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【魔神転生】 〜無限の螺旋に挑む者たち〜  作者: 暗黒のグミ
第二章 白き怪物のアギト
17/73

大迷宮3F:探検

エンカウント


 一度は横切ったと思った。あの男子が、僕たちに気づくと馬車を停めさせる。


 ―――マズイ。


 学園でもよく絡まれたのだ。


 高貴な人間だと知っていながら――体育の授業で容赦なく攻撃魔法をぶち込んだのがいけなかったのか……。

 対人戦の作法など知らず全力でぶつかっただけなのに……! ぶ、無礼打ちとかはしないタイプの人でよかったけど……。


「エイくん。御堂様に何かしたの……」

「いや、なにも」


 小声で話す。


 周りの人たちも厄介ごとに関わりたくないのか離れていく。

 何故、わざわざ停まったのだろう。挨拶なら手を振るくらいでいいと思うんだけど。


「貴様はたしか、楽宮だったな。『組み手』ではいい気合いだったぞ。―――クックック……。まさか、我を前にしてためらいなく攻撃魔法を放つとは予想できなかった。あのおかげで他の者も遠慮せずにかかってきたからな。もし担任の桜木が止めねば、あのまま我の負けであったに違いない」


 存外に愉快そうな雰囲気だ。


 しかし、これは謙遜だろう。


 彼は開幕の《グリッターボール》を難なく木剣で叩き落としたのだから。

 それであっけなく武器が破壊されても次手を用意している様子だった。


「……あ、ありがとうございます?」


 なんとか、そう返す。


「………ふん。やはり戦っているときとは大違いではないか。一気に腑抜けたようにも見えるが………さて――貴様の演技にまんまと騙されているわけではないだろうな、おい」

「ハハ、なんでしょう」


 馬からわざわざ降りて仰々しく、男はへりくだる。



 ―――正直なところ、早く先に行きたいんだけど。この問答になんの意味があるのだろうか?


「どう見る」

「………藪蛇かと存じますが」

「そうか、すまなかったな楽宮。―――では、さらばだ」


 カッと見開かれた目で僕のことを観察した男は結局、曖昧な返しをしただけに終わる。


「ああ、ハイ。さよなら」


 僕の返事を聞くと彼は去っていった。


 馬車の背中が、だんだんと小さくなる。


 それにしてもなぜ馬車なのだろう? 馬は特別でも、馬車本体は魔道具でもなんでもなさそうだった。



***



「やはり、分からんか」


 二人組は曲がり角を越えて、盗み聞きされる距離ではなくなってから話し始める。


「さっぱりですね。『偽装』やステータスそれ自体の『改竄』もない。ですが、見る人が見れば分かる類いのヤバさですよ。―――なんでしたら今度、『偵察』から一人連れてきますか?」

「そこまでせずともよい。背後にどんな支援者がいたとしても、やつは我を一人の学友としてみなした。ならば、こちらも相応の礼儀をもって返すべきだ」

「………ご立派な考えかと」



***


___________________________________________

[星刻の大迷宮 3F ]

___________________________________________



 そういえば、馬車でどうやって階段を登ったんだろう……なんてことを考えながら、後ろを見ると、暗がりで地下鉄の階段みたいな入り口が見える。


「あ〜〜〜! 心臓止まるかと思った! ハァ、ヒヤヒヤしたぁ……。あからさまに、めんどくさそうな顔が出てたよ! ――たまぁにエイくんってば危機意識なくなるから、ちょっと真面目にやってよ? 御堂さまの人がいいだけで、下手すれば"こう"よ!」

「ごめん、ごめん」


 マナの瞳に映る自分の姿は、いつもの間抜けヅラ。

 

