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48.交渉 その1(閑話)

「ごめんね。エーデル。私は貴方に相応しくない」


 その言葉ともに、彼女の赤髪が風にたなびいた。

 素朴だが笑顔がまるで野に咲く花のように純粋だった女性。

 愛していつか結婚をしようと、誓った愛しき人。

 がけ下からくる波風に彼女の髪と身体がふわりと揺れた。

 それが――商家のディリウム家の当主エーデルが彼女を見た最後だった。


 王族の戯れに凌辱され、身を汚されたと愛した女性はエーデルの目の前で命を絶った。


 この国――いや、この世界は腐っている。


 平民はどうやっても貴族に抗えない。

 どんな理不尽な事をされてもただ、耐え泣き寝入りするしかないのだ。

 ただ生まれた時の親の血筋ですべての順列が決まってしまう。


 特にシューゼルク王国は現国王が即位してから酷くなった。

 国政にまったく興味がなく、周りに丸投げしているせいで、第一王妃派と第二王妃派で、争い、派閥争いをくりかえしている。

 派閥に反するものは人にはあらずと、敵対派閥に与する商人や職人などに嫌がらせをしたり、街にくりだしては平民相手に嫌がらせまではじめたのだ。

 エーデルの彼女が犠牲になったのも、第二王妃派の派閥の兵士のいきつけの店の店員だった。そのため第一王妃派の派閥の嫌がらせの標的になり、たまたま戯れに遊びにきていた第一王子に気にいられて弄ばれた。理由はただそれだけだったのだ。


 凌辱した王族たちは裁かれることなくのうのうと生を謳歌し、凌辱された恋人は王族をたぶらかしたとして裁かれた。


 こんな理不尽な事が許されるのだろうか?

 

 海に流され死体すら発見できずに埋葬すらされていない墓の前でエーデルが誓ったのは復讐だった。


 たとえ何年かかろうとも、愛しい人を死に追いやった元凶の王子に惨たらしい死を。

 王子たちの横暴を許し、享楽にひたり醜い争いを繰り広げている王妃たちに復讐を。

 力があるのに何もせず傍観しているだけの国王に鉄槌を。

 腐ったこの国そのものに滅亡を。


 何年かかってもいい。

 

 少しずつ少しずつこの国を侵食し崩壊を。

 誰にも悟られることなく、自らの手で蝕み、必需品の流通を掌握し、他国の侵入しやすい地域の掌握を。


 西の魔獣という人類全体の脅威のせいで、各国とも争わずにいるが、多額の金を投じて掴んだ情報では、聖王国と黒の塔が西の魔獣討伐に動き出すという情報がある。


 西の魔獣さえいなくなれば、魔獣討伐のために抱え込んだ軍事力の行き場がなくなり、軍人たちの先導の元、戦争に動く国もでてくるだろう。その時、裏で手をまわし他国を招き入れ、シューゼルク王国を崩壊させることができる。

 

 そして民衆をそれとなく扇動し、王族を引きずりだし、公衆の面前でなぶり殺してみせる。そのためには王都のものも買収しておく必要があるだろう。

 

 だが、急いではだめだ、悟られないように慎重に、そして確実に。

 この国を亡ぼすために、まずは根をはる事が必要だ。


 そう、その時に備え誰にも悟られることなく、すべてを掌握する――はずだった。



 目の前にロイという少年が現れるまでは。


 激しい雨の降るその日、王族を名乗る少年がエーデルの屋敷に現れた。


『取引がある、俺と会ってくれ』と。


 門番の話では、金髪の王族を名乗る幼い少年と、緑色の髪の少年で、二人とも泥だらけで傷だらけだという。エーデルの屋敷は街はずれにあり、この雨の中追い払えば、幼い子どもだけでは森の中で遭難してしまうかもしれない。結局、この雨のなか放りだすわけにもいかず、第三王妃の息子を名乗るその少年を招きいれた。


 そして――。


「必ず第一王子カードリッドとその取り巻きを俺の手で断頭台にあげてみせる。

 もちろん私利私欲を貪る王妃たちもろともだ。

 だから俺に力を貸してほしい。エーデル・ディリウム」


 人払いさせたあと、少年二人とエーデルの三人きりになったとたん泥まみれの金髪の少年のあげた第一声がそれだった。


 金髪の少年の隣の緑髪の青年は顔を真っ青にして、エーデルの顔と金髪の少年の顔を交互に見てオドオドしている。


 けれど金髪の少年の瞳に宿るそのまなざしに、エーデルは思わず息を呑んだ。

 何かを射貫くような気迫のこもったまなざしに思わずたじろぎそうになる。


 こんな子供に気後れしている……?


 内心動揺したが、しかし、それを悟られるわけにはいかない。

 自分が優位な位置にあるのに、こちらの動揺を悟られるのは商人として失格だ。


「これは面白い。子供が何を言うのかと思えば、本当に貴方が第三王子だとしても、何の後ろ盾もない貴方について私にどんなメリットが?」


 馬鹿にするかのように、半笑いを浮かべて問えば、金髪の少年は隣で怯えている青年の手を強く握り、エーデルをまっすぐ見つめ言葉を紡ぐ。


「アンタの望みを俺が叶えてやるよ。

 何もわざわざ他国を招きいれなくても、腐りきった王族どもに俺が制裁を加えてやる」


「……ご自分が何を言っているのかわかっているのですか?」


「ドルダの森。テテス山脈の南側。デール川。最近あんたが利権を買い取った場所だ。

 これだけ言えば詳細なんて言わなくてもあんたなら通じるだろう?」


 少年がにやりと笑う。

 エーデルがばれぬようにと複数買収した土地の中から、少年は、他国の侵略時に抑えておくと有利と買い取った場所だけの名を挙げた。決して隣国と接している場所ではない。

 だが戦時になれば補給などの要になると、エーデルが目星をつけて重要視していた土地ばかりだ。


 まるで少年はお前の目論見はわかっているぞと言わんばかりに的確にその場所の名をあげたのである。ぞくりと少年に狂喜に満ちたなにかを感じたが、エーデルは馬鹿にしたような笑みを崩さない。 


「最近買収した土地ですがそれがなにか?」


「アンタもどこからか情報を仕入れたのだろう?

 聖王国と、黒の塔が西の魔獣討伐に動きだすと」


「なんのお話でしょう?」


「西の魔獣が倒された場合、魔獣という驚異が去ったあと、そこからおこるのは人間同士の争いだ。そして、シューゼルク王国を侵略するさい重要な拠点になるであろう場所をあんたは買いあさっている。他にも、子飼いの商会に塩や砂糖、そしてこの国の主食サーハラの麦などの流通を抑えさせはじめた。戦争を見込んで行動している。それも何十年も先を見越して。あんたは売る気だ。この国を」


 少年の言葉に――エーデルは笑みを浮かべた。

 



続編でロイのシューゼルク王国も出てくる予定なのでロイ側の補完更新ですー!

レクシスを助けるために商人との交渉シーンです。商人も一応レギュラー予定です!

続編はプロット製作中です!うまくラストまで纏められたら続編だしたいです!

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