星刻学園①
第三章「新たな仲間」編スタートです! よろしくお願いします。たくさん仲間ができるといいね!
「う〜んっ! 気持ちいい朝だ〜!」
心地よい眠気に身を預け、半分寝ながらマナの声を聴き、綺麗な桜並木の通学路を歩いていく。
「……そうだね………」
麗らかな陽射しを浴びて、僕らと同じく登校中の生徒たちは、思い思いに挨拶を交わすので、ザワザワとやかましく、睡眠が遮断されてしまう。
景観の美しいレンガの道を抜けると。
そこには、無駄にデカくて立派な門構えが存在感を放っている。
―――『星の峰・星刻学園』。
縦につづられた達筆の字でこの門から内側の領域を宣言する。
人為的に加工された規則的な魔力は、『大黒門』と呼ばれる、この高さ10メートルを超える二本の巨石を支柱とし西洋風の瀟洒な城壁のごとく、侵入者を寄せつけない。テロリストや軍の武力占拠など有事の際は、ここが最終防衛ラインとなる。
『通行許可証』、僕らでいうと『学生証』がなければ、そもそも敷地の周辺を囲む『魔の森』のどこかに迷い込むのだそう。
しかしながら、僕らは足早に門を抜け、敷地に入るのだ。
防衛機能や設備は大人たちがしっかりと整えてくれているから平穏に、遅刻するかしないかで慌てられる。
そのため、僕は驚くほど眠くて、半分意識を失いながらマナに紐づけた魔力の糸を頼りに歩いていく。
「今日は一段とひどいねー。保健室にいく?」
校舎の中。
過去一の眠気と戦って、ここまでやってきた。
―――昨日はぐっすりと眠れたはずだが、夢の中で何度も現れたヤツとのもみくちゃで血みどろの闘争によって、寝巻きが最悪なことに。
体質の改善と強化。無数の刃のひらめきが。頭に焼きついて離れない。
そう考えれば、少しだけ目が冴えてきた。
「いや、大丈夫。これなら授業も余裕かな」
「ホントかな〜?」
疑わし気なマナから離れてクラスを目指す。ダンジョン科はAとBのクラスに分かれていて、非常に残念ながら、マナとは別室だ。
人気者のマナに向けて飛び交う挨拶を切り抜けるようにして廊下を進めば、会話に集中していて、遅れてそのことに気づいた彼女のアイコンタクトと小さく開かれた手のひらに満足する。
陽気でハイテンションな男女と友好を温めるマナにモヤモヤする、そんな自分に嫌気がさしてさっさと教室に向かった。
「日暮連さん! おはよう!」
「おはようハシトくん。また朝の自主トレ? 精が出るね〜」
しまった。無意識のうちに『聞き耳』を立ててしまった。昨日よりも滑らかに聴覚の強化と音の聞き分けができてしまう。
「ま、まぁね。いつ危機が訪れてもいいように日頃から体力だけでもつけておきたいんだ」
「すごく立派だと思うよ。ナギサもカッコいいと思うよね?」
「ま、ねー。ちゃんとシャワーしたのも高評価っていうかー。ちょっと触らしてくんない?」
「くすぐったいってナギサ。そこは鍛えようにも限界が……っ」
「ぷっ、弱点みーっけ」
やめよう。
これは悪い癖だぞ。
―――オフ、オフ、オフ。
そうだ! すぐ前で突っ伏している女子の背中を見つめよう!
ワインレッドの長髪を腰あたりでまとめてリボンで結んだもの。
さらっさらのシルクみたいだ。
けれど、もっとも惹きつけられるのは、その赤々と燃えて粒子状の魔力をパチパチ弾けさせるユニークな体質。
"火の精霊に愛された少女"らしい。
―――名前は炎理望さんだ。
「それよりマナマナ。あの彼氏くんどうなん?」
その素晴らしい髪にぶしつけに触れたらきっと怒られるだろう。
「どうなん、って。そもそも彼氏じゃないって昨日も言ったでしょ?」
「えー、じゃあどんな関係なわけ〜。ハシトも気になるよね?」
「俺は別に。………ただ、日暮連さんも少しずつでいいから"あいつ"とは離れたほうがいいよ」
―――は?
「……えーと、どうしてかな?」
そうだそうだ。
もっと言ってくれ!
「だってあいつは"呪われてる"。一緒にいれば"必ず破滅を呼ぶ"。―――あいつの"破滅願望"に、日暮連さんは巻き込まれるんだよ。悪いことは言わないからさ」
「………うん。ごめん、ちょっと考えさせて」
「よりにもよって、あーしの前で"呪われた"だの"破滅"だの気安く言ってくれんじゃんハシトくぅん?」
「うっ……け、軽率だったよ」
え?
"考える"ってなに……? マナは自分の席に戻ってため息をついた。
「ふぅ〜〜っ」
意図的な吐息が、集音マイクさながらに高感度になった耳に入り込み―――脳髄に直接響く。
―――ウフッ、まずい! 変な声が出そうだった……!!
