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【魔神転生】 〜無限の螺旋に挑む者たち〜  作者: 暗黒のグミ
第二章 白き怪物のアギト
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終末の気配



 多分このフロアで一番広い開けた空間だ。

 観光用に解放された喫茶店やら宿泊施設やらの看板が見える。


 人の賑わいも一際大きく、本当に至れり尽くせり。


 怪我や不調による一時休憩。出張ショップでの売買など。

 冒険者にとってここは『安全地帯』だ。

 ダンジョンからの帰還は、この広場の中心にある『クリスタル』で行えるらしい。


「思ったより繁盛してるねー。土地代めっちゃ高そうだぁ」

「気になるとこ、そこ?」


 確かにぎゅうぎゅう詰めだけど。屋根と天井もスレスレ。


 けれど、今回は特に用もないので素通りする。


 向こうに、見上げるほど巨大な『大水晶』があった。まばゆい光を発し続ける。人々にとっての癒しの象徴みたいだ。


 近づけば、大きな巨石や石像を前にしたのと同じ威圧感があった。それを女神の像が抱え持ってるのだ。なんだかとても近寄りがたく、僕らは広場を迂回するように通り抜けた。


「すごいね……ひれ伏したくなるよ」


 マナも思わず、五体投地――頭を下げて祈る人々の仲間入りをしそうになったが、これを引っ張る。……宗教関係者はみんな危なくて話が通じない。なので、嫌いだ。


『はへぇ〜〜〜〜ッ! これが女神さまかぁ……!! ………私なんかじゃどうあがいても真似できないワケだわ! ……わ、わからされたわっ………』

『フン、だポン。これで少しは身の程をわきまえたかポン! ぼくらガイドエンジェルは――使命を果たしあの方のお膝元にはべるのが至上の喜び。そのために冒険者とともに"格"を上げるんだポン』

『………ふん。知らないわよ、そんなこと』

『最初に与えられる基本的な情報でさえも不完全だとは、ほんとうに哀れなんだポン。エイポンにできることがあったらいつでも言ってくれポン』

『〜〜〜!!』


 へー。そういう利害があるんだなぁ……。ピューッと飛び立ったミカは今度、恥ずかしさのあまり溶けるように霧散した。


 きっと同情されるのは――バカにされるよりアタマにきたのだろう。


『うぅ〜〜なぐさめてエイっ』


 脳内で待機状態になったミカは、打ちひしがれてメソメソと泣き始めた。



 ―――少しして、人の気配が減り、なんだか寂しい気分になった。


 足早に先を急ぐ。時間は有限だ。電車の都合上、探索は合計『二時間半』くらいが限度か。


 【メニュー】には、『地上の時刻』と『ダンジョン滞在時間』が併記されている。微妙に時間差があるのだ。


 基本的にダンジョン内は――時間の進みが速くなる。地上を『一時間』とした場合、『一時間+何分』となるのだ。この傾向は、奥に進むにつれて顕著になるらしい。ダンジョンは時間という概念ですら操り、それを人々に授けるのだ。


 「時は金なり」とも言う。それが目当ての人もいるらしい。睡眠や勉強をするのだ。結局お金はいるが。この大迷宮では、それらの行為は禁止されてる。


「あちゃー並んでるね」


 絡んでくるモンスターだけを粉砕して、やってきたフロアの最奥は―――


 ざわざわと。一本道の通路に人だかりができて、順番待ちの列ができあがっていた。


 この先は、『ボスフロア』となっており、次へ進むために必ず通る場所だ。


 観音開きの大きな金属扉が、僕たちの進路を塞ぐ。

 これが閉まっているうちは、誰かが『戦闘中』で通り抜け不可なのだ。


『それにしても、移動時間が多いわね。――今度からは乗り物でも使う?』


 けろりとしたミカが提案してくる。


 現在は勝気な目をした彼女は、視界の片隅で、ヨシヨシと頭を撫でたらすぐに元気になったのだ。


 それにしても――ナイスアイデアだっ! ときおり颯爽と追い抜いていく、上級者の醸し出す強者感には痺れるもんな! 