 ―――けれど、久しぶりに『ツノ』が見えた気がした。


 頭上を見上げて、"ある一点"を見つめれば、無心になれる。

 そのときに『願い』を告げれば叶えてくれる……。

 すごく個人的な感覚なので、誰も信じてはくれないんだけどね。

 あの《オーラフィールド》がものすごく強かったりするのもその願いの範疇なのかもしれない。


 マナにも一度だけ話したことはある。

 だが今もそのときの不快そうな表情がハッキリと思い出せる。なので、僕の"地雷"だ。


 視界の左上に映る『ステータス』は、グラフィカルで直感的にHP・MPを教えてくれる。それが一定の割合を下回ると危機感を煽る警告をしてくれるらしい。


 それこそ、僕の『願いのツノ』も機能【メニュー】に近いだろう。


 便利だが理解不能な現象で、僕らの認識や世界観を決定づける要素。


 【メニュー】でアクセスできる情報は少しずつ解禁されていくので親切だが――僕のツノは無制限で心にダメージが入る。


 とにかくこの世には『怖い奴ら』がたくさんいるんだよ。


 ギルドが言うような『魔王』がいるかは知らないが、世界を滅ぼせる存在が多数いるのは確かだ。―――神様も普通に街中で見かけるし。


 地上でも、ダンジョンでもそれは変わらないはずだ。


 だからいずれにせよ、強くなる必要がある。

 今の僕は、潤沢な魔力をふんだんに使える"超敏感肌のザコ"だ。

 この敏感肌は、知らなくていいことまで知っちゃう厄介なものでもある。見ようと思えばなんでも見えてしまう―――



『―――ねぇさっきから、何の話をしてるの?』



 ―――ミカ………ツノだよ……。僕は意を決して告げた。………あと翼もある……。ほかには………。

 

 肩付近に停まったミカに対して―――僕がそう言うと………。


『…………………』


 ミカの表情は抜け落ちて突然、"魂のない人形"みたいになった。

 まるでミカが――どこにもいないガラクタになったような……そんな恐ろしい光景にゾッとして――寒気を感じつつ、前を向いた。



「―――何かの気配がする。そっちの通路からだよ!」


 耳をすませて、レンジャーを気取ったマナの言葉は正しい。


 ようやく、最初のモンスターが白い床に躍り出てきたのだ。


「………あ、あぁ……」


 しかし、先ほどのショックが抜けきらない僕は、緩慢な動作で震える手をさする。……あはは……は……はやく……魔法の準備を……。


『―――ラクミヤッ、なにしてんの? いくら魔法が強くてもボーッとしていい理由にはならないわよ!?』



 ―――ッッ!!


 心臓がズキズキと痛むくらい、びっくりした。


 …………よかった。いつものミカに戻っている……。以前のマナも同じだったが、もうあの話はよそう! 考えるのもやめだ!


「―――うん。……ごめん! 気をつけるよ」


 そして出てきたのは―――下劣で醜悪極まる顔相のボロを着た小鬼。


 今まで見た"はぐれ"より一回り体格があって腹も出ている。未熟児ではない。



 ―――『ゴブリン』。


 その手には、人骨らしき骨があった。


 まさに、それが、"はぐれ"ではなく"正規のゴブリン"である証。

 肌ツヤもよく、おでこのツノも立派だ。


 『ゴブリン族』のツノは強さの指標でもあり、魔力が多く集中する箇所。それが故か、全体的な魔力の圧も増し幾分か精強に見える。


「―――キュオオオ〜〜〜っ」


 やつは、ひどく耳障りな奇声を発して突貫してきた。

 機敏にステップを踏んで。小刻みに横移動をしながら。

 決して狙いを定められないように……。その動きは学習したのだろうか? 

 生来のものかは分からないが、《グリッターボール》が飛来しても慌てることなく避けるそぶりを見せた。



「グギャッッ」



 ………まぁ実際に、避けられるかどうかは別の話だが――それにしても効きが悪い。


 毎度のごとく転がったところに"追いグリッター"するのは同じことだが、二発目が当たっても、吐血と何箇所か骨が折れたくらい。


 ―――まだ全然動けるじゃないか!



