動き出す人形
―――ヒュウッ
よこされた"岩の豪速球"は、投げられると空中で散らばり、びっしりと眼前を埋め尽くす"死の砲撃"となって迫る。
「っ!!」
途端、緩やかになる時間。
―――眼前に迫った投石の数々が見える。
大気をうならせる飛翔音が引き延ばされて重く聞こえる。
「ハァァア〜!!!」
駆け出した僕は、突出して二人を庇った。結界を抜けた凄まじい威力の投石を迎撃するべく幾度も魔剣を振るったのだ。
「ァアァアアァアァアア!!!」
大岩を斬り捨て、弾き落とし、バラバラに砕いた石つぶてが全身を叩き付ける。鈍痛の痺れを無視して、僕はその場で小刻みにステップを踏み続ける。
「―――――は、ぁ」
そして嵐は、止んだのだ。
置き去りにした時間が――ドッと一気に押し寄せる、極度の疲労とともやってくる。
「ぁ……はぁ、はぁ。……これ、《雷撃弩》よりキツいやつだ……」
次の瞬間、立ち止まった僕の後ろで、石材が砕けてヒビが入る衝撃音が複数重なり――遅れて通路の一部が崩壊した。
「つ……ぃたッ……かすった」
頬に鋭い痛みが走った。切れた皮膚から血が流れて、さらに耳もえぐられたことを知った。いっそ無くなったとすら感じる太ももを激痛が襲う。それらと引き換えに仲間は無事だ。
「………きゃぁあ!!?」
「………は?」
こんな物騒なものを、連携して放ってきた"殺人的布陣"をキッと睨むと――"投擲手"は次弾を装填する構えを見せた。
危機感が、最高潮に達する。仲間はやっと攻撃されたことに気付いてる。
――間に合わない!!
「―――速攻で決めるッ」
全力の身体強化だ。
スキルとの併用でカラダの各部からミシミシとイヤな音が聞こえる。
――さらに、HPが減少していく、自傷ダメージを厭わない本気の戦闘を覚悟した。
一気に――全速力で、距離を詰める。大穴を飛び越えて着地すると、左手の壁に跳躍。
―――ヒュゥン
「〜っ!」
背後で投石の音がした。ゾッとする音だ。風を切って襲いかかる多角的な砲撃をかわして、壁に激突した。―――膝を曲げる。
次の瞬間、弾かれるように空中をかっ切る僕の、視界全面でガラス質のシールドが音を立てて砕け散り背後に流れる。
「!?」
最も近くにいた、驚愕の表情を浮かべた巨像を目掛けて魔剣を叩きつけた。
「はぁあああ〜〜〜!!!!」
―――気合い一閃。
白刃を重ねる鮮血の魔剣が、モアイアイの顔面を打ち払ったのだ。
―――手応えあり。
最後まで振り抜かれた魔剣の、白と赤の美しいグラデーションが空中に弧を描いた。
そうかと思えば、巨像の鼻筋を真横に亀裂が走り、えぐられ、凄まじい衝撃が発生し向こう側まで吹き飛んだのだ。
「おぉっ!!?!」
そんな、大神殿を支える柱が突如砕けたような破壊を起こした――僕は勢い止まらず、バランスを崩して背中から床を転がる。
無防備を晒しつつも《オーラフィールド》の反応を信じて身を投げる。脳内に"描かれた弾道予測"を避けるように、地面を踊り、それから立ち上がった。
「なんだ、そりゃッ!! おまっ、ソレ剣だったのかぁ〜〜〜!?」
穴の向こうにいた彼女も、この事態に泡を食って合流した。
炎の領域を燃やし推進力を得て、空中を横断すると着地して開口一番これである。ついでに、目ん玉までひん剥いた。
『モアイアイ……物質・獣タイプのモンスターね。強力な投擲スキル《投石"ガン"》と《自己修復/オートリペア》の組み合わせで、いつまでも自分の顔を投げ続けられるわ!』
ミカが入手した情報を伝える。高速で流れゆく【ログ】と【ライブラリ】から使用スキルと内容を調べたのだ。
ちなみに、【メニュー】を閉じたままでも作業できるので『えっとえっと……』と調べ物するミカが視界の片隅に入り込むことはない。
――確かに、えぐりとった顔は徐々に再生しているな……。
それと、あの猿手の"握力"も相当なものだ。接近して掴まれてもヤバそうだ。
『あとあと! もう一つ! 連携スキル《チームワーク》で意思疎通も図るから厄介ね』
連携スキル《チームワーク》は、はらぺこウルフも持っていた。
会話を必要としない連携。――これも、すでに体感した。
回避先を潰すような息の合った同時攻撃、狙い澄ました投石は厄介極まる。