 『無音で進むバイク』や『手懐けたモンスター』の背に乗るものもいた。


 僕らもいつかは、速やかに『適正階層』に移動する手段を見つけなくてはならないか。


「―――ね。ボスフロア、空いてたらよかったのにね? 集団戦なら手応えもあったはずだよ」


 本当にそう思う。


 1Fのボスフロアとは便宜上の呼び方で、実際は『ボスモンスター』はおらず、複数のノーマルモンスターが出現する部屋でしかない。必ずしも、倒さなくていいが。


 本格的なボスモンスターは『5F』から登場する。無料で調べられる情報もそこまでだ。


 こうやって、ダンジョンの困難さ以外の要素で感じるストレスが多いけれども。


 奥へ奥へと向かえば――人は篩にかけられ、きっと空いてくるはずだ。



 待ち時間はみんな、手元の一点を見つめている。

 ココはスマホの持ち込み禁止だが、やってることはあまり変わらないな……。


「なんだか、おかしいね」


 空中に浮いた『光るボード』があったり、なかったり。

 天使が見えたり、虚空に向かって話しかけたり。

 彼らの興味や関心は、どこに向かっているのだろうか。


「………ん。なにが?」

「なんでも」


 僕は、目の前の冒険者の肩越しにある、重厚な扉をじっと見つめていた。


 そうしていると―――扉がバタンと開く。


 それを境に、ハッとみなが顔を上げ、規律正しく歩き出すのだ。


 まるで、『アリンコ』みたいだと思った。

 指令を受けて迅速に行動する人間の群れ。

 彼ら一人ひとりに命があり、帰りを待つ家族がいるはずだけど。

 ときとして、さっきみたいに機械的に見えることもある。……僕も周りからしたらそう見えるのかな?


『あ〜! 私も早く受肉したいわ。自分が"単なるデータに過ぎない"と悲観することはなくなりそうだし。…………あんたに、触ってみたいし』


 悲しそうな顔でミカが僕の頬に手を伸ばす。《魔力感知》でも、そこに"中身がない"ことはわかってる。


 当然、すり抜けて僕らが交わることはない。


 むしろ、彼女が本当に存在しているのかどうかすら疑わしい。


『まぁいつでも"デリート"できる存在という意味ではそうでしょうね。だから、Cランクになって"受肉権"を得るか二週間後のログインボーナスでもらえるアイテム《誓約の指輪》で冒険者と契約して実体化するかしないと常に不安なのよ………』



 ―――たとえば僕が、冒険者を辞めたりしたらそうなるのかもな。



『………………やめない、わよね?』



 うるうると、目元に涙を溜めている。あざとい……。だが可愛すぎる。



「やめないさ。――僕はもう冒険者だ」



 そう言って、部屋の中に足を踏み入れる。


 あの広場よりは小さめで、教室よりは大きい空間。

 無機質な部屋の奥にあった石造りの階段をのぼる。

 これだって学校のどの階段よりも高い位置まで続いている。


 この部屋と階段は、あとから人の手が入った形跡がなく、遺跡の構造が剥き出しになっていた。


 時代を隔てている感じはするけど、これだって人工物なのだろうか。

 それにしてはチリや埃が一掃されて綺麗な空間だった。

 まさか戦闘のたびに復元してるのだろうか?


「よそ見しない」


 立ち止まって思案を始める僕の手が引かれる。僕らが歩く階段は、分厚い石の床を削ったような代物で繊細だが壁面を工具か何かで磨いた跡がうかがえる。


 『古代の人々が作りあげた遺跡』というのが正直な感想だ。


 ギルドの公式見解だと……ダンジョン―――それもB等級以上の『大迷宮』は地上の侵略をもくろむ『魔王』を"封印する場所"としている。


 だけど世界には、山ほどの大迷宮がある。その数からして、大量の魔王が存在することになってしまうが……これもギルドが言うには―――冒険者の中から人類を救う『希望の勇者』が現れ、いずれコレを一掃するのだと高らかに謳っている。


 しかし、ギルドが認定する『無数の勇者』も、大きな成果こそあるものの、公式に認められた『魔王討伐』の報告は未だ一つとして挙がっていない。


 だから現在では、無尽蔵に資源が採取できる"鉱山"扱いかな。

 最近冒険者になったばかりの僕が自由にアクセスできる情報なんて高が知れているが。


 

 これからの将来、僕らの住む星―――『地球』はどうなるのだろう? 柄にもなく難しいことを考えようとしたからか、足取りが鈍くなっていたようだ。



「ほら、もう! 行くよ?」



 下手の考え休むに似たり、か。

 そういうのは学者さんや国のお偉いさんに任せるべきだね。

 僕より何倍も頭のいい人が多くいるのだし、強い人だっている。


 ネットの有名な『終末論』や、カルト教団の喧伝する『危険思想』が脳裏をよぎり……先行きの不透明な未来がそれらと混じり合い、不安な気持ちになってしまった。



 ―――ねぇ! 地球は……この国は………大丈夫だよねっ! ねぇミカ……?




『……………………』



 片隅にいる彼女は――ずっと無言で微動だにせず、僕の顔を正面から見つめていた。


 一切の色が抜け落ちた――いや削ぎ落とされたような、無の表情で。



『……………………』


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