「こいつオオカミよりも強いかも」


 戦わせたら空腹のオオカミじゃ敵わないかもな……。

 そう考えると少しだけワクワクしてきたっ! あの"人骨"も凶器として扱える。――何気に武器を持った敵と戦うのは初めてだ。


「エイくん、私も前に出るからっ」


 僕らの脅威を本能で感じとったゴブリンは、やってきた通路横にある洞窟に身を隠すので、これを追撃する形だ。


 しかし……。


「マナ――ストップ。そこ、罠があるから。―――アロー」

「えっ、ウソ」

「―――アロー」

「グギッ……グギギィイッ……ぎぃやんんっ!!」


 暗がりでスタンバってたゴブリンは―――もう少し歩けばマナがトラップにより床に沈むことを知っていたのだろう。


「ぎゅゥうング……ァアァアア!!!」


 苛立ちをあらわにした――彼の足元に"魔法の矢"を連射する。


「!?」


 好反応で跳躍する彼の――アクロバットな動きを大ざっぱに捉えて――連発し、徐々に壁際に追いやった。


「グッ、グギィぃ………!」


 手足を穿たれて磔になったゴブリンからおびただしい量の血液がこぼれて―――瞬く間に、さび臭くなった洞窟の通路。


「よっ」


 はい! トラップを踏んでガシャコン! 30センチばかり洞窟の床が沈み込む程度の地味な機構だったが、勢いをつけて走れば、バランスを崩すくらいはしただろう。

 あちら側で恨めしそうにする瀕死のゴブリンにトドメをさす。


「―――アロー」


 魔法陣から取り出した"魔法の矢"を飛ばさずに――つかみ取り、ゴブリンの胸元にぐりぐりと押しつける。


「〜〜〜!!!」

「あはっ」


 ゴブリンの丈夫な皮膚でもやはり生身では耐えられないか! やっぱり凶器は大事だな!

 

 しかし、冒険者の装備品を奪い取れば、かなりの脅威となったはずだ。


「―――マナ、大丈夫?」

「う、うん。一瞬だけ動けなくなったけど」


 鬼気迫る咆哮が、ビリビリと空気を震えさせてマナを怯えさせたのだ。


 "一発逆転の底力"。

 

 冒険者を萎縮させ、戦意を喪失させる"起死回生のプレッシャー"だ。


 僕には効かなかったようだが……。


 ゴブリンは、自らの胸を貫く杭を必死に引き抜こうとする。

 だけど、力比べなら上から押し付ける――こちらが有利。

 力強く、生々しい両手の抵抗を感じながら、僕は魔石をめざす。


 そして、もっとも抵抗が強くなったとき、うかつに接近した"愚を知れ"とばかりに、全力で襲いかかったゴブリン。


「キキギャアーッ!!」


 僕のことを熱烈に抱きしめるように飛びかかる。

 不衛生で凶悪な歯をのぞかせて、僕の首元を狙って――噛みついてきたのだ。


「ニィんぃ、ギュアァアァアア〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

「――ははっ!」


 その勢いといったら、まさに"死力"と呼ぶにふさわしく――

 自身の命を犠牲にして一矢報いようとする"純然たる殺意"を浴び、にわかに嬉しくなった。


 思わず笑ってしまい、語りかける。


「そうだよなぁ――ゴメン。汚いとか思っちゃダメだよな」


 ―――剣を汚したくないからって、淡々と魔法で処理するなんて可哀想だ。


 ゴブリンだって精いっぱい生きてるんだ……!! もっと敬意を払わないと!


「ふふっ、エイくん楽しい?」

「………うん! すっごく楽しい!!」

「よかった」

 

 ―――ザシュ、と。


 振り抜いた刃が――ゴブリンの頸部に食い込んで軽やかに断ち切った。―――くるくると宙を舞ってクビが転がり跳ねる。


 その後、バケツをひっくり返したような音が洞窟にこだまし真っ赤に染めた。とても印象的だったのは――ゴブリンの、天に助けを求める指先の動きだ。もがき苦しみ宙を彷徨う。――だが結局、助けは与えられず、ゴブリンはその胴体から崩れ落ちたのだった。



 ―――プシュゥゥゥッ!!!


