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The 8th Ride 片瀬先輩とユーダイの嘘

作者のひとりごと。

 ユーダイ……戦略的撤退っておま……そういうことか(; ・`д・´)


 ゴールデンウィークが空けてからの僕らは、放課後に裏門坂うらもんざかへ再び近付く事の無い日々を過ごした。


 でもだからといって全く自転車に乗らないわけじゃなくて、土日にはユーダイと自転車で出かける機会もあった。といってもほとんどが川沿いのサイクリングロードを走ったり、海沿いを走ったりするコースをゆっくり1日掛けて走るようなサイクリングばかりだったけれど。


 放課後は徒歩で下校するクラスの仲間と駅前で待ち合わせてカラオケに行ったりゲーセンに行ったり。テスト前なんかはちゃんとマジメに図書館で勉強する日もあった。


 僕らはそうやって、あの裏門坂に挑んだ事など忘れたように充実した時間を過ごしていた。



 そんな日々に転機が訪れたのは中学2年になって1カ月ちょっとが過ぎた、5月半ばの事。


「よぉヤイチ、久しぶりだな」

「ああ、ユーダイ……確かに久しぶり」


 自転車置き場で出会ったのは2年になってクラスが替わって以来、あまり会っていなかったユーダイだ。その斜め後ろには制服を着た見知らぬ女子が居たので軽くお辞儀をする。もしかするとユーダイの彼女とか……なんだろうか?


「紹介するよ、俺らの1個上で片瀬柚葉(かたせ ゆずは)先輩。この4月から自転車ロードバイク通学始めたっていうからさ、分からない事とかを教えてるっつーか……」


 そう言って照れくさそうな感じで後ろ頭を掻いているユーダイ。いつも無意味に自信満々に見えるユーダイにしては珍しい。


 

「あなたは城戸君が良く話題にしてる青嶋君ね。3年の片瀬って言います。よろしくね」


 そんなユーダイよりも一歩前に進み出てきて自己紹介する片瀬先輩は、初対面の僕にも堂々としていて何処となくだけど、僕らよりも大人びて見えた……何処が、とは言わないけれど。


「私ね、高等部に上がったら自転車競技部のマネージャーをやってみたいと思っていて。それで思い切ってこの春、ロードバイクっていうの? 競技部の人達が乗ってるみたいな自転車買ってもらったんだけどね。乗り方のコツとか全然分からないから城戸君に教えてもらってたの」


 そう話す片瀬先輩の傍らにはほぼ新品と思われるパステルカラーのロードバイク。でもそれを押して歩く姿はどことなく、ぎこちない感じで確かに「慣れていない」雰囲気があった。


 

「と、いうわけでさ。今週の日曜、秦野(はたの)駅集合で江の島まで行こうって話でヤイチを誘いたかったんだよ」

「ああ、まあ良いけど」

「良かった♪ それじゃ日曜朝8時、秦野駅前な! 俺はこれから先輩と帰るから」


 その後ユーダイから来たメールでは、先輩から『2人で日曜どっか行くのは知り合いと出くわした時困るから、3人でなら』と言われていたのだそうだ。……ユーダイのヤツ、僕を上手くだしに使ったんだな。



 とはいえ久々に数人で走るサイクリングは楽しかった。片瀬先輩のスピードに合わせてだから、かなりゆっくりペースではあったけど、それでも話し相手もいない中で黙々と練習するのとは全然違っていたから。


「青嶋君も城戸君もホント速いのね。さすが『1年の時に裏門坂で自転車競技部の皆に()()()』って自慢してるだけあるわ」


 辿り着いた江の島で休憩を取っている時にそう言われた時は、盛大にお茶を噴きそうになったけど。


「まあね、実際のところヤイチは付いてくるのが精一杯で、俺の独走だったんですけどね!」


 頭を掻きながら自慢するユーダイの脇腹に肘を入れて、小声で注意する。

 

(ユーダイ、さすがにその嘘は……)

(いいからヤイチ、話合わせてくれよ、頼む)


 そう言われてしまえば仕方ない。ユーダイが並ばれたところから一気に加速して引き離したシーンの話を大幅に脚色しながら話すのに、噓がバレないかヒヤヒヤしながら上手く相槌を打った。



「つ~訳で俺、期待のエース候補なんですよ! な、ヤイチ?」

「お、おう(って実際には全くそんな事ないんだけどな)」


 そんな僕らをキラキラした目で見つめていた片瀬先輩は何かを思いついたように、とんでもない事を口にした。


「そうだわ! 来月の第2日曜日に横須賀エンデューロっていうレースがあって、先輩たちが走るのを観に行くの。2人も出てみたら良いんじゃない? 2人が活躍するの、観てみたいな♪」


 目を輝かせて言う片瀬先輩の眼差しは、有無を言わせない圧を伴っていた。

 

「えっ!? いやそれは……もちろん参加しますよ! 良いよなヤイチ!?」

「ええっ、さすがにソレは……痛っ! ……参加します」

「ホントに!? 楽しみだなぁ」



 僕はその圧に負けず、レースに出るのはさすがに止める事を提案したかったけれど、ユーダイに思いっきり太腿をつねられたので仕方なく話を合わせた。


「ハハハ……俺達も先輩に本気の走りを見せられるの、楽しみです! (ボソッ)ヤイチ、ところでエンデューロって何だ?」

「俺もそんなの、知るワケないよ」

そんなこんなでイキナリ人生初のレースに参加する事になった2人。果たしてどうなるのか!? 次回、横須賀エンデューロ参戦! お楽しみに!

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