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49.交渉 その2(閑話)

 金髪の少年を見下ろしながら、エーデルは意地の悪い笑みを浮かべた。

 彼は優秀だ。物事を冷静に見る目と、大人に揺さぶりをかける度胸。

 エーデルが戦争になれば補給のかなめになるとみて重要視している土地ばかりあげているその先見の明。

後ろ盾がなく資金もろくにないであろう第三王子がどうやってここまでの情報を仕入れたのかは興味がある。

 選ぶ言葉一つ一つ、確信をついてきており、気の弱い相手なら十分動揺させることができただろう。


 だが、それがなんだ?


 エーデルとて名をあげられたくらいで、謀反を起こそうとしていると悟られるほどの悪手はうっていない。知らぬ存ぜぬでなんとでもごまかせる。

 計画も変えればいいだけだ。


 自分が付き従うにはまだ足りない。

 最初の問答だけなら大人に吹き込まれた可能性もある。

 誰かの差し金かもしれない。

 これくらいの揺さぶりで、心を許すほど、王族に逆らうということは甘くない。


「滅相もない。たまたまでしょう。それにしても収穫ですね。まさか聖王国と黒の塔がそのように動きだしてるとは知りませんでした。貴重な情報ありがとうございます」


 所詮子供と小ばかにしたような笑みを浮かべてあしらう。

 絶望的な表情になる緑髪の少年とは対照的に金髪の少年はなぜか嬉しそうに口のはしをつりあげた。


「なぁ、多数いる商人の中からなんで俺があんたに交渉を持ち掛けたと思う?」


「さぁ? なんでですかね。子供の遊び相手に選ばれるほど暇ではないのですが」


「メリル鉱山」


 少年の言った言葉に、エーデルは眼を細めた。

 そう、エーデルの恋人が死んだとき、復讐心に駆られて後先考えずに、恋人を凌辱した王子に損害を与えようと、質のいい魔石が取れると偽装した鉱山の名前。


 第一王妃派の調査隊をあざむいた場所だ。

 いまでは巨大な富が手に入ると勘違いして、その鉱山をめぐり第一王妃派と第二王妃派が鉱山の土地利権をめぐって醜い争いを繰り広げ、エーデルの目論見通り物事は進んでいる。


 稼働して鉱山を掘り始めれば何もないゴミ山。

 大金を投じて争ったのにごみを背負う事になると、小ばかにしていたのだが……。


 偽装が見抜かれた?

 いや、もともと噂のあった場所に小細工しただけにすぎない。

 鉱山の魔石はその土地の魔力を吸い取って魔力をためる。

 地表部分で発見された鉱石がたまたま魔力の質がよかっただけで、あの山に魔力は少ない。掘れば掘るほど悪質な魔石がとれるはずの土地なものを記録を改ざんし、質のいい魔石が地表に埋まってると錯覚させるために、調査隊の魔道具を狂わせる小細工をした。


 だが、証拠になるようなものは残していないはず。

 

 しかしよく考えろ、そもそも最初に目をつけていたのは第一王子派だ。

 恋人を凌辱した男たちの噂話を利用してゴミ山を儲かる山と偽装した。


 最初の地表にあった魔石の質がよかったのはたまたま魔力スポットだったと思い込んでいたが……もし、エーデルより先に噂を流し偽装したものがいたとしたら?


 エーデルが視線をロイに向けると、ロイはにっこり笑う。


「第一王子の恥をかかせるために、地表部分の魔石を偽装して噂を流したんだけどな。

 まさか、それをさらに利用して第一王妃派と第二王妃派を全面的に争わせるなんて思ってもみなかった。あそこまで話を大きくできたのはあんたのおかげだ。俺もあんたの偽装を全力で利用させてもらった」


 言ってロイがにぃっと笑みを浮かべる。


 そう――確かにエーデルは鉱山を偽装して二つの派閥が争うように噂を流した。

 だがエーデルはまだ王宮の貴族に大したパイプをもっていなかった時期だった。

 それなのに都合のいい噂が王宮に流れ、面白いように第一王妃派と第二王妃派が争ってくれた。お互いの派閥が権利を主張して、地質を調べる調査隊すら派遣できないほど、険悪に争ってくれている。


「……まさか」


「そうだ。王宮内で後押しで噂を流したのは俺だ。あんたがこっちの噂を利用したようにこっちも利用してやった。

 もう、あんたと俺は、一蓮托生なんだよ。

 嫌でも俺と歩むしかないんだ。覚悟をきめてもらおか、エーデル・ディリウム」


 ロイの言葉にエーデルはすっと目を細めると、小ばかにするようなポーズを改め、後ろ手を組んでまっすぐロイに向き直った。


「……あなたの望みはなんです?」


 態度をかえたエーデルに緑髪の少年が困ったようにロイにしがみつくが、ロイは安心させるかのように、ロイの後ろに少年を隠した。


「アンタと同じだ。今の腐った王族連中を処罰しこの国をかえる」


「どのように?」


「身分の差で犯罪をおかしても裁かれない法律をかえ、王族連中を全員断頭台にあげ、犯罪行為に対する法の下の平等を実現してみせる」


 ロイの答えにエーデルは狂気じみた笑みを浮た。

 エーデルの望む答えをもってくるあたり、ロイはかなりエーデルの事を調べていたらしい。

 このような子供に調べられていたことを察知できなかったのはエーデルの落ち度だろう。


「面白い。いいでしょう、その話のりましょう」


 その言葉にロイと緑髪の少年が驚いたように顔をあげた。


「それじゃあ、まず頼みがある!」


 ロイがそう言って身を乗り出した途端、エーデルはしぃっというポーズをとった。


「わかっています。奴隷市場に売られたその少年を私に買い取れと交渉にきたのでしょう?

 それくらいならお手伝いいたしましょう。もちろん彼の身柄は私が保証し、奴隷として扱うような事はいたしません。こちら保護させていただきます」


 エーデルの言葉に、ロイとレクシスは嬉しそうにお互い顔を見合わせる。

その姿に年齢相応で無邪気で幼いと感じるが、同時にまた詰めが甘いとエーデルは思う。


 まだ何の契約もかわしていない口約束の時点で喜んでしまうのは、悪手でしかない。

 契約を結んでいないのだから嘘だったと発言を覆されることもあるし、レクシスが弱点と知られてのちに不利な条件をつきつけられる可能性だってある。

 対等に大人とやり取りをしようとしているが、そういったところはまだ子供だ。

 教育する必要はあるだろう。

 

 それにしても――。


 緑髪の美しい貴族の子供が売りに出されるー-。

 その噂はすでにエーデルの元にも届いていた。


 最初に門番に話を聞いた時点で、なんとなく事情も察せられたので追い返すこともなく受け入れたのだが――。


 レクシスも連れてきたのは、子どもながらに頭がまわらず弱点になってしまう弱みを一緒につれてきたのか――、それとも情に流されエーデルが話を聞くのを計算していたのか。


 無邪気に「やった!やったぞ!」喜んでレクシスを抱き上げてぶんぶん振り回してるロイの姿にエーデルは眼を細めた。


(仕えるにふさわしいか試させていただきますよ――ロイ殿下)




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