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⑮ 望まぬ再出発

 ほんの数日の平和な時間の後、異世界転移の日はやってくる。


 集まったリザードマン族は全員で六人。ザガドを含めた希望者五人。前回は好戦的な者や名声を欲して参戦した者も居たが、圧倒的な存在が敵だと知ると自分から声を上げる者は居なくなった。そうなると、必然的にザガドによる指名制となるのだが技量から考えて参加する者はほぼ確定しているようなものだった。

 しかし伝える直前、ザガドが指名する予定の仲間達が自分達から名乗り出た。強制されて参加するよりも、自分から名乗りを上げた方が戦士としての誇りを守れると考えたのだろう。

 ザガド、ククルト、ガディア、アキュラ、タンドの五人に加えて、別の希望者も当日になって現れた。

 集落の外からやってきたのは、左目に傷を持ち右肩から下を鉄の鎧で覆った壮年のリザードマン族だった。

 

 「ジャック」


 左目に傷を持つリザードマン族の男はそう名乗った。

 戦力は少しでも多い方がいいが、ザガドは疑問を持ち話しかける。表の兵士達が、彼を簡単に通したことも気になっていた。


 「外からやってくるなんて珍しいな」


 あまり喋り好きではなさそうな雰囲気のジャックは、意外にもザガドの質問に応じた。


 「他の集落からやってきた。ここでも、この戦いをやっていると聞いてな」


 他の集落からだと、と驚きの声を発したのはなザガドの仲間の一人だ。

 その場にいた者達の視線がジャックに集中する。


 「俺は、破壊者を殺すために異世界に四度向かった」


 ジャックの発言に、その場にいた者全員に動揺が広がる。そして、誰よりもその事実に驚いたのはザガドだった。


 「あんな戦いを四回も繰り返したのか。……いや待て、その前に俺達以外もこの戦いに巻き込まれていたのか」 


 口の中の水分を失っていくほど狼狽するザガドをジャックは静かな眼差しで受け止めた。


 「お前達が知らないだけで、既に他の魔族達も異世界で戦っている。王が緘口令を敷いていたからな、知らなくても無理はないだろうが」


 「い、一体いつからなんだ……」


 「俺の場合はもう半年か一年、下手をしたらそれ以上前から開戦している。あちらの世界とこちらの世界では多少時間の流れが違うらしく、異世界ではどれくらい経過しているかは分からんがな……。最初は破壊者以外は雑魚ばかりだったが、奴らは戦う度に学習し俺達の皮膚や肉を容易く砕く強力な武器を開発していった。お前もあっちに行ったことがあるなら、とんでもない早さで肉体を粉砕する弓矢を向けられたことはなかったか」


 根が素直な性格のザガドはジャックの言葉に強く頷いた。

 あの武器のせいで、破壊者以外の一兵士も脅威の対象だった。何より、敵兵士の魔族に対する迅速な対応と訓練された動きから考えると、あれが魔族との初戦じゃないと分かれば納得できる。また、ジャックの言う時間の流れが違うという言葉通りなら、異世界側が時間の流れが早いなら連中が学習し力を身に着ける段階が早まるのも納得だ。

 こちらは初めて遭遇する敵だったが、あちら側の兵士からしたら、もう何度か交戦したことのある敵だったというわけだ。


 「王からはそんな話、一度だって聞いちゃいないぞ」


 「笑わせるな、王がわざわざそんな話をすると思うか」


 ジャックの発言が全てであり、他のリザードマン族を含めたザガドを黙らせるには充分な一言だった。


 「――そろそろ、時間だ」


 重たい沈黙の中で兵士の一人がやってきて、何の脈絡もなく告げた。

 各々がそれぞれ暗い表情で自分達の立ち位置に戻っていく中、ザガドは一人ジャックに詰め寄った。


 「何度も破壊者と戦ったのは分かった、だが……お前はどうしてここにいるんだ」


 王から受け取った宝石から魔力の粒子が溢れ出す。

 話があまりにも衝撃的過ぎたので、危うく忘れるところだったがザガドはその根本的な疑問に反応していた。

 自嘲気味な笑みをジャックは浮かべた。


 「俺の集落の仲間達はみんな死んだよ。死んだ戦士達の家族が我慢できずに騎士達に反旗を翻した。それから数分もしない内に、王の魔法で一瞬で焼け野原さ。……全てが終わった後、帰還した俺は何もない荒野に立っていた。これでお前の疑問は解決したか」


 絶望的な事実を語るジャックの瞳は仄暗い輝きがあった。

 言葉を失うザガドを無感情な眼差しでジャックを見つめていた。そして、周辺に居る戦士達に聞こえるように僅かばかり声を大きくした。


 「戦士達が死に続ければ、いつか魔族の住処が全て滅ぼされる。お前達の死は家族の死に繋がっていることを忘れるなよ」


 まるで自分達の集落の結末を教えられたような気持ちになり、戦士達は何一つ喋ることもできなくなった。そして、そんな彼らを家族達は必死の声援で戦地に送る。

 昏い目でザガドはザイーラを目にした、必死に声援を送る妹に作り笑いをみせた。

 やはり嘘はつけないのだろう、表情を曇らせる妹に何も言えないまま、再びザガド達にジャックを加えたメ

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