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好きな子をいじめたいお年頃

主人公視点。


『う〜。ラクミヤこわかったぁ……』


 初めてのお遣いを終えてクタクタの天使ミカを慰める。


 胸に飛び込んでバタバタするミカを受け止めて指の腹でナデナデする。感触はない。服にもすり抜けるが気持ちは伝わったのか、涙目のミカは喜色満面に様変わりした。


「それで、どうしたの」


 目をぱちくり開いたミカに問うと、顎に手を当て何やら思案げな顔だ。


『ううん、なんでもないわ!! ヒグレたちがやってくるまで報酬でもチェックしましょ?』


 ………んー? 別に、いいけどさ。


 【クエスト】に溜まった赤いポップを減らすため報酬を受け取る。



___________________________________________

 ギルドクエスト【モアイアイを倒そう】

 報酬:25000G

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___________________________________________

 グランドクエスト【困難を生きのびろ!】

 全滅の危機を生還する。

 報酬:50000G 守護のアミュレット 

 EXPポーション×10

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___________________________________________

 クエスト【抜群に強いモンスターを倒そう】

 Dランクモンスターを倒す。

 報酬:15000G ストレングスリング

___________________________________________


___________________________________________


 クエスト【モンスターハウスを脱出せよ】

 報酬:10000G 聖水、勇気の証

___________________________________________




「おぉ、クエスト報酬だけで『10万G』か〜。やっぱ冒険者儲かるなぁ」


 これで所持金は、『269800G』となった。立派な小金持ちだ。

 どこまで溜まるかな〜っ! わくわく〜。


『《守護のアミュレット》は《ウッドバングル》の上位互換。……《ストレングスリング》も《パワーリング》の上位互換だから、どちらも付け替えるべきね!』


 装備品は、ただ身に付ければ効果も上乗せされるとは限らない。

 【ステータス】の【装備欄】に乗らないとアビリティの増加は起きないのだ。



___________________________________________

 E 魔剣ブラッドソード

 E なし

 E なし

 E ホワイトレギュラーアーマー

 E ホワイトレギュラーハンド

 E ホワイトレギュラーブーツ

 E 勇気の証

 E ウッドバングル(まもり+5)

 E パワーリング(ちから+10)

___________________________________________


 装備品はただ身につけるだけで効果を発揮するものもあれば、この【装備欄】に登録しないと機能しないものもある。


 一度だけ、死に至るダメージを無効化する勇気の証、アビリティ増加のウッドバングル、パワーリングがそうだ。


 ただ、【装備欄】に登録されたものは、『重量軽減』や『サイズ調整』、『保護』、『装備スキルの発動』など、持ち主にさまざまな恩恵を与えてくれるので、よく考えてから決めるべきだ。

 ホワイト一式の効果は、『切れ味強化』、『耐久力アップ』などのシンプルなものでクセが少ない。

 これらも"装備"をしないと暗いままうんともすんとも言わない。しかし、災いから守るという勇者のバッジは身につけるだけでいいタイプだ。


 このあたり、割と複雑なので、さっさと上位互換を付け替えるだけなのは嬉しい。


『これを見てると、頭部と盾の装備枠も埋めたくなるわね〜』


 僕も、それは思ったけど、つけた方がいいのかな……?


 片手に盾と、もう片手に剣や槍を持つスタイルはバランスがよく人気だ。マナもそうだけど僕は『攻・防』どちらかに特化させないと動きが固くなるんだよね。……あと単純に体力の問題もある。


