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毒沼を超えし女傑

初戦闘!

___________________________________________

【ログ】

[モンスターが現れた!]

[かぎづめモグラが現れた!]

[ポイズンスライムが現れた!]

[おどるオニオンが現れた!]

___________________________________________



 タタタン、と滑らかに戦闘曲が鳴り始め、仲間が武器を構える。


「Fランク『かぎづめモグラ』と『ポイズンスライム』、『おどるオニオン』だね! ―――エイポン、加護だけちょうだい!」

『ポンポポン。――《エンジェルブレス》だポン』


 マナとエイポンが迎え討つ。


『メラメラメラ〜〜。……くっ、これみよがしに……! わっちの《プチファイア》があれば敵なんてイチコロなんだメラぁ』

「おいマエンは手ェ出すなよ!」


 メ、メラァ〜〜〜、と泣き声がする。


 『移動フェーズ』は手持ち無沙汰な二人が気炎を揚げた。

 それなら援護に徹しようか?


「シャシャシャッ、シャァ〜ン」

「ヌゥ、ヌゥ〜ン、ヌゥンボォ」

「………………テケテケ……ッチ、テケテケ……ッチ」


 勢いよく滑走して白道に現れた"巨大モグラ"。

 遅れて、波打つように迫る毒々しい"紫紺のスライム"。

 最後に、クルクルっとターンしながら歩いた"紫玉ねぎのお化け"。

 頭頂からは爆発するパイナップルみたいなフワフワなネギヘアーを垂らす。


 ―――ぶ、不気味すぎる……!!



『思った以上にグループ出現が多いわね』


 数はチカラだ。


 一匹のモンスターを囲んで叩く戦法が通用しにくいと"事故"が増えるのは先の教訓。先んじて相手のスキルや行動パターンを学んでいても思わぬ不意打ちを受けるのが"対グループ戦闘"だ。


 開きっぱなしにした【メニュー】ウィンドウの奥でモンスターたちがプレッシャーを放った。


「っっ……はぁああああ!!!」


 それに出鼻をくじかれたマナ。そのお返しとばかりに咆哮する。マナは両手で盾を持ちスタイルだ。


「シャァアッ」

「ハーッ!!」


 向かうは、ドリル回転して跳ねるように突撃した巨大モグラ。

 時速数十キロの突進はそのままに、"凶悪な爪"を繰り出す。――鉄板がひしゃげるような音が響き、攻撃が決まった。


「あぅッッ」


 マナが体勢を崩す。――HPが微減した。ダメージは『12』。


 両手持ちで踏ん張るつもりが上半身ごと吹き飛ばされる形だ。


『《エンジェルヒール》だポン』

「―――《ファイアボール》!」


 失われたHPを"天使のハート"が癒す中、明らかに普通より大きい"火球"がマナの頭上を追い越してモグラを燃やす。


「っしゃあッ」


 もう一度、シャアッ、と鳴いて炎理さんが拳をあげた。攻撃の成果に喜ぶ。彼女の胸元には――"ドラゴンの骨組みで作られた魔導書"が開かれてる。


『…………』


 ―――ッ!!


 そのドラゴンの亡き骸と目が合った気がする。


「へへっ、もいっちょいくぜぇ!!」

 

 実際大火傷を負ってのけぞり、転がったかぎづめモグラが見える。

 ヤツは、地中からの"奇襲攻撃"や先ほどの爪撃モールクローが得意な"近接アタッカー"だ。


「……うぅっ!!」


 なんとか立ち上がるマナに、今度はポイズンスライムが攻撃を仕掛ける。


 名前の通り、触れたら危険な触手を伸ばすし"毒弾"も吐く。

 パッシブスキル《どくどくボディ》により、不定形なカラダのどこに触れても相手を"毒状態"にできるのだ。『解毒薬』を取り出そう。


 そして、存在そのものが意味不明な、おどるオニオンは《キテレツなダンス》を披露して"単体のMPを奪いとる"のだ。


 この二者の繰り出す特殊なコンビネーションが決まった。



「ぅぅァああッ……イタイイタイっ…目が見えないっ………たすけてえいくんっ」


 それら集中砲火を浴びるマナは、エイポンの加護が通用せず状態異常《毒》に陥った。


 毒の症状は様々で、まず確定なのは"継続ダメージが入ること"。

 今回、マナはそれに加えて"視界不良"、"倦怠感"などが見てとれる。

 視線が虚ろで、顔色が真っ青だ。



___________________________________________

『ヒグレマナ Lv.3』

【HP】 97/100

【MP】 78/93

【状態】 《毒》

___________________________________________



「ウフッ……」

「大丈夫だよっマナ! 頑張って!!」

「………えいくん……」


 応援して見てる感じだと、動けば動くほどに体全体に毒が回って苦しみ"ダメージ量"も増えるのだろう。エイポンの小回復と毒のダメージという快不快を同時に注がれ、苦悶の表情になったマナは―――"綺麗"だ。



