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【魔神転生】 〜無限の螺旋に挑む者たち〜  作者: 暗黒のグミ
第二章 白き怪物のアギト
23/73

ささやかな凱旋

かなり長い。主人公視点に戻ります


「う………っっ」


 目を覚ますと、すぐに全身の筋肉という筋肉が僕の精神をいじめ抜いてきた。


 ベッドに寝そべり、見知らぬ天井を眺める。


 ―――そうか。僕は治療を受けるため、ここにやって来たのか。


「おーはよっ! て言っても10分くらいしか経ってないよ」


 その割にはぐっすり眠ってた気がする。日中意識が途絶するなんて珍しいこともあるもんだ。


「…………右手が、ある」


 しかも、ちゃんと動く。


 どうやって調べても元の"自分の腕"としか思えない。―――無事、治してもらえたみたいだ。


 最悪のときは義手になると覚悟していただけにラッキーだ。

 爪の状態や手相、血管のめぐりを記憶と照らし合わせるとロックイーターにかじられる前の僕の右腕で間違いないとわかる。むしろ強くなってる……。


『ラクミヤ――良かったわね! 私もちゃんと見張ってたけど、とくに怪しい動きはしてなかったわ。下手な治療をされると後遺症が残ったりするから心配してたのよ……?』


 視界の片隅で眉を曲げていたミカが黄金の髪をキラキラと揺らして様子を見た。


『―――確かに。回復系のスキルって種類や個人の技量によって治り方が変わるらしいからね。ヤチヨさんはプロだからそこまで心配はしてなかったけど』


 僕の警戒心に基づいて頑張ったミカと目を合わせてしっかり会話をする。


 僕らの持つ低級の『ヒールポーション』(HPポーション)だけなら、生命維持の止血を終えても欠損部位は治らず、減少した最大HPは満タンでそれ以上変化しない。


「坊やはすでに『回復魔法』の初歩を覚えかけてるね、眠っても効果が発揮されてたよ?」


 失礼な患者に気を害したふうでもない老齢の医者(ナース服着用)が、不思議そうに手を開いて観察する僕に語りかける。


「まだ未熟ではあるけれどね! はっは、一番大事な冒険者の気概は持ってるようだ。いずれ近いうちに『自己回復の魔法』、『治癒力強化』、あとは"体質変化系"の『自然回復』か『修復系スキル』が手に入るだろうよ」


 との、お医者さんのお墨付きをもらう。


 寝起きで変化した自分の状態を言語化してもらうことで――漠然とした捉えどころのない違和感がやわらぐ。



 次に。ステータスをチェックしてみよう!


___________________________________________

 【名前】 ラクミヤエイ

 【レベル】 3(あと269)

 【ジョブ】 冒険者見習い

 【HP】  74/74

 【MP】 572/1006


 【ちから】  14

 【かしこさ】 31

 【まもり】  19(+5)

 【せいしん】 39

 【きよう】  25

 【びんしょう】24


 【スキル】

 《いつか真の冒険者になるんだ》

 《死の超克/スタンドアップ》

 《小さな勇者/リトル・ブレイバー》

 《暗視》

 《鑑定》

 《無属性魔法》

 《魔力操作》

 《魔力感知》

 《グリッターボール》

 《シールド》

 《アロー》

 《ブースト》

 《ホーリー》

 《オーラフィールド》

 《スラッシュ》


 【装備】

 E 魔剣ブラッドソード

 E ウッドバングル(まもり+5)

