新たな仲間を迎えて
「………?」
炎理さんとは、プリントを渡すときくらいしか接点はない。
「……らっ楽宮たちは二人なんだってなー。……その、マウマウで勝手に見て悪かったんだけど、日暮連のやつが、不幸自慢っていうかさ。えーと、『たとえエイくんに"勇者の素質"があっても、本人は望んでないし、させない』……てな感じで」
「……う、うん」
「どうなん、そこんとこ」
不良っぽい喋り方で怖がられている人でもある。
おそらく、無意識に放たれる攻撃的な魔力のせいもあるだろう。
今もちょっと熱風を感じて顔が痛い。こんなとき、どうすればいいのやら。
「えっ……というのは?」
とっさに、失礼にならないくらいに肌を保護しつつ問いかける。
「ガチで目指してんのとか、やっぱ違うのとか」
「……勇者のことなら、特に考えてないよ」
「そ、なんだ。……ふーん」
いや、えっと。
そんなふうに姿勢と目線を向けたままにされると―――手にした通学カバンだけが進行方向を指差して、さまよう。
「いや、なに……枠空いてんのかなって。思ってさ」
「………あー」
そういうことか。
―――パーティメンバーね。募集やコミュニティの所属なんかは全部マナに任せてたのもあって、把握はしてなかったけど。
考えてもみれば、顔見知りがいないならいずれかのグループに属するのが普通で、そのグループごとに水面下での引き抜き合戦が起こっているのか。
クラス内外の派閥や所属とかまったく興味なくて聞き流してたけど。
今のところ、イジメられたりはしてない……。
「どうなんだろう、僕はいいと思うけど。マナがなんて言うか」
「あーやっぱダメかな。日暮連のやつ、ちょっと怖いし」
炎理さんから見たら―――
「………そうかな?」
「まぁ、少し。B室のアイドルだから。空気乱したってことでわたし締められるかもな〜ハハっ」
それを、僕に言うのか?
「……じゃあ、行こうか」
「あっいいの? うん行くけど……」
こんなグダグダな感じで、廊下に出る。
そうすれば、何かの境界を越えたのか教室に残った女子生徒を筆頭にしてアイコンタクトやヒソヒソ話が始まった。
隣のクラスの様子を確かめて、まだ忙しそうだったので先に下駄箱へ向かう。
「楽宮さ。日暮連のことはいいの?」
「外のベンチで待ってようかなって。炎理さんは大丈夫?」
「わたしは、別に……」
気まずい感じで校舎を出て、パラソルの下にあるベンチに座る。
横にマナ以外の女の人がいるのは、"いけないこと"をしてる感じでドキドキする。
でも、あの朝に助けてくれた人しかり、あんまりよくないと思う。
マナ以外の仲良くなった子は、たいがい"疎遠になって傷つく"ものだ。
「………あの。ぶっちゃけるけどさ。なんで、楽宮は怖がらないの? 結構ネツいでしょ、この『ジリジリオーブントースター』」
『ジリジリオーブントースター』? 独特な響きはともかく。
この人、苦労してるな、と思う。誰と話すときでもこの熱放射が止められないんだったら人間関係の構築は難しいはずだ。
大体からして、炎理さんの意思に関係なく動く精霊が原因だろうとは思うが。
「……まぁ。日焼け止め対策はさせてもらってるけどね」
僕の魔力を蒸発させるようにして、ぶつかる炎理さんのオーラを四六時中浴びていると火に強くなれるだろう。
「なんでだよっ。……イヤだったらそう言えよ。すぐ、離れるから」
その表情が少し寂しそうだったから―――逆に距離を詰めて、真っ赤に燃える両目をジッと見つめた。
「っ……らく、みや」
―――どちらのものか。生唾を飲む音がした。
パッチリとした目に、長くて繊細に震えるまつげ。……よく見たら朝露のように芳醇な魔力のしずくが付着している。
―――この人、かわいいな。体質レベルで火の精霊とやらに愛されているよう。まるで"神秘的な芸術作品"にも見える。
体全体が、火の精霊が好む棲家になっているのだ。
「わたしは、まだ……そういう」
解剖学的な視点で、炎理さんの目とその奥の脳みそをくまなく調べようとしたが……。僕の脳や心臓とどんな違いがあるのだろう。無意識に垂れ流されるオーラですら威圧になるのだ。
彼女の本気の情熱がどれほどになるか。―――まさに大火力!
