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【魔神転生】 〜無限の螺旋に挑む者たち〜  作者: 暗黒のグミ
第二章 白き怪物のアギト
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血湧き肉躍る


「マナっ――今のうちにっ!」


 パックリと割れた――僕の身長ほどもある切り傷から、大量の液体が染み出してくるのが見える。どうやら臓器の一つが破裂したようだ。


 このモンスターの中身は魔力が通りづらく、ひとまず拘束でもしないと詳細を知るのは厳しそうだが、こうやって何度も斬り刻んでいけば、いつかは倒れるだろう。


 追撃するか。

 それともマナを逃すか。


 地形はいびつで大きな穴も空いているが、"立体地形の踏破"は体育の授業でもやっている。


 めちゃくちゃな状況を切り抜けるポテンシャルがマナにはある。


 一方のヤツといえば……。

 これには堪らなかったらしく。

 身をくねって殺人的な乱杭歯を剥き出しにし、地の底から響くような唸り声をお見舞いする。



 ―――ゔゔゔゔんーーーーッッ!!!



 先ほどよりも何倍もひどい"重低音の爆音"が空気を震えさせる。


 全身の肌という肌が粟立って意識が研ぎ澄まされていく感覚……これは"狩りではなく闘争"だ! やっとわかってくれたかッ!!


 今さらだが間違いのない強敵だ。

 ゴブリンやウルフを何段か飛び越して一気に強くなった感じさえする。


「ぅぅぅ………!!」


 さっきからあそこで動けないマナも――そこだけ重力が倍加したように武器を下ろして膝をついている。


 しかし、僕を守る《オーラフィールド》はこのような広範囲に影響を及ぼすプレッシャースキルと相性がよく継戦に支障はない。


「マナ、立てそう?」

「……………ふぐぅ……っっうぅ…………こわい、こわいよぉ〜」


 仕方ない。

 意識を保てるだけマシなのだろう。僕のクラスメイトだって大半はダウンするはずだ。


 少々、隙を晒すが、フィールドに入れて励ますとしようか。


「『白透刃』」


 もう一度、斬撃を飛ばす。MPにモノを言わせて何度だって"飛翔する斬撃"をお見舞いしてやる。


「………ッ!!!」


 これには、警戒したモンスターが壁際まで身を引いた。


「マナ。あっこの階段を登ってダクトから避難してよ」

「…………うぅぅっ……ふぐっうッッ!!」


 せっかく丁寧にステージ状の階段を作っておいたというのに。

 すってんころりんしちゃったもんなぁ。

 マナは脂汗をかいて、ずぶ濡れのダックスフンドみたいに首を振る。


 意思は固そうだ。


 だけどこいつは強いぞ。

 動けないマナをかばうと、必然、僕の足が止まってしまう。


「どうする、どうする」


 ――持ち上げてダクトに押し込む?

 ――ロープで拘束する?

 ――魔法で防御陣を構築しても、あの口には通用しないはずだ。


 マナが納得してくれるだけで、随分と状況は良くなる。


 そして、激怒するモンスターは、僕たちの事情を考慮する気はなさそうだ。

 手痛い反撃を許容した"暴力的な捕食行為"を実行する。

 もっとも原始的本能に根差したもの――それでいて、強力な『かみつき』だ。


 さらに言えば――弱った獲物と、手痛い反撃を繰り出す二者であれば、果たしてどちらを狙うだろうか。


「――はっ?」


 迎撃の剣は、スルリと抜ける。


 直前になってスナップを利かせたモンスターの頭部は瞬間的に伸長して――無防備なマナを喰らったのだ。


「まてッ―――」


 とっさのことだった。――ギリギリ、反応できた。


 僕かマナ……どちらかは切り捨てなければならなかった!!