 E 勇気の証

___________________________________________




『―――あっ! 相変わらず、MPの数値がおかしいわね……具体的に言うと"二桁"くらい?』


 感心したような、呆れたようなミカが探偵のポーズでムムム、とうなる。


 改めて偏ったステータスだ。

 パッと見ると他のアビリティがしょぼく感じるくらい。

 MPはついに『1006』。"四桁の大台"を突破した。

 ――これだけなら『専業冒険者』の"後衛職"にも匹敵するだろう。ヤチヨさんにも勝った。


「わたしゃ、レベル40の《司祭/ビショップ》なんだがねぇ……? まさに"巨人"としか言いようのない才能だ」


 いくらかの理不尽をにじませて――僕の目を見る。


「《大魔術師/アークウィザード》級なのは確実として、レベルアップの恩恵が"足切り"されないのも驚きだね」


 上級ウィザード職を挙げてその埒外さを話すとマナが眉を顰めた。


「普通なら……"レベル帯ごとのアビリティ上限値"があるんですよね? ―――レベル10ごとに"壁"があってソレを突破するまでは、レベルアップしても『+0』表示で積み立てられるとか」

「そうだよ。レベル30のアビリティ上限『999』が有名だがね。元の生命力や魔力に応じて与えられるHPとMPの恩恵に上限はない。……とは言うが一体どんな上がり方をすればそうなるのやら……」


 こちらでもムムム、が始まった。

 なので、僕は診療台から足を下ろし――右腕をぐるぐると回す。


「ふー。体が軽い」


 それと、すこぶる調子がいい。MPにばかり目を取られるけど運動に必要な"労力"が少ない。今ならもっとスマートにロックイーターを倒せるはずだ。


「―――ありがとうございました」


 それからヤチヨさんにお礼を言うと……。


「それがわたしの仕事さ。―――またいつでも来るといい」


 なんてことはないとばかりに、僕らを見送ったのだった。


 冒険者が受けられる基本的なサービスの一つ。

 ダンジョンであった傷は負傷の度合いに関係なく本職の『治癒役/ヒーラー』にタダで治してもらえるのだ。


 全身の回復と調整までやってくれたし、どうやら"整骨"もサービスに含まれていたらしい。羽が生えたような身軽さだ。


「――いい人だったね? ヤチヨさん」

「ああいう人が支えてるんだろうね。わざわざダンジョンの、それも一定の場所に長期滞在するなんて、僕じゃ考えられない」

「アッハハっ、たしかに〜。エイくんだったら絶対持ち場を離れるよねー」


 クスクスと笑って――先行するマナの後ろで、ずっと左手に握っていた魔剣の形を変える。


 結局は"鞘状"にすれば解決だった。――外見は握りから、アイスみたいに"真紅の箱"がぶら下がる。なるべく小さくしたので、それほど目立つこともない。


 サッと引き抜く動作で構えると―――瞬時に鞘が元の形を取り戻して両刃の幅広なブレードが生まれた。


「うんうん」


 その動きに満足すると、治療院からすぐ近くにある冒険者用の宿泊施設に併設された『湯屋』に入った。


 寝起きのスッキリ感も――シャワー室で汚れを洗い流すうちに疲労に塗り替わる。そこで、ロックイーターを想像すると深いため息が出た。


 ―――魔法なしではキツそうだ……。


 すぐにマナと合流して顔を見合わせる。寝起きくらいのボサボサ髪と泥とホコリ汚れのなくなったマナは――キラキラと輝く宝石のような存在感がある。


「マナ、帰ろうか」

「うん。お土産もご飯も高かったからね〜。すぐ帰れるのに、わざわざここで買う人は記念かなぁ?」

「――ま、特別モノがいいわけじゃなさそうだしね。記念だろうね」


 コロコロと表情を変える。すれ違う冒険者が二度見して立ち止まるくらいに可憐で向日葵のような彼女だ。


「……ふふっ」


 その視線に気づくと笑顔を満開に咲かせてすぐにキャップを被り出した。こうすれば、『中性的な美男子』に見える。

 ――大して注目度は変わらないがしつこいナンパは防げるのだ。


「うわ〜」


 ギルドショップはともかく民間のテナントは値段が跳ね上がるようだ。


 ただの肉まんを水色に着色しただけのおやつサイズの『スライムまんじゅう』が『一個300G』――ってな感じ。

 人件費や輸送費、後はときおりモンスターの襲撃があるのも関係している。


 通常のモンスターはまず近寄らないが、何事にも例外があって――たとえば、『ユニークモンスター』と呼ばれる異質な能力をもった個体は別らしい。あのロックイーターは強かったけど、ユニークモンスターではないだろう。


