探索レポートとキャピキャピ系
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[3F 白道 ]
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目を爛々と輝かせて、殺意の具現した剣技を放ちたさそうにしていたマナの願いは、早々に叶った。
「ハァアアアッッッ……!!!」
大剣の横薙ぎにより、臓物をこぼしたゴブリンの脳天を"青銅の斬撃"が通過した。
鈍い、骨を立った異音が聞こえる。
「ヨシっっ! ……こ、こんなに強かったんだ、私って」
明らかになった、驚愕の事実に打ち震えるマナ。その手前では、ぱっくりと胸元までを裂かれたゴブリンの死体が転がる。
「気合いは僕なんかよりあったのに、力の向け方がズレてたんだよ。マナなら『打撃武器』も向いてるハズだけど、こっちでも全然イケそうだね」
「『ポイズンスライム』も二撃目で死んでたからな! ただ単に武器のブロンズバスタードが強いってわけじゃなさそーだ」
あんなに激戦を繰り広げた相手も今や余裕を持って倒せる。
最初、動く相手にどう間合いを取ればいいか逡巡していたようだが、そこはマナの持つ生来の気合いで突貫。一撃目の『振り下ろし』が当たろうが当たるまいが、すぐ『斬り払い』に繋げたらどうとでもなった。
マナの『バックステップ』に合わせて僕らも魔法を放てるから連携にも活かせる。ハッキリ言って、僕らの連携は、並以下だったから、こういうある種の"リズム"があるとやりやすい。
「型は偉大、だねー?」
「あんまりドヤらないのな」
「うん。だって一週間くらい剣術道場に通えば身につくことだからね。……スキルは体系的に修めないと手に入らないっぽい。それでも天才は、すぐに取れるらしいから僕もマナも才能なさそう」
「特待生の『叢雲』のことだな。……いや、お前もないのか?」
「……まぁね。スキルはそろそろ取れそうだけど、言うなれば―――"見切り"が凄いだけだからねー。剣自体の才能は多分ないよ」
ここに来るまでに、ポイズンスライムを含めて三戦こなしてきたが、マナの前衛としての性能は明らかに向上した。
『ウッドシリーズ』の高い防御力と《木精霊の守り》によってこの階層ではろくに物理ダメージを受けない。さらに、のけぞりにくくなり、大剣の繰り出す"一撃必殺"も狙える。
《自然治癒》のスキルは、傷の再生だけでなく状態異常の治りやすさも上がる。この階層から出現する『おばけモスキート』の毒・デバフからの復帰も早かった。
そしてこのスキルは、むしろ次の戦闘までの移動中にこそ本領があるようだった。傷ついてもすぐに復帰できるのは強い。
「―――ね。もう足手まといなんかじゃないでしょっ?」
見習いレベル4の《生活魔法》で、ゴブリンの返り血を拭い去ったマナが、自信みなぎる快活な表情で近づいてくる。
「そんなこと思ってないよ」
「うっそだ〜。モアイアイのときは『ぶっちゃけお前、何してたんだ』って思ってたでしょ?」
「思ってない思ってない」
「それ、あたしにも刺さるんだが……?」
うがぁっ、と胸を押さえた炎理さんは、先の反省から鉄製の鎧を装備し、左腕には小盾をはめている。
この小盾は魔力を注いで発動する同名スキル《ラウンドシールド》という半円形の『物理障壁』を展開することができる。
ソレは、彼女の半身くらいは覆えるサイズなので、いざとなれば、しゃがんで隠れられる。
だけでなく、『魔導書』を購入して『呪文魔法/スペルマジック』を"二つ"覚えた。初級と中級のヤツだ。
「―――知ってたか? 『呪文魔法/スペルマジック』はもともと上位種族の使う『言霊』を真似たものなんだとよ。ばっちゃんが言ってた」
「ばっちゃん……大精霊さまのことだよね……? 『言霊』っていうのは?」
「……口にするだけで魔法になるキーワードっつーのかな。神様が決めたキーワードを言ったら発動するのが『呪文魔法/スペルマジック』だ。まぁそれを言ったら大体のスキルもそうだと思うが……」
「へぇ……」
二人が会話するが、初級魔法以外の便利な攻撃魔法は、追尾性能があるので、マナを避けてカーブさせられるらしい。
ソロのとき、自身を中心とした大火力で粉砕してきた彼女はいま"物理的な防御力"と"精密さ"を求めている。
仲間の二人はモアイアイ戦を経て、大きく成長したように思える。
彼女たちが息を合わせて連携するので、僕は『中衛』のポジションに収まり、バフと白透刃、シールド係を担っていた。
一歩引いた目線に立ってふと思いついてやってみたら『身体強化』と『白透刃』、『シールド』の付与による支援もできたのだ。
気分はさながら、『付与役/バッファー』である。
「やっぱり支援があると安定感が違うね。エイくんはずっとバフ担当でいいよ?」
「……やだよ。前にも出たい」
自分は見てるだけなのに、パーティの総力がアップするのは楽しいけどさ!
