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奇人偏屈堂

仲間の話です。


___________________________________________

[奇人偏窟堂]

___________________________________________



 薄暗く入り組んだ裏路地に、その店はあった。入り口はまるで洞穴のよう。壁面の蝋燭が怪しく照らす店内に入るには、不気味に垂れる黒幕を手で押しやる必要がある。

 客商売とはとても信じられないほど、まったく人を寄せつけない。


 この店の名は―――『奇人偏窟堂』。


 店主の『土人/ドワーフ』は、重厚なローブを羽織り蓄えられた綿飴のようなヒゲを自慢げにもてあそぶ。

 

 大魔法使いもかくやといった立派な杖を手元に置いて、今日も一風変わった客人を歓迎する。


「う〜ん、みょうちくりんなハニワだな。これが『30000G』はボッタクリだろ」


 滅多に来ないこの店の客層は店名の通り、奇人だらけ。

 店主自らが"奇人を自称する"ことで類は友を呼ぶ現象を引き起こす。


 バケツをかぶった大男。腰の曲がった下半身が蛇の老女。

 帽子、服、靴、時計、至るところにカレーが描かれて香ばしいスパイスの匂いがするカレー人間。

 鋭い目をした隻眼の獣人は、真剣に店内を物色する。

『魔王万歳』と書かれたTシャツに身を包むカエルのような醜男もフゴフゴ言って幼女を連れ歩く。


 種族も、見た目も性格も、それぞれ異なる彼らは店主に軽く挨拶すると各々のルーティンをこなす。独特の秩序があった。


「わかってないねぇ、お嬢ちゃん。それを身につけると『ハニワの魔除け』が怪我や病気から守ってくれるんじゃよ」


 そして此度の新顔は、偉大なる大精霊に寵愛されし"紅蓮の少女"。

 彼女はとくに目的もないのか、店内をぶらついて思いついたことを唐突に発する。


「なら鑑定書を見せろよ」

「はて、どこにあったかな」

「このッ」


 "紅蓮の少女"ノゾミは現在、ムシャクシャしていた。そのように、天使マエンは冷徹に分析する。


 ガイドエンジェル――またの名を『メンタルケアユニット』。


 天使の種族スキル《ガイドコマンド》は担当する冒険者の"深層心理"、"表層意識"、"感情"をリアルタイムでモニタリングする。


 そして、その情報をいつでもギルドに送信できる。ガイドエンジェルは、相棒でありアドバイザーであり、同時に『監視役』でもあった。


 そんなマエンは自然、ノゾミの心をかなり正確に捉えられる存在だ。


「ハァ、クソ。どんなツラして会いに行きゃいいんだよッ」


 結局何も買わずに店を出たノゾミは、路地裏で腰かけて空を眺める。人工の照明灯は、地上の日照に合わせて光量を変化させる。


 ―――現在は夕方。茜色の空が日暮れ時を伝える時間帯だ。


『防具を買うんじゃないメラ? 仲間が待ってるメラよ』

「そんなのわかってる……! マエンだってオレのこと、バカにしてんだろ……!?」


 また始まった、とマエンは思った。


 ノゾミの精神は非常に幼い。愛情に飢えている。精神のもっとも柔らかい部分が無垢なままなのだ。


 マエンはノゾミの深層心理を読みとる。


 ノゾミの生家は、皇都に住む『水和家』と呼ばれる魔術一門の本家だ。『炎理家』ではない。


 世界に突如としてダンジョンが出現した『大災厄』以後の混迷を極めた時代を生き抜いた"創始者"四谷五郎(のちに水和五郎と名乗る)は、世にあふれた魔法、魔術、妖怪、神仏、混沌の中より、"水の持つ慈愛と融和"を見いだした。


 そして、才能ある若者を弟子として技の数々を伝授し、お国のために奔走した。皇都における大家たる『水和家』はそうして発展した家柄だが、同格の『炎理家』とは大層仲が悪い。


 『炎理家』の家訓に『敵、仇なすもの、そのことごとくを焼き滅ぼすべし』というものがある。水の持つ癒やしを本懐とする水和家にとって、そのことを公言して憚らず、だけでなく実践する輩を嫌悪していたのである。