 そんなわけで。またいつでも来れるのもあり僕らは『帰還ムード』となった。


 街の中心にある公園は、あの大水晶とそれを抱く"女神像"のモニュメントを中心に広がる。


 公園のベンチもカフェのテラス席にも、男女や同性カップルらしきペアが多く見られるが、ここで雰囲気を高めて地上のすぐ近くにある"ラブホテル"にでも駆け込むのだろう。


 ――ダンジョン内での"情事"はご法度だ。笑いごとじゃない。マナー違反の範疇ではないからだ。たった一発で、冒険者ライセンスが"失効"となるほど重いペナルティが設けられている。



『―――地上に帰還しますか?』


 クリスタルに近づいて触ろうとすれば、いつもの仕事モードになったミカが清廉な雰囲気で問いかける。


『イェス』


 内心と頷きで首肯すれば、僕らの全身が蒼く輝き始める。

 この『転移水晶/クリスタル』から帰還するのは初体験だ。未知の現象に心躍る!


「………ううん、なるほど………? ……対象の指定? 範囲の設定? またしても光ってごまかす気かっ!」

「あははっ誰に言ってるの? エイくんってば!」


 愛想笑いを浮かべるマナはこれから起こる現象を楽しみにしている様子だが、謎現象は気になるだろ?


「……っっ!?!?」


 そのとき。

 どこからか視線を感じた。――とっさに周囲を見渡す。


 けれど、挙動不審な僕を困惑して観察する人はいても、それだけだ。


「どうしたの?」


 とても奇妙な感覚だった。


 たとえるなら、上からドローンで偵察されるのに近いか。だけどそのドローンを見つけることは決してできないのだ。


「―――女神像」


 無機質な女性の石像の瞳を見つめる。大水晶を我が子のように抱きしめた女神の視線は全く違う方を見てる。が、明確につながりを感じた。


 ―――像を通した向こう側。

 どこにいるかも定かではないが、『灼熱の女』というイメージが浮かんだ。


 『聖教会』の信じる『唯一女神セレスティナ』とも、この質素で誠実そうな女神像とも違う、苛烈で情熱的な女だ。


 その瞳で――見つめられるだけで、身を焦がすほどに熱い、と恐怖を感じたのを最後に――僕らの体は転移した。




***




 地上に帰ってきて。まず真っ先に感じたことは魔力の"薄さ"だった。


 転移が上手く機能し、昨日とは違うエレベーターのような箱に僕たち二人は入っていた。


『速やかにお出口へ』


 頭上にあった"電光掲示板の文言"に逆らうことなく僕らは外に出る。


「………あっ」


 遠くにあの魔法の鏡――ディメンションゲートがある、ギルドの大空間にやってくる。


「フンフン、ここに出るんだ?」

「だね〜」


 一つしかない――巨人も通れそうなゲートに「吸い込まれる人」「吐き出される人」が互い違いに交差して歩く。


 ―――水晶広場の街並みとは打って変わり、多数の店舗の広告や掲示板、光沢のある金属鎧を来た冒険者たちが行き来する。

 

 猥雑な室内は、それ独特の熱気に包まれている。《魔力感知》に集まる濁流のような情報量に――思わず、ウッと口を閉じる。


「………っ」


 なるべく人の少ない道を探す。ダンジョン探索で培われた技術をさっそく披露するが普段とは勝手が違いすぎて吐き気がした。


 思えば、ダンジョンの異物は冒険者くらいのもので――あとはシンプルだった。ここは「人の俗」に溢れている。


「……すぅーーっ、はぁ〜すぅ〜、はぁーっ……」

「大丈夫エイくん? すぐ移動しようね!」


 感覚を閉じて防衛する。――そんな僕の内心の働きを察したのか笑顔になったマナに手を引かれて――僕らは流れるように、鑑定所にたどり着く。


 のんびりしてる暇はない。ポーチから取り出したアイテム類を一番手前の白い台に並べていく。――すぐ隣では、大人の冒険者たちが虚空から大量の素材を落としては周囲をざわつかせる。なにかのパフォーマンスのようだった。


