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継母の心

 聖女である私は、同じく聖女である娘二人を連れて国を出ることにした。侯爵家の三女として生まれ、どこかの家に嫁ぐのかと思えば、ただ使い捨てにできる聖女を欲していた公爵家の嫡男に差し出される。肩書きは愛人だけど、力の強い聖女を産むための道具に近かったかしらね。両親は力の強い妹だけに関心を持っていて、金銭で引き換えられたわ。


 嫡男の婚約者には目障りだと良く罵声を浴びせられたわ。聖女としての力は真ん中くらいで一番多いクラスで、そこも気に入らなかったようね。生まれた娘二人もそこまで力は強くなかった。

 大聖女クラスの子を求めた嫡男は、私たちを捨てたの。このまま国にいても使い潰されるなら、と亡命したわ。


 たまたま出会った男は、伯爵家に婿入りして、当主になるつもりだったが、実権を握ることもできずに妻を亡くしたところだった。聖女を迎えれば当主になれると思っていたみたいだけど、権利があるのは、伯爵家の一人娘が産んだ子どもだけだ。


 初めてシンディにあったとき、何て笑わない子なのだろうと思った。ドレスも茶色や黒色で、父親はごてごてと飾り立てているのに、この違いは違和感しかない。他家の事情に口を挟むべきじゃないと分かっていたが、シンディが夕飯に深い緑のドレスを着て来たときに、父親は、恐ろしく激怒した。曰く、母親の喪が明けていないのに色付きのドレスを着たと。


 あとで、執事に聞いたところ、黒や茶以外のドレスを着ると折檻し、領地視察に同行しないと言うと、腕を掴んで家の中を引き摺り回したりしていたらしい。子どもにすることではないが、使用人たちは強く言えない。


 私もだけど娘たちも危険だと感じて、シンディを守るためには、この男と結婚するしかなかった。幸い他国とは言っても侯爵家の娘である私を拒むことはできず、急いで婚姻届に署名をして実権を握ったわ。


 聖女がいないこの国では、多くの領地から呼ばれた。そこに夫になった伯爵代行を連れ回す。物理的に引き離せば、あとは少しずつシンディの心の傷を癒せばいい。


 まあ夫は、行く先々の歓待の宴で暴飲暴食をして体型が三倍くらい大きくなり、長時間の馬車の移動に耐えられなくなり、ぽっくりと死んでしまった。暴力を振るう男がいなくなってもシンディは、黒や茶以外のドレスを着れなくなり、貴族令嬢としては致命的な傷を抱えた。娘に一生の傷を与えたのだ。最期くらい自由に動かせない体で苦しんでも良いと思って、好きなようにさせたわ。ふふ、私が知らないと思っていたみたいだけど、自分が当主になりたいという理由で妻を殺している。ただ、血筋の関係で国からの許可が下りなかった。


 カモスジェス家は、シンディが継ぐ。だけど、王族と結婚することになり、娘の父親が今さら連絡を取って来た。



******



「ご無沙汰していますわね」


「そうだな」


「奥様は、お元気かしら?」


「ちっ」


 そう。この人の奥様は跡継ぎ以外に三人の娘を産んだが、大聖女となれるほどの資質は無かった。むしろ、ダリアナとネルジェの方が力は上だ。私を捨ててから何人か聖女を愛人として子を為したが、ダリアナとネルジェの方が上で、思うような聖女が手に入らなかった。


「それで、カモスジェス家に何かご用でございますか?」


「ダリアナが王家に嫁ぐのだろう。まあ地位は末端のようだが、他国の王家に嫁いだ娘がいるとなれば、我が公爵家の権力も強くなる。引き取ってやろう。嬉しいだろ?」


「ずいぶんと都合の良い話ですわね」


「もう一度、愛人してやっても良いぞ」


 愛人はお断りだ。ただ、ダリアナはラディアス殿下の婚約者だが、一度も王家に嫁ぐとは言っていない。積極的に勘違いを解くつもりはない。


「そうですわね。ダリアナに任せますわ。もう大人ですもの。わたくしは、愛人になりませんけど」


「ダリアナを呼べ」


「王宮に知らせを送ってちょうだい」


「王宮?」


「ラディアス殿下の公務を手伝っているの」


 手伝っているだけで、王家に嫁ぐとは言っていない。連絡をしたダリアナは、楽しそうに笑ったと迎えに行った侍女が教えてくれた。

 伯爵家から公爵家の養女になったダリアナから手紙が届いた。話が違うと公爵が叫んでいる、と。


「お母様」


「ネルジェ」


「お姉様から手紙が届いたって」


「ええ。ダリアナが王家に嫁ぐから引き取ったのに、使えない王族を婿入りさせられたって」


「王家からすれば、他国の公爵家に婿入りできるのだから喜んで送り出しますわね」


 他国であっても王家が言うことを拒否はできない。さらに、ダリアナは書類上は養女だ。跡継ぎでも何でもないため向こうの国としても特に問題にならない。


「お姉様。自分たちを要らないからと捨てた公爵を恨んでましたものね」


「ええ。ダリアナなりの復讐なのでしょう」


 穏やかに見えて従えやすそうなネルジェは、聖女の力を教会でのみ使い、枢機卿たちに恩を売っている。貴族たちに多額の寄付をさせ、そのお金を貧しい土地にばら蒔いて好感度を上げている。国民の支持率は王家よりも圧倒的に上だ。


「これで、約束は果たせたかしらね」


「シンディのお母様との約束ね」


「わたくしにもう少し聖女の力があれば救えたはずだと後悔したわ」


 少しずつ毒を盛られていたシンディの母親を救うだけの力が無かった。わざわざ聖女の力を求めて来てくれたのに助けられなかった。


「シンディが伯爵家当主になるまで見守って欲しいが最期の願いだった」


 他国の令嬢の後見人になるのは難しい。どうしようかと悩んでいるときに、公爵家から捨てられた。これ幸いにと亡命を決める。娘たちには苦労させることになったが、二人とも自分のやりたいようにしているから良かったのだと思う。


「お母様!」


「どうしたの? シンディ」


「ユージェオ殿下から目が痛くなるドレスが送られてきたんです!」


「送られたじゃなくて、贈られた・・・」


「そんなのどっちでも良いです! あんな頭の痛くなるドレスを送ってくる人の愛人なんてまっぴらごめんです」


 ユージェオ殿下は勘違いをしている。確かにシンディを三人目の娘として育てたが、聖女ではない。いつ気づくかしらね。


「シンディ」


「アントニオ」


「安心して、あのドレスは燃やしてから送り返すように侍従に言っておいたから」


 シンディを守る盾になればと思って相手として紹介したが、愛が重すぎる。だけど、シンディが目を輝かせて喜んでいるから、これで良いのかもしれない。

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