「エ、イくん」


 合理的な判断は"捨て石"にしろと言っていた。

 彼女を囮にしたらもっとラクに倒せるだろう? とも。


「―――ぐぁぁああああ!!!?」


 激烈な痛みが脳を蹂躙する。唐突に雷に打たれたのでは……と錯覚するほどだ。チカチカと視界が明滅する。


『らくみやっ! らくみやァっっ』


 自分でも褒めたいくらいだった。

 それこそ、映画のワンシーンみたいに、とっさに仲間を庇って負傷するくだり――そのまんま。


 映画とかだと、もっと上手くやれるだろうと笑ってツッコミを入れてしまっていたが――本当に意識外の事態にはこうなるんだね。


「あ…………わた、しが……ちゃんとッ」



 からん、からん、と。


 転がり落ちた。

 血濡れたホワイトソードと―――"繋がったままの右手"。


 肩口から出てはいけない量の血がプシャーっと滝のように流れて床を汚した。


「と、とと……ッ、とまれっ……」


 僕の、大事な大事ないのちを、これ以上、失わないために必死になった。左手で、魔法でどうにか押しとどめる。


「…………は、ふ〜、ふ〜、ほらマナ。立って。……立ち上がってくれ!! ………………これさ。めっちゃ痛いから」


 頭がスパークしてるんだ。


 分泌される大量のアドレナリンがなければ、今ごろ気絶していてもおかしくないッ!! きっと、キマッた目をしてるだろう!


 とっさに噛ませた障壁も――丈夫なモンスター素材製の戦闘服も学園ご自慢のマントごと食いちぎられて右肩が痛ましい姿になった。


 ブチブチ、バキバキ。千切れた血管がホースみたいに勢いよく生き血を吐きこぼして暴れる。


「…………………」


 それを真顔で、自身の負傷を――マジマジと見つめる。

 視線でも、魔力感知でも……。


 そうすれば、逃れられない事実として脳に叩きつけられる情報の数々。



 ――――吐き気が、してきた。



 このまま………ぼくは―――死んでしまうッッッ!!?!?



___________________________________________

『ラクミヤエイ Lv.2』

【HP】 38/54

【MP】 580/734

【状態】 《欠損》《出血》

___________________________________________



 HP・MPのどちらも"最大値"が減少し、なおもこぼれ落ちている。

 ―――わりと絶望的な気持ちになった。

 どうする、どうしよう?


『イヤァアーーッ!!』


 マナの悲鳴が引き伸ばされて――鈍く聞こえる"不思議な世界"がやってきた。


 僕の頭部から湯気のようにジュワジュワと魔力が立ち昇るのがハッキリと分かる。


 あの魔法だ。


 回復スキルを放とうとするエイポン、囮のつもりかモンスターに体当たりするミカ。


 世界が――スローモーションになった。


 首の動きで緩やかに移り変わる視界。――判断する。

 

 まず、やるべきことは止血と回復だ。

 それとマナの保護だが、そっちは大丈夫みたい。


 すんごい、ぐしゃぐしゃの顔で盾を構えようとしてるから。

 そんじゃ問題はそんな健気な女の子を狙う不届き者だろう。


 遠くに追いやったマナを一切諦めていない様子のクソデカミミズ。

 なんて名前だよコイツ。

 ノーマルモンスターしか覚えてねーよ!!


 ―――ただいずれにせよ、打撃は効きづらく斬撃は通る。


 ヤバいのは一目瞭然。あの噛みつき攻撃だ。スキル効果の乗った大口は――見た目以上の大きさで、グロテスクに尖った歯が獲物の肉をえぐるようにして取りこむので正面に立つのですら避けたい。


