表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

さまざまな短編集

婚姻届と魔法薬の正しい用法

作者: 仲村千夏

「え〜と、効き目は……口にしてから約4分15秒で四肢が硬直、6分目で発声不能、9分で涙目……」


 ガラスのフラスコを覗き込みながら、クレア・ルグランは淡々とメモを取った。横には婚姻届。と、その上に置かれた指紋スタンプ。


 「ふふ……これで、ユリウスも私の夫……ついに“観察対象”から“所有物”になるのね……!」


 彼女の瞳はまるで論文完成目前の研究者のそれだ。


 その時——研究室の扉が、ノックもなく爆発四散した。


 「よう、毒姫。今日のランチに呼ばれてる気がして来ちゃった♡」


 粉塵の中から現れたのは、ユリウス・アルメル。通称:魔法学科の狂犬。爆破術が得意で、勝手に他人の研究室を「爆発式ドア開閉」で出入りする困った男である。


 「またドア吹き飛ばしたのね……」


 「ドアって、壊れてるほうが風通し良くない? ていうか今日なに作ってんの? やけに香ばしいね?」


 「人体感情遮断用・半永久性麻痺毒、ver4.8(改良試作型β)」


 「長いな!? ていうかそれ、俺に飲ませるつもりでしょ?」


 「ええ。ええ、もちろんよ。これが成功すれば、あなたは静かに拇印を押すだけの、ただの可愛いマリッジ人形……♡」


 「うわあ〜〜愛されてるなあ俺! ちょっと感動してきた!」


 そう言いながら、ユリウスは自らそのフラスコを手に取った。


 「よし、じゃあ実験開始だ!」


 「え?」


 「愛ってさ、効き目があるか試さなきゃ分からないだろ?」


 そう言って彼は、毒薬をゴクリと一口。クレアの顔が本当に「!?!?!?」って感じの顔になる。


 「ちょっ……な、何して……!」


 「安心して? 前に君が作ったやつで練習済み。耐性あるんだよね、俺」


 「耐性!? 私の禁忌薬に!?」


 「うん。あとさ、その婚姻届、押すならちゃんと名前も書こうぜ?」


 「…………へ?」


 「せっかくだし、俺も“同意の上で”地獄のような新婚生活を味わいたいし?」


 クレアの脳内で「理論的思考回路」がショートした。


 彼女は照れと混乱と戦いながら、しばらく黙り込み——やがてぽつりと呟いた。


 「じゃあ……次の毒薬は、もっと強いのを用意するわ……」


 「最高だな、クレア」


 こうして、危険な毒と歪んだ愛、倫理観が無事に吹き飛んだ二人の共同研究は幕を開けた——。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