 パーティの『役割/ロール』的には、この流れだとマナが前衛の『盾役/タンカー』、僕と炎理さんが『攻撃役/アタッカー』になりそうだ。


 アタマは学園でも必須ではなかったし、しっかりしたヘルメットや兜をつけるのはダサい、という風潮もある。

 テレビや広告でよく見る冒険者の姿やビジュアルを重視するプロはつけないからだろうか。


 とくに理由はないので、必要ならつけるべきだろう。

 僕も今のところは魔法で良さそうかな? なんかイイのがドロップしたら装備してもいいけど……。


 『聖水』は悪霊・アンデッド等の一部モンスターにダメージが入る。さらに、ふりかけたらモンスターが近づきにくくなる高級品だ。探索中、余裕がなくなったら使うべきだな。


「でもこれ、シリアルナンバー……地上じゃないとダメなの?」


 お金はすぐに反映されるが商品は別だ。ロックイーターのときみたいに毎回近くに出現すると嬉しいんだけど。


 あーでも貴重なアイテムをゲットしてから全滅するパターンがあるか。……なら、安全な地上で、確実にもらえることにも意味がある。


 ただ万全を期すなら、装備とアイテムの最適化はすべきだろうと頭ではわかるが……。

 ギルドショップに逆戻りするのもなんかイヤだな……めんどくさいし。マナたちに期待しようかな……。あのモアイアイも全部僕が倒したんで、これくらいは許されるんじゃないだろうか。


『あんた全滅する冒険者の典型みたいなこと言ってるけど……思ったより疲れてるのね。ヒグレたちが来るまで眠ったらどう? それか今日はもう上がるか』


 ……………いや、上がりはまだ早い。メディカルチェックを受けるのも避けたいし魔法もここまでだ。


 気だるい雰囲気でベンチに深く腰を掛け、維持していた魔法を霧散させる。興味本位で近寄る他校の生徒や、銀河マント着用者などに対しては絶対に絡んでくるなよとばかりに周囲を威圧していたので、静かだった。


