VS龍崎ほむら
―――彼らは、あからさまに絡む気満々でどいつもこいつも無断で《鑑定》を使用している。キラリと目が光るのだ。
スキルの対象にされた独特の嫌悪感にイライラを募らせる。
ギルド職員は原則その権利を持つが、こいつらは僕たちに許可をとる必要があるし、普通に罰則ものだ。
上級者の観察は、僕を単純に『目』で見ていただけ――あるいは魔力の把握だ。不快感はそれほどなかった。
「ソレはデザインだけ見ると誰でも手に入る模造品と大差ないがなぁ〜。いや〜あれれ〜? おっかしいねー? まさかホンモノの『勇者のバッジ』なわけ?」
相手を萎縮させる声音に僕は――うん、うん、と何度も頷く。
『――ら、ラクミヤにげなさいッ』
「だとするとぉ? ボクちゃんはGランクの『初心者/ビギナー』からFランクの『新人/ルーキー』をかるーく飛び越して、Eランクの『番人倒し/ブレイカー』様の仲間入りってわけかぁ?」
マナから離れて大きな掲示板を眺めていたのが悪かったか。
1〜5Fまでの事件・事故の発生、行方不明者の捜索などなど。アナログな手法で書かれた『張り紙』が大量に並ぶ掲示板に僕は追い詰められる。
「―――おい、兄ちゃん。景気のいい話じゃねぇか。そこんとこ、俺らも一枚噛ませてくれないかね」
三人の中でボスっぽいやつが、コワモテの笑顔でにっこりと笑う。
「そうっすよね、『龍崎サン』。これでも俺たちはDランクパーティ『獄炎火竜』よ。いっちょ稽古でもつけてやろうかと思ってな」
パーティ名に聞き覚えはない。
しかし、『Dランクパーティ』はベテランだ。確実にあのロックイーターを倒せる強者が――僕を取り囲む状況に思わず縮こまる。
「なぁに、無理にとは言わねぇさ。あの席で話し合いをしようや」
そうは言っても、僕を逃すつもりはないようだ。
『フン、なによ! ラクミヤこんなヤツらやってしまいなさい!!』
そうは言うが――大人三人に囲まれるとかなり怖い。
彼らは巧みに僕の背中を押してカフェまで連れていく。
だって、まさか暴力を振るうわけにもいかない……。立ち塞がる男越しに、再びマナに助けを求めた。
「エイくんちょうどマントも破れてたし、新しい装備を作ってもらって……あれっ? ……エイくん? ―――どこォッッ?!?!!?」
「……ひっ……ラクミヤ様なら……あちらのパーティと交渉中とのことですが」
「ハァぁぁああ……ッ!? なにそれっ! ちょっと待ってもらっていいですか」
「はぁ……」
ずっと気づかれるのを待っていたので、遠くでキレるマナの反応にホッと安心する。
ちょうど、こっちは"圧迫面接"が始まったところだ。
「―――でなぁ、俺らがいればトレーニングルームの一室を貸し切れるワケよ」
「ここにおわすリーダーは個人でDランク一歩手前のお人よ」
「はい……すごいです」
「だろぉ!? よし、さっそく行こうぜ。この時間帯ならギリギリ『フリールーム』も空いてるハズ」
「よぅし、ラクミヤ。俺が冒険者のなんたるかを教えてやる」
やいのやいの、と。そういう流れが生まれてしまったので僕はベルトコンベアーに運ばれる物品のようにして、通路を進まざるをえなくなった。
断り文句や拒絶の態度を考えては――失礼に当たると断念するのを繰り返すうちに廊下にやってきてしまった。
「こんな細っこい体でしっかり食べてんのか? 恵まれた才能にあぐらをかいたらいかんぞ。しっかりとした『食事と体調管理』をこなしてストイックに日々鍛錬するからこそ、冒険者は上へ行けるんだ」
「そう、ですかね」
「そうそう。―――なんだ、ちゃんと話が分かるじゃないか」
トレーニングか。
たしかに『筋力』や『持久力』はつけないとダメだよな??
強引な彼らも不器用なだけで善意で助けてくれるのかもしれない、と絆される。
「あのっすみません!! 私たちこれから行くところがあるのでっ!」
連行される僕の手を軽やかに探りとったマナは――すぐさま離れようとするが男たちの反応もそれなりだった。
「おいおい。マナちゃん、強要はイケないなぁ。ラクミヤだって男なんだ。干渉は嫌われるぜぇ?」
リーダーは馴れ馴れしくマナを呼び捨てにする。
当然のごとく《鑑定》で見破ったのだろう。
「っっ……」
握られた手のひらからマナの動揺が伝わった。
…………えっ?
男の言葉に心を揺らす要素が含まれていたのだろうか。
――マナの、僕を助ける気が弱まるのを感じた。
………まさか、見捨てられる?
嫌な予想が浮かぶ。―――嫌だ嫌だ、ひとりにしないで!!