 果たして、そのような家柄の三女としてノゾミは生を受けた。そして、彼女は大いなる精霊に寵愛される。


 本来なら吉事であるはずのできごとであった。しかしノゾミはあまりにも愛されてしまった。"火の大精霊に"。


 水和家の本妻、ノゾミの母に不足はない。我が子への愛情ゆえに長きにわたる灼熱の苦行を敢行するに至った。


 属性相性を鑑みても"水のスペシャリスト"である母の目算はそう間違ってはいなかった。ただ、ひとえに埒外の火力ゆえにノゾミの母は焼かれてしまう。


 なんとか一命をとりとめた出産のあとノゾミは憎悪されるようになる。


 父と母から。

 そして、一族からも。


 そのような過酷な幼少期を過ごす。最初の記憶は封印しているものの、実の母から受ける折檻だ。


 寒い冬、凍った湖に魔封じの首輪をつけて沈められる。そのときの嬉々とした母の表情がノゾミのトラウマだ。


 いよいよ、ノゾミが炎理家の養子になるのは実の姉を半焼きにしたときであった。父はこの段になってはノゾミを処断する勢いだったが、そこに待ったをかけたのが炎理家の当主である。


 度重なる説得の末、そして大精霊の祟りを畏れた父はこれを譲り渡す。そのときにかつてないほど二家が親密になったのは皮肉なことだろう。


 ノゾミは売られたのだ。


 だが、しかし突然現れた火の寵児は炎理家にとっても好ましいものばかりではない。当主がノゾミを養子にして次期当主に育てると宣言してからはここでも冷遇された。


 いつしかノゾミは周囲を威圧して心を守る処世術を覚え、今日に至る。マエンから見てもそれが長く続くように思われたし、マエン自身の成り上がりたい欲求もそのことを肯定する。


 力を誇示してより高みへと昇る。マエンはもとは火の微精霊であり最下級の意思なき精霊だった。これを良しとした。


 ガイドエンジェルは冒険者との縁が強いものを引き寄せて誕生する。だから無属性に愛されたラクミヤエイのガイドエンジェル、ミカにも元の存在があるはずだ。もちろん薄幸の美少女ヒグレマナのエイポンにも。



 まったく他者を寄せつけない孤高の大天才ノゾミ。彼女はしかし魅力的で性別を問わず他者を惹きつける。

 そして深層心理では期待するものの毎度のこと裏切られるのだ。


 マエンは知ってる。

 ノゾミの繊細でめんどくさいところを。熱したヤカンを、沸騰したお湯を、誰が喜んで触れるだろう。


 眉を顰めて辛苦を飲み下し、笑顔を向けた幼馴染の少年を。

 同じ属性ゆえに彼女の熱に耐えられる許嫁候補たちを。ノゾミは群がる異性を無意識に試し、相手の表情に偽りの色があるかを重視した。


 厄介なことに、ノゾミは心底では"相手を焼きたい"という欲求が備わっている。これは生得的なもので彼女の性癖と化している。だからこそ、ノゾミの求める相手とは、たとえ焼き殺されようとも嘘偽りなく笑顔で受け入れてくれる存在に限る。


 マエンは確信していた。

 そんな奴いるはずがない。ノゾミが生涯独身を貫くも権力を使ってソレ用の相手を侍らすも自由だ。


 彼女の苦悩や悲運を知っていながら導く先は煉獄だ。


 近いうちに覚醒する。

 ノゾミはどうあっても火の化身となるだろう。人並みの幸せは望めない。


「あ〜どうしよっかなぁ。らくみや、あいつ少しは嫌がれよな〜。ヘンな気になるじゃんかよぉ〜」


 置いてあった木箱に座り、モジモジと太ももをこすり合わせる。


 フニャフニャになるノゾミを見て、天使マエンは絶句していた。


「くく、ははッ。あいつ嫌がらなかったッ……っふ、ふ、ふ〜。なんだろう、頭クラクラする……教えろ、らくみやぁ」


 マエンは思う。


 い、いや待てッ。ノゾミは大人たちの交渉で取り引きの道具に使われたことを忘れたことはない。


 それが理由で打算や偽り、思惑の色に敏感だ。それらの影をかすかに見てとるだけで警戒し二度と信用しないだろう。どれほどの人格者も聖人だってノゾミの才能や家柄の影響を考慮する。


 つまり、あの男はノゾミという一個人のみを見ていながら好意に比例して強くなる火力に、笑顔で触れ合える狂った人物ということになる。


 そ、そんな奴がいるはず……!?