 

 血潮の輝きが、生命の水しぶきが、不規則に降りかかった。


 その雫の、一粒一粒が――まるで宝石のように美しく価値あるものに見えた。




「あっ……」


 だがそのとき―――マナの、その綺麗な顔にも不衛生な生き血が何滴降りかかった。


「ごめんッ」

「―――どうしたの、エイくん?」


 怒られるかと思ったら微笑み返された。――あの女子たちであれば、不快感を示すだろうに。


 文句も言わず、笑みを浮かべ続けるマナは―――やっぱりヘンだよね。


 病的なものを感じるよ? マナってばさ。



『初めてゴブリンを倒したわ!』

『経験値を30取得した』

『クエスト【ゴブリンを倒そう】をクリアした!』



 ようやっと。戦闘がそれらしくなってきた。あのゴブリンにいざなわれて足を運んだゴツゴツの岩肌をした洞窟内を歩く。


 すぐに現れた分岐を『左』に進み、最奥の行き止まりまでやってくるが、やはり何も置かれてはいない。


 誰もが簡単に来れる場所は、競争率が激しい。


「グゲッヘッヘ……」


 その帰り道に、下卑た嘲笑を浮かべたアレとはまた別のゴブリンが待ち伏せていた。


 なので。これをマナと左右から挟むように迎撃する。

 多少の知恵があるゴブリンの足は優先的に狙い、厄介な逃走を封じる。


「ハァッ!!」


 ナイフのひらめきにも似た危険なツメを、マナが受け流し、その際に生じた隙を《グリッターボール》が見逃さない。


 一気呵成に叩き込まれる。多重に襲われて――洞窟の壁に崩れたゴブリンは『潰れたカエル』みたいだった。ときおり見かける道路でぺちゃんこになって干からびたソレよりは――マシと言ったところか。


 それじゃあ。今度はレディファーストとばかりに譲ったラストアタック。


 マナはゴブリンの頸動脈をぶつ切りにして、斜めから入刀―――鎖骨までを、一刀両断した。


 だが僕のようにはいかずに、ぶらん、ぶらんと垂れ下がった憐れな顔面を――蹴り飛ばして残心する少女は、どこか危険な魅力をかもした。



___________________________________________

[戦闘に勝利した!]

[ゴブリンを倒した!]

[経験値を15取得した]

___________________________________________



 今度は分岐を『右』に進み……。


 すぐに三本に分かれた道の一番左から順に攻略していく。探知すればだいたいの地形と敵の位置は分かるのだけど。

 ここのモンスターは十分に手強いので滞在してもいいだろう。

 【マップ】を埋めていきたい。そうして――クリアになったら同業者の位置も捕捉できて事前に対応を決められるのもいいね!


「………お、なんかある。―――『宝箱』かな?」


 この道は突き当たるまでもうすぐだったが岩壁と天井のスキマに"何か"ある。


「どこどこっ?」


 魔力は、そのスキマの向こうに小さな空間が隠されていることを教えてくれる。


「―――《グリッターボール》」


 その箇所を破壊するとガレキと土砂が流れ落ちた。

 ここらの岩壁は頑丈で、攻撃魔法をぶつけても、いくらか破片が欠ける程度のはず。


 もろくなった壁を剣先でほじくると予測通り――ではないが、"陶器のツボ"が置かれていた。


「うーん? 何故にツボなんだろう……」


 固定した《シールド》を足場にした自作の階段を降りる。


「それを言ったら宝箱もだよね! 資源が勝手に湧いて、どうぞって入れ物まで用意してさ。おっかしいよね〜」

「ホントにそう。……さて、ご開帳といきますか」

「ドルルルルル………」



 ダン!



___________________________________________

アイテム《やくそう》

 ふつう。口に含めば少しだけキズが治る。

 売却額:50G

___________________________________________



「よっしゃ初のトレジャーだ!」



 手に入れたアイテムは、【ライブラリ】に登録された。


 シソに近い植物の葉が一枚。これは、傷口に塗るか飲み込むことで負傷を癒す、ごく一般的な『ダンジョントレジャー』だ。

 普通にショップでも買えるし、ポーチにも入っている。


「それでも嬉しいもんだね〜! 初めてのお宝だよ」

「だよねっ! ココから少しずつアイテムが豪華になってくんだろうなぁ……」

 

 そうに違いない!


