恋愛を間違えた幼馴染がしつこく擦り寄ってくるのを撃退する話
「おはよ、克樹くん」
今日も玄関のドアを開けると、幼馴染の司馬原 結蘭が、俺の登校を待ち構えていた。
今日も、というのは、この状況がかれこれ2週間ほど続いていることを指す。思わずため息の1つでも出てしまいそうなところだが……実際のところはそれすら出ない。
肩まで伸ばした黒髪。人懐っこさを感じさせるつぶらな瞳。低めの身長に反比例するかの如く、大きめの胸。
他人からすればいわゆる『美少女』に分類されるであろう女の子が、家の前で待っているなんてシチュエーションは、普通の男子にとっては憧れなのかもしれない。
だが、現実は違う。
俺にとって、彼女の存在とは―――
無関心。
その一言に尽きる。
だから俺は、今日も彼女のことを無視して、そのまま通り過ぎる。
「待って……待ってよ……!!」
後ろの方から微かに声が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだろう。
なぜなら………
『馴れ馴れしく話しかけないで』
そう俺に言ったのは、何を隠そう、コイツ、結蘭自身なのだから。
♢♢♢
「ねえ克樹くん、何見てるの?」
教室の席についた俺がスマホでネットサーフィンしていると、ひょいっと顔を出して画面を覗き込んでくる『何か』がいた。
プライバシーの侵害だとか、正直言いたいことは山ほどあるはずなのに、なぜだろう。
何も気力が湧かない。
「あっ!この選手知ってるよ!メジャーで投げてて、すごいよね!」
何だよ、コイツ。野球には興味ないんじゃなかったのかよ。
つい1ヶ月前までは、野球部はみんな坊主だからダサいとか言って、サッカー部のエースストライカーと付き合っていたくせに。
「猛先輩に告白されちゃった♡」とか言って、まるで子犬が尻尾を振るみたいに嬉しそうにしていたくせに。
あー、興味がないはずなのに、俺は無駄に記憶力がいいせいで、忘れられずにいるんだな。
できることなら、コイツの絡む記憶ごと全て抹消したい。
『消えろ』
目の前の存在に対し、思わずそう言ってしまいたくなる。
だが、それはダメだ。
―――あれ、もしかして、そこまで言ったら俺が人として終わってしまうから、とか思った?
違うね。
コイツ……結蘭は、根っからのメンヘラなんだよ。
下手なことを言うと、何をしでかすかわからない。そこが、結蘭の恐ろしいところだ。
だから俺は鬱陶しい結蘭の頭をグイッと押し返し、画面の覗き見を阻止するにとどめた。
結蘭は不満そうに頬を膨らませた。
整っている容姿だけど、その表情はちっとも可愛くなかった。
♢♢♢
「ねえ克樹くん、今日も、克樹くんのためにお弁当を作ってきたんだけど、どう、かな?」
念の為に言っておくが、俺は一度も昼ご飯の注文なんてしていない。
もし、コイツの頭の中の俺が、勝手な発言を繰り返しているのだとしたら……想像するだけで気持ち悪いな。虫酸が走る。
つい1ヶ月前までは、猛先輩に愛妻弁当とか言って、張り切ってたんだっけ?
彼は抜群のセンスで、弱小である我が校のサッカー部を地区大会突破へと導いた有名人だったのだが、ある日の練習試合で他校の女の子との二股が発覚したことをきっかけに、あっという間に人気と地位と、それから人権を失った。
まあ、実際には結蘭を入れると三股だったんだけどね。
皆は三股までは知らない。俺も黙ってる。一応言っておくけど、皆に知らせたら結蘭が可哀想だから、ではない。そんなことは微塵も思っちゃいないよ?別に、わざわざ知らせることではないってだけ。
でも、俺と結蘭が幼馴染なのは、皆によく知られていること。公認カップルとまではいかずとも、かつては一般の幼馴染くらいには仲が良かったことも。
―――それはつまり、クラスでの今のこの状況は、俺が一方的に幼馴染を突き放しているように見えるわけで。
なんか癪だなー。
ここだけの話だけど、結蘭はよく、猛先輩に放課後グラウンド裏の物置きへとこっそり呼び出されていた。
ま、そこで何をしていたかまでは流石の俺でも知らないけどね?
