水晶広場のひととき
安全地帯に到着。
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[3F 第二水晶広場 ]
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「じゃ、またあとで」
安全地帯に着くも早々に、炎理さんは肩の力を抜かず防具を買ってくると宣言して、一人露店の立ち並ぶ一画に消えていった。
「大丈夫かな?」
「………ん? なんか言った?」
多少香ばしい匂いのするマナに問いかけるも彼女は彼女で反応が鈍い。あの自爆はそこまで衝撃的だったか……?
「はい、綺麗になったよ」
「うん」
生活魔法をかけても無反応だった。
パーティメンバーはいつでも位置がわかるし【ログ】に専用の『チャット機能』も追加されている。一人になりたい雰囲気を醸すマナから離れ、人で賑わう大通りを突っ切る。
「………なんだかなぁ」
不思議な心地だ、わずかな疎外感と少しの達成感が同居する。
だが広場までの通り道でやたらと視線を感じることにイライラだ。
あの目立つ二人がいないのに、銀河のマント効果たるや凄まじい。
他校の学生はもとより大人までもが明らかに注目するのだ。
それだけ、ブランド力があるということで、都市大手のレギオン『緋の王冠』に加入する卒業生も多く、それ以外だってパーティ単位個人単位で頭角を表しやすい。
そんな出世が約束された、未熟な高校生は"鴨がネギを背負ってる"ように見えるのだろうか。
パーティ勧誘はリーダーに言わないとわかりません、と頭を下げて。
ガラの悪い大人冒険者とは、いちおう話に乗って穏便に。
もし先に手を出されたら反撃して気絶させる。この三日間で対処はある程度固まった。対人戦の練習と割り切ろう。
今回は幸い、戦闘はなかったが、すれ違う人々の戦闘能力を予想してイメトレをしつつ『ギルドショップ』に入る。
地上の建物よりは簡素で実用的、だがさすがに露店ではなく、しっかりとした基礎の上に立った屋根つきだ。
看板はデカデカとしたギルドのマークが目立つ。
アイテム《勇者のバッジ》にも描かれる、暗闇に掲げる聖剣から放射状に光が放たれ悪鬼羅刹が墜落する図柄だ。
中に入ると、『道具屋』、『鍛冶屋』、『食事処』などが併設されるのを一望できる。
迷わないよう、一直線で窓口に向かった。
「はい、確かにお受け取りしました。お預かりした品々は地上に送り届けられます。またのご利用をお待ちしております」
モンスタードロップは嵩張るので、序盤はこうしてギルドに預ける。
《アイテムストレージ》の容量も限られるし、"全滅したら失ってしまう"。だから、これからも利用するだろう。
どの支店で預けた品も、地上で一括して売却できるので便利だ。
このサービスは『有料』で売却額に応じていくらか取られるが全滅して失うよりはマシだろう。
「ふぅ、神経、使うな……」
一仕事終えて、広場のベンチに腰掛けた。
「………」
視線の先にある、ごつごつした岩肌の天井からぶら下がる照明と、巨大な換気扇が回るのを眺める。
ドーム状の大空間には人の手が入りビルやタワーも建設される。
《魔力感知》を使って形状を調べたからそれが分かるが、パッと見は美観を損なわない。
ノスタルジックで西洋風の建物や街並みが多い中央通りから遠い位置、建物の影に隠れたように生えている。さらに薄膜を貼り付けて地上の風景を投影するなどしてなんとか誤魔化す。
ダンジョンは『観光資源』としての側面を持つ。
わざわざ危険なダンジョンに、非戦闘員の旅行者がやってくるのは不可解な気持ちになるが、この『星刻の大迷宮』は名前の通り"星の見える階層"があるそうだ。
毎日ボロボロに壊れる白道をせっせと修復するのも安全な移動を行うためであり、冒険者の安全云々は建前だろう。
改めて、混沌とした"異質な場所"にいることを再確認して、手を動かす。目をつぶって休みつつも、僕の周囲では多数の気弾や光る矢、結界のパーツになる歪曲したシールドが浮き上がり、それらの生産と操作をすべて同時に行う。
途中、何かのパフォーマンスと勘違いされたのでチップを受け取る用の器を形成して差し出すと、喜んだ外国人観光客は去っていった。
黒い肌をした銀髪の尖った耳。『闇森人/ダークエルフ』だろうか。
人類の一員として認められる『森人/エルフ』とは異なり、国交樹立や友好などの明るい話題よりはむしろ、反社会的組織『ブラックレギオン』関連のニュースが多いだろうか。
毒物の取り扱い、暗殺などを得意とする。悪いイメージが強い。
僕も実際に挨拶をしたのは初めてだった。彼らは、"邪法を使う魔王の手先"だとされ、"ダンジョンモンスター"としても出現する。なので、捕まえれば高値で売れるとも言うが、ギルドでは禁止されている。
ギルドの方針は、『保護と帰化』だ。ステータスを取得できれば冒険者の一員となる。
しかし、ここにも根の深い問題がありそうで、僕は立ち去った彼女のことを意識から外す。
庶民に寄せたファッションなのに素材や刺繍がやけに高そうだったとか。
シャツの下に隠したアクセサリーの内包する魔力が桁違いだったとか、遠巻きに監視してる凄腕がいるとか、そういうのを全部忘れて自分のことだ。
『友好的なダークエルフ氏族の族長の娘とか? まさかどこかの"王族"ってことはないだろうけど、権限さえあれば、ダンジョンは世界中を繋ぐ回廊となるんですもの。話してる言葉からしても"皇国人"ではなさそうね』
既存の言語にない、ダンジョンの向こうに広がる『異世界セレス』の言葉だろう。
『エルフ語』、『古エルフ語』、『王統アールヴ語』、なんかのいずれか、あるいは全く異なるローカル言語かもしれない。
「いやそれはいいんだって……! それにしても、スキル化、意外と遅いな」
強引に話を切り替える。考えることが多いと頭の中が混線して僕は"グズ"になるんだ、今は魔法、魔法。まっ・ほ・お!
