4.新たな領主
「これは一体どうなっているの?」
屋敷に戻りキャロルはうめいた。
食卓でフローラの前に豪華な食事が並べられ、それを優雅にフローラが食しているのだ。
コックや使用人たちも顔を真っ青にしながらその様子を両側にずらりと並び見守っている。
「あら、おかえりなさい。叔母様。おいしいですよ、ご一緒にいかがですか?」
テーブルいっぱいに並べられた食事にフローラが微笑む。
「だ、誰がこんなことを許可したのですか!?」
キャロルが使用人達を怒鳴りつけた。その様子にフローラは目を細める。
「あら、叔母様、なぜ叔母様の許可が必要なのかしら?
父も遠征前に残したはずですよ、何かあったときは【ファルバード家は娘のフローラに継がせると】」
そう言ってフローラは父アレスの部屋にあった書類を持ち出した。
そこに書いてあるのは当主としての遺言書。
フローラには存在すらかくしていたアレスの魔力のこもった遺書。
「なぜあなたが勝手にそれを!! だれがアレスの部屋に入っていいといいま……」
そこまで言いかけたところで、フローラが優雅にナイフとフォークを机に置いてキャロルを見据えた。
「何度も言わせないでください。
何故あなたに許可が必要なのです?
ファルバード家の臨時領主はこの私、フローラ・シャル・ファルバード。
あなたに指図されるいわれはないわ」
「何をいっているの魔力もうまく使えない小娘が!
聖剣も召喚できない成人もしていない貴方ではまだ代理人の私が領主代行よ!!」
キャロルが叫んだそのとき、ばんっと中庭側の窓が全部解き放たれる。
突風にその場にいたメイドや従者などから悲鳴があがった。
「なっ!?」
「そうね、いい機会だわ。内外に私が領主だと知らせておくべきね。
この害虫をはやく処理したいもの」
そう言ってフローラがくすくすとキャロルを見て笑う。
「何を言って……」
声より早く、フローラが魔法の詠唱をはじめた。
フローラには魔封じの施術がほどこされている。下手に巨大な魔法を使えば暴走しかねない。
「ちょ、やめなさいっ!あなたに魔法はまだはやいわ!?」
キャロルが止めるがフローラの詠唱は止まらない。そして――
めきめきっ!!!べしべしっ!!!!!
中庭に巨大な氷の柱が天高く立ち上ると、ものすごいスピードで形をかえていく。
「まさか!? あのような巨大な氷を操れるなんて!?」
「氷の騎士アレス様をしのぐのでは!?」
などと使用人たちから声が聞こえ、激しい光とともに、ファルバード家の庭園にそれは完成した。巨大な聖剣をたずさえた光輝く氷像が。戦いの女神の鎧を身にまとい、手にはファルバード家の領主を継ぐ【聖剣フェルラシル】を携えているフローラの像。
「うそ……よ……こんなこと」
この世界では領主はもっとも魔力の高い者が継ぐことになっている。
これほどの巨大で精巧な像をつくることはできるのはアレスに次ぐ、もしくはそれ以上の魔力を持つことを示している。このような氷像を一瞬でつくったのなら、だれもフローラの次期領主に意義を唱えられないだろう。
フローラはいつの間にかその氷の像のてっぺんに移動してのんきの王都を見回していた。
「や、やめなさい!!いますぐフローラをとめなさい!!!」
これをフローラが作ったと知られたらキャロルがファルバード家をのっとるのが不可能になってしまう。
だがキャロルの願いもむなしく貴族街にあるファルバード家の屋敷に貴族のやじ馬が集まってしまっている。
一体どうなっているの!?
いつもオドオドしていたフローラが今日に限って言う事をきかないの?
いつもなら怒鳴ればすぐに謝っていたあのフローラが、なぜこのような反抗的な態度をとり魔法を使っているの!?
光輝く氷の氷像の頂上に優雅に立つフローラの姿は璃々しく、闇夜に浮かぶそのさまは幻想的だ。
あのような毅然とした令嬢ではなかったはずだ。
「さぁ、ここに宣言しましょう。
この私フローラ・シャル・ファルバードが行方不明の父にかわりファルバード家当主をつとめましょう!!」
そう言ってフローラが叫んだその途端。
彼女の前に光る聖剣が現れる。フローラの父アレスが魔獣討伐にもちだしたはずのファルバード家【聖剣フェルラシル】が光り輝きフローラの頭上に輝いた。
「まさか……」
「聖剣がフローラ様をお選びになった!?」
使用人や、屋敷の外で見守っていたやじ馬から驚きの声をあげる。
暗闇の中で光輝くそのさまは遠目からも神々しく、その光景を見れば誰もが認めざるえないだろう。
次のファルバード家領主はフローラだと。
フローラはキャロルを見下ろし、にんまりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「さて、領主の最初の仕事としてまず、領主代行を偽ってわが領地の金を横領していたやつらの制裁をはじめましょう?」