「モアイアイが特別だっただけだよね〜。三戦やって装備一個も落ちてないよ。……はい、ノゾミちゃん」
「おう、サンキュ」
「くっそ〜。新モンスターも『おばけモスキート』だけかぁ〜! ここも、全部埋まらなかった〜」
「本格的にやるなら白道から外れないと厳しそうだよね。……あとは4Fで出てくるかもだね!」
「……ほーん、あんま気にしてなかった。『コンプリート報酬』なんだっけ?」
「階層ごとのやつは――お金と、『シルバーメダル』、『キャンディ』だね。5Fまでのフルコンプで『魔物の宝珠』。――コレってテイマー用のアイテムだ。……テイム成功率アップの設置型の宝珠らしい」
『シルバーメダル』は、特別なお店で使える通貨。お金を出して買えない貴重なアイテムと交換できるそうだ。
『キャンディ』は、モンスターの嗜好品らしい。けど、今は使わないからどちらも貯めてる状態。
「――テイマーかぁ。テイマーと言やぁ、やっぱ『ドラゴン使い』だろ!?」
「僕も、修学旅行で『モンスターパーク』に行ったときはビビったよ。『レッドドラゴン』、『グリーンドラゴン』だったかな」
「そんな"養殖ドラゴン"じゃなくて! 野生のやつを従えるのがカッケーんだろ」
「養殖ドラゴン」
「も、大丈夫かな〜っ。すぐあそこの角から冒険者だらけだしっ」
適度に気を抜いて、この階層の最奥に向かう。
曲がった先からモンスターの気配がピタリとなくなった。
通路を進み、見えた行列に仲良く並ぶ。大勢の冒険者がいるので安全だ。
「3Fはちょうどいい難易度だったねー。連携確認に最適だったかも」
「だなぁ〜っ! 仲間の大切さが身に沁みたわ。ちゃんとパーティで戦ったら楽でしかない」
「僕も後半何もしてなかったし」
「……や、しっかり仕事してたわ。おまえの魔法、痒いところに手が届くよなぁ。孫の手だ」
「それって褒められてる……?」
「エイくんは、このまま"病弱キャラ"やってくれたらよかったのに―――」
「ヒグレ目が怖いぞ……イッてる! 急に闇を見せるな……ッ!」
ハハ、楽しいね。……ミカ〜? 探索の振り返りとかできたっけ?
『え、ええ……。探索レポートの提出に使う【ログ】のまとめ機能ね』
むむん、とうなって光る天輪をクルクル回すミカ。するとなんらかの処理が終わり、眼前に画面が現れた。
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3Fの探索結果
滞在時間 45分
戦闘:5回
休憩:2回
罠:16回
宝箱:0個
採取:0回
イベント:0回
重症:2回
死亡:0回
逃走:0回
全滅:0回
主な討伐モンスター:モアイアイ、ポイズンスライム、ゴブリンなど
探索評価:A+++
トレジャー総額:70600G
〈素材〉
ミニチュアモアイ(56000G)、大地のプレート(2500G)、猿の手(1800G)ほか(7500G) 合計67800G
〈装備〉
ブロンズバスタード(1200G)ほか(1600G) 合計2800G
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「うん、なかなかイイね〜」
『A+++』評価は、とくに上手くいった探索の意で、その階層の成果としては優れているというニュアンスだ。ランクアップの査定やパーティの信頼度に影響する。
『昨今は安定して回れる"C評価"を狙うのが主流みたいね。――『短時間・軽傷・罠なし』で確実に倒せるモンスターとだけ戦って、想定外は極力避ける。格上や、勝てるかどうかわからない相手に挑むのは"ギャンブラー"と揶揄されるみたい』
へぇ。好きにしたらいいと思うけど……。
さて、1、2Fの合計は『2000G』以下だったので、3Fの効率がいかに高いのかよくわかる。
モアイアイのドロップを抜きにしても『5000G』はあるだろう。ただパーティとしては、装備品の損耗や新調を考えると"赤字"だ。
二人はあくまで個人的な出費にするつもりのようだが、やり方は考える必要がある。
そして驚くのは、やはりミニチュアモアイの値段だろうか。
この中だとダントツなのは変わらない。
『コレクター人気もそうだけど、こういったモンスターを象徴するレアドロップは『錬金』や『モンスター配合』にも使えるらしいわね』
本当に素材なわけか。
『錬金』は、複数の素材を使ってアイテムを生み出す技術で、僕らの使う"ポーション"や"白道の石材"も『釜の魔道具』から吐き出される。
『モンスター配合』は、テイマー職が使う、モンスター同士を組み合わせて新たなモンスターを生み出す技術。
炎理さんの言う、養殖ドラゴンもこれに当たるのかな……?
