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【魔神転生】 〜無限の螺旋に挑む者たち〜  作者: 暗黒のグミ
第二章 白き怪物のアギト
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 奮闘虚しく、倒れ伏した可愛い名前のオオカミを見やる中、歓喜のファンファーレが頭で鳴り響き、初めてダンジョンに入ったときにも似た全能感が身を浸す。


「おお〜っ! なんかすごい!」


 荒ぶる魔力が、一部外に放出されて轟々とうなり、光を屈折させる。


 ――あっ! MPだけなんか変だと真っ先に思い至ったが。全アビリティが増強したのだ! 自己認識が明らかにアップデートされている!


『MPに関しては……アンタそのへんの常人を……ヒグレを丸ごと詰め込んじゃったみたいなものよねぇ……』


 まったくだ。自力では到底なしえない"魔力の収納術"である。自分の体であるのに急速に別物に作り変わっているのが実感できた。


 今さらだが、【ちから】は"筋力・腕力"に関係する。

 さっそく、握りこぶしを作って力を入れてみるとハッキリと握力が高まったのを実感できる。


「エイくんもレベル上がったでしょ?」

「うん!」


 僕もマナも、より一段と強くなった。


「――フッ!」


 今度は地面を蹴って、体の動きをたしかめる。

 移り変わる視界のスピードとその認識が明らかに変化している。


 【びんしょう】は"身のこなし・反射神経"に影響する。


 実際、昨日までとは、まるで見える景色が変わったようだ。



『――くるわよ』

「ああッ!」


 さっきまでいた通路の付近で、急激に魔力が高まる。


「……えっ?」

「"仲間を呼ぶ"って、そういうのもあるんだ……」


 てっきり《雄たけび》の届く範囲にいるモンスターを強制的に集めるスキルだとばかり思っていた。


 明らかに、本来のモンスター出現ではなく意図的な誘因だ。


「なッ……!? 知識にないよッこんなの!」

『マナ。撤退をお勧めするポン。ダンジョンの"予測不能事態/イレギュラー"は日常茶飯事。迅速に撤退するのもまた勇気だポン』


 生まれたてのモンスターが唸り声を上げる。


 ―――"三匹"のはらぺこウルフが動き出す。扇状に散開して、緩慢な動作を取りながら鋭い眼で、こちらの様子をうかがった。


「―――ハッ! こうなればッ!」


 即座に判断したマナが一歩踏み出した。ホワイトソードの持ち手部分で、盾を打ち鳴らし、注意を惹きつける。


「エイくんはッ! 牽制の魔法だけ打って、近くのパーティを見つけてきて!! ……早くッッ」


 さっきは"一対二"で囲んだからこそ、余裕のある勝利だったのだ。


 今度は、数の上で負けているし、それ以上にマナが切迫するのは――はらぺこウルフがみな《チームワーク》という思念伝達の"連携スキル"を持っているからだ。


 はらぺのウルフ単体のモンスターランクは『F』。群れではワンランク上の『E』相当とされる。冒険者で言えば、"レベル10以上が適正"だということ。


 レベルアップを果たしても、僕の基礎的な耐久力は並以下。

 噛み付かれたらきっと、あっさりとその皮膚を切り裂かれるか――骨を噛み砕かれるに違いない。確実な勝利は、望み薄だろう。


 だから、マナの判断は冒険者として正しい。

 彼女にとっては、僕を逃す建前で言ったのだとしても、ほんの少しでも傷つけないように、いつもの過保護を発揮したのだとしても。


「―――《オーラフィールド》。僕も戦うよ」


 だからこそ、そんなマナのために僕は戦うのだ。

 それに、僕だって今や魔法使いのはしくれ。無防備な弱者などではない!


「ッ…………な、なんで!?!?」


 そんな僕の行動に対して絶望したマナ。裏切られたと言った愕然の表情で、大胆に振り返り、その瞳が困惑げに揺れた。

 それが戦闘時では、致命的な隙を生むのにすら気づいていない。


『………ラクミヤ、いいのね?』


 そう、決めた。


 マナの行動に警戒し、遠巻きにこちらを睨みつけていた三匹は――いまが絶好の機会とばかりに距離を詰め―――しかし、そのまた背後の通路からやってくる気配に一瞬だけ注意を向けて、すぐさま地を蹴った。


「ッ!」


 遠くの足音は―――獣のものだった。こちらの味方ではない!

 有利と見るや否や瞬時にタイミングを合わせ飛び出してきたのだ! 

 モンスターの動きは洗練されていて、とても急ごしらえとは思えないっ!!


「――どいつからッ」


 魔法の狙いを定めようと左手を指し示す。だがヤツらは直前になってフェイントをかけ、散り散りになって飛びかかってきた。


 ―――その動きがスローに見える。


 瞬間的に消費された《オーラフィールド》内の魔力が速やかに供給されることで、MPが凄まじい勢いで減少していく。


 使っている魔法は―――おそらく『身体強化』だろう。それも脳の処理能力を引き上げる系統の。思いつきで形になったのはスキル《無属性魔法》や《オーラフィールド》などのシナジーとレベルアップの恩恵、そして莫大なMPがあるからこそ!


 滞空状態にある――はぐれウルフの姿勢や攻撃方法。

 一匹ずつの狙いを読みとり、状況を把握するだけでも過去最高のMP消費量を叩き出す。


 引き伸ばされた思考が、通常の時間に戻され――時間が一気に押し寄せる。


 認識と体感のズレは、ひどく酔うものだった。



「ぷはぁっっ……………!!」


 とっさに放った左手で破裂音がした。

 最速で打ち込んだ《グリッターボール》の成果だ。


「――キャンッ!?」


 まずは一匹の無力化に成功した。これで何秒か稼げるはずだ。


 ………次ッ!