『数は五体。………だけどさっきので一体壊れたからッ、あと四体ね! ヒグレとエンリの二人には―――遠くで防御に徹してもらうのがいいわね! ハイレベルモンスターの攻撃なんて"ひとたまり"もないから……』
数は―――残り四。
先の攻撃をあと四度直撃させれば勝てる。勝算は――ある。
そして、二人はそうだな……。
一対一ならともかく。多角的に打ち出されたら回避は困難だ。
そして、当たれば、いとも容易く障壁を破壊する"即死級"の砲撃が人体を軽々しく吹き飛ばすだろう。マナと炎理さんの頭が――"スイカ割りのスイカ"みたいになる現実的なイメージを巡らせる。
「―――――ふたりとも防御に徹して!! ぼくがやられたらッ、エイポン回復を頼む!!」
思考加速はそのままに、僕は声を張り上げた。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
モアイアイたちは、仲間がやられたというのに微動だにしない。
反対の手を、握りしめた岩礫を、スナップを効かせて次々に打ち出したのだ。
ほぼ同時に到来する四発の砲弾は―――鋭い散弾となってバラけ接近すると、展開した多層の障壁に穴を開けて足元の地面を打ちつけた。
致命傷だけ、回避する。
「ふぅぅぅ……!!」
細かい破片が全身を打撲し、肌を切りつけた。
そこで、僕は床に倒れるように上半身を落としてアタマから一気に加速し、その緩急のついた動きによって次弾を回避。
「……………すぅ〜〜」
移動の勢いも乗せた剣撃を、今まさに距離を取りつつあった、敵にお見舞いする。
「―――らぁっ!」
しかし、今度は全力ではない。巨像から伸びる"猿の手首"を撫で切りにして軽やかに引き戻すのだ。
そうすると、片手を失ったモアイアイが金切り声をあげる。
「ンんんんキィぃぃぃイイイ……!!!」
そのモアイの懐にちょうど"雨宿り"するみたいに隠れると、すぐに装填された敵の援護射撃が足元を打ちつけ、しかし、一瞬で過ぎ去った。
手負いのモアイアイは仲間との連絡をとったのか――まるで背後に目でもあるかのように迷いなく移動する。
細長い手を使って後退し、遮蔽物にならぬよう努めるのだ。
―――しかし、僕の追撃が間に合う。
もう"片方の手"を斬り落とす。
その時点でもう一体――別のモアイアイの両腕を"光る矢"が多数貫いた。
僕の背中で光る"妖精の羽"は、その骨組みがちょうど矢状に尖りつつある。
モアイアイを即死させた全力攻撃の瞬間は無理そうだけど、それ以下の剣攻撃に連動して矢を放つくらいならできる。
満タンにした《オーラフィールド》に伝わる情報を精査する。
自分を中心としたごく狭い範囲のみ、敵の攻撃予測が可能だ。
やつらはその見た目からは考えられないほど高速で動いた。
当たれば"交通事故"にしかならない突進と即死の遠距離攻撃を持つ、しかもロボットみたく理詰めでやってくると来た。
だが上手く位置取りすれば、射線を切れた。
「《アロー》」
【ブック】由来の"本命の矢"は追尾する。――猿の手を磔みたいにした。
「ボォウッ!?」
アイツは、もう投げられない。
食い込んだ矢の形状は維持したまま魔法的に固定して、次なる投石を阻害する。
『―――二体の無力化に成功……あと二体ね! 遠距離攻撃手段を奪えたらあとは全力で一気に倒すだけよ! "チョコチョコ"はダメよ? 最初みたいに一気にやるの!』
モンスターはジリジリとHPを失うと段階的に強化されたり、切り札的なスキルを使うことがある。
「………」
「………」
僕を囲む"二体の手負い"を壁にする。
射線を切りつつ戦況を確認だ。
ミカの言う通り、最初の一体は―――"即死"だった。感触からしてそうだったが。ピクリともせずHPもゼロ。
そして今、目の前にいるやつは巨岩の人面をクシャクシャにして憤怒を表す。が、垂れ下がった両手首から、おびただしい量の出血があった。
見るに、この猿手もスキル《自己修復/オートリペア》の範疇なようで急速に傷口が繋がっているのがわかった。
僕の全力戦闘が続く時間も――残り少ない。十秒か、二十秒か―――三十秒はムリだ。速攻で決めるしかないッッ!!
