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【魔神転生】 〜無限の螺旋に挑む者たち〜  作者: 暗黒のグミ
第二章 白き怪物のアギト
11/73

大迷宮1F:パブリックダンジョン

一歩ずつ着実に

___________________________________________

[星刻の大迷宮 1F ]

___________________________________________



 気を取り直して――やって参りましたダンジョン! 


 じめっとした独特の空気。雑味のない澄んだ魔力が肌に心地よい。


 ほのかに発光する通路はすでに懐かしくめいっぱい深呼吸して肺に空気をとり入れる。体全身に巡った新しい魔力を歓迎し、僕の存在が、ダンジョンに馴染んだのが分かる。


 さっきまでの、失態を忘れられる。


『あんたってばホント別人みたいにイキイキとし出したわね……。けども、学校って思ったより面白い場所だったじゃない』


 そう語るのは、僕を通して学園生活を存分に楽しんだ天使ミカだ。


『……『魔境・魔の森』に、『大秘宝の噂』、『魔女の残した地下迷宮』! 将来有望な学生たちと、高い実力を持った教師陣が大勢いて! その中でしのぎを削る! 『探索成果のランキング』に、月末の『学内序列決定戦』。………将来、人類を守ることになる逸材同士が切磋琢磨して実力を高め合う! さらには! 男女の熾烈な恋模様……三角関係……ッ! 貴重な学生時代は、楽しまないと損だって、大人はみんな後悔してるわよ』


 ……い、いらんこと覚えて!



『それにしたってヒグレマナは人気だったわねー。"学校のアイドル"ってやつー? あんたも、うかうかしてられないわよ〜?』


 くっ……言わせておけば!


 だがなんと言われようと、ダンジョンは僕のことを歓迎してくれる。


 地上でのいざこざ。

 人間関係のトラブル。たくさんの自我が狭い場所に閉じ込められた学び舎。


 やっとそれら煩雑な面倒ごとの時間が終わったんだ!

 こっちに集中させてほしい。


『はいはーい』


 ひらりと舞うように、僕の肩に降り立ったミカ。


 通称"ホワイトロード"や"白道"と呼ばれる比較的安全なルートの地面には、丁寧に『広場まであと500メートル』と刻まれた案内まである。


 至れり尽くせりなダンジョン内の環境も、人の手が入って、定期的に維持されているみたいだ。

 

 冒険者のおしごと一覧表【クエスト】の中には、『壁の補修と点検』に関連するものもある。


 僕はまだレベルが不足してるようで、現在いつでも受けられるのは『討伐』と『採取」関連のクエストがほとんど。


 だが冒険者の花形はやっぱり戦闘で、モンスター討伐に関しては尽きることがない。

 なおかつ、【クエスト】機能では、事前に受注する必要もない。

 取り忘れることがないので、安心して邁進できるのだ。

 上のランクになると、ギルドが個別に発行する『ミッション』があるので話は別だが、ルーキーのうちは、とにかく遮二無二突撃するだけでよろしい。



 だから僕も、やる気を出して、堂々と足を踏み出していたのだが……。



「でさでさ〜! 初っ端から熱すぎんよね男子たちって! 決闘までするフツー?」

「うんうん、マジわかるぅ〜! 私らのこと意識してるの丸わかりだかんね〜」


 はい。

 そうでした。ここは"僕だけのダンジョン"ではありませんでしたぁ!

 というか――学園に通う生徒はもちろんのこと放課後の時間帯は、周辺の学生たちがわんさかやってくるのでしたぁ!


 もう、ほんとね。……人、多い。遠足かってくらい行列できてるから。

 とくに入り口付近は、『ギルドパトロール』と呼ばれるグリーンとホワイトの制服を着た職員が通行整理してるほど。


 だから、さっさとホワイトロードを進んで、奥まった通路に向かい、バラけるのがマナーだが昨日も『はぐれゴブリン』に遭遇するまでやたらと時間がかかった。


「あ〜〜ハゲそう。……マナ、別のダンジョンにした方がいいのかなぁ?」


 パーティメンバーのマナは、"ナンパ防止"でキャップをかぶっている。


 こうしないとダンジョン内ですら、何度もナンパとエンカウントするのは昨日の教訓。モンスターよりもナンパの頻度の方が多いって意味不明だよね!