恐れ知らずに相手DF陣へと突っ込み、突破していくことから、猛先輩には『疾風の猪』とかいう二つ名があった。
恥ずかしいよな?
でも、流行ってるときはそれでキャーキャー言われる。世の中そんなもんだぜ?
猪突猛進。そんな彼のプレースタイルは、多くの女性陣の心を鷲掴みにしたのだったが―――そのまま女の子の〇△×にも突っ込んでいったことで、彼はレッドカードで一発退場となりましたとさ。
加減って難しいよな。
……で、なんだっけ。
あ、そうそう昼飯がどうとかで。
興味がないと、ほんっとすぐ忘れちゃうよなー。
でもここは、流石にクラスメイトの目もあるし、無視は厳しいから、適当にあしらっておこう。そうしよう。
「頼んでないから。それに、昼は約束があるし。じゃ、そういうことで」
いくら結蘭がウザかろうと、食材に罪はない。
その点にだけ申し訳無さを感じつつ俺は返答し、教室を後にする。
「……っ!!……やっと……やっと返事をしてくれた……!!」
後ろの方からまた、微かに声が聞こえた気がしたけど……これもやっぱり気のせい。
というか不愉快だ。やはり、また無視すればよかったか。
イラッときて、思わず眉間に皺が寄った俺だったが。
―――気を取り直し、早足で『約束』の場所へと向かった。
♢♢♢
屋上のドアを開けると、そこには既に彼女の姿があった。
彼女の名前は……
彼女。俺の花音だ。
……あーまちがえた、花音、俺の彼女、ね。
何が言いたいかっていうと、つまりその、実は、俺には……こんな俺には本当に勿体ないほどの、とびきり可愛い彼女がいるって話だ。
花音は可愛い。彼氏としての贔屓目とかなしで。
だから彼女はモテる。
染めてもいないのに茶色がかった髪は1本1本が細くてサラサラしてる。あ、勿論他の男に触らせるつもりはないよ?ゴメンな?
そんな綺麗な髪をハーフアップにまとめて、胸はその、お世辞にも大きいとはいえないけど……スラッとしたモデルみたいな容姿をしているものなら、男の10人や20人は寄ってくるものだ。
―――まあ実際にどれくらい告られてるのかは知らないけどね。
だから、そんな彼女に告白されたときは、あまりにびっくりし過ぎで、すぐには返事をできなかったよ。
ちょうど結蘭にも、彼氏ができたときだったから……あれに少しばかり対抗意識が芽生えたのもあってOKしたんだけど、いざ付き合ってみたら性格まで可愛いし料理は美味いしほんと、俺には勿体ない子だ。
そんなわけで俺は彼女を独り占めしたいから、外野の余計な邪魔が入らないように、こうやって人目のつかないところで、隠れて付き合ってもらってる。
「んーこの卵焼きうんまー」
周囲からのヤジとか視線とかを気にせずに、園芸部員の花音のおかげでこっそり鍵を開けて利用できる、誰もいない屋上での2人だけの昼食の時間は、俺にとって、まさに幸せそのものだ。
隣でニコニコと微笑む花音の顔を眺めつつ―――俺は、花音たちが育てている植物を鑑賞する。
自然っていいなー(コンクリートの床に座りながら)
花音をはじめ園芸部の子たちが優しく育てている植物たちも、普段はここが解放厳禁となっているせいで一般生徒の目に留まらないんじゃ可哀想だし、勿体ないよなあ。―――そもそもなんで隠れたところにひっそりと存在してるんだ???