「「「「ぬぅゥゥンンん〜〜〜〜〜〜!!!!!」」」」
しかし、そんな僕の思惑を外すように視界の全面が濃密なプレッシャーで"軋み"を上げた。
四体が一斉にプレッシャースキルを発動して共鳴し合う、至近距離かつ、初めよりも馬鹿げた威力だった。
「―――ぐぅ、ぉおおおッ、だいッ、火葬ッッ!!!」
遠目に見えた炎理さんが燃え盛る。と――即座に離脱した。
向こう側のマナは取り残されて地面に倒れる、ロックイーター戦を彷彿とさせるダウン中、意識があるだけマシだろう。しかし狙いを逸らされたらまずい。
なので、モンスターを完全に釘付けにするため挑発を行う。
「このざーこ、ざーこ! お前ら、みんな僕一人で十分なんだよッ」
低レベルな煽りをしつつ自身の消耗を強く感じてフラリとする。
水中をもがくような、息苦しさが続く。
敵の目標は、もちろん最接近した自分だが牽制のために一つか二つはマナたちにも寄越している。全個体の"目"が合わさり、頭上から誰かに指示されているような計算された配分は―――
なるほど、ロックイーターとはまた違う種類の"デストラップ"なのだと理解する。巨像の瞳は生物的で、しかし視界ではなく《魔力感知》に相当する知覚力を有するのだろう、そんな動きをしてる。
『………ミカ、ぼく………どうすればいい』
思考が朧げになる。
意識を保つために明確に、問いかける。鉛のように重い自身の体とは裏腹に―――視界では何の動きもない。
『―――戦うのよッ! 勝つまで!! 最善を尽くして!!!』
シナシナに枯れて干からびそうな僕の心に情熱が注がれる。
同時に、疾風のように走り去った僕は敵陣に食い込み、翻弄する。
「―――ブブブブンッッッ」
僕の背後で、矢傷を負った個体がぐるりと振り向く形となる。
振り向いたモアイアイの顔面に光る矢が飛ぶ。
それは瞼を閉じてガードされたが。少しの時間は稼げる。
「……そっちも……手をっ………よこしてもらおうか」
今度は右側前方にいる"無傷"の二体を狙おう。
とくに一番遠い個体が"炎理さんたちの係"だ。なのでスキル《投石ガン》の発動に合わせて【ブック】から取り出した《グリッターボール》をよこす。
「…………ッ!!!」
直前までは完全に、僕から視線を切っていたヤツだったが、異常な反応速度で狙いを変えて、なんとかコレをぶつける。
「っ!?」
爆発が起こった。気弾の衝撃波と岩礫が弾け飛び、猛スピードで接近した流れ弾を、二、三、魔剣で切り払う。
「……………ふ、フッ…息がッ」
―――もたないっ!
続けて、左手をかざす。
その先に、無傷の個体がいるからだ。
僕は、左肩から転げるようにしてぐるりと回り込み、『三連の気弾/トライ・グリッター』の一発目を巨像の底部に押し当てる。
残る二発を、頭頂部に狙い誘導し、巨像が仰向けに倒れかける。
「ヌググググッ」
しかし、頑張って踏ん張りそうなので、いっそ、僕が飛び乗ってからその"凶相"に直で触り、追い打ちを仕掛ける。
―――ズシィンンン、と、重厚な音を響かせて倒壊したモアイアイ。
『……追い詰めたら《じばく》するからレッドラインを越すときは一気によ。イイっ?』
―――ミカ、オーケー。
そのまま、倒れたヤツの手首を切ろうと武器を振り上げると―――背後から急速に接近してくる気配あり。
バッドを振るみたいなモーションだ。
残念ながら――そのバッドは二本ある。
「ふっ、くッ」
飛び上がる。
足元で軽快に破られる障壁の残骸がキラキラと光り輝いた。――そして、時間差で振るわれた二本目の、巨像のスイングを空中でかわすため、勢いよく魔力を噴射させる。
「うぅ、ギぃっ」
腰を無理やり捻り、方向転換する僕の頭は天地が逆さまになる。
―――ブゥン
前髪が揺れる。スレスレで空ぶった巨像のスイング。紙一重で見切った。
それから、反撃の確実性を上げるために、カラダを魔法で微調整する。
―――ぐぅおぉっ! 痛ぇぇえええ!!!