 その度に、マナの後ろに隠れることしかできない僕はナンパ男に目をつけられる。マウント目的の格好の餌食として「女々しい」「みっともない」「男として恥ずかしくないのか?」と、さんざん貶されていじめられ、精神的苦痛を受けるのだ。


「うーん。……とはいっても、ここが一番見返りいいんだもんね。『初心者応援キャンペーン」も『交通費の免除』もあるし。……あと、『攻略済みダンジョン』はドロップがしょぼいって話だよ」


 そうなんだよね……。


 "C等級以下"の『攻略済みダンジョン』は、そこにあるギルド支部自体がさびれて閑古鳥が鳴くらしい。星刻の大迷宮は、一番人気な"B等級"の『未攻略ダンジョン』だ。


 でも、誰も来ない穴場的ダンジョンがあるなら考慮するレベルです。


「……っ」


 そんなとき――背筋がゾワっとした。


 

 にわかに思い出す。


 初っ端からつまずいて息を潜める"教室ライフ"。

 後ろから陽気な声をあげて僕らを追い抜いてくる"クラスメイト"の気配がした。……勘違いだろうか? ハイ、胸がざわつきますね。


 知らない人のフリ。

 知らない人のフリ。

 知らない人のフリ。



「お! "楽宮っち"じゃん。元気にしてる〜?」


 

 ぬっ、と僕の顔に近寄ったクラスメイト。


 目を逸らして俯いた僕を覗き込むような姿勢だ。……近い近いっ! どんだけだよっ! この人たちって本当距離感近い!


「………っ、ぅん!」


 あのさ。キミたちパーソナルスペースって知ってるかな? びっくりして思わずスキル《オーラフィールド》を使おうとしたよ。


 地上とは違って、意識を戦闘に近づけていたからこそ、一息で相手を殺せる間合いに来られると、反射的に身構えてしまうのだ。などと、つらつら文句を垂れながら、首をブンブンと縦に振る。


「って!? 教室より元気そうじゃん! 顔に生気がある〜っ!」

「しかし彼女連れとはやるじゃん、このこのぉ〜」

「あっ……ああ……」


 

 ―――ああ〜〜〜! 肘でぐりぐりされる〜! 謎の快感!


 初心者セットの戦闘服はともかく。"銀河模様のマント"は目立つものなぁ。


 アイテム《銀河的な外套/ギャラクティカ・ベイル》。


 各学校、組織ごとに独自の制服があるが、このマントはうちの生徒がダンジョン内に入るときに必ず着用せねばならない。


 身分保証や、もしものときの学校側の対応、その初動を決めるためとかソレっぽい建前はあるが。本音は示威のように思える。

 僕らの通う学園は、都内トップの"エリート中のエリート"という扱いで、それは今も周りの人たちの視線やリアクションから察せられる。


 嫉妬や羨望、敵愾心など。感情の種類はともかくとして、認知度は著しく高い。


 このマントのせいで、迅速に所属を伝える効果があるのだ。


「うっ、やめてください」


 うりうりぃ、と肘を押しつける女子とそのあとから来る騒がしいパーティメンバーたちに思考がストップした。


 男女混成のイケイケ集団だ。容姿にも気を遣って華やかな美男美女揃いと言えるだろう。いわゆるカースト上位の"陽キャ"というやつだ。


 教室内となんら変わらない態度で接してくる彼らは、一体いつ休息をとっているのだろう? まさか自室に一人でいるときでもやかましく喋ってるわけじゃあるまい。


「いやマジで楽宮っちって何者なん? そのえっぐい魔力で"ナヨナヨボーイ"はウソでしょ……。体力はマジでなさそうだったけど! どこの"門弟"かしらんけど身分を隠さないと危ないやつ? わたしらにできることならやるよー?」