 急加速した《アロー》が、前に立つマナの肩越しに放たれる。


 今まさに喰らいつき、強靭な爪でマナを押し倒そうとしていた個体に深々とヒットした。


「――キュゥンッ」


 のけ反り、ウルフが痛そうに下半身から落ちた――心に訴えかけるその悲鳴から意識を切り変える。


「―――次ッ! そいつッ!」


 右手側に大きく迂回して僕を狙う。狡猾なやつの突進は《魔力感知》の範囲内を超えて《オーラフィールド》にかぶりつく。


 そのタイミングで、即座に《シールド》を張った。右腕を突き出す。その先で、透明ガラスに気づかず頭を打って倒れた人みたいに転倒し無防備をさらけ出すウルフ。


 よし、第一波は凌いだ。

 思った以上にレベルアップの恩恵が大きかったようだ。


 【かしこさ】が魔法の威力を上げ、【きようさ】が命中率を上げたのだろう。


 とっさにしては、いい結果だった。僕のイメージしていた理想の未来から減点しても『80点』はいく。


 とくに、しょっぱなの左手のやつは、以前の体感だと多分かわされていただろう。


 冒険者が日頃から「レベル」「レベル」としつこいほど口にする理由がようやくわかった。


『なんとぉ〜!? お見事だポンっ!』

『すっごい集中力で、私ごと弾かれてたけどッ。いつのまにかMPが"200"も減ってるわよ!?』


 ――ああっ! だから一秒たりとも無駄にしない! 何事か、と視線を戻したマナの懐に近づき、テンタクルハンドを全方位に生み出す。


 足元から、一気に開かれる"蓮華"のごとき魔法。

 ノータイムで放てる魔法の強度は大したことがないが、障害物にはなる。


 そのあいだに、体内の魔力を集中させて両腕に蓄える。


 まもなく、三方向から攻撃を加えられ、あっけなく崩壊した魔法の残骸が儚い粉雪のように散る中、片目に傷を負った一匹がマナと衝突し、僕は両手を左右に広げた。


「『ダブル・グリッター』」


 オーラフィールドの両端で、パパンッと破壊音がした。

 手のひらから生じた衝撃球が狙いを誤らず標的に直撃した残酷な音だ。


 続けて、受け身をとった――あるいは肩から落下した両名に付着した僕の魔力をそのままマーカーにして"弾道"を引く。


 距離がバラバラになったが、これで追尾がいけそうだッ!


「『ダブル・アロー』」


 両手はそのままに。


「『ダブル・アロー』」


 合計―――四発。肉を穿つ音が聞こえた。


 虚しくかすれる悲鳴、体の奥底までが異物によって深々と貫かれ、ドクドクと流れ落ちしたたる大切な血液がやがて、血の海を作った。致命傷だろう。


「ぐぅッッ……ああッッ!!」

「っ、マナ……」


 静かに息を荒げた僕が戦いに気を取られているうち、マナの方も大詰めらしい。そちらでは、"肉を切らせて骨を断つ"と言わんばかりの、凄まじい血みどろの戦いが繰り広げられている。


「……っ」


 僕は一瞬マナの援護に行くかと迷い――その鬼気迫る姿に臆したわけではないが、後顧の憂いを絶つため、二匹にトドメをさす。


 起死回生。死なば諸共。猛烈な威圧感を放ち牙を見せた二匹の真上から無慈悲に《グリッターボール》を垂直に当て、肋骨を粉々に砕く。


 ついで、阻むものがなくなったボロボロの胴体に《アロー》を射撃すると、狙い通り魔石を破壊させて、ようやく"息の根"を止めた。


「………」


 残心する。

 たったいま急激に失われた魔力は致命的なものだ。数秒単位でなくなる最後の勝算を、本能が知らぬはずもなし。


 念のためにオーラフィールドの外に伸ばした二本の触手で"奇跡の可能性"を吸い取った。……うわ! ダメそうだ、この魔力……絶対カラダ壊すな………。


「――手強かった」


 あの庭で格闘した蚊を彷彿とさせる"触手の使い捨て"。

 空気に散った魔力からして無念にも、彼らは"単なる死骸"となり果てた。


「―――で、どうするよ?」

「ッ!!」


 遠目で硬直した増援のはらぺこウルフは――弾かれたように身を翻す。


 牽制の《アロー》をテキトーに飛ばすとやつは全速力でその場から脱した。――まったく潔いやつだ。


『お疲れさまっ! "向こう"はどうするの?』


 と、ミカが"向こう"を指差す。こちらは、わりと如才なく勝利を収められたが、マナは一対一だと脅威的な粘りを見せる、はらぺこウルフを前に完勝とはいかないようだ。


「フー……フー……フーッッ!!」


 裸であればまだしも――武装の差で負けるはずはないとしても――見るに無惨な光景だった。


「――このぉ!!」


 左腕を犠牲にしたマナの胸元で、"ホールド状態"になった"彼"のことを羨ましいとはちっとも思えない。


 なぜなら、現在包丁で捌くようにしてその首を切り落とされているからだ。


 絶体絶命のピンチに死力を尽くし猛烈な力で脱しようとする、はらぺこウルフ。「そうはさせじ」とケモノじみた吐息をこぼし締めつけるマナ。


 頑丈な魔物の骨に阻まれ、毛皮と肉がズタズタに引き裂かれるヒジョーにグロテスクな"解体ショー"が開演してる。


「マナ」

「もう終わるから待ってて」

「ハイ」


 ――ドスの利いた声だった。顔の半分を血化粧して床に寝そべるマナの鬼気迫る顔相は、控えめに言って……。



『―――鬼、ね』



 シーッ!


 

マナの貫禄よ

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