精神で絶叫しながら、天井に足をつき、進行方向を決めた先に―――
「!?」
ハッとしたモアイの、驚愕の表情があった。
それが彼の見た最後の光景だろう。
一刀両断。
魔剣を覆った白透刃が吐き出される。巨像をスライスする、体内にあった鉄柱にも似た魔石ごと寸断された、心地よい感触が残る……。
一体目と同様だ。
『―――やったッ! イケるわ!! ハイレベルモンスターの奇襲を乗り越えるなんて……!! この勝負勝ったわッ!』
気の早い勝利宣言。
感動の涙を流すミカにデジャブを感じて、「やめろ」と言いたくなるが、その一方で、着地したカラダは悲鳴を上げ続ける。
「………よ……よしッ、イケる……けど……目、真っ赤だ……カラダは……どこもかしこも熱い。痛い。戦闘に支障が出る………」
腹部が灼熱を感じる。
筋肉のリミッターを外した。魔法が無理やり駆動させた人体は――骨がひび割れ、血管が破裂し、絶賛悲鳴を上げ続けている。
視界は、当然のように真っ赤だ。
『《裂傷》、《骨折》、《筋肉断裂》、《内蔵破裂》、など多数を含むバッドステータス《重症》ね!』
ここに来て―――僕は、"要介護者"となった。
エイポンの回復ではとても賄えない全力の身体強化、その反動により僕は、もはや自立歩行もままならない状態。
全力戦闘できる時間は終わった。――肉体が音をあげるカタチで。
「………ハァハァ……まだ……まだだ」
かろうじて立っていられるのは魔法があるからだ。MPが許す限り、僕はいつまでも戦える。
この戦闘に勝利できる水準はカラダを酷使することでしか実現できなかったのだ。……あの炎理さんですらモノの数に入ってない。
―――さ、戦闘の続きだ。
意識を保つ。――オーラフィールドの維持。―――カラダを基点にした"魔法人形"。
あまりにもろい自身のカラダを恨みながら戦闘のカナメを強く意識する。
『………素朴な疑問だけど―――それって痛くないの?』
ミカが疑問を吐露する。………いや痛いよとっても。……頭、チカチカする。でも回復魔法の練習になるだろ?
『だからHPの最大値が減ってないのね! 治療中だから』
そうそう。
パフォーマンスは落ちると思うけど、"予約した動作"を実行するので戦闘は成り立つだろう。
「―――『マリオネット』」
さぁ、第二段階のスタートだ。
大量の魔力が蒸気となり、急速なMP消費を示した。
左手をつき、倒立するように体を持ち上げて伸ばした両脚から、一気に加速する。
通常とはまったく違う動きだ。
放物線を描いて、手首を回復中だった個体と対面した。
「……!!」
「ほっ」
モアイアイの頭突きを、横移動してかわす。
本体の僕はいま握力もないので、"二人羽織"するみたいに魔剣を握ってるのが現状だ……。おそらくアクティブスキル《スラッシュ》の成功がしにくい。
―――そうだッ! 魔剣よ、戦え!
『………!!』
その意思に応じて、浮き上がった魔剣が手元を離れる。
そして目の前でブルブル震えると、途端に大口を開いて一斉に、鮮血の触手群を創造し、モアイアイに絡みつく。
まるで、イソギンチャクみたいだ。
「―――ふぐぅっ……ふぐぅ……!!」
思ったよりショッキングな光景だった。――あと、聞こえる悲鳴は"自分のもの"だ。微細な振動だけでも激痛が走るので、それら反射をねじ伏せて、ほとんど魔法だけで動かす。
―――今は、意識だけで浮き上がり、"自分の後頭部を見てる視点"でオペレートしてる。
生きた魔剣がうぞうぞとモアイアイに絡みつくと、今度は触手に埋もれた"ホワイトソード"を固定して縮小を始めた。
さながら、打ち出したパチンコの玉みたいに一瞬で消えたホワイトソードが――巨像の真ん中を貫くと魔石を貫き砕いたのがハッキリとわかった。
爆音をあげて倒れ伏した巨像と、それに突き立つ魔剣のオブジェ。
「はー、はー、はー」
見た感じ、剣事態にも負荷がかかったようだがまぁ大丈夫か。
それと、なんかチュウチュウ吸い取ってるけどいいんだよね? ミカ。
『ぅぅん? それよりもアンタの心はどうなってるの? "助けを求める声"と"冷徹な思考"が二つあるじゃない………』
そんなこと言ってもさ。―――助けられないんだからしょうがないよ。
『………………魔剣は倒したモンスターの魔力を糧に成長、するみたいよ。あんまり出番がないからイキイキしてるんじゃない?』
結構使ってたけどなぁ。今度は装備に気を遣わないといけないなんてイヤだぁ〜。
「―――あっ、あっ、あっ」
そんなとき、とうとう操られる僕が変な声を出し始める。
激痛で脳天がカチ割られたような記憶があるので、あまりの苦痛に喘いでいるのだろう。
「――――もうゆる、して………コロシテ……コロシテ………」
なんか、自分の尊厳を踏み躙ってる気がするけどしょうがないよね。
―――だってまだ戦いの最中なんだから……。
モアイアイ
Dランク。獣と物質タイプ。殺人的な砲撃を繰り出す強敵。仲間との連携で最善手を投げてくる。"イースター島の守護者"。
魔剣
生きた武器。元々の剣を中心にパカッと大口開いて大量の血の触手を出せる。キマればモアイアイを一撃必殺!
マリオネット
自分自身を操作する無属性魔法。"生体の反射"や"もう戦いたくないという意思"を捩じ伏せて動けるようになったぞ!