「何見てるのー?」
「レポートだよ」
「へぇ、見せて。………うわっ! ほとんどモアイじゃん!」
「…………あたしは取り分いらねーよ」
「そういうわけにはいかないって。――ねー?」
「うん。装備や魔導書には足りないだろうけど……」
「………わかった。また同じようなことがあったら無給でいい」
「意外とネガティブだね」
3Fは別名『ゴブリン階層』と呼ばれる。ボスがゴブリンの上位種だからだが、例によってスキップだ。
「…………」
「…………」
しかし銀河マントを羽織る同じ一年生がやってきたので僕はサッと壁のシミとなる。隣の彼女もまた空気を消した。
「ハロハロ〜♪ マナマナとラクミヤっち〜」
向こうからカラフルに光る"ピカピカ女"がやってきたのだ。
桃色の髪。
だが、その上から虹色のエフェクトが波打つデコレーションだらけの戦闘服を着た少女。
"学年次席"。
"占い師"天河マリア。
白銀の瞳の奥には、神聖な十字架が見える。
「……あれ? ラクミヤっちは……?」
「ハロハロ、マリアちゃん。――今日は一人?」
「そ♪ 勇者の称号狙いでうろついてる感じだね。こりゃあ5Fまで行くハメになるな〜。………と、あっ! エンリちゃんと組んだんだ、やられた〜!」
しかし、赤々と光る彼女は目立つ。彼女はすぐに見つかってしまったようだ。背景に徹した僕をキョロキョロ探す炎理さんは、天河さんに捕まる。
「―――ね、エンリちゃん握手だけさせて〜。先っぽだけでいいから」
「やめれ」
「――ぅあちゅいッ」
有名な占い師でもある天河さんは、触った相手の"未来"がわかるそうで、よくああして手を取ろうとする。
僕も普通にイヤだから断ったが、皇都では"神の代弁者"とか謳われていたらしい。的中率が凄まじく、どのような行動を取れば、その人が幸運になれるかのアドバイスをするのだとか。
「たはは〜♪ こりゃあ参ったなぁ。医療費請求しちゃおっかな」
「そっちの自爆だろーがッ」
こうして見ると、彼女はおちゃらけた間抜けのようだが決して騙されてはいけない。
彼女は神堂さんに次ぐ成績上位者なのだ。高度な魔法を操る武人。
それに―――底の知れない不気味な感じがする。
「みぃ〜つけた♪」
ぞわり、と鳥肌が立った。
「もうラクミヤっちったらシャイなんだから〜」
「ぁ、やめてください」
さりげなく間合いを詰めて僕の手を握ろうとしてきたので反射的に弾く。
――パンっと乾いた音がした。
「………………………」
しばし自分の手を眺め、拒絶されたと知った天河さんの顔は筆舌に尽くしがたい、苦渋と喜悦が同居したような、ひどく歪んだものだった。
「ぅ〜ん、ナゼにみんな拒否るかなぁ? "本占い一回100万から"だよ。インチキじゃないマジモンの未来予知なんだけどなぁ」
これがわからない、とばかり大きく首を振った天河さんはさっさと列に戻っていった。そうして、嵐は過ぎ去ったようである。
しかし僕の、空気に徹する魔法は見破られたか……。
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[ヒグレマナ:いや、気後れするよね。マリアちゃんちょっと空気読めない感じだから]
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パーティチャットでコソッとマナが教える。ヒソヒソ話をしても聞かれるかも……と懸念したのだろう。
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[エンリノゾミ:"神堂の下位互換"とか自虐してっけど『早熟スキル』持ちだからな 虎視眈々と派閥の乗っ取りを狙ってるのかもしれん]
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炎理さんも彼女を警戒する。クラス内外の派閥争いとかに興味はないが……。
しかし、挙がった『早熟スキル』は、名前の通り心身の成長や学習速度が早くなるスキル。こっちは興味あるな……。
数あるユニークスキルの中でも、汎用性が高く効果も保証されており、ダンジョンでの"取得経験値の大アップ"なども有名だろうか。
多くの冒険者が一律に成長するところを早くレベルアップでき、またそのときどきに必要な専門技能を短縮して覚えられる彼らは、まさに引っ張りだこ。明確なアピールポイントとなる。
マナの剣術訓練からもわかるように、不足した技能を"なるはや"で習得できる才能は得難いと実感する。そこのところ、武器種、魔法属性、ロールを幅広く修められる天才はかなり有利だ。今はそこまでだけど僕も欲しいかも……?
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[ラクミヤエイ:僕も欲しいかも]
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と、キーボードで打ち込む。
こういうのって緊張するよね。
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[エンリノゾミ:やめてさしあげろ]
[ヒグレマナ:むしろ不遇系の逆補正をつけよう!(白目)]
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そんな雑談をやってるうちに、列は進み、薄暗い洞窟じみたボスフロアを歩いて……これまた天然っぽい凹凸のある階段をのぼり、僕らは――次の階層に足を踏み入れた。