「エイくん………」
マナは、濡れた瞳で何かを訴えかけてくる。
―――そんなことより、早く連れ出してほしい!!
「なっ? 分かっただろう? こいつにだって自由が必要だ。なんなら見学してもいいさ。来るか?」
「………は、はい。見学させてください」
そんなっ!!
あまりのことに心の中で絶叫した。
「………ううっ」
涙が滲み出る。足元もおぼつかず、フラフラとする。男に背中を押されて弱々しく歩くだけ……。
どう見ても無理やりだと分かるしょげた顔つきのはずだ。
「エイくん……」
それなのに、マナは見てるだけで助けてくれない。
本当に見捨てられたのか?? ……理解不能なことで、意味がわからず―――気づけばジムにやってきており……。
その先の『武道場』と呼ばれる大広間では――対人戦を繰り広げる人々が散見された。
「ああ――」
リーダーの男は、途中、職員やパーティメンバーを使いに出したりと大仰に振る舞っていたが、僕の耳には、なにも入ってこなかった。
「じゃあ、さっそく手加減なしの本気を見せてくれ」
「くれぐれもやりすぎないようにな。キミも嫌なら辞退していいんだ」
「………いえ。……………マナが、しろってこと、なので」
視界がボヤけて自分の意識は霞みがかり、全身に気だるさを感じる。
「―――ッ!」
だけど握らされた"武器"の感触はクリアに伝わった。
戦闘の予感だ。
スイッチが入った。すぐに意識が切り替わり、ダンジョンに置いてきた戦意が――消沈した精神をぬりつぶす。
顔を上げて、この心地よい戦意を研ぎ澄ませていく。
改めて、敵の姿を捉えた。
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『龍崎ほむら Lv.20』
【HP】 348/348
【MP】 270/270
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圧倒的格上。
審判を務める職員が距離をとって合図を出した。
「はじめっ!」
―――先手は僕だった。
「《グリッターボール》」
同時に三方向から光の球をぶつけて――地を蹴る。
【ブック】から出せるのは一度にひとつでもレベルアップで性能が増した僕のスペックならこれくらい容易い。
「うおっ、ちょっと待てっ!?」
男は素っ頓狂な声をあげて剣を振った。豪快な剣捌きだった。
――これにより別方向から来る二つを弾き返し、残り一つを直前で回避する。
――その一挙だけでも『抜群の反応性』と『多角的な視野』を持つことが窺える。
しかし、無理な体勢が祟った男はグリッターボールの衝撃で剣ごと上半身を仰け反らせ、引き戻している……。
「『誘導弾』」
「《ブースト》」
そこで背後に回ったグリッターボールを引き寄せる。
同時に身体強化を行い、男とのフィジカル差を少しでもなくす。
「―――『白透刃』」
この魔法によって訓練用の木剣は――肉を寸断できる。
「《ホーリー》」
そして彼が悪人ならば、よく効くだろう。光条を解き放ち、挟み撃つ。
「ちょ、こまかとッ」
前と後ろからの"同時攻撃"だ。
しかしさすがに高レベル冒険者は反応する。――無理な体勢であったはずなのに。
強引に引き戻された木剣が光条を打ち消し、背に当たった気弾が直撃しても――吹き飛ばされずに踏みとどまったのだ。
「《アロー》」
目潰し、即座に斬られる。――やはり反応が早い。
いよいよ、間合いが接触した。
「このっ!!」
「《シールド》」
至近距離で前面に張った魔法の盾が豪快に打ち砕かれる。
――僕は、勢いよくスライディングして男の股下にもぐり、通り抜けた。
そして、置き去りにした気刃/スラッシュ――
「グゥっ」
「――硬っ」
あまりにも硬質な感触がした。……分厚い……皮膚なのかコレは? 一瞬金属かと思ったぞ?
―――足を切断するつもりで放ったのに。
シュルルッ、と背中で畳をこすり、飛び上がる。
「…………」
見ると、血が何滴か落ちている。
キズが浅すぎる。
しかもすぐに治癒しそうだ。
あのミミズ野郎を思い出した。
あいつも――再生速度が早くて魔石を砕かねば延々と組織を再生しただろう。
「ぐ……このガキっ!!」
男の激情がプレッシャーとなって伝わる。場に緊張が走った。
いざとなったら、《オーラフィールド》や――まだ形になっていない防御魔法をこの場で編み出すしかない。
「そこまでっ!!」
そこで――審判の宣言が下った。
「両者武器を下ろしてその場から動くな。……この勝負ッ………私に預けさせてもらう!!」
獄炎火竜の龍崎サンはまじパねぇっす。本当の実力はこんなモンじゃねぇですよねっ親分!
以下豆知識
最初に絡んできたウザい三下
ロックイーターに敗北したその後魔術師の彼女をイケイケの勇者に寝取られた敗北者。