ワクワクして火属性の神秘に触れてみると侵入を察知した炎理さんの拒絶をキッカケにして、途中で焼き焦がされるように視界が真っ赤に染まり、外に弾き出された。
「―――なにしてるのエイくん」
二人の間で行われた精神の駆け引きなどハタから見れば、見つめ合うカップルのソレとなんら変わりないだろう。
「………っ」
僕は、そっと媚びるような目で顔をあげた。それくらいの"鬼"が、いたからだ。
『セーシュン………青春、せーしゅん、なんか違うような……?』
***
傾斜のある通学路を降りながら、事情を話す。
ギルドに着くまで空気はピリピリしていたけれど、炎理さんの説得もあって加入の流れに近くなる。
「―――それで、ノゾミちゃんも一緒に、ね〜」
細い目で微笑むマナ。
炎理さんはビクつくも、持論を述べる。
「『本番』の5Fに行くなら、だけどな。数は多い方がいい」
ダンジョン科の一年生は、みなが"単独"で迷宮の『第一環境』―――つまり、1〜5Fで生存可能な実力を持つとされている。
そのため、一人で潜るのを禁止されてはいない。
「昨日行ってきたけど、一人じゃちょい厳しかったから」
「そうなんだね〜。でも、だったらさ。ノゾミちゃんなら引く手アマタでしょう? あぶれることはないはずだけど……」
僕を挟んで会話する二人から飛び出して―――先を急ぐ。
そうすれば、右半身の熱がなくなって涼しい。
ギルドに入ってすぐ見える行列に並ぶ。ショップはコンビニみたく必需品から嗜好品まで品揃えは豊富だ。
ドロップの売却と受け取りカウンターはあちらの売り場ともつながっている。サクサクと捌かれる客を眺めて、この後のことを考える。
「こんにちは」
「あら、ラクミヤくんじゃない! どうしたの……って、あー男女混成パーティは難しいわよ。ずっと二人っきりってわけにもいかないでしょうけどね」
「あの……装備を買いたいんですが」
「うんうん、ボロボロだったものね。あの『白式』だって、『スミスの鍛造』で金属鎧並みに丈夫だったはずなのに……」
ひとまず、武器はあの魔剣があるからよしとして。
さすがにパンクファッションじみた"右肩丸出しの装い"は却下。
新品との交換サービスで戦闘服が届くまでの間は似たような防具をつけるつもりだ。
「レベルアップした今なら重い装備でも問題ないと思うけど……」
横から、こそっとささやかれる。
「マナが買いなよ。僕は魔法でなんとかなるから」
「う〜ん。なるべく可愛いのがいい……」
「―――あの『かいじゅうの着ぐるみ』とか?」
ひときわ目立つ格好でゆさゆさと歩く冒険者。
デフォルメされた黄緑色のドラゴンの口に可愛らしい顔が埋まっている。
「あの子は自称・元竜王の『シーザーちゃん』ね。ネタ装備扱いされる『着ぐるみシリーズ』を"ああ"も堂々と身につけられるのは、彼女くらいのものよ」
お姉さんの感心した声で補完するが、ショップでも普通に売ってる。
じゃあ、『ビギナー向け』のページを見てみよう。
名称・値段・効果が、イメージアイコンとともに簡潔に記されている。
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道具 セール中! (さらに半額)
『やくそう』 100G ⇒50G
『解毒薬』 1000G ⇒500G
『砥石』 2000G ⇒1000G
『ポーション』 300G ⇒150G
『パワーキャンディ』 500G ⇒250G
『ロープ』 100G ⇒50G
『ふろしき』 500G ⇒250G
『虫メガネ』 500G ⇒250G
武器 セール中! (さらに半額)
『木の棒』 100G ⇒50G
『ウッドソード』 500G ⇒250G
『どうのつるぎ』 1200G ⇒600G
『アイアンソード』 2500G ⇒1250G
『ホワイトソード』 3000G ⇒1500G
防具 セール中! (さらに半額)
『かぶと』 500G ⇒250G
『ようふく』 80G ⇒40G
『クロースアーマー』 600G ⇒300G
『ボーンアーマー』 800G ⇒400G
『チェーンメイル』 1300G ⇒650G
『てつのよろい』 1500G ⇒750G
『かいじゅうの着ぐるみ』 65000G ⇒32500G
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こんな感じで、ランクアップ毎に購入可能なアイテムが解禁されていく仕組みだ。
さらに、ビギナーのうちは割引サービスで"半額"になっている。
その中でも、特に存在感を放つのが圧倒的に高価な"着ぐるみ"だろう。
在庫数を見た感じ、品薄状態のようだ。けれど、何を買うかはもう決めている。
「『クロースアーマー』を一つ」
もっとも、あの戦闘服に近い、軽くて丈夫な『革製の鎧』だ。
「はい。―――ここで装備していきますか?」
………いや、学生服の上からは着ないです。
「ヘンですよねー。更衣室が近くにない支部でも必ず言う決まりになってるんですよ」
………ギルドのお偉いさんの趣味なのか?