その分俺が眺めて楽しまないとって、そうやって俺たちがルール無視をしていることに無理矢理納得させつつも……どこかモヤモヤする気持ちは残る。
ふと、花音との関係はこれでいいのかなって、なんとなく疑問に思った。
♢♢♢
「ねえ克樹くん。良かったら一緒に帰ろ!……ね?」
放課後。
首を斜め45度に傾けて、あざとく微笑みかけてくる『何か』がいた。
はい、無視無視。
無視確定ね。
昼休みの件で懲りた俺は、そんな彼女を置き去りにして教室の外へと一歩ずつ進んでいく。
目的地は近くの公園。
今日は水曜日だから園芸部が休みで、かつ水やり当番でもない花音とは一緒に下校できる。そんな貴重な日なんだ。
そういう日は、周囲の目が少ない公園で待ち合わせをして、そこから一緒に帰ってるってわけ。
だから、こんなことで時間を取られてる場合じゃない。
そのはずだったが……
ガシッ
何かに手首を掴まれた。こわっ!
「ねえ克樹くん。聞こえてるよね?どうして無視するの?」
「あーもうどっか行けよ!ウザったいな!」
―――あ、やべ。
あまりにもムカついたから、つい反射的に言葉に出てしまった。
でもまあ事実だし、これくらい仕方ないよね。
……あれ。
……あれれー。
おかしいなー。
結蘭の目からハイライトが消えていくぞー。
「もう知らない!どっか行く!消えればいいんでしょ!」
「ちょ、どこ行く気だよ。おい!」
直感的に嫌な予感がして、俺は結蘭のことを追いかける。
……あー、何やってるんだろうな、俺。
これじゃまるで結蘭の作戦にハマってるみたいじゃないか。
謎の敗北感による悔しさが募りつつ、俺は彼女を追って階段を駆け上がる。
上がる。上がって……
まさか……
やべ、今日の昼休み、ちゃんと鍵をかけたっけ?
ガチャッ
あー………
俺が追いついた頃には、既に屋上のフェンスに背中をもたれるようにして、結蘭が立っていた。
「わ、わたし、今から死ぬよ!飛び降りるよ!どっか行けって言ったのは克樹くんなんだからね!克樹くんのせいだからね!!」
はあー。
始まった。いつものやつ。
小さい頃から、結蘭は何にも変わっちゃいない。
無関心の相手とはいえ、流石にここで死なれちゃあ寝覚めが悪い。
あークソ。
過去の思い出が蘇ってきたこともあり、イライラする俺だったが……
ついでにある事を思い出したので、ここは1つ、賭けに出ることにした。
「ああ。やれるもんならやってみろよ!後ろ向きで柵を登れると思うか?あ?」
……我ながら、中々にリスキーなことを言ってしまった。
でも、問題ない。
なぜなら―――
結蘭は、昔から高所恐怖症なのだ。
この屋上から飛び降りるためには、自殺防止に設置されているフェンスを超えた向こうへと歩いて行く必要がある。
勿論、万一のことがあったら困るので、いざとなったら止められるように、俺は一歩ずつ結蘭に近づいていく。
結蘭の膝を見ると、既にガクガクと震えている。やっぱりな。でも、そんな姿を見ても、少しも可愛いとは思わないし、庇護欲も……掻き立てられない。
小さい頃は、幼馴染のよしみで何でも面倒を見てあげてたけど。
―――猪先輩の一件で、かつての俺が抱いていた気持ちはどこかへ飛んでいって、もう戻ってくることはないようだ。
「克樹くんのいじわる!私のことをこんな扱いして、後悔しても知らないんだからねっ!」
叫び散らす幼馴染。
いや、訂正、『何か』ね。
あークソ、昔の記憶が蘇ってきたせいで、これが幼馴染だって思い出してしまったじゃねえか。
イライラする。
ムカつく。
感情に押し潰されそうになり、つい我を忘れてしまいそうになる俺だったが……
「克樹くんは、いじわるなんかじゃない。優しい人だよ」
突然、後ろから綺麗な声がした。
思わず振り返ると……
左手に屋上の鍵を握りしめた、花音が立っていた。
「克樹くんは、いつだって周りを見てるよ。困っている人がいたらすぐ助けに行っちゃうし、私だって、最初は園芸部の花壇を運ぶのを手伝ってもらって、それで……だから、その、優しすぎるんだよ」
そこまで言うと、花音は一度大きく息を吸って、さらに続けた。
「克樹くんの優しさに甘えているのは、あなたの方じゃない!……私は、羨ましかったんだよ。克樹くんの側にいつも居られるあなたが。あなたがいたから、告白だって躊躇ったし、本当は克樹くんには私だけを見て欲しいのに、いつもあなたがいて……」
いや、何を言っている。
俺はいつだって花音のことを第一に……
あ……そうか……
結蘭のことを見ないようにしていたってだけで、実際は少なからず、コイツに振り回されてたってことか……
そう自分のことを顧みている間に、結蘭の方はといえば、ブツブツと何かを呟いていた。
「……?告白……?」
イマイチ状況を飲み込めていない結蘭に対し、花音は―――
空いていた右手で俺の左手をぎゅっと握り、はっきりと、宣言した。
「私は今、克樹くんの彼女だから」
驚いて、思わず隣を見る。
花音の目は、真っすぐ結蘭のことを捉えていた。
そして視線の先にいる結蘭の表情は、少しずつ変化していく。
とぼけた表情、そして放心状態、そして……憎悪に満ちた表情へ。
「うるさい!この泥棒猫!私の克樹くんを勝手に取るな!触るな!手を握るな!あんたが消えればいいんだ!あんたみたいな見た目だけの女に騙されてる克樹くんが可哀想!克樹くんから離れて!そして今すぐに消えて!!!」
……は……??