『まっ・ほ・お!』
そうだミカッ!
『探知魔法』、『移動や浮遊』。『魔力鎧』、『広範囲の結界』。
『白透刃』、『部位ごとの身体強化』、『超強化』、『人体操作』、『貫通気弾』、『回復魔法』、『範囲攻撃の打ち消し』、などなど。
アーツスキルとして得られても良さそうなものばかりだ。
『ウーム。いろんなことに手を出し過ぎてるからかしらね……』
そうかな?
『大量のMPがあるせいで"コンパクト化"が後回しになってるのよ、普通は魔力が不足するのが先でしょ?』
なるほどな……。マナで考えてみる。
『93』ポイントのMPで何ができるか。これは僕のレベルアップ一回分に相当する。
「だからMPを1単位で削りつつ効果を維持するという工夫が足りない。エンリもそうだけど、なまじリソースがあるからスキルに頼らなくて済むものね』
その十倍の『1000』ポイントで何ができるか。
………そりゃあザルになるか。
遊びの範疇で軽くやって実現できることしか僕はしてない。
"反復練習"。
"技の洗練"。
想像するだけで時間を要するとわかる。試したことがすぐに実現される方を好んでしまうのが納得なほどに。
『ポンポポン。ラクミヤ。マナは装備を買ってから来るんだポン』
あ、ハイハイ。
突然視界に現れたメッセンジャーに手を振って了承の意を伝える。……マナは装備の購入か。何を買うんだろ? 僕の着る『革鎧クロースアーマー』も破けてる部分があるけど、まだ使える。
そして、無意識に見つめた魔剣の鞘をそっと手でなぞる。
こいつは、強すぎ便利すぎ。魔法で強化したにせよ、モアイアイの巨像を真っ二つにしてたのを思い出した。
あぁ、そうか。……アレのせいか………。マナたちの目線で想像してみると、確かにちょっと引くかもな………。
剣撃というより"解体"みたいな倒し方してたぞ。
ただ、白透刃のおかげで見た目の派手さほどの負担はないハズ。
魔剣自体も頑丈そうだが……と思い返していると、小鳥が囁くような声がした。
視界で、閉じられた【メニュー】の上にポップが現れた効果音だ。
ミカにお願いする。と、毎度のこと首吊り死体のように脱力するミカの背中から【メニュー】の一覧が表示される。
よく見たら、ミカの翼は"もこもこした作り物"のソレだ。ゆるキャラじゃないミカも、そこだけはデフォルメされてる。
しかし、もっと注視すると、翼の付け根部分は赤黒く変色していて生物的なグロさがある。まるで"羽根をちぎられた妖精"に、後付けで『フワフワの翼』を付け足したようにも見える。
『…………………』
目が合った。僕の視線に気づいたミカだ。彼女はこちらをグルンッと振り返って、無機質な目で、じっと僕のことを見つめていた。
―――糾弾するように、無言で。
「ンンッ」
さっ! 【ログ】の新規チャットを拡大表示させよう! 仲間のメッセージが並ぶやつだ。
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【ログ】
[エンリノゾミ:防具買ってからくる 少し待ってくれ]
[ヒグレマナ:アーっ! 私も防具をさらに新調しようかなぁ]
[エンリノゾミ:いや十分じゃねー? ]
[ヒグレマナ:そうかなぁ あのひと急に一人でなんでもしようとするから不安なんだよね]
[エンリノゾミ:あのひと、って嫁か! ]
[エンリノゾミ:とりあえず敗れた服とその上に鎧がほしいな]
[ヒグレマナ:私も耐久力アップと魔道具あたりを見て回る。……遠距離対策、どうやればいいんだろうね]
[エンリノゾミ:あれはまぁしょうがないだろ ラクミヤがなんで普通に戦えてたのか謎だ]
[エンリノゾミ:レベリングが先だろ? ]
[ヒグレマナ:五階行く前にまたあんなの来そうじゃん]
[エンリノゾミ:それはマジ勘弁な]
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雑談が始まったので流し見する。
炎理さんは防具、と。
まぁそりゃあ当然だ。《ヒートサンクチュアリ》オンリーでは厳しい。
モアイアイは強敵だった。――単体ならロックイーター以下なのは間違いないが、それが五体となれば話は変わる。
直感に従って、開幕速攻で撃破したからいいものの、ほうけて後ろで、陣形でも組んでたらハチの巣だったかも……。
学園やギルドは"パーティという単位"を前提にして僕たちビギナーを育てるつもりのようだが……? それってホントに上手くいくのか……?
『ちょっと、ヒグレたちを見てくるわね〜』
あ、うん。
珍しく行動的になったミカを、僕は見送った。
チャットっていいよね。ダークエルフさんらファンタジー種族はもっと出てもろて……。
それとエイくんがわりかし一人で行動できてることに感動……! まさか成長してるのか……?
次話は仲間の話です。モアイアイにコテンパンにやられ、エイくん一人で窮地を脱したことで、そりゃあ曇りますよね。




