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トラップ責め

続き


「………アッ。さっ……さすがッ! 『特待生』の一人だね……」


 笑顔の引きつるマナ。


 この世の不条理を目撃した顔を、どうにかして作り替える。


 一連の"蹂躙劇"はなんの気負いもなく行われ、MPもわずかに減ったのみ。紫色のバーの右端にほんの少し、隙間ができた。


「世辞はいいからッ。先にいこーぜ? 楽宮と『オレ』がいればこんな雑魚なんて相手にならねーよ」

「………………ふ〜、そうだね……」

「うん! 炎理さんがいればひとまず火力は不足しないかな……。じゃあ僕はマナと一緒に『前衛』か『中衛』寄りで援護に徹するべき……?」


 イメージをめぐらせつつ、戦闘モードの炎理さんは好戦的な性格になるようだ、と感じた。轟々と燃え盛る白髪が美しい。


 それにしても、『オレ』か……。気持ちは分かるな。僕もいつかは……。




 移動中。

 一番前を歩く僕は『斥候役レンジャー』だ。『索敵・警戒』を担当し、魔法を使って常に敵の位置を把握し【マップ】に反映させる。

 これはパーティで共有できる。

 さらに念入りに通路をチェックして可能な限りトラップを無害化する。


 パーティメンバーは蛍光塗料を塗ったように発光させた僕の"足跡"を踏んで進むだけでいい。


 まだ同業者の数が多いので、モンスターもトラップも分散するが……アレは!?


___________________________________________

[トラップ《大玉転がし》が作動した!]

[冒険者を轢き殺す!]

___________________________________________



「―――炎理さん! 『大玉』の破壊よろしく〜!」

「おうよッ!」


 最後尾から現れた炎理さんがジャンプして両手を鉤爪状にして振り下ろす。


「―――『ドゥゥルァゴンズクロォォオオ』!!!」


 かなり舌を巻いて放った技名。両手から射出された『赤熱した竜刃』が、ツルツルに磨かれた『大玉』を輪切りに溶断する。


「『三連気弾/トライ・グリッター・二連』」


 前方のパーティが作動させたトラップ《大玉転がし》は、シンプルに冒険者を"轢き潰して"大多数に迷惑をかける厄介な罠だ。


 分割された大玉の群れに『六つの気弾』が断続的にヒットして軌跡を残す。


 ―――いくつもの破砕が起き、そこかしこに破片が散らばり、やっと勢いは止まったようだ。



「すまーん!! 大丈夫だったかーー!!?」


 そこに大盾を持った戦士がやってくる。彼が一生懸命大玉を弾き返そうとして、逆に、通路側に弾かれたのは知ってる。


 唐突に天井からスロープが生えてきて急加速して打ち出された大玉を受け止めるのは、つまり"死ね"ということだ。

 回避に専念した彼のパーティメンバー含めて頭を下げている。


 ―――故意ではない。仕方ないと言えるだろう。


「すまない。そちらの損害は?」

「………いえ、軽微です。………先を進んでも?」

「ああ。引き止めて悪かった。―――気をつけてな」


 緊張して声がけした大学生くらいの戦士と、手短かに会話する。

 ハキハキした口調だったが、無用なトラブルを生まないように意識して愛想良く振る舞っていたように思える。


 回避必須のトラップを破壊して進める僕らを見て、脅威だと判断したのだろう。


 僕らが、曲がり角を過ぎた頃合いになって雑談し始めた彼らの言動をつぶさにチェックする。



「………『星刻学園』、か」

「今年の一年生はなんていうか凄いらしいからな」

「………うん。絶対、怒らせたらダメだったよ! とくにあの二人……魔力量が"師匠並み"だった」

「え……? 師匠って、たしか、大魔術師/アークウィザードだろう?」

「ヤベェな、自己紹介くらいしときゃよかったんじゃ?」

「彼は終始ニコニコ顔だったが……圧力が凄かったからな。とても会話する雰囲気じゃなかった……」


 畏れや警戒はあっても悪感情や敵意はなし、と判断。

 

 探索を再開しよう。


「エイくん。どうだった……?」

「ん、大丈夫そう」

「下で妙に絡んでくるウゼってーやつがいたならなぁ」


 ダンジョン内で起きる『対人トラブル』は大勢の人が集まる必然だ。モンスターやアイテムの『横取り』、トラップやモンスターの『押しつけ』など、悪意を持っておこなった相手には毅然に対応しなくてはならない。


 炎理さんが言ってるのは、美少女二人が目当ての出会い目的だ。

 二人ともポニーテールで、マナなんかはキャップとマスクも着用してるが、そんなことで際立った存在感をなくせるはずもない。危険なダンジョン内ですら……いや―――だからこそ絡んでくる輩が多い。