「……あっいえっ……その、ま、マジで一般家庭ですハイ」

「…………ま。そゆことにしとくわ」


 "楽宮っち"はすでに公式のあだ名扱いだ。

 それもこれも、影響力のある女子が堂々と呼び始めたことが発端だ。


 あのひと、全然空気読まないからなぁ。


「アハハ、どうも〜。彼女さんでーす」


 と、そのとき。


 よそ行き用の顔になったマナが声のトーンを上げて、ずいっと一歩出る。


 "社交トーク"が始まったのだ。彼らは――とくに男たちは、僕に話しかけるついでという体裁で、積極的にマナに話しかける。


 滑らかに交わされる会話。もはや「口が本体」なのではないかと考察するほどにペラペラとトークが続く。



 あーーー。



 脳内を埋め尽くす大量のノイズ。現実逃避気味に悲鳴を上げた。

 そんな濁流の中心にいるマナは巧みにさばいて、会話を転がす。

 いつ見ても思う、見事な手腕だ。


 目まぐるしく移り変わる『戦況』を即座に判断して、交わされる自己紹介と今日中にこなさねばならないSNS『マウマウ』の相互フォローなどが決まる。


 お互いの認知と情報共有に関して抜け目がないようだ。


 それも、周囲の警戒と小声を駆使して行われるコミュニケーションで、みんな芸達者だなぁと思う。


 気配を消してフェードアウトする僕と、あちらにも一人所在なさげな子がいて、黒髪黒目の小柄な女子生徒だ。


「…………」


 シンパシーを感じる。

 けれど僕は、ほんの僅かな間だけ重なった視線をすぐにそらして、白塗りの壁を見る。


 発光塗料がところどころ欠けて、石材剥き出しの部分が顔を出す。


 進むでもなし。会話に混ざるでもなし。僕にとっては、なんの意味もない時間が続く。


『そうかしら……? 今ここで、私が飛び出して盛大にアピールしたらウケるかもよ? 一気に注目が集まるわよ!』


 ――や、やめてくれ! あっちのエイポンは散々いじられたじゃないか! ミカだってどちらかと言えば人見知りだろ!?


『べっつに〜? あんたが"絶〜ッッッ対"出てきてほしくないって念じてるから……。出れないだけだしぃ〜』


 間延びしたギャルっぽい口調でからかってくるミカは……まっ…まさか裏切り者だったのか!?


 あーさっさと魔法試したい試したい試したぁーい! 試したいよぉお!!



『壊れたわね……』



 数分が経っただろうか。


 並走して歩く僕らはどのみちモンスターとは戦えない。それとなく割り込みをかけて、僕らを妨害する別の学校の生徒なんかとは争わず、やってきた人気の少ない通路。


「そんじゃあね〜」

「楽宮っちも頑張れよー。体調に気をつけていつでも『広場』からリタイアできるかんねー」

「マナマナ。またあとでね。楽宮っちは明日〜〜」


 ばいばーい、と。機敏に身振りを伴って先に進むグループ。


 僕は少し前から別れの気配を感じていたので意識を戻し、会釈と軽く手を振る。そうすれば感じ悪くはないはずだ。


 終始、にこやかな笑みを浮かべていたマナは、彼女たちが去ったのを見送って……すん、と真顔になった。


「それじゃあ行こっか」

「うん……」


 出鼻をくじかれたけれど……。


 1Fの人口密度は高い。大人の冒険者はさっさと通り抜けて行くけど、僕の通う『星刻学園』だけでなく、多くの生徒がこの時期はやってくる。


 しかも競争心が強く、場所の取り合いや口喧嘩も聞こえてくるのだ。


 昨日はすんなりやってきた『洞窟』も先約があった。

 こうして、人と人の兼ね合いを上手く潜り抜けて、複雑な迷路を歩いた。


「エイくん、奥の方に行ってみようか」


 なるべく人のいないところがいい。


「早く試したいもんね? 魔法をさっ!」

「うん」



 機能【マップ】を開けば、僕らが歩いた道が塗り潰され、クリアーになり地図が自動で描かれていく。


 舗装のされていない洞窟に身を屈めて、ごつごつとした岩肌に手を置き、道の奥へ向かう。


 正規通路として保全されるホワイトロード以外は、"一定期間ごとに地形が変化し道順も変わる"。


「………ここまでかな?」


 光苔の繁茂する行き止まりに着いてから、息を潜めたマナが言う。


 すでに邪魔なキャップはポーチに押し入れ、油断なく周囲を警戒する。暗がりは、二体の天使が光り輝くことで視界を確保でき、あとはモンスターを待つのみだが……。


「とくに何もないし、いないね」


 スキル《魔力感知》で洞窟の隙間を探してみるが強く感じるのは、金緑色に光るコケくらいで虫の一匹も見当たらない。


 空気中の魔力は地上とは違い、"ダンジョンの維持"に使われる。

 『モンスター』や『構造物』、『トラップ』、『宝箱』といった、決められたものを決められた通りに生み出し、維持する大規模な仕組みが備わっている。


 そのため、魔力の動きからその予兆を察知できるスキル《魔力感知》の恩恵は大きい。僕自身、感覚が研ぎ澄まされる上質な経験を味わえて、非常に満足している。


「じゃあ次は……」


 【マップ】を見ながら、進路を決定。


 すぐに引き返し、戦闘中のパーティを邪魔しないようにサッと小走りで、通り抜ける。


 歩くごとに【マップ】が埋まっていくことで達成感が得られる。


 みなが想像する"華々しい冒険"とは違った地味な作業だ。

 言葉少なに、汗ばんだ男女が洞窟を調べ上げるだけで、まったく派手さはないし、こんなのはテレビ番組や動画でもカットされる部分だろう。


 でも、正直好きだ……。


 ―――ずっと、こうしていたいとさえ、思えるほどに。


ダンジョンはみんなのダンジョン(公共物)だから仕方ないね! ストレスぐんぐん溜まるぅ! それでも住み良い場所がきっと見つかるよ!

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