まぁ、どうでもいいか。
隣のカウンターに移動して、預けた『魔剣』や『しずく』を受けとる。
混雑する施設内をテキパキと移動するだけでも一苦労だ。ダンジョンと違って全員が"敵生体"というわけじゃない。
コミュニケーションが通じたり、人類に友好的な魔物『フレンドリーモンスター』に近いだろう。
緊急時は、防衛拠点となることからやけに複雑な施設内を、ときおり炎理さんを"利用"して進む。
ダルい絡み方をするミーハーやナンパに対しては、彼女の後ろに隠れればジリジリと照りつける太陽に近寄れないのだ。
「楽宮…おまえ……ッ」
昨日の件で僕の『持ちもの』が割れたのがいけなかった。
"専用装備"と化した魔剣やロックイーターの素材はまだしも、『しずく』は本当に貴重らしい。クエストの報酬を除けば、あとは"ごくまれ"に宝箱から出てくるくらいなもので、つねに枯渇するアイテムとのこと。
憤慨する炎理さんだが、口で言うほど怒ってはいない。
マジギレしたら僕の体を消し炭にできるだろうに、繊細に抑えられているのが見てとれるからだ。
「………はぁ」
しかしさすがに、更衣室まで一緒とはいかない。―――僕は心細くも、ロッカールームに向かう。
「じゃあエイくん寄り道しないようにね? 【マップ】でちゃんと見てるから」
「うん……」
「………ママか」
「なんか言った?」
あっちは仲良さそうでいいなぁ。……自身の性別を少し恨みながら、大部屋となっている男子更衣室に入った。
再びエントランスにやってきて鍵を預けてから、ようやくダンジョンに行ける。
このへんもランクアップしたらエントランスのロッカーを利用できたりするので、とことんランクの格差を感じるな……。
***
―――ダンジョン。
それは突然現れた"異界の地"。この異界では、地上の常識は通じず、不可思議で秩序だった法則に縛られる。
モンスターは各階層間を自由に行き来できないし、倒されたモンスターは消失して、特徴的なドロップアイテムに変換される。
「……今回わたしらは5Fまで行くってことでいいんだよな?」
縦一列になって移動する僕ら。その最後尾の炎理さんが問いかける。
「だねー。もちろん様子見だけど」
「んなら、まずはお互いに実力を見せ合おうじゃねーか。………そいじゃ、言い出しっぺのわたしからいくぞ」
すでに昨日の『3F』まで、やってきたところだ。
混雑する白道を迅速に突破し、正面に立ち塞がるモンスターは、遠方から『三連矢/トライ・アロー』の餌食になった。
現在は、【ブック】に頼らない魔法の円滑化に努めている。
はっきり言って、《オーラフィールド》なしの魔法展開は遅いからだ。
『魔力を練って』『矢状に加工し』『飛ばす』までに二秒弱を要する。
このプロセスをもっとも効率的に行える部位は……指先でも目元でもなく、なぜか背中の"肩甲骨付近"だったので、左右でニョキニョキと生産した"矢"をスタンバイさせるスタイルだ。
うっすらと発光する矢の束が左右から放射状に伸びるのでマナからすると『妖精さん』みたいだそうだ。
と、話が逸れてしまった。
炎理さんはそう宣言したのち、先導役の僕を追い越す。
そして、おでこの『水玉模様の髪留め』を取り外して『シュシュ』に取り替えると、さらさらの紅蓮の髪をギュッとひと束にして"馬の尻尾"を作った。これで気合い十分、精悍な顔つきとなる。
「―――《ヒートサンクチュアリ》」
その宣言とともに彼女の全身から立ち昇った赤々とした焔が急速に渦を巻いて可視化された。"炎の領域"をつくりだす。
―――すごっ!