 正直一人であれば、フィールドでの回避はいける。

 さらにオプションで迎撃もセットでやれる自信はあったが。


 今は、どうだろう。


 ゆっくりと動く左手がようやくポーチを開いて中身を放り投げ、散乱するアイテム類の中からポーション瓶を見つけて慎重にキャッチする。


 現在進行形で、したたる失血が割と致命的だ。魔力のヒモで筋肉を締めつけゴムバンドみたいにするが――これだけでは不十分のよう。


 千切れた腕さえもつなげてくれる瞬間的な回復効果を発揮するポーションを口元にやって噛み開ける。


 下半身から伝わる振動のせいで多少こぼれてしまったが、この癒やしの雫を口に注ぎつつ、足を動かすのだ。


 "超低速の目蓋"はあまりにも遅く、緩やかで、そんなボヤけた視界にくっきりと浮かび上がる魔力の輪郭を追う。


 どうやら魔石はあるが、一つじゃなさそうだ。困る。困った。


 そうしてやってきた―――ころりんポイント。何度もシミュレーションした。


 ―――なんなら自分が無数に分裂して行動したようにすら見えた。それらの影が重なり一つに収まる地点に手を伸ばす。


 はい、こうやって落ちた右腕の取り合いになるんだよね。


 コイツやっぱ知能高いなぁ〜。

 考えるに、一番厄介だと判断した武器の無力化とかいやらしいよ、おい。


 ―――結果は、引き分け。


 剣はとれたが、手首から向こうは全部食べられてしまった。


 ――美味しくいただきました! ってかぁ? 絶対殺してやるからな、覚悟しろよ。



『スキル《ブースト》を習得したわッ』



 本人の意識があるっぽい喋りで、ミカが語りかけてくる。

 魔法で向上した思考速度に合わせてのアナウンス。

 いよいよもって僕の頭に住んでるな。―――ミカ、脳みそに寄生してない?


『そんなこと言ってる場合ッ!?』



 何はともあれ。


「―――《ブースト》」


 吹き飛ばされた体を制御して受け身を取りつつ、さっそくスキル《ブースト》を使用。二の足でしっかりと大地を踏みつけた。


 おおっ、これは……!!


 今までは意識して行っていた身体強化が"半自動化"されたことで、他の魔法にリソースを注げるようになった!


 そのことを認識した瞬間―――僕は思いっきり地面を蹴った。


 途切れた《オーラフィールド》が一瞬にして展開される。赤い空間の全域を把握し前傾姿勢で自身の体を弾丸のように飛ばす。


 そして、みなぎった力を左腕に結集させたのだ。


「―――白透刃ッ!!」


 白く発光するホワイトソードは"血化粧で妖しい魔剣"みたいな外見となったが。鋭さはバッチリ。圧縮された思考の中で―――左に大きく傾いた体を強引に調整して"荒ぶるエネルギー"をすべて対象にぶつける。


 乱暴な剣撃が、振り抜かれると大きな破裂音が引き延ばされて聞こえ、それにも構わず戻ってきた腕を―――


 もう一閃!!


 叩きつけた剣撃の威力は凄まじかった。


 サンドバッグを殴るように、くの字に折れ曲がるモンスターが食いしばったのにも関わらず横倒しとなる。一回転した。まるで壁がなくなったようだ。


「へっへっへ………どうだッ!! クソミミズ満足したかっ!!」


 身体の欠損に対する恨みを"小物っぽいセリフ"として吐き出す。


 半分に、千切れかかった首元から、ドクドクと大量の出血がある。これでもし回復手段が存在しないならば――僕の勝利は揺るがない。


 こちとらポーションを飲んだことで血は止まった。

 それでも、ニョキニョキと腕が生えることはないが、戦闘に支障はない。


 対して、あちらは……。


「オイ」


 ……………いや、再生してそうだ。千切れた皮膚どうしがうねうねと動き、補修するみたいにくっつけている。


 時間をやると完全回復がオチか。


 ならば仕方ない。再び、『白透刃』をぶつけるために地を蹴る。


 この段になってしばし相手方にうろたえを感じた。

 どうやら、"自身の命を奪える敵"とまでは判断していなかったらしい。


 だが僕は、容赦なく剣を振るい、そのたびに閃光が走る。

 片腕を失って重心がズレにズレるが、本日中に確実に筋肉痛になるであろうインナーマッスルのおかげで連撃に淀みはない。


「はっはっはー!!」


 硬度のある口元を狙い、『白透刃』をぶつけまくるとそのたびに悲鳴を上げてのけぞった。


「まだまだまだァァ!!」


 砕かれ続けるバッキバキの歯列。それでも、巨体のパワーは凄まじく暴走トラックのごとく突進してくる。


「あぶないッ」


 その場で跳躍して――ヤツの突進を直前まで引きつけると一気に上方向に急加速して体を弾き飛ばす。


 《オーラフィールド》ごと魔力を噴射させて上空をとったのだ。


「!」


 すると――無防備に、さらけ出された"肉厚な外殻"が見える。


「―――ここだ」


 すかさず、掲げた――大上段の白剣が輝いて―――まもなく振り下ろされた。



 ―――それにより、最大まで張り詰めた糸が突如断ち切られたように、バケモノのアタマが遠くまで吹っ飛んでいって……。


 フロアを盛大に揺らしたのだった。

マナちゃぁん!!

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