表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ベランダと、みどり色の宇宙

作者: てりやき

 朝起きると、世界が全て同じ色になってた。

 何色かは分からなかった。

 色が全部同じと言っても、全部一緒の色で逆に何も見えない、というわけではなかった。少し濃淡はあったから、文字も時計も読めたし、見つけにくかったけど髪の毛も拾えた。

 色々困る人も居るだろうけど、少なくとも、私の生活レベルであれば、単色で充分なんだなーと思った。


 私はベッドから抜け出して、部屋中をぐるっと見渡してみた。

「……いーじゃん」

 目を覚ましてから、約5分。

 極端に色の付いたこの世界を、私は既に受け入れ始めていた。

 そのあと、私は財布をポケットに入れて、ベランダに出てみた。

「うわぁ……」

 ふと空を見上げると、そこにあったのは、宇宙だった。

 神秘的、という言葉ですら、言い表すには到底足りない。そんな濃縮された宇宙の色が、視界の全てを埋め尽くしていた。

「あぁ……」

 どのぐらいの時間が経ったのだろう。

 気がつけば、私はぽろぽろと涙を流していた。

「新鮮ですよね」

「わぁ!」

 そんな時、突然、誰かに声を掛けられた。

 驚きすぎて、涙も引っ込んだ。

「だ、大丈夫ですか?」

 隣のベランダにいた彼は、心配そうにこちらを見ていた。

「大丈夫、です」

 喋り方を思い出しながら、やっとの思いで返答する。

 彼は動揺する私を気遣ってか、目を逸らして、空を眺め始めた。彼に合わせるように、私も街をボーッと見つめた。

「緑色の空、見てるだけで体調崩しそう」

 多分独り言だったんだろうけど、沈黙が怖くて、私は思わず口を開いてしまった。

「この色、みどり、って言うんですね……」

「ん?」

「……いや、何でも……ない…………」

 彼は多分、気づかなかったフリをしてくれたのだろう。

 気づかないはずがない。

 だって、私は話している途中からずっと、泣いていたのだから。

「パトカーがそこら中で鳴ってますね。信号が同じ色だからかな?」

 馬鹿な話だった。

「うぅ……」

 私は、今更になって、これが現実だということに気づいたのだから。


 私はその後も、緑色の空を見るたびに涙を流し、泣き止んでを繰り返した。

 そして、涙が枯れる頃には、隣のお兄さんはいなくなって、パトカーの音も街から消えていた。

 私はふと、ポケットに何か入っていることに気がついた。

 取り出してみると、それは財布だった。

「そっか、もういらないじゃん」

 私は中から手帳を取り出し、二階のベランダから投げ捨てた。

 障害者手帳。


 私はこの世界を、受け入れることにしたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんか、 こういうこと、 本当に、 ありそう・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