「………ぅ、近くに休憩所は……仮眠室…宿でもいいか」


 ベンチの需要はそれほどではないにしても占領するのは咎めるのでフラフラと歩き、人の視線が少ない広場の花壇の裏に背中を預ける。


『だから一旦、魔力操作をやめなさい。外は私が見てるから、結界やシールドも解いて。MPが満タンになったら教えるから、イイ?』

「………う……ん」


 ぐったりしてきた僕に、厳しい顔でミカが言いつけるので、その通りにした。


 寝てるときでも魔法を使えたら効率がいいと思ったのだけど……仕方なく花壇の裏でブロック状のシールドをつくり自分を囲んでから切り離す。


 僕との魔力のつながりが途切れたので、時間経過で消えるだろう、それでも少しは保つはずだ。


 ミカの言いつけは任意で操作するな、という意味なので、僕はまた感覚を閉じる。味をしめたように睡眠を貪るのだ。


 ひょっとすると二十四時間、眠り続けることができたならば、僕は『幸せ』になれるかもしれない。

 そんな淡い期待を抱いて、僕は"理想の世界"をイメージしながら意識を落とした。




***




 そこは、静かで、誰の悲鳴も聞こえない場所だった。


 血と臓物があふれることなく欲望に根差す闘争もない。


 ありとあらゆる苦悩、悲劇、憎悪―――混沌の存在しない"真に浄化された楽園"だった。




 真っ暗な闇の中。真夜よりも黒い、おぞましい墨汁みたいにドロドロの無数の亡者たちが天を求めてさまよう。


 そうした名前のない怪物たちは、自らの怨念を忘れながらも、残りカスのような本能で強く渇望した。


 ―――光が、見えるのだ。


 それでも、遠くに見える楽園には決して手が届かない……。



 僕の"理想の楽園"とは、そんな彼らの上に成り立っていた。

 地獄が下支えする"清浄な楽園"は、罪深くも見えるだろう。



 ―――だけど、本当に美しかったのだ。




***




「あ、起きた」

「安らかな寝顔だなぁ? しっかし、わざわざこんなとこで寝なきゃダメだったのか?」


 ―――コンコン、コンコン。


 ガラスを叩く音がして、僕は目覚める。


『あんたの深層心理、まったく覗けないわ。水墨画に描かれる仙境みたいな美しいイメージは見えたけど……』


 緩慢な動きで立ち上がると、すぐ天井に手を当てた。

 それから、魔力を伝播させると繊細な音を残して粒子が散っていく。


「う〜ん……!! スッキリしたぁ」


 ネガティブな感情は洗い流されたように清浄だ。

 腕を伸ばしてあくびをする。めいっぱいに空気を取り込んでから勢いよく吐き出す。……よし、イイ感じだ。


「……えぇと、マナの、その姿は……?」


 なにかの一線を超えたような、ビジュアル完全無視の見た目だ。


「実用第一。エイくん、なにか文句が?」

「……ないよ、もちろん。……鑑定。……《木精霊の守り》がついてるね」


 耐性系《物理耐性》、体質変化系《自然治癒》、デメリット《火脆弱》を内包する装備スキルがマナのステータスに加わっている。

 『物理防御力+200』のアビリティアップは、グレー色。まだ条件を満たしていない。レベルが足りてないのだ。


「イイね〜! 火だけは怖い感じか。これって肌にも影響するの?」

「そうみてーだな。ここに来るとき試したけど、防具以外の生身だって火に弱くなるらしい」

「……そのぶん、物理攻撃と怪我や状態異常に強くなるんだね。普通に強そうだ」

「でも何か言いたいことがあるらしいね? ――言ってみ」

「……………木の化身。森の番人。森人エルフの使う召喚魔法で出てきそう」

「……ぷっ、真顔で……言うなッ」

「二人ともホントひどいよねー。才能でゴリ押しするの」

「わかったって、もう笑わんから。実際、強いのにあんま見ねーよな」

「だって『四部位』も固めなきゃだからねー。ホワイトレギュラーの方が強い部分もあるよ。……ま、重量あるし身動きも取りにくいけど。タンクやるなら十分でしょ?」


 そう言ってジャンプするマナ。遅れて、腰回りの木板がパコパコ言ってやかましい音を奏でる。


「あとは、エイくんが使わなかったらだけど、『ブロンズバスタード』かな……?」

「いいけどさ。……剣を振るときの"型"を覚えてみたら」

「"型"って言うけどさ? 逆になんでエイくんはあんなに上手いわけ? 漫画みたいに動いてたよね……。私と同じシロートなのに……」

「う〜ん」


 《魔力感知》を使って空間を把握してるからかな?