『ノゾミ、モアイアイとの戦いは反省材料が多いんだメラ』

「………わーってるよ」


 ラクミヤエイ。

 異常な規模と強度の無属性魔法を扱う。極めて高度な魔力操作と空間把握、極端に負荷の多い身体強化など達人級の技を持つ。にも関わらず、脆弱すぎる肉体と憑依した魔力生命体のおぞましさ。


 元精霊であるマエンから見て純度の高過ぎる、怨念に類似した生命体が取り憑いていた。しかし闇属性ではない。

 純粋な無属性魔力の塊が、悪魔のように嗤っていた。異質に過ぎる存在だ。


「チッ……ラクミヤ。あいつデタラメなスピードで動きやがって、パンピーなら100回は死んでたぞ?」


 ノゾミとヒグレマナの二人はモアイアイから10メートル以上離れてなんとか投石に対応していた。


 得意の『火属性魔法』や『炎熱操作』は、高速で飛来する石には無意味。

 長射程の『炎蛇』や『魔弾』は届くが高い火耐性を持つモアイアイには効果が薄い。それ以前の話、レベル差がありすぎて反応速度が追いつかないのだ。有効なのは広範囲を燃焼させることだが、やはり投石は防げない。


『気持ち悪いくらい当たってなかったメラ。あの《オーラフィールド》というスキルが鍵だメラね』


 ノゾミはうなずく。


 ―――あの赤い球体に触れると、まるで魂までも支配される恐怖を感じて凍りついたのを覚えている。


 ヒグレは大丈夫だったみたいだが、それからは一定の距離を保つようにしていた。帰り道は背中で囚われてしまったが、そのときは自分も燃えていたのでよくわからない。


『ノゾミよりMPが多い時点で短期決戦用の必殺技でもないんだメラ。あれで成績上位者じゃないなんて。よほど筆記で落としたか体力のなさが致命的だったメラか』


 主席のシンドウオウは置いておき、次席以降とは少なくとも戦闘技能が劣っているようには見えない、とマエンは見た。

 ただ、ノゾミもそうだが特化型は弱点を突かれたら何もできないものだ。マエンの見立てではラクミヤも魔法を封じられたら貧弱な不健康男でしかない。


「あたしも似たようなもんだろ」


 ハッ、と鼻を垂らして笑うノゾミを見てマエンは思い出す。


 そうだった、席順は成績ごとに決まる。ラクミヤもノゾミもちょうど真ん中くらいの成績だ。


「火に強い相手に何もできない、投石は防げない。しまいには死にかけるわ。さんざんだった」


 つまるところ驕っていたのだ。大した準備もせず仲間も必要とせず5Fまで突っ切ったノゾミは敵の密度に一度、撤退した。

 だから、頭数を増やせば問題ないと判断していたのだ。


「だがよ、どうすりゃいいんだ、これ。あたしは防具を買って……そんだけ? ほかは? 武術なんて今すぐどうにもなんないだろ。…………あの、岩、頭にちらつく。絶対。避けらんねーよ、クソがッ……」