「記念にとっておこうかな……」

「いや、怪我したら使おうよ! それか『ポーション』の材料にしてねっ」


 ポーチに入ってる――角ばったガラス瓶の中にある黄緑色の液体『ポーション』は、この薬草を使った飲み薬で、効果も高い。


 そんなウキウキ状態の僕らに次なる『朗報』だ。

 ツボのあった小穴は、人ひとりが通れるくらいの穴がずっと続いていて――その先に"隠し部屋"っぽい空間があったのだ。


「マナ、行ってみる?」

「………もう。止めても聞かないクセに」

「そこで待ってて」


 ここらの土質からして泥だらけにはならずとも、埃まみれは確定だ。


 汚れるのはイヤだよね? と思ったけどマナは普通に着いてくるみたい。


「…………」


 おそらく、不承不承な表情からして……。

 服が汚れるのと、僕を自由に行動させるコトとを天秤にかけた感じだろうか。


 通気口のダクトのような横穴だ。

 匍匐前進でせっせと進み、たどり着いた先の部屋に降り立つ。


 ―――そのときに、《シールド》を挟んで固定し、マナを向こう側に閉じ込めてみた。


「エ・イくぅぅんっ」


 鬼のような唸り声を上げるマナを無視して――僕は部屋の中央まで歩く。


 魔力感知でわかる。複数の罠が確認できたので、安全な場所にいてもらいたいのだ。



『隠し部屋を見つけた!』

『クエスト【探検の第一歩】をクリアした!』



 赤マークの"ぽっち"が存在をアピールする【クエスト】を素早くタップ。


 報酬は『500G』。


 こういう細々としたクエストのクリアも積み重なれば――大したものだ。あとから『探索の成果』をまとめて見れるので、今は気にしなくてもいい。


 この部屋は、真上から見ればそら豆みたいな、いびつな形状で、地面も平らではなくデコボコ。


 自然にできた空洞に見えるが、ダンジョンは地形の変化など朝飯前だ。


 僕らが来る"少し前に生まれた"としても驚きは少ない。


 そんなことを考えて、部屋の中心部までやってきたときだった。


 足元の大地が蠢動を始め、僕の右足の置かれた地面が棒状に抜け落ちる。


「―――よっ、と危ない」


 とっさに後ろに飛び退き、頭上を確認する。


 抜け落ちた地面と入れ替わる形で天井から"柱"が降ってきたのだ。


「マジで危なそうだ」


 今回の罠は、マナが引っかかりそうになった床が少し沈む程度のいやがらせではなく、極めて殺傷性の高い―――『デストラップ』だろう。


 完全に殺しにきてるのが分かる。―――ズガガガガッッ、と激しい爆撃音が続く。当たれば大怪我は免れない規則的な形状の列柱が――雨のように降り注ぐ。離れていても振動がすごい。


「ほぉ〜深そうだなぁ」


 できあがった『奈落』に落下すれば負傷し――その真上から容赦なく叩きこまれる列柱が人体をぐちゃぐちゃに挽き潰すだろう。


 直径3メートルくらいの多角形の大穴は―――"深さ10メートル"はあるだろうか。


 ―――やっぱりマナを連れてこなくてよかった……。最悪の想像は、一瞬でミンチになるマナの姿。そんなのは見たくない。


 さて、一つ一つが致命的なトラップらしい。それらが連鎖的に発動した最後は……。



 天井から"巨大ミミズ"が降ってくるというものだった。



『―――ラクミヤ。現状では倒せないモンスターです! 速やかに逃走しよう!』


 さっきまでは不満そうな顔はしても文句は言わなかったミカが――自由意志を半分奪われてるっぽい感じで、大きな警告を発した。


 そして―――


 初めての曲が流れる。



【♪絶望のテーマ】



 一刻も早く立ち去ることをすすめる、静謐で調和のとれたメロディを背景にして――祈るような、切実な歌声が聞こえる。


『♪〜』


 高音域で、若干ヒステリック気味にも聞こえる女の人の声だ。


 とにかく此処から立ち去れ――と、その美しい歌声と不穏な音色により、僕の心に訴えかけてきたのだ。


 

 それに対して、僕が取った行動は……やはり―――


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