5. 理由
体が痛い――。
そこでフローラは目を覚ました。
(ここはどこだろう)
豪華な調度品の揃う寝室で、フローラはぼんやりと考えていた。
フローラの部屋は公爵令嬢でありながら質素な調度品なためこのような豪華な調度品は知らない。
それに文様をみると他国のものだ――これは確か隣国の――。
おぼろげな状態でベッドに寝たまま調度品を観察していると
「目が覚めましたか。フローラ様」
見知らぬ男性の声が聞こえて、フローラは急に現実に引き戻された。
気づくとベッドの隣に長い緑の髪の眼鏡をかけた端正な顔立ちの男性が立っている。
(誰―!?)
勢いよく起き上がってそこでフローラは気が付いた。
手が……体が自分のものではない気がするのだ。
「え……」
思わず手を見つめると、見知らぬ男の人は申し訳なさそうに微笑んだ。
「フローラ様、突然のことで驚かれたと思われますが……、まず私の話を聞いていただいてよろしですか?」
「話……ですか?」
聞き返すと、その声も自分の声ではなかった。
この声は聴いた事がある。
眼鏡の男性がそっと、フローラに鏡をみせ――フローラはそこで固まった。
そこにいたのは夢の中で自分を助けると名乗った青年「ロイ」が映っていたのだ。
「え、な、な、なにが!?」
思わず緑の髪の男性から鏡を奪い取って自分の姿を確認してしまう。
フローラの動きと同じ動きを鏡の中のロイも同じ動きをしていた。
何がどうなっているのかわからなくて、フローラは鏡と眼鏡の男性を何度も見比べる。
眼鏡の男性は苦笑いを浮かべて
「私の名はレクシス。シューゼルク王国の秘書官です」
「え? あの……なぜこんなことに?」
シューゼルク王国は隣国だ。なぜその秘書官が自分の家にいるのだろう。
「フローラ様がサランの薬で自殺を図ったため、サランの薬で暴走した魔力を抑えるためうちの馬鹿……ではなくロイ殿下がフローラ様と身体を入れ替えました。今現在、フローラ様の身体にはロイ殿下が入っています」
と、説明した。
「え、え、え、で、で、でもどうして!?」
フローラはほぼ領地にこもっていたため隣国の王子ロイとの接点は一度もない。顔でさえあの時知ったのだ。体を入れ替えてまで助けてもらえる理由がわからない。
「えーと、その簡単に説明しますと」
「説明すると……?」
「……愛でしょうか」
「愛!?」