「………と、はい。チェックは済んだわよ。ずいぶん頑張ったわね!」


 昨日もいた女の人がフランクに語りかけてくる。だがはぐれを倒しただけの昨日と比べて"大違いの成果"をあげた。

 モンスタードロップだけでも十倍以上だ。……まぁ昨日はお試しだったのもあるけど、非常に順調と言っていいだろう。


「……キミたちまだ二日目でしょ? "カルガモの親子っぽい二人組"。しっかりしてそうな女の子と可愛らしい男の子、かなり印象的で覚えてるわよ〜」


 ―――それは喜んでいいのか、どうか……。


「でも、さすがねっ! 星刻学園の生徒はやっぱ違うわ〜」

「どうも〜。昨日ぶりです。ほかの一年生も似たような成果ですか?」

「…………」


 二人の会話をぼーっと眺める。

 よその同業者の成果は気になるのだろう……。注目を感じる。

 ――マナが引きずるようにして持ち上げた"ロックイーターの皮"は、一際異彩を放っていたのだ。


「そうね。もう5Fに行ってる子もいるけど……このロックイーターはイイ線いってるわね〜」


 周りの注目に緊張する。

 とくに《魔力感知》持ちな大人たちは――僕を怖い目で観察してくるので、その度に、心臓が高鳴った。


「なんと言っても『女神のしずく』ね! 正直意外だったわ。―――ラクミヤくん、『偉業』の達成おめでとう」


 彼女は、そこで区切ると――


「新しい『勇者』の誕生ね! パチパチパチ〜〜〜」


 わざとらしく声を張り上げる。


 ………あの、大きな声で言うの、やめてほしいです。多方面で順番待ちの人が耳ざとく注目してきた。


 一方のお姉さんはまったく悪気がなさそうで、むしろ誇らしいことをしたといった表情をする。


 ――僕は、そういう冒険者特有の見栄やプライドがあまり好きではないし、プライベートが晒されるのも嫌悪感がある。


「あと、これは『金庫』に預けておくべきね。ギルド職員としてはあんまり大きな声では言えないけど、お金に変えられない価値があるからねっ? 売るのはよく考えてからにしなさい」