クラスメイトの誰かに伝える感じではなく。
「………エイくん、聞いてる?」
心臓がドキッと高鳴った。
「もし聞いちゃってたらだけど、気にしなくていいからね。よくあることだよ。これから注目されていくなら、そういう誹謗中傷にも耐えなきゃねっ?」
あちゃあ、全部お見通しだったかー。
―――それに安心して意識を戻す。
「あれっ、楽宮っち来てんじゃんっ!」
「―――え、マジ? 全然気づかなかった! まさかシノビの技?」
「リトルブレイバー・ラクミヤだもんね」
ゾロゾロと群れが近づいてくる。
―――たのむ! 誰か助けてくれーーっ!!
僕は、いっそヤケになって炎理さんの肩を叩いたが、揺さぶってもぐっすりお眠りの最中なのか――あるいは演技なのか少し震えてる。
けれど、この流れを回避するつもりなのはたしかだ。
「その二つ名、何人いるんだよ? 全国で数え切れない程いるだろう」
「嫉妬乙」
「選ばれなかったクー・フリンがなんか言ってますよ〜」
「お前ら、それやめろって!! 俺の名前は城内 風林だから! あと、上手くもなんともないから!」
「でーも、中学のアルバムに書いてまちたよね〜。九重神速の妙槍でクー、ファーストネームにルビを振ってフリン。これで竜とも渡り合える凄腕のランサーの未来が見えた(キリッ)って」
キャハハっ。
と。
たった数メートルの移動でも隙あらばネタを転がす。そして、とうとう。やってきてしまったようだ。
「そんで楽宮。トラップモンスターはどうだった? やっぱり強かったか? B室の日暮連とバディだとは知ってるが……」
あああ。
近所のおばさんたちの井戸端会議しかり。
緊密で、縦横無尽につながるマウマウのコミュニティしかり。
イヤになる。
―――どうして、みんなそれほど他人に興味津々なのか。
「あっ……え、その……っ」
軽い雰囲気だったから。想像上で、僕の席を取り囲むように三人がやってきても、同じノリで返せると思った。
けれど、男クー・フリンを"一番槍"として、女子二人だってめざとく目を見張っていた。
というか、教室全体が静かだ。
さっきまで雑談に興じて、あるいはイヤホンをつけていたものまでもが。
―――三十人以上いる冒険者の卵たちは、みなエリートだった。
クエスト【困難を切り開け!】は、調べたら簡単に出てきた。
ギルドのオフィシャルサイトでも――民間の攻略サイトでも――クリア条件からその報酬まで網羅されていた。
要は、『適正レベルを大きく超えた相手と戦い、ほとんど単独で勝利を収める』ことだった。
円環都市圏全体では、一ヶ月に何人も輩出されるペースで僕だけのオリジナルではない。とはいえ、珍しい実績を挙げたことに変わりはない。
このハッキリと感じられる温度差で萎縮した僕は、情けなくもきちんと喋れず、そのことを認識して分析をするためにうつむいた。
「………」
戦闘時ほどの思考の瞬発力がなく、ごちゃごちゃと考えては、周りの人すべての実力や品位を貶めない、されどイヤミにもならない『理想のセリフ』を検討し始めて―――
だけど、そんなものはどこにもなくて―――
苛立ったクー・フリンが声を低くする。
「なぁ、楽宮。そんなに俺がつまらないか? たった一言返す価値もないと」
ちがう。
僕は、なりふり構わず、"マナ"を求めた。遠くのマナを呼ぶための魔法を編み出す時間はない。
「………? どったの?」
男の隣で状況を見つめる女子。若干制服を着崩したオシャレな見た目をしたこの子を―――"マナにしよう"。
そのほうが、簡単だと思うから―――
「―――まぁまぁ! いきなり圧迫面接みたくなったのはうちらの責任っしょ?」
「………ハァ? お前も知りたがってただろ。なんだよ、その唐突な裏切りは」
「ねぇ、楽宮っち。あとでメッセであたしだけにおしえてね〜」
そりゃあねぇぜ、という空気になった。
ひと目見て、僕の"してほしいこと"をやってくれたのだ。
―――やっぱり"魔法"は便利だなぁ。
もうすぐホームルームの時間だ。やっと自分だけの空間でのんびりできるよ。
そうやって、リラックスしたときだった。
「―――楽宮叡さん。あなたは何者ですか?」
耳元に直接声が聞こえて思わず、のけぞりそうになった。
見れば、"クリオネみたいな風の精霊"がプカプカと浮いている。周りの人には見えてない。
「スキルや魔術の行使は見られなかった。それなのにどうしてあの女子生徒は"不自然に言動が変わり"あなたを守ったのでしょうか」
―――糾弾したいのだろうか? 僕がやったことを。でも仕方ないじゃないか、少し助けてもらっただけで害はない!
と、思う。
……ああ、そうだよっ! ………ツノ、天使の翼に続く、第三の器官『尻尾』が悪さをしたのだろう。
―――昔から女の子は、僕の味方をしてくれた。都合が悪くなったときに、ちょっとだけ助け舟を出してもらう程度のことだ。
付き合ってとか、エッチなことをお願いしたとかは一度もない!
コレも……戦闘で使えるだろうか……?
星刻学園
都内一の冒険者学校。伝統と格式があって生徒の質も高い。今年は例年ではありえないほどすごい生徒がたくさん集まってる。




