第四話 「大丈夫か」
なんであいつがここに……。昨日見たものはやはり夢なんかじゃなかった。恐怖が呼び起こされ、全身を悪寒が一気に駆け抜ける。逃げなければ、瞬時に決断し、教室の出口まで向かおうとした俺の思考は、目の前の光景を前に停止した。机の下に隠れていたり、窓に近づいていたクラスメイトたちが徐々に何事もなかったかのように自分たちの席へと戻り始めていた。
「何……してるんだよ。」
あんな非現実的な化け物を見て、何も思わないはずがない。怖くないはずがない。行動の意図が理解できない。
「ビビったな、もうちょっとで漏らすとこだったわ」
隣にいた悠介も自分の席へと戻ろうとする。
「おい、悠介!逃げるぞ!」
「え、何が?」
悠介は戸惑った表情を見せる。何ってそんなの決まって……。
「めっちゃ風強くね!?」
「台風来てたっけ?」
クラスメイトたちの会話が聞こえた。みんな……何言ってるんだよ。
『私のこと、見えてるよね?』
混乱する頭の中で昨日の女の子の言葉が思い出された。まさか……。
「おい!悠介、あれが見えるよな!?」
「ど、どれだよ!」
必死に窓の外を指差す俺に、悠介は戸惑った表情を見せながらももう一度外を覗く。しかし、その様子に驚きはない。ほんとに俺だけに見えているのか?
「何も見えないけど。」
悠介の言葉を聞きながら、俺は叫んだ。
「みんな!!ここは危険だ、はやく逃げろ!!」
教室内はしんと静まり返る。そして、
「やばいだろ!」
「ねぇ、うるさいんだけど。」
「はやく逃げろ!とか言って、面白すぎるだろ!」
返ってきたのは大きな笑いだった。
「違うんだよ、ふざけてるんじゃない!頼むからみんな……。」
どうすればみんなに伝わる?訴え続ける俺の肩に、悠介が腕を回す。
「なんか知らんが、落ち着け洸。どうしたんだよ、大丈夫か。先生には言っとくから保健室で休んできたほうがいいんじゃないかな?」
心配そうな悠介の顔を前に、何を言っても無駄なのだと悟った。それならと俺は悠介の腕を振り解いて走り出す。悠介の引き止める声を聞きながら、教室を後にした。三階から一段飛ばしで一気に階段を駆け下り、俺は校庭へと向かった。
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