紅蓮の髪は、煌々と白熱し、どこか人が変わったようだ。そんな彼女に不用意に近づく者は―――焼き殺されるのだと、その肌で感じ取った。
「……っと〜こんなカンジ! 近づいたら激アツだからな〜!」
「す、すごいね! 熱風がここまで……! エイくんと同じ"一定範囲を継続的に守ってくれるスキル"かな。……確かに、これなら一人でも先に進めそう」
「そ。"一人でも"ね」
「あ……アハハ」
見るに、僕の《オーラフィールド》とは違い味方も巻き込むけど、そのぶん彼女一人の身の安全はさほど気にしなくてもよさそうだ。
『メ〜ラメラメラ。ノゾミは、おまえたちとは"存在の格"が違うんだメェラ。偉大なる精霊に愛された子なんだメーラ』
「あ、ちょマエン出てくんなって!」
ん?
どこからか声がした。―――既視感を感じさせる丸っこいシルエットからだ。
『メラァ』
炎の輪っかを燃やす丸顔の天使は、漆黒色の外套をはためかせ不遜な態度をとった。ワイルドな八重歯が見える。勝ち気に笑った時にチラリと見える炎理さんのソレとお揃いだ。
「あぁ。エイポンの親戚か」
と、納得。
『ラクミヤエイ? さすがに一緒にしないでもらいたんだポン』
『どういう意味だメラ? もっと簡潔にわかりやすく教えるんだメラ』
天使同士は、不仲なのが普通なの? 取っ組み合い(のように見える)の喧嘩をしてじゃれつく。
『バカよ、バカ』
との、端的なミカの解説を聞いて、やかましいマウント合戦を始める両者から視線を切る。
『それにしても、あのエンリノゾミって子は別格ね。もしかしたら一年生の中では"最強"なんじゃないかしら』
………まぁ"僕以上のMP"がある時点でね? あの"怪物"神堂さんにもちゃんとダメージが入りそう。体育館では隅の方に座ってた記憶があるが……。
そして、さっそく接近した"第一の被害者"ゴブリンに向けて―――彼女は炎の領域を押し当てるように移動した。
―――ぐぎィッ……イィヤァァァァァ………!!
メラメラと燃え上がる焚き火からわずかに散った火の粉。それに触れただけでゴブリンの皮膚が突如焼けて、発火した。
「オラァッ! 逃げんなよザコ!」
炎を容赦なく押しつける炎理さんはサディスティックに笑う。
スキル《ヒートサンクチュアリ》は任意操作可能なようで、別途自身の魔力が燃焼されて『炎の蛇』が出現すると慌てて逃げ出したゴブリンに絡みつく。するりと、足首を戒めた。
ついに、完全に囚われてしまった哀れなゴブリンは、たちまち上がった熱量に火葬される。
―――ゴオォッ、と大きな火柱が立った。
被害者の絶叫と遺骨と、それから遺灰の小山ができたところで、炎理さんが"掃除完了"とばかりにパッパと手を叩いた。
「うしッ! 最接近すれば、こうして『炎縛』と『大火葬』のコンボ―――『猛火蹂躙劇』が決まる!!」
スキルから伸びでた炎の触手が『炎縛』。
スキル全体を燃やし自らが"火柱"となって対象を滅却するのが『大火葬』。
そして、一連の連携が『猛火蹂躙劇』……?
…………うんっうんっ! かっこいいな……!!
テレレッテレー ノゾミちゃんが仲間になった! ずっとマナちゃんと二人っきりで"ヤンヤン"と行くのかとばかり……。
炎理望
"特待生"。"伯爵令嬢"。"火の精霊に愛される少女"。その魔力は―――"火炎系魔法使いの頂点"になれる器! 全国トップクラスの才能だぞ! なぜか出身の皇都からここにやってきた。