 さて、教わった対処法は、安静にして『解毒薬』を飲む、というものだが、戦闘中にポーチから取り出してのんびりと回復できるハズもない。

 エイポンの回復で10ポイント分だけ持ち直すのが救いだな。


 苦しげに喘ぎ、一回の"ダンス"でマナのMPが『10ポイント』以上奪われた。立ちくらんだマナを容赦なく"毒の手"が殴る。


「―――きゃっ」


 太い触手が張りついて盾の防御をジャマされたのだ。横から別の触手が殴り付けマナは"くの字"に折れ曲がった。

 派手に地面に叩きつけられる。


 ―――攻撃のすべてで染み出す毒液……。厄介な相手だ……!!


『HP……残り70%……! ヒグレが毒でこのまま死んじゃうわよ!?』


 ハハ、ミカは心配性だなぁ。


『ちょっとアンタね……引くわよッ』


 マナのMPの最大値は『93』だ。なのでダンスを合計10回ほどくらえば―――MPの不足で死ぬ。ということになる。


 マナ一人なら現状を打開できないまま、敗北するだろうな……。


「すまんヒグレっ! 手間取った!」


 紅蓮のポニーテールがひょこひょこと目の前で揺れる。

 二発目のマジックスキル《ファイアボール》が放たれた。



 ――――オァアアァアアァアアァアア……………


___________________________________________

【ログ】

[かぎづめモグラが 86 のダメージを受けた!]

[かぎづめモグラが死んだ! (HP:0/109)]

___________________________________________



 それによって死にかけだったモグラの"息の根"を完全に燃やしきると、彼女は前衛の位置にいるマナとエイポン、マエンに加勢した。


『《プチファイア》だメラッ!』


 さらに、方針を変更したのか。火にめっぽう弱いオニオンは、『天使マエン』の放つ"ビー玉サイズの炎"でも狂ったように暴れてHPを微減させた。―――が……それでも彼は、最後までしっかりとダンスを踊り切った。