 遠方から一方的に命を狙われる恐怖と実際に死にかけたことから、ノゾミの視界でフラッシュバックが起きる。


 しかしマエンはそれほど心配していない。レベルアップによるアビリティ増加があればいずれ解決する問題だ。

 トラップモンスターであるモアイアイを探すのは難しいが、克服できる対象は多い。


「あ〜、どうすっかなぁ」


 髪を振り回して悩むノゾミ。


 しかし実際は、仲間二人の前で取り乱した気恥ずかしさや気まずさに行動が鈍って引き伸ばしてるだけである。


「あっ、いたいた。ノゾミちゃーん!!」


 白い目でマエンが見つめる頃。

 傾斜のある石造りの坂を、可愛らしい"切り株"が登ってくる。


「ん? おお、ヒグレか。なんだそのアタマっ!?」


 可憐な少女ヒグレマナは顔面以外をピッタリと覆う切り株のヘルメットをつけている、ちょこんと枝葉も生える。


「なんかすごいことになったな……」


 胴体は、木の板が連結したゴツゴツの鎧を装備し身軽な戦闘服の上から着ることで頑丈さを増した。足、手首も同様だ。


 全身を、兜、鎧、グリーヴ、バングル、四部位が揃うことで発動する装備の"共鳴現象"。


 装備スキル《木精霊の守り》はデメリットである《火脆弱》と引き換えにして《物理耐性》、《自然治癒》、『物理防御力+200』を装備者に与えるもの。


 スキル発動の証である葉脈のような発光が木目に沿って現れているが、マナのレベルは低く効果を十全には引き出せない。


「お、おぉ……ウッドシリーズ一式。そ、そこまで行くとかっこいい、な? え、えーと、武威猛々しいテキな、ね?」

「フツーにダサいって言っていいんだよ」


 切り株のマナがにっこり笑う。深い陰影ができあがるほど満面の笑みである。


「裏のある顔じゃねーか、それ! ら、ラクミヤなんて言うかな……その見た目」

「う〜ん。さすがマナ! ……かな?」

「……お前ら二人の関係がホントよくわからんな。……ヒグレんちに居候だっけ? 幼馴染とかも見た」


 ノゾミは事前にマナのSNSを流し見していた。そのときに身寄りのないラクミヤを自分の家に泊めてる旨をつぶやいていたのを知る。


「居候じゃなくて『同棲』だよ?」

「そこ、あえて訂正するんだな……こわ」


 別にノゾミはマナと旧知ではない。思ったことを言っただけだ。


「ん〜? でもノゾミちゃんも結構、目怖いよ。なんでもないふう装って私のことどうにかしようとしてるでしょ。肉を前にしたオオカミさん、みたいな? よだれいっぱい溜まってそう」


 そんなことはない、と否定しようとしてさっきまでの情欲を見透かされた気分になり言い返せなくなるノゾミ。


「…………っっ、クソッ。……先、行くぞ」


 ノゾミとマナはお互いに言葉を投げ合い威圧した。

 この戦いの勝者は決まったようだ。


『ひっ……』


 それを見ていたガイドエンジェルのミカが口を押さえて息を潜める。


 彼女は、先の戦闘でパーティの必要性に疑問を感じ始めたラクミヤを慮って仲間の様子を見に来たのだ。


『三角関係……女と女の戦い、とは違うわね……むしろ、ナワバリ意識……? タイミングが悪かったかしら』


「何してるのミカちゃん?」


 ガイドエンジェルはパーティメンバーの視界に現れることしかできない。当然ながら見つかったミカにノゾミが笑う。


「エイくんはなんて?」


 その詰問に飛び上がったミカ。


『べ、べつにっ。なんでもないわッ、それじゃあ……』

「ミ・カちゃん。エイくんは、なんて?」

『ぁ、ぅぅ………………ぅ、ひ、ひとりの方が効率がいいかも、って思ってる……』


 これもラクミヤのため、と言い訳したミカ。


「やっぱそうだよねー。顔、見たらわかるよ。全滅必至の戦いを独力で乗り越える……想定より、遥かに強いな。………私がエイくんを守る計画が台無しだぁ」

「過保護はよくないぞ? 束縛する女は嫌われる」

「一般論ありがとうね。それで、どこに向かうの? あの一見さんお断りみたいな店ではなんか買った?」

「んや、やっぱ素直にギルドショップにしとくべきだな」

「私もMPを活かせる方法がないか探したいからさ」

「へいへい」


 そうして二人は、自分に足りないものを埋めるため、足早に店を巡ったのだった。

他者視点ってどうなのかな? 間違いなく描くのは楽しい。味変にはなるよね……。だけど一番好きな作品は一人称を徹底してるんだけど、これがなかなか難しい。

 鏡に向かって話してるよりキツい時間では……? 


 次回は、また戻ります。ミカちゃんひらひら〜っ。


 メモ

 ウッド1〜 一式 木精霊の祝福

 ブロンズ5〜 一式 青銅鱗

 アイアン10〜 一式 鉄の防護 不屈

 ブラックアイアン15〜 ブラックコート



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