この瞬間、俺の中に僅かに残っていた糸のような何かが、完全にぷっつりと切れた。
「……謝れよ」
気がついたら俺はそう口にしていた。
思えば結蘭に何か命令じみたことを言うのは、これが初めてかもしれない。
しかし、それを聞いた結蘭は……
ヘラヘラ笑っていた。
面がヘラヘラ。略してメンヘラ。
こんな奴に、俺は今までずっと、気を遣って生きてきたというのか―――
「謝れって言ってんだよ!!!」
おおっと思ったより大きな声が出た。
でも、我慢できなかった。
これまで積もってきたストレスが限界値を迎え、ついに溢れ出した。
「花音はお前と違って自分勝手じゃなくて、思いやりがあって、遠慮がちで心配になるくらいなんだよ!!!お前みたいな身勝手なクズとは違うんだよ!!!小さい頃からいつもいつも、おやつの種類だって、家族旅行の行き先だって、夏祭りの回る順番だって、結局は全部俺が折れて、いつだってお前は我儘で、相手が懲りるまで主張して、そうやって、可愛いからって周りが許してしまうまで駄々をこねて、何でも思い通りにしてきたよな?そうだろ???だからお前に彼氏ができたときは、ホント、せいせいしたんだよ。やっとお前から離れられるってな。それなのに何だよ?浮気されてたってわかった途端に、俺に媚びを売って、気持ち悪いんだよ!!!お前はまたそうやって、一度は彼氏ができたから気安く話しかけるなって言った俺とよりを戻そうとして、しつこく擦り寄ってきて、そうしたらいつか俺が手に入るって思ってんだろ?バカにするな!!!俺は花音が好きなんだよ!!!花音は見た目も確かに可愛いけど、本当に可愛いのは中身なんだよ!!!わかるか???わかんねえよなお前には!!!お前みたいな性格のねじ曲がったヤツにはわかるわけねえよなあ???」
……そこまで言ったところで、花音の握る手がぎゅっと強くなって、俺は我に返る。
小さいけど温かい、花音の手。
花音はいつだって、俺の気持ちを整えてくれる。
俺が恋人に求めているのは人懐っこいくりくりした目でも、あざとい仕草でも、大きな胸でもない。
何でも持っていると勘違いして図に乗ってしまった幼馴染にはないもの。
それを持っているのは花音だけ。
だから、許せない。
花音を侮辱した、このクズのことが。
「謝れよ!!!」
もう一度だけ強く言ったが……
さらに花音の握る力が強くなった。これ以上は言うなということだろう。
よく見ると、顔だけじゃなくて結蘭の膝も笑ってた。
これはきっと、単純に高いところが苦手だからとか、勿論疲れたからとかではないだろう。
そんな結蘭に対して、怖がらせないよう優しく語りかけるような口調で、花音は話しかけた。
「……無理に謝らなくていいよ。悔しいけど、克樹くんとの思い出が少ないのは事実だし、後から出てきたのは私の方だし、泥棒猫でもいい。……でも、もう克樹くんは絶対に渡さない。私が、克樹くんの彼女なの!」
結局、語尾は強くなって、結蘭はビクッとしてるけど。
やばい、嬉しい。
普段は控え目でおとなしい花音だけど、ここでこんな風に言ってくれるなんて。
……それと同時に、俺は今まで恋人としての関係を隠そうとしていたことへの罪悪感でいっぱいになる。
「だから、もう克樹くんを困らせないで!近づかないで!!!」
花音のクールな目が、真っ直ぐ結蘭を見ている。
結蘭は、さっきから一言も話していない。
―――やがて、負けを認めたのだろうか。結蘭はフェンスに体を預けるようにしてへなへなと崩れ、その場にしゃがみこんだ。
