朝倉龍之介の場合
!○○○「パート3:朝倉龍之介」○○○!
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俺は朝倉龍之介。
今年で25歳になる、刑務所内で勤務する警察官だ。囚人の監視をもっぱらの仕事としている。
そんな俺が今一番手を焼いているのは全国に万を超える予備軍を抱える「キチガイ」達――――オタク達だ。彼らは普通の犯罪者と区別されそう蔑称されている。いつだかお偉方がそう言ったのが始まりらしい。逮捕内容はまちまちだが、大体皆、どこかしらに「漫画が」「アニメが」「ゲームが」と入るのでいつの間にかここでもそれが使われるようになっていた。
俺はどちらかと言うと「一般人」寄りな人間だが、それはさすがにあんまりだと思った。
けれどたかが一警官。反抗すれば居心地が悪くなるだけだし、下手すれば辞めさせられるし、最悪の場合俺も「キチガイ」判定を受けて逮捕になりかねない。実際にそういう警官を見たこともある。
大げさだとは思うけど、それくらい今の警察は過敏になっている。過敏になってしまうほど、オタクたちの犯罪が多発しているのだ。
全ての始まりはあの規制が可決されてから。あれから、社会で問題が多く発生するようになった。
たとえば犯罪増加。それまで創作物を読んだりすることで暗い欲望を満たしていた人たちによる性犯罪や殺人事件がこの数年で信じられないほど増えた。この間も女子高生を集団レイプした「キチガイ」達が逮捕されて収容されてきた。
他にも、“創る側”の「キチガイ」も多く収容されている。俺の勤め先の奥にある独房のひとつには創ることに執着した元小説家の男が拘束された状態で入れられている。
最初から「一般人」の同僚達は彼らを「馬鹿だ」と笑っているし、蔑んでいる。気持ち悪がってる奴もいる。
でも、俺はそう思えない。
大きくなってからはほとんど見なくなったが俺だって漫画を読んで育ったし、そもそも警官への最初の憧れを持ったのも小さい頃に見たアニメのためだ。少年とロボットが警官をしていて、次々現れる敵を倒していくという話だった。
あの時の“憧れ”がなければ俺はここで警官なんてしていなかったと思う。だから、他の同僚ほど彼らを蔑むことができなかった。
警官が言うことではないのかもしれないが、正直、今でもあの規制はやりすぎだったのではないかと思う。
犯罪増加に「やっぱり」と言う人たちもいるようだが、多分、あの規制がなかったら彼らはこんなことをしなかっただろう。
ならオタクはやっぱり犯罪者予備軍かと言うと、それは違う。「一般人」の犯罪者だって山のようにいる。「キチガイ」が増えているとはいえ、そっちの方がまだ数は圧倒的に多いものだ。
それに、その括りは実際に罪を犯した連中ではなく、創る側、そして純粋に楽しむだけだった人々に対してあまりにも残酷だと思う。
彼らはただ創るだけの人で、ただその創作物を楽しむだけの人だったのに。
漫画家になるのだと張り切っていた友人は、再会したとき比べ物にならないほど死んだ目をしていた。
漫画やアニメ、ゲーム・小説が大好きだった年下のいとこ達は、昔見せてくれた輝かしい笑顔を見せなくなった。今はいつも、つまらなそうな顔をしている。
他にも、そんな人たちはたくさんいるだろう。それを俺が知らないだけ。それを周りが知らないだけ。それを上が知らないだけ。
……こんなのが、俺の守りたかった「日本」だっただろうか?
俺は、みんなの笑顔を守れる警察官になりたかったはずなのに。どうして、俺も周りに笑顔はないんだろう。俺の周りにいる人たちは、数年前まで友人達と笑顔で会話をしていた人たちだったはずなのに――――。
「オイ朝倉、また『キチガイ』共が騒いでる。行くぞ」
「あ、ああ」
本当に彼らだけが悪いんだろうか。俺は迷いながら、今日も彼らを鎮めて罰を与えに行く。