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The 5th Ride 城戸くんと赤城くん

いよいよ春休みが終わり、中学編スタート!

そしてここで衝撃の出会いがっ!


 4月。


 僕は中高一貫校である鳴子坂学園(なるこざかがくえん)・中等部に入学した。


 ここにはもう、小学校時代の僕を知っているヤツはいない。だから今度は目立たないように、かといって浮いてしまわないようにクラスの片隅でひっそりと生きるんだ。そう決めていたハズなのに……



「よぅ()()()! お前もそんな自転車に乗るんだな」


 入学式の翌日。初めてロードバイクで登校して早々、自転車置き場で勢いよく声を掛けられた。その声に振り返ると僕とさほど身長の変わらないツンツンショートの男が青緑色の自転車を押しながら近づいてくる。


「あ……はい。先輩もなんですね」

「いや俺も新入生だけどな。それから俺とお前って同じクラスだったハズだぜ!」

 

 だったら何で今『新入り』って呼んだんだろう? と思ったケド、そこはツッコまないでおく。きっと彼も最初から舐められるわけにはいかない、って虚勢を張ってるんだ……多分。


 

「俺の名は城戸雄大(きど ゆうだい)! この鳴子坂学園の輝かしい歴史に名を刻む男の名だ!」


 そう言い放つと髪をフワっとかき上げるような仕草でポーズをキメる。ただ彼は髪が短いので手が空を切っただけで何も決まってはいないケド。名前とそのセリフを聞いてようやく、たしかに昨日のクラス全体自己紹介でこんなヤツが居た事を思い出した。


「へえぇー。じゃあやっぱり、ずっと前からロードバイク乗ってたりするの?」

「うんにゃ、小学校ではバスケやってた。ちな俺は第4小な」

「ふぇっ?」


 先ほど言い放った自信満々の宣言に伴う態度と今の発言が全然結びつかなくて、変な声が出る。だけど彼は不遜な態度を崩すことなく、ビッと人差し指を向けてこう聞いてきた。


 

「それでえぇと……あぁ思い出した、青嶋だったよなお前。お前は()()()()()なのか!?」


 ここで言う『乗れる』というのはロードバイクに跨って運転できる、という意味では無くて『速く走れる』という意味だろう。自転車屋さんの常連さん達が『アイツはけっこー乗れる奴だ』とかそういう使い方をしていたから。


「いや……実はコレ買ったの、受験の合格発表の時だから。まだ乗り始めて1か月ぐらいかな」

「なんだ、じゃあ俺と同じじゃないか! フフフ、まぁいい。ならばお前は今日から俺の相棒だ!」



 ちょっと言ってる意味がよく分からないケドつまり、同じ時期にロードバイクに乗り始めて同じクラスになった者同士、仲良くしたいという事だろう。そう解釈して差し出された手を握り返して握手を交わす。


 

「あぁ2人ともおはよう。ええと城戸君と青嶋君……であってたっけ?」


 そこへ現れたのは眠そうな表情でフワフワした茶色の髪の毛が印象的な男子。間違いなければ多分、僕がロードバイクを買う事を決めた日に自転車屋の前で出会った彼だ。その証拠にあの日乗っていたのと同じ、白いロードバイクを押している。


「僕は赤城皇成(あかぎ こうせい)。昨日たしか自己紹介したけど、改めてよろしくね」

「なんだ、お前もロード乗りか! お前は乗れるヤツなのか!?」


 挨拶を返すより早く、さっき僕にやって来たように人差し指をビッと突き立てて尋ねる城戸君。でもそんな不遜な態度を気に掛ける様子もなく、手のひらを挙げて彼、赤城君はこう答えた。


「まぁ、ちょっと前から乗っては居るけどさ……趣味だよ、趣味。そんな『乗れる』とかいうレベルじゃないし城戸君がさっき言ってたみたいに頑張ろうとかそういう感じじゃないから、僕は」


 にこやかな笑みを崩さずにそれだけ言うと、僕等より先に自転車を置いて校舎へ向かおうとする赤城君。僕等も自転車を置いて後を追いかけた。ちなみに赤城君も偶然だけど同じクラスだ。


 

 ――――――



「じゃあ俺がキングで赤城、お前がプリンスな。青嶋は……チェスになぞらえるとルークってトコかな。チーム名はチーム雄大でいいか?」

「アハハ。だからさぁ、さっきも言ったケド僕は趣味だからチームとか遠慮しておくよ。それに『家の用事』もあって忙しいんだ、結構」


 玄関から教室に着くまでの間、城戸君はずっと3人でチームを作る計画を話し続け、赤城君はそれにやんわりと断りを入れ続けるというやり取りを繰り返していた。


「ところで赤城、お前は苗字がレッドなのに自転車は赤いヤツじゃないんだな」

「そこ、こだわるトコ? それ言ったら城戸君だって、黄色い自転車に乗ってないでしょ」

「俺の苗字は黄色の黄じゃないからいいんだよ」

 

 僕はあまり会話に入っていけなくてそんな2人に付いていくだけだったけど、内心では赤城君と一緒に走れたら良いなと思っていた。


 だってあの日、川沿いの坂道を軽やかに駆け上がっていく赤城君の姿を見た事も、ロードバイクに乗ってみたいなって思ったきっかけの1つだったから。


 だけど。




「あ、来た来た! おはよう赤城くん。赤城君って第2小だったんだよね? 私第1」

「3組の高田さんが赤城君と一緒の第2小で同じクラス良いなぁって言ってたけど、ほんとラッキーだよ。あ、私は第3小だったよ」

「ええっと……佐野さんと吉井さん、だよね? 確かに僕は第2小だったけど」



 教室に入るなり、女子に囲まれる赤城君。


 無理もない。彼は僕と城戸くんより身長も高いし、それに男子の僕でもイケメンだなって思うくらい、キレイな顔をしていたから。女子達がそんなの放っておくはず無いだろう。赤城君はこういう状況にも慣れているのか、女子に囲まれる状況を意に介する事も無くその2人と話しながら自分の席に向かっていく。



「……なぁ青嶋。俺達はやっぱ、2()()()天下を取りに行こうぜ」

 

 一方、教室の入り口で空気と化した城戸君は、肩を震わせながらさっきまでとは全然違う言葉を呟いた。


「ええっ。だってさっきまであんなに熱心に勧誘してたのに?」

「だってあんな奴が一緒だったらどれだけ活躍したって俺達は引き立て役で終わっちまうじゃねえか! ()()()()()()()()()()!」


 僕は自転車に乗る仲間が出来ればそれで良かったんだけど、城戸君はそうじゃなかったらしい。


 

 とはいえこうして、僕の新しい中学校での日々は幕を開けた。


 

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