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……」
何の気持ちもこもっていない、言葉だけの謝罪が繰り返される。
きっと結蘭は、何が悪かったとか、それすらも分からないのだろう。
ここまでのヤツにしてしまったのは、俺のせいでもあるのかもしれない。
情緒不安定なコイツに、面倒なことにさせたくないという気持ちが先走って、つい甘やかしてしまったこと。
―――俺はもっと、心を鬼にして、結蘭と戦って、争いながら生きてくるべきだったのだろうか。
「克樹くんに、汚い言葉は似合わないよ」
だけど、そんな俺が口に出さずに考えていることをまるでお見通しかのように、花音はそう言った。
そう言ってくれたんだ。
―――そしてそのタイミングは、結蘭が何か言葉を発しようとしたときでもあった。
結蘭はその言葉を飲み込んだ後―――それはきっと汚い言葉だったのだろう―――いたたまれなくなったのだろうか。突然立ち上がると、そのまま屋上の出口へと走っていった。
去り際に一度こちらを振り返り、ギッと花音のことを睨んでいたが……
なんだか野生の動物みたいで、ちょっと滑稽だった。
というか、突然勢いよく動き出して、不気味でもあった。
もしかすると、さっきのゴメンナサイもパフォーマンスだったのだろうか。
そうでもすれば、俺が再び歩み寄ることを期待して。
―――だとしたら、本物のバケモンだな。
結蘭がいなくなると、嵐が去った後のような静寂が訪れた。
でも、それは……俺にとってはとても心地の良いもので。
だから俺は、その空気を壊さないように、穏やかな心で彼女に笑いかける。
「……ごめん花音。見苦しいところを見せちゃって。……あと、ありがとう」
「うん。克樹くんも、私のために怒ってくれて、ありがと」
そうやって花音は、申し訳無さから沈みかけた俺の心を励ますかのように、笑い返してくれた。
―――俺は花音に、色々と貰ってばかりだ。
いつか、花音に返せるかな。
気を遣いすぎてしまう彼女に、いつか必ず彼女自身のための笑顔をさせてみせると誓った。
「鍵のことで慌てて来たらこんなことになってて、びっくりしちゃった。……ごめんね、秘密だったのに。鍵を閉め忘れた私のせいで……」
またそんなこと言うけど、別に花音のせいじゃない。
俺だって確認しなかったのが悪いし、まさか侵入者が今日に限って現れるなんて想像できないだろ。
それに……
「花音。今までずっと、俺の我儘を聞いてくれてありがとな。あと、これからは花音のことだけ見ていたいんだ。だから、さ……」
♢♢♢
この日を境に、俺と花音は交際をオープンにした。
それは瞬く間に、学年中の噂となった。
そして同時に、昔から仲が良かった幼馴染に捨てられた哀れな女の子として、結蘭のことが噂になっていた。
そんな彼女のことを何人かの男子が、励ましていた。
俺はそれを見てほっとした。
え?結蘭に甘すぎるって???
違うね。
かまってちゃんの結蘭に手を差し伸べる男がいる限り―――結蘭が俺と花音の間の邪魔をしてくる心配がないからだよ。
美人な恋人を作ろうと、ここぞとばかりにアプローチをする哀れな男子たちを見て、俺はほくそ笑む。
結蘭の本性を知らない面食い男共に、合掌。
―――さて、俺は園芸部の入部届でも、出すとしますかねえ。
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