 詳しくはわからないけど、マナより上手い自信はある。


「そうだッ」


 とっさに思いついて、マナに魔力を伸ばした。


 人体操作マリオネットだ。


「うっ……!!?」


 僕の魔力が浸透する。マナは痙攣するみたいに硬直した。


「あ、あ、あ……」


 ―――脳みそ、神経、筋肉、血管、要所を順次に掌握していくと、操り人形になったマナが目をとろんとさせて惚ける。


「あぁっ……んッ!」


 喘ぐように吐息して、かと思えば―――打って変わってキレのある動作で剣を引き抜いたのだ。


「ぁっ、ぇ……なに、これ……??」


 マナの認識が追いつかない、体格にあった剣士の動きをテキトーに貼り付けて、模倣する。


「ぅっ、おおっ?? ぇえ〜〜〜〜!!?」


 "樹木の剣士"が前傾姿勢になったかと思いきや、急加速して地面を蹴り、白刃を煌めかせて、空気を鋭く切り裂いたのだ。


 キレのある銀閃が幾度も虚空に残った。目にも止まらぬ早業。


「いっ、えぇ……? ヒグレ、おまえ、そんな動きできたのか……?」


 不可視のモンスターを相手取るようにして立ち回る。

 緩急のある対応。引きつけての回避。即座の反撃を披露する。


 演舞だ。


「わ、ハッ…!? なんでッ……こんなすご―――いったッ……ぃぃ!?」


 しかし、可動域ギリギリの巧みな剣術を無理やり再現したので、全身の筋肉に負荷のかかったマナが悲鳴を上げる。


 最後、鞘に納める所作まで、熟練の剣士がそこにいたようだった。


「ハァ……っ、ハァ………」

「……ら、ラクミヤの魔法か。そんなことまでできんのか……!! ぜってぇ〜ナンカ憑依してたぞ? もしかして今度からはそれで行くのか?」

「………いや、どうだろう。………自分でやらないとあんまり意味ないかな……。誰かの真似で基礎もできてない。………スキル習得の阻害にすらなりそうだ」


 やってみて悪いけどさ。


 だから自分に合った剣を探す必要がある。


「炎理さん、あれを」

「……あぁ、ほらよ」

「んと、ありがとう。マナ、今度はこれを持って」

「…………ま、待って。エイくん。これ消耗、ひどいよ」

「うん。ごめんね、基礎からやるべきだった」


 さっきのは、現段階のマナが引き出せる"限界値"だ。

 必要なのは『対モンスター用』の剣撃と防御、回避だが、最低限でも十分だ。減点方式ではなく加点方式で考えるべきだろう。


「だから、そう………ええ〜真上からこう、叩き斬る動作と左右からの斬り払い。防御の斬り上げ。両手剣だからとにかく刃を立てることだけ考えて、あとは当てれば、真っ二つ」

「う、うん。エイくん急に剣士ヅラするじゃん! 一度も習ったことない、よね? 合ってるの、ソレ」

「いいから。ちゃんと覚えてよ、今から動かすから」

「ソレ、心、弄ばれる感じするんだけど……」

「なんでちょっとニヤけてるのかな……? ―――いくよ」


 そのやりとりを白い目で眺める炎理さんを横目に、マナを動かす。


 ゆっくりと、すり足で移動させ、大剣を振り下ろした。

 今度はその隙を埋めるように横に斬り払い、同時にバックステップをとる。


 また、大剣を振り下ろす。

 斬り払い、バックステップ。


 やってみたところ、普通は、剣術の学習は数分でやるようなことじゃないと知ったので、単純すぎる工程に切り替えて、マナのカラダに馴染ませる。


「正直、僕は見ていて気持ち悪いけど、これさえできれば『致命打狙い』と『牽制』、それから『離脱』を兼ねられるね―――」

「―――あと、パーツを単体で使っても効果はある。モンスターだって相手がどんな動きをするか、脅威なのか無視していいか常に判断してるんだ」

「―――この一連の『モーション』を取り入れるだけで、油断ならない相手だと思わせられる。まったく同じ動作だから『対人戦』だと見切られるハズだけど、モンスターならまぁ、なんとかなるよ」


 愚直に同じモーションを繰り返すだけだが、"剣の強弱"、"振り下ろすタイミング"、"あえて遅らせてバックステップをする"など、この動きに遊びを入れるだけで意表をつけるだろう。奥は深い。


「ほへぇ〜、だいぶ良くなったなぁ? キレがまるで違うじゃんか」


 マリオネットを解いても実行した動作の再現ができるようになった。たった一つの攻撃パターンだけがやたらと洗練されてる"変な成長ぶり"だ。正直、僕の目から見ると穴だらけだが、部分的には"一端の剣士"に見える瞬間もある。


「言い出すタイミングがなかったけど。せっかく剣があるんだから使わないとね。これでマナは気迫だけじゃない、本当に怖くなったよ」

「………………………これなら、いける。めちゃくちゃ強くなった気がする……!!」

「…………」


 万能感に酔ってるふうのマナを、僕は冷たい目で見る。


 これは単にメッキを貼っただけだ。誰かが編み出した素晴らしい解法を、貼り付けて、なぞっているに過ぎない。


 何より、僕の主観で動かす以上―――僕を超えられない。

 今のマナの視界にあるのは、完成された輝かしい剣閃の数々と、それを掬い取れる自分の成長ぶりだろう。


 このやり方は、短期的には飛躍するが長期的に見れば失敗だろうなと感じる。―――おそらく、実直に、苦楽をともにし、剣を振り続けてきた人には、一生勝てないからだ。


 お手本を丸ごと与えられるのは"猛毒"だ。きっと、それ以外の、地道で面倒で、全部台無しになるかもしれない孤独な、技の発展や練習に耐えることができない。


 僕に、動かされることに慣れた時点でマナは本当の意味で"人形"になる。……封印だな。


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