諸星明日香の場合
!○○○「パート1:諸星明日香」○○○!
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私は諸星明日香。
2010年ネットで話題になっていたあの規制がある年に可決され現実になってから7年が経ち、当時10歳だった私も現在17歳の女子高生だ。
あの時は漫画やアニメがもう見られなくなると思ってただ悲しいだけだった。けれど今、その規制のせいで訪れた絶望は姿を変えて私に再来した。
あの時より、ソレはずっと現実的で、私はあの時以上に深く、当時あの規制を可決した政府を恨んでいる。
本当なら学校に行っているはずの午前10時。私がいるのは友人と笑って話が出来て、授業になるとついうとうとしてしまうような、そんな楽しい学校ではない。
私がいるのは、病院だ。
市にある大きな病院。私は、3日前からここに入院している。体中が痛くてろくに動くことも出来ない。特に痛みがひどいのは、下半身だ。
それは3日前のこと。私は学校の帰り道で集団レイプにあった。
ほんの数分前までいつもどおりだった世界が、口を塞がれ、路地裏に連れ込まれ、息を荒くする男に組み敷かれた瞬間にガラリとその姿を変えた。
男たちは言っていた。
「ごめんねお嬢ちゃん。俺ら女もいないしヌくためのもんも規制されてないんだ。人助けだと思っておとなしくしててよ」
恨むんなら政府を恨め。
そう言われて私はすぐにその男たちがかつて「オタク」と呼ばれていた人種の連中であることに気が付いた。
この7年の間で増えている事件だ。オタク、もしくは元オタクが起こす性犯罪。
かつて性犯罪の数があれほど低かった日本からは考えられない現状に政府や『一般人』は「やはりあの連中は」と批判を繰り返している。だが、ネットの世界では違う意見が最有力で取り上げられている。
それは、『性欲処理のための対象を取り上げられたために現実に手を出している』、というもの。これまで二次の世界で様々な作品があったためにそれでことを済ませていた者達が、現実をそれと置き換えてしまっているのだ。
私は当然暴れた。ネット上で見る分には「政府が悪い」と雑言も吐いていられるが自分にまでその毒牙が及ぶとあればじっとなんてしていられない。
けれど抵抗したがため、私は一層彼らの暴力性を増させてしまった。
怒鳴られ、殴られ、蹴られ、気絶するほど乱暴にその身を奪われた。
私が気が付いたのは病院のベッドの上で、犯人達はすでに刑務所だと泣きはらした顔の母に聞いた。
あれから今日まで、私はぼんやりと生きてきている。
あんなことの後に勉強なんてやる気にならないし、誰かと話したくもない。かといって、私が最高の暇つぶしにも出来た最高の癒しである漫画もゲームもDVDももうない。規制が可決された直後に全て捨てられた。世界に残ったのは面白みもない平淡で淡白な物語ばかり。
楽しかったバトルもどきどきした恋愛ももう読めない。それでも書こうとした描こうとした創ろうとした先生達は逮捕されて、ずっと「反省」しなかったら、もしかしたら出てこられないかもしれないとネットで載っていた。
「……つまんない……」
私は、何で生きているんだろう。
強姦されて汚れた身体。心を癒す物語は私の隣にもういない。夢みることを否定されたこの世界。夢を作ることも夢を売ることも否定されたこの世界。
私は、こんな世界で生きていかなきゃいけないの?
「…………つまんないよ」
私はふらりと立ち上がって窓を開ける。瞬間、吹き込んできた風に久々に心地よさを感じた。
でも、それだけ。
私は窓枠に手をかけ、身体を乗り出した。
「………………つまんない」
それが私の最期の言葉。