 ドスを効かせて、付近を爆発させた炎理さんにはもっと驚いたが……。



「エイくん。MPが50も減ってるね」


 ほんの数秒間、止まっていた僕の肩をマナが揺らす。


「……ああ、うん。ちょっと遠くまで見えすぎたからね」

「たまにそうなるけど、エイくんがどこまで見えてるのかわからないの私、怖いな……」

「【マップ】を見るに、少なくとも"半径30メートル"は余裕らしいからな、実際はもっとだろ……?」


 気遣わしげな二つの顔を目視すると、遠方のノイズが一瞬で霧散したのを感じた。


「まぁね」


 『探知魔法』と『聴覚強化』の出力を最大まで引き上げれば、ダンジョン3Fのほぼ"全域"を収められる。


 『思考加速』だって飛躍的に進化している。《無属性魔法》スキルと《オーラフィールド》の魔法強化、そして、"脳に限定させた"《ブースト》を併用することで今や体感時間は"数十倍"に引き上がる。


 だからと言って、それと同じスピードで動けるわけではないが、罠の察知でも抜群の反応性を得られる。


「行こう」


 四方上下、カナリア役の僕が異変を察知して先行する。

 通路の奥に向けてコミカルなほど多数の罠が作動した。


「―――くっ」


 僕を囲んだ真紅の結界/オーラフィールドに"鋭い矢尻"がかじりつく。毒の雨が降り注ぐ。結界の傘が頭上を暗くした。


 こうして罠を無駄打ちにさせ、仲間の安全を確保する。

 目前の戦闘が終了したパーティを追い越し、少し進むと―――右斜め前……唐突に突き出た砲から吐き出される"電撃"。


 その通り道には、もちろん僕がいた。


 ―――瞬間、加速する。


 引き上げられた認識。

 超反応で回避する。―――少し遅れて、腰から魔剣が飛び上がった。


『…………』


 ソレが手元にスッポリ収まり剣を引き抜くとき、目の前に展開した障壁/シールドが蒸発したのを把握する。


 破壊の感知と、その補強が一瞬で行われる。―――が、成立しかけた魔法が貫かれる。


「ッ!!」


 裂くように侵入する雷槍は―――

 僕の手前で枝分かれして避けるように迂回する。

 遠くに、高熱を発した鉄筒が役目を終えて粒子化するのが見えた。



「―――ふーッ! ……焦った焦った」


 魔剣を下ろして、汗を拭った。


『おみごと! 体験した罠の中では"過去最高の威力"だったわね? デストラップ《雷撃弩》―――3Fに出てくるデストラップの名で―――"最速必中"。対策なしだと即死か瀕死――良くても強制的な"不調状態/バッドステータス"は確定ね。状態異常《麻痺》・《火傷》を付与する恐ろしい罠よ!』


 普通の初心者ならクエスト報酬《勇気の証》等の装備品と引き換えにするか、防具の損壊、メンバー脱落の危機だったな……。


「は、初めて見たけどッ! まだ目がチカチカする。……あんなの、反応できる……わけない……"運良く"エイくんの回避先に来なかったからいいけどッ! 当たったら即死レベルじゃん!!」

「……ホントにたまたまかぁ? ラクミヤを避けるみたいに雷が落ちてたけどな。……見事にかすりもしてない」


 マナは勘違いしたみたいだが。僕が見切ったことを炎理さんは気づいてる。


『連鎖・連装タイプではないのが救いね』


 罠同士が別の罠のトリガーを満たす『連鎖罠』や一つ目が作動した時点でアウトな『連装罠』ではなさそうだったのでひとまずは安心だ。ロックイーターの時のやつだ。


 無傷なので先を急ぐ。

 罠関連の【クエスト】報酬でゲットできるのは、今のところお金だけで、貴重なアイテムや装備品は日数が必要そうだ。


 【罠に100回かかろう】や【落とし穴に10回落ちよう】などの達成により、"落とし穴の発生率軽減"装備《羽靴》や罠対策のスキルを覚えやすくなる《盗賊の知恵》という巻き物、罠の発生場所を可視化する《罠視》のスキルキューブなどがもらえる。


 ただ自力で習得できるならそっちの方がお得だ。身を低くして、油断なく、研ぎ澄ませた五感が些細な変化も見逃さない。


 埃っぽい通路を流れる空気。前後左右から聞こえる戦闘音。モンスターの唸り声。


 一心不乱に一歩ずつ、着実に地面を踏みしめる。無言で没頭していた僕に背後からマナが近寄る。


「これはぶつかりそうだね。……エイくんは休んでていいよ」


 視界右上に広げた地図/マップはパーティメンバーのソレと連動して個々人の認識が反映される便利機能を持つ。


 半径30メートルの範囲はリアルタイムで多数の光点がうごめく。僕の探知魔法と、MPの自然回復が上手く釣り合うラインがちょうどこの辺だったのだ。


 敵を示す"赤色の光点"が僕らの進路と重なるとき。

 今まで悶々としていたマナが出番だッ! とばかりに歩み寄った。


「うん……そーする」

「おっしゃきた! オレと違って、おまえのは繊細で疲れそうだとは思ってた」


 慎重すぎた僕の動きに思うところがあったのだろう。やる気だ。


 ―――しばらくして、洞穴の奥から多数のモンスターの気配が忍び寄った。


トラップの方が厄介

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