「ぅキュッ……!?」


 対象にされたマナのMPがまたしても目減りし精彩を欠いた動きになる。と、倒れ伏したマナを、幾度も毒手が襲った。


 純白の戦闘服はその度に光を放ち、着用者を保護するがダメージを無効化するわけじゃない。


『《エンジェルヒール》っ、《エンジェルブレス》っっ』


 必死な形相のエイポンが10秒間のクールタイムを恨むようにスキルを使う。


「ぁッ、かはッ……ぅぅきもちわるい、しんじゃう……」


 しかし、癒したそばから追撃されるので、マナは毒状態のまんま。

 "確定な小回復"を祈るような戦い方をするしかない。

 這いずるようにして肘をついたマナが一度だけ横目で僕を見た。


「―――ッ!」


 目が合った瞬間に、僕がどんな顔をしていたのか不明だが、すぐに振り返ると、マナは荒ぶる猛獣のように敵を睨む。


 涙を流して唇を噛み切った悲壮な顔。

 《魔力感知》で伝わる。


「《ファイアーボール》……!! ラクミヤ寝てんのかッ」


 まもなく放たれた炎理さんの大火球が盛大にオニオンを燃やした。

 ――ジュウジュウ、と溶解性のある汁を飛ばしてオニオンが床をのたうち回る。



 ―――テケェテケェテケェェエエェエエェエエェエエェエエ



 不気味な絶叫が響く中、ようやく決心したマナの反撃がポイズンスライムの触手を一本、切り捨てたのだった。



 ―――ここまで、1分間と少しだろうか。


 突如開かれた戦端から短い時間に高速で移り変わる戦況。

 逐次変化する敵味方の状態。ほんのわずかですら目が離せなくなる。


「おもしろい」


 実のところ炎理さんを突っ込ませればスキル《ヒートサンクチュアリ》のみで三匹とも炙り焼きにできるだろうとは思う。

 けど、物理攻撃が得意なモグラの突進が刺さるかもしれないな……。

 そう考えると、やはりマナは必要だ。――客観的に見て、このパーティはマナだけ特筆する技能がない。


 剣士としては頼りなく『盾役/タンカー』をするにはガタイが不安、マナは健康的な美少女ではあっても決して"女傑"ではない。


 そうなると、索敵や警戒を主な役目とする斥候役/レンジャーかとなるが。その場合は僕と違い、文字通りの"捨て石"にしかならないので却下した。


 戦闘・探索、そのいずれも貢献できない人員は俗に言う"足手まとい"。荷物持ちができればまだ役目はあるというくらいだらうか。


 僕も炎理さんも、一言だって口にしないがマナは率先してドロップアイテム集めをするくらいだった。


「よかった、よかった」


 心底、安心して本体のポイズンスライムに飛び込むマナの後ろ姿を眺める、そんな僕にミカが何か言いたそうだ。


「………ミカ? なにか言いたいことがあるならハッキリ言ってよ」


『なんにもありませんよぉ〜だッ。確かにアンタはMじゃないかもねっ! 他者にだってソレを強いるからっ』


 ベェ、と、はしたなく小さい舌を使って僕をからかうミカに心底イラッとした。


「……確かにステータスの格差が出てるなとは思ってたけど………その分、HPを捧げればなんの問題もないね」


 一般的にパーティは、同水準のもの同士で組むものだ。

 そうでなくては不平不満が出る、しかしマナがこうやって死に物狂いで戦うなら炎理さんも文句はないだろう。


『まぁ文句があるならアンタに対してよね……』

「うるさいな」


 さっきから、なんだかシャクに触る。


 その感情が伝わったのだろう、怒気を表して一瞥したミカはすぐ涙目になった。


『〜〜! ごめんうそうそっ! アンタがしたいようにしていいわ、本気で思ってたわけじゃないから。……ねっ冗談だったの、わかってるでしょ? ―――ね? ねっ?』


 卑屈な笑みを浮かべて謝ってきたので、少し驚いた。

 必死に、許しを乞うようなミカのその態度に既視感がある。


「……う、うん。ほら一緒にマナを見よう」

『……ぐすっ。……う……ぅん、わたし否定しないからっ。アンタがもし! 私利私欲で仲間を傷つけたくなってもわたし止めない……!』


 そんな、難しい話だったか……?


 肩に止まったミカがヘンに決心するのを見て、僕は"底無しの泥沼"に沈むような心地となった。……ミカの不安定さは僕が原因なんだろうか……。



 ついに、マナが盾を放り捨てガムシャラに突撃したのが見えた。

 襲い来る触手を豪快にスイングしてはたき落とし一気に距離を詰める。


「こんな程度ッ、私だけで、十分だッ!!!」


 マナの剣の扱いは、業物のホワイトソードが哀れなほど。

 剣筋や剣技がどうのこうという以前にまず『剣』を扱ってる自覚がない。


 これまでに目撃した多くの剣士のソレと比較するまでもなくテキトーな握りで、刃先の接触を考慮しない。


 刃の側面で叩くような無茶な取り扱いに"剣が鳴いて"負荷を伝える。――まるでフラインパンで叩くようなものだろうか、そんな音だ。


 だが、これは練習ではない、"殺意の具現化する毒手"を前にして怯まず立ち向かう勇敢さに見惚れてしまう。


 これこそが冒険者だ、と思わされるのだ。


「おいヒグレっ! 下がれよっ誤爆しちまう」


 防御を捨てたマナの勢いはポイズンスライムの、ところどころが透ける肉体の懐にすっぽりと収まった。


「……ぉぉおおぉおおおお!!!」


 優しく抱擁される"猪武者"が大量の触手に囚われる。急速に減少していくお互いのHP(生命力)。


 "超"接近戦では、手当たり次第に振り回す剣がどこに当たってもダメージを叩き出す。それは、弱点の魔石を探すとか効率的な剣筋を見つけるとか、そういう僕の計算じみたものをすべて吹き飛ばすに十分だった。


「ああっ! さすがマナだ……」


 剣のグリップを掴んで決して離さない力強さ。

 剥き出しにした歯と荒々しい吐息、吐き出されるツバ。


 マナの勇姿が、高精細に記憶される。


 相手が倒れるまで棒切れを振り回すだけの豪快にすぎるバトルスタイルを、かっこよくて痺れる彼女の生きざまを。


『ラクミヤ、何を、……そんな顔で見てるんだポン。……お、オマエならッ、どんな手段でも助けられるんじゃないか、……ミカも何か言ってくれポン』


 そこに、無粋な天使が視界に割り込む。


『ムリよ。こうなったら、もう……私も止められないから……』



 ―――見ててね、エイくん! と。



「ゴポぁッ……っぷゥぁア……っっぐ、ベアッ」



 毒沼で溺れ死にするマナがハッキリとそう言ったような気がした。


 二匹の天使が炎とハートを放つ先に、落としたゼリーみたいな、ぐずぐずのポイズンスライム。


 その中心に屹立する"女傑"が、ホームランを打ったと言わんばかりの快音を出して勢いよく魔石を場外にヒットした。


 そして、勝利の雄叫びをあげてから力尽きるように倒れ伏したのだった。



 ―――大激戦は、マナの勝利に終わった。


マナちゃんとエイくんはお互いに離れまいと頑張ってるみたい。強くなるには、死にかけるのが一番早いと学習しちゃってるもんね。

 ―――なぁノゾミちゃんこのパーティに入ってよかっただろう?


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