 声はずっと大きい……。


「そうなんですねっ! じゃあそうします。……行こ、エイくん」

「………うん」


 人の視線と、空気中の魔力の濃淡で、心がカラカラに乾く。

 強い冒険者が放出する魔力は芳醇だが他人のエゴに酔う感覚があった。


 ――精神安定のために"へこみキズのついた水筒"からキンキンに冷えた麦茶を飲む。


「はぁ〜」


 ゴクゴクと喉を鳴らせば――少し爽快感を取り戻せた。




 それからやっと、エントランスのギルドショップにたどり着く。


 人がバラけてようやく外の空気が入り込んだのだ。

 あの鑑定所で預けたアイテムの売買はそのままショップで決められる。


 お姉さんに渡されたタブレットの画面を見る。


___________________________________________

 -小さな魔石 100G

 -魔石 300G

 -小鬼の生皮 100G

 -小鬼の骨 100G

 -狼の毛皮 150G

 -スライムゼリー 200G

 -マッシュ 200G

 ・

 ・

 ・

 合計     2600G


 -小鬼のツノ 800G

 -大地の結晶 1800G

 -岩食虫の肉厚な皮膜 3200G


 合計     5800G 



 非売

 -鉄のこんぼう 500G

 -魔剣ブラッドソード 20000G

 -女神のしずく 500000G

___________________________________________




「―――あ、あれぇ!? 最後だけおかしくない? もしかしてケタが間違ってる?」


 しっかりしてよマナ。――ちゃんと合ってるって。


『………ウーン。イイ感じねっっ……!!』

『ルー、ルー。マナもすぐに追いつくんだポン、ポンポポン』


 空中でエイポンとミカがそれぞれタブレットを指差してアレコレ談義する。


「しずく、50万かー。僕は――ピンと来ないな」

「ねー」


 それより、魔剣かな……。もともと『ホワイトレギュラーソード』が定価"数千円"の商品だったから利益が大きいよね。……売らないけどさ? 専用装備だし。


 それにしたって―――



「冒険者ってホントに儲かるんだねー? "日給50万"とは豪快だ」

「そんなわけっ………! ……ある、のかな?」


 いつもだったらツッコむ彼女も今回は反論できないらしい。


「多分、『ビギナーズラック』ってやつだよ。聞いたことある。クエストの初回報酬はだいたい豪華賞品っぽいし」


 ご祝儀なんだろうね、きっと。


 モンスター討伐系のクエストも、一匹あたり最低100G〜数百G入るのでコツコツと真面目にやれば、やるだけ儲かるのだ。


 今回、モンスタードロップを売却すると『8400G』。

 二人で分けて『4200G』。

 【クエスト】の報酬は個別に貰えるので、素直に『+1300G』して――『5500G』。

 そして、今回の滞在時間は2時間弱なので時給は――およそ『2750G』となる。


 ここから消耗品代をさっ引く形になるが――最下級のポーションはサーバーで補充できるし、大怪我の治療代は無料。戦闘服は千切れて交換する必要があるけど『取り替えサービス』の範囲内。


 そこで武器が破損してたら丸損だったが――メモリアルウェポンに進化した、と。


 こうやって考えると結構ギリギリだな……。

 有り余るMPを使った副業でも始めるかな、と不安になる。


『……急に現実を見るわね……。でもアンタなら平気でしょ? もしかすると強敵を前に腰を抜かすかもと思ってたけど――ゼーンゼンっ! そんなことなかったし!! まだまだこれからよ』


 ―――ミカ。やっぱり、あの場は逃げるべきだったと思う?


『………どうでしょうね? そっちのほうが"賢い"とは思うけども。―――私は前のめりになるのは良い傾向だと思うわ! ――近年、安全ばかりを求めて強さに相応しくない"雑魚狩り"が新規参入者の障壁になってる〜とか問題になってるみたいだし』


 ―――ならいっか! 


 安易に納得すると、僕たちの会話が途切れたところで受付のお姉さんが話し始めた。


「偉業認定される『グランドクエスト』のクリアは滅多にありませんよ。大抵は"逃走成功"か"生存止まり"ですからね。―――かくいう私も学生時代は『冒険』したものですよ〜」


 みんな、本当に話したがりだなぁ。


「偉業、達成おめでとう」


 ショップのお姉さんは急に真面目な表情をつくる。

 と、手元に用意した『賞状』とガラスケース入りの『バッジ』を手渡した。


「―――冒険者ラクミヤエイよ。汝はこれから険しい道を歩むであろう」


 定型分、だろうか。


「―――いかなる困難にも立ち向かい、決して諦めることなく―――いずれ最奥に辿り着く"希望の勇者"だからである」


 何某かのフレーズを借りて微笑む美人。――ギルドは『顔採用』と揶揄されるくらい美男美女が多い。


 お姉さんの仕事は、ウブな男子をトリコにする役目もあるのだろうか? そんな景品を受け取ろうとした僕の手は――巧みにすくい取られる。


「あ……っ」

「ふふ、綺麗な手ね。莫大な魔力を有した魔法剣士様かしら?」

「え……あのっ」


 こういうの、単純接触効果って言うんだっけ? 握手の分だけ"親密"にさせられる。


「うふふっ。ラクミヤ様、お姉さんに話を聞かせてください。――どんな激闘だったの? どうやって勝利を収めたの? 私って冒険者業のアドバイスなんかもできるから、『マウマウ』の交換しよっか」


