後藤倉之助の場合
!○○○「パート4:後藤倉之助」○○○!
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私は後藤倉之助。
今年で45になる会社員だ。私の会社は国際的な活動を多く取り入れた商社で、私はそこで部長をしている。近く昇進の予定もある。
最近は経済の状況が芳しくなく、私達の一層の努力が必要とされている。
世の中には「あの規制をしたせいで経済状況が悪くなったんだ」と言っている者がいるが、あんなものが関係しているはずがない。確かにアニメだの漫画などの収入は少なくなかったが、出版社なども不況には飲まれていた。どの道長生きはしなかったはずだ。
結局日本を支えているのは私達普通のサラリーマンだ。
そもそも、あんなくだらないものを「文化だ」と言っている方がおかしいのだ。文化とはもっと芸術性を持っているものであって、あんな騒がしくごちゃごちゃしている物のどこにそんな芸術性があると言うのか。
あんなものを素晴らしいと褒め称えのめり込めば馬鹿になる。実際に漫画好きの「キチガイ」共があの規制以前から問題を多く起こしている。
あの規制以後犯罪が増えていると言うが、そんなものは今だけだ。このまま全国的に漫画を完全に排除した日本を作れば馬鹿がこれ以上増えることもなく犯罪者も減る。いいこと尽くめではないか。
それなのに、うちの子供たちときたら何だあの体たらくは。
もう規制から何年も経つのに、未だにくだらない妄想を続けている。勉強をしろと言えば反抗ばかり。まったく、アレは妻が悪い。
妻も漫画好きであったから、その影響であんな子供になったのだ。私がこれだけ外で頑張っているのだから妻は子供をしっかり教育しなくてはいけないと言うのに、妻は「外で働きたい」など言っている。そんな場合ではないということが分からないらしい。
やはり漫画を読んでいたから妻も馬鹿なのだろう。良い大学を出た才女であったから結婚したのだが、こんなところで悪影響が出るとは思わなかった。失敗だっただろうか。
「Excuse me.」
駅を出たところで外国人のカップルに話しかけられたので私はそれに応じる。彼らはようやく話が通じる相手に出会えたのかほっとしたようだった。
「How should I have gone to Akihabara(秋葉原まではどうやって行ったらいいですか)?」
秋葉原――――?
私は彼らの格好を良く見てみた。どこにでもいそうなカップル。しかし手にしているのは漫画の絵が表紙に描かれた雑誌。どうやら彼らも、「キチガイ」の仲間らしい。最近はこういう観光客は減ったと思ったのだが、ニュースも見ない無知な若者らしい。
私はここから秋葉原までの道を教えてやった。その時に一言だけ、付け足した。
「There is not already the shop of an animated cartoon and comics in that place.」
あの場所にはもう目的の場所などない、と。
彼らはそれを聞くや大げさに驚いた様子を見せた。そして、見るからにがっかりした様子で肩を落とした。それほど落ち込むほどのものかとも思ったがあえて何も言わず、私はそこを離れる。
彼らは何も言わなかった。礼も言えないなど、やはり彼らは駄目な人間だ。
私はそう悪付きながら、心の中で子供達を思い出していた。
そういえば、あの規制が可決された時子供達も同じ様子を見せていた。漫画やゲームを全部捨てた時はかつてないほど大泣きしていた。
――――あれ以降、笑顔をまるで見なくなったような気がする。
あまり家に帰らないから昔から笑顔の記憶は薄いのだが、少なくとも楽しそうに話をしている姿は完全に見えなくなった。いつも、荒んだ目をするようになった気がする。
私はそんなことを考えながら家路に着いた。今日久々に見ることになる子供たちの表情がどんなものかを考えながら。