緊張した?」


 近寄ったマナが手を握る。


「あっ」


 固く握りしめたナイフの持ち手部分。

 僕の手は、まるで接着剤で固めたようだった。

 愛おしそうに指を一本ずつ触れて、解かすマナの口元は、かすかに吊り上がっている。


「っ」


 その妖しい気配に、僕は思わず後ずさる。


「もう、帰ろっか」



 甘えたくなる響きがあった。


 こんな場所(ダンジョン)はおかしい世界だ。さっさと元の日常に帰らねば、すぐに正気を失うのではないか……?


『……………』


 微動だにしない天使が、じっと見つめる。


 精巧な人形のような無機質な目だ。僕がダンジョンから帰ることに賛成も反対もしない。


『…………………』


 なんの感情もこもっていない、無の表情だった。


 僕の心境を一切勘案することのない自動人形、そんなものが、僕の頭に住み着いたのだ。僕は彼女のことがよくわからない。


『まぁ初日はこんなポンだもんか。少しずつペースアップすれば文句なしだポン』

「なんか口調おかしくない? ……エイポンは戦闘支援もできるんだよね?」

「もちろんだポン。そこの出来損ないと違って………っというのはさすがにしつこいかポン。"回復"と"耐性の強化"、攻撃だけはできないけど、お役立ち間違いなしポン」


 自信満々だけど、口だけじゃなく事実なら凄そうだ。


『―――な、なによ?』


 じっと見つめていたのがバレたようだ。僕の天使は何ができるんだろうなぁ。



***



 そうと決まれば、あとは帰るだけだ。僕らは元来た道を辿った。


 僕とマナが隣り合い、その両端にそれぞれの天使がいる。この二人、仲悪い……。


 その帰り道、何度かすれ違った同じ服装の学生冒険者もそうでない大人の冒険者も―――みな一様にその瞳が欲望に彩られ爛々と輝いている気がした。



 ダンジョンの入り口。角ばった門構えの内側に広がる、虹色の魔法の鏡『ディメンションゲート』は、表面を波打って常に流動している。


 この鏡が、ダンジョンと地上を繋ぐ門の役割を果たす。


 いったいどういう仕組みなんだろう……?


 ほんの少しだけ、気になってしまった。それがいけなかったのだろう……。


 普段は、特殊なメガネで抑えられているのに……。


 あの、"異常にモノが見えすぎる"特有の感覚が生まれた。

 突然、視界がイカれる。チカチカと目の前でフラッシュを焚かれたように眩しくなって、脳裏を何百枚もの画像が瞬時に駆け巡る。


 空気中の些細なチリや埃、気流を見逃さず、そしてゲートの周囲を覆う魔力の揺らぎが事細かに可視化される。


 幻想や、神秘までも暴く目だ。


 それは、僕の持病のようなもので、『大気中の魔力を通して視覚を大幅に強化させるもの』……らしいとお医者さんには教わった。


 真っ暗闇の中でも問題なく物体を見通せる『暗視』や、壁などの遮蔽物を無視して向こう側まで調べられる『透視』。

 あるいは、電子顕微鏡と同じくらいにミクロの世界に触れられる『拡大視』など、見たいと思った対象を詳しく調べることができる。


 それにより、触れる人次第で感じ方の異なる魔力―――ふわふわの雲のようにもキラキラの宝石のようにも、パチパチと弾ける閃光のようにも感じられる―――神秘的としか言い表しようのないその秘密のベールをも暴き――暴いてしまえる。


『………』

「ッ……!!」


 誰も知らないその場所で、うぞうぞとうごめく魔力のその奥にいる―――何者かといま、目が合ってしまった。


「!?」


 その、美しいガラス玉のような瞳は、"ケモノ"のものだった。


『………』


 ふさふさのケモノの視界には、複数の"大いなる影"が映り込んでいる。


 足元まで伸ばす生え放題の髪の毛やその肌までの全身が、陶器のように滑らかで、神秘的な"純白の少女"(なぜか裸)。

 それから狂人の、破綻した笑みを見せる"耳の尖った古木"(人面樹……?)。

 他にも、同じ大きさの人影やモノがたくさんいて――それらの大いなる影の頂点に君臨する"光る女神"ですらケモノは見下ろしており、とうの女神は、怯えて少女のように目を背けてるにすぎないようだ。


 その中に、自分もいた。


 ……でも、ソイツはまるで、自分じゃない。別人のように不遜な顔をしていた。


『………』


 "血まみれのソイツ"は、薄く笑ってから、言葉を発した。



 ―――『おまえにはまだ早い』、と。



***



「ぐぁあああああ!!!」


 その瞬間、突然誰かに頭を掴まれ、引っ張られたようにのけぞった。


 ふらふらと床に片膝をついて姿勢を低くする。奥歯をぐっと噛んで食いしばる。


「……はぁはぁ……はぁっ、くそっ……」


 一瞬、ここがどこだかわからなかった……。記憶が少し飛んでる……。


 地上では、この力の調節ができずに数秒のうちに気絶してしまうんだった。……完全に油断した……。ラッキーなことに、今回意識はあるみたいだが………。


 普段は、同じように特殊な目を持った『魔眼』持ちが愛用するらしい専用の眼鏡で能力をオフにしていたんだ。

 ……ちなみに、僕の目は、検査では『魔眼』と認められていない。感覚器そのものは普通だからだ。そのためハタから見れば『ただの変なヤツ』になるかもしれないな……。


 ははっ。ガッカリして思わず笑った。


「あはっ、あははっ……!! ……ははは………神さまは……ぼくに、何もくれなかったか……」

「エイくん………」

「………いやいいんだ……。ほんとに………」


 じわりと滲む視界を、戦闘服の袖にゴシゴシと吸わせる。


 ダンジョンに入れば、『ユニークスキル』と言って、珍しい体質や特性に応じたスキルを得られるかもしれないと、そう期待してたんだけど……。


 人生そんなに都合のいいことはないか。残念ながら僕には、神から贈られるという特別な才能や加護は……どうやら………なかった、らしい。



 ―――期待、してたんだけどなぁ。



『スキル《魔力感知》を習得したわ』

『スキル《魔力操作》を習得したわ』



 ……え?


 マナに支えてもらい、惨めな気分に浸っていたところ、立て続けに天使のアナウンスが聞こえた。


『それで少しはマシになるんじゃないかしら……』


 あ、とつぶやき、また立ち止まってしまう僕を見て破顔したマナは「仕方ないなぁ」と手を引いた。


 そんなマナに導かれて、やっとのことでゲートを通る。



……よかった! 最初の戦闘は勝利だ。無事、はぐれゴブリンを討伐して洗礼を終えました! ドロップは大切にいただこう! 

 命懸けの戦闘は、運動神経や魔力がどれだけあってもできない人は一生できません。この二人は今日から冒険者だっ!! ちなみにエイくんは年中こんな感じです。人はそれを厨二病という。マナちゃんは大変ですよ〜。


 以下お役立ち情報


特殊なメガネ・・・お医者さんにもらったメガネ。視力矯正機能があるだけ。つまり……。

ユニークスキル・・・神々の加護や特別な才能がスキル化したもの。特別な人はダンジョンに行くだけで手に入る。魔眼持ちもそう。羨ましいね!


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