 ―――ギルド職員は、みなが高ランクの冒険者でもある。そのため競争率は激しく、連絡先の交換はこちらからお願いしても断られるくらいなのだとか。――お姉さんの声が耳に入ると脳髄が甘く痺れた。その陶酔感のままに、口を開く。


「―――へぇ、じゃあ"剣術"を使って倒したのね〜? 私はてっきり強力な魔法で打ち倒したのかとばかり――」

「間違いではないです。――多大なる身体強化と剣に宿らせた魔法の刃で射程と攻撃力を伸ばしましたので――」


 ふふん、と語る。


「あら〜! ラクミヤくん! ホントに魔法剣士じゃない。莫大な資本を元にして動けるタイプの剣士……勇者の称号で成長と神聖属性も加味して……うん―――あ、それと魔法の練習量も大きなアドバンテージになるからね! 『試射場』もドンドン活用してね。そんでどん詰まったら――私が休日に教えて――あ・げ・る」

「は、はわわ〜」

「チッ」


 ぼっ、僕はまだGランクのペーペーだぁ! それだけ『勇者候補』が重く見られている証拠だろう。なってみてよかった勇者。


 鑑定所のお姉さんもそんな雰囲気だったな、と思い出す。


『フフン、私もハナが高いわ〜!! ―――だからと言ってッ! いつまで手ェ握ってんのよこの女は!!」


 僕の中で荒ぶるミカを無視して――会話する。


「―――いいんですか?」


 割合、嬉しそうに取り繕った。


 好意的な反応には――同じく好意で返す。

 人との接し方において、僕は未熟だ。――だから反射のように――この場でふさわしい態度をこなそうと考える。


 ともすれば、モンスターに殺意を向けられるよりも緊張してお姉さんとの会話のシミュレーションを始める。なので、プンスカと手足を放るミカを見る余裕はない。


「あの」


 そこで。

 ずい、と一歩詰めたマナが毅然と介入した。


「アイテムの受け取りをいいですか」

「………あーハイっ。すみません。――どちらを?」

「コレとコレと、それからコレなんですけど……」

「はい、もちろん。紹介状も作りますね」

「ありがとうございます」


 事前に持ち帰るアイテムは決めていた。


「ほっ……」


 一難去ったと、ひと息つく。危うく洗脳されそうだった。手に入れた賞状の装飾やデザインを眺めて、バッジを《鑑定》する。


___________________________________________

 《勇者のバッジ》

 めずらしい。女神の加護が込められている。身につけたものを災いから守る。 売却額:10000G

___________________________________________



 勇者の掲げた聖剣から放射状にあふれた光が、小さい悪魔や竜を追い落としている。ギルドでよく使われる絵柄のバッジだ。


 最初にもらった《勇気の証》より高級感があり、さっそく身につける。

 あちらは一度だけ死ぬ攻撃を防げる効果だったか。

『災いから守る』とは曖昧でわからないな、と思いミカに訊ねる。


『ンー。間違いなく格はこっちが上よ。神秘が込められてるから詳しいことはわからないけど――』


 ならネット検索するか……とポケットに手を置いたときだった。



「おっ、おおーーっ。いいもん貰ったね。兄ちゃんよ」


 

 ガラの悪い大人のグループが接触してきたのは―――


主人公はなかなか将来有望みたいです……。ただしころっといきます。マナちゃんがいないと女の人に利用されそう……。


冒険者(業界)

 強さや成果はアピールしてなんぼ! 堂々と人前で大声を出せる輩が多いよ! 暴力行為もやり返せ! が基本。

 一握りの人格者を除けば、威圧的で野蛮です。この世界だと暴力のハードルもかなり低めで、当然ながら"出る杭"は打たれます。―――勇者なんてそんなの羨ましいからね!

 もやしっ子かつ平時メンタル絹ごし豆腐の主人公は、コテンパンにいじめられてマナちゃんがいないと早々に潰されそうですね。


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