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26.面白い

「許さない。許さない。このままではフローラに全部もっていかれてしまわ!」


 エミールは壁にコップを叩きつけた。

 部屋にはエミールを聖女にしてくれた魔導士が控えている。


 この魔導士はエミールの前に突如あらわれ、「豊穣の聖女にならないか?」と持ち掛けてくれた魔導士だ。

 彼がいろいろ裏で手配してくれたためエミールは豊穣の聖女になれた。

 この魔導士の指示に従っていればエミールは幸せになれるはずだったのに。


 フローラのせいで全部駄目になってしまいそうだ。


「では罪を着せてしまえばいいではありませんか」


 壁によりかかり、エミールの話を聞いていた赤いローブを身に間とていた魔導士が言う。


「……罪?」


 エミールが聞き返した。


「そう、フローラ嬢に毒を飲まされてしまった不幸な少女になればいい。

 聖女様に嫉妬して相手を毒殺しようとする令嬢など黒の塔のセルクも大神官エルティルも見捨てるでしょう」


「そうね!そうよね!さすがだわ」


 エミールは頬を高揚させた。

 フローラに虐められて毒を飲んでしまった薄幸の少女。

 その設定ならば黒の塔セルクも大神官エルティルも可哀想なエミールに振り向いてくれるはず。


「それではこれを」


「これは?」


 魔導士が渡した小瓶をエミールは受け取った。


「飲むと一定時間毒を飲んだものと同じ状態になります。

 ですが体に害は残らない薬です。これで毒を飲まされたと装うのです。

 神殿でのお茶会なのですから神官もそばに控えているはず。

 回復の使い手がいるためまず死ぬ事はありません」


「わかったわ。これでフローラを陥れられる」


「はい。期待していますよ。エミール様」


 そう言って魔導士は部屋を出た。


 もうそろそろ潮時だ。魔導士に化けた魔族はため息をつく。


 聖王国の神殿で巫女見習いの立場に不満をもっていたエミールを利用して、龍脈の情報を抜き出した。

 そして世界各地で作物の育たない飢饉を起こすため龍脈から呪術をつかって豊穣を装い龍脈の流れをかえた。

 そのまま変えてしまうと魔族が動いているのが聖王国にばれてしまうため、エミールを豊穣の巫女にしたてあげ、豊作を装い、龍脈の力を吸い取っている事をカモフラージュまでしたのだ。


 このままうまくいけば、数年後には作物は枯れはて食糧難になるはずだった。

 そうすれば人間たちは食料をめぐって醜く争う。

 途中まではうまくいっていたはずなのに、シューゼルク王国が感づいた可能性がある。

 食料を龍脈の関係する地域を避けて育てたり、備蓄をはじめたりしはじめたのだ。


 シューゼルク王国と親交のある黒の塔のセルクと聖王国のエルティルがわざわざ動いたということはエミールに目をつけたのだろう。


 魔族が裏でこの国やエミール達を操っていた事実がばれるとまずい。


 口封じに殺さねば。


 フローラに飲まされたと偽ってエミール飲むはずの毒は本当の劇薬だ。

 愚かなエミールの事だからフローラを貶めるためといえば騙されてきっと飲み干すだろう。

 人間達を混乱に陥れるべく陰で魔族が動いている事をエミール経由で悟られてはいけない。


 この国は本当に扱いやすい国だった。

 現国王にアレスを憎むようにたきつけ、無茶な命令をさせ、王子はフローラの方が優秀だと煽れば、フローラに敵意をむけて、エミールを重宝した。


 そのまま操りこの国で火種をつくるつもりだったが、シューゼルク王国に邪魔された。


「シューゼルク王国のロイか。警戒する必要があるな」


 魔族がぽつりとつぶやけば。


「いえ、その必要はないでしょう」


 と、別のところから声が聞こえてきて、魔族は思わず振り返った。

 そこにいたのは錫杖をもち法衣に身をまといにこやかな笑みを浮かべたエルティル。

 その背中には光り輝く天使の翼がある。


「貴様まさか天使っ!?」


「真実なんて知る必要はないでしょう?どうせあなたはここで滅びるのだから」


 その言葉とともに魔族の体はエルティルの放った聖気で霧散する。


 そしてエルティルは天使の羽をしまうと微笑んだ。

 本当にシューゼルク王国のロイという少年は面白い。

 彼はいつも強運で魔族の目論見を知らぬうちに防いでいる。


 魔族に生贄にされ魔王を降臨させるはずだった少年セルクを救い、魔族に食われ贄にされるはずだったレクシスを救い――そして今度は龍脈を操って飢饉を起こそうとしていた魔族をエルティルに知らせることで未然に防いだ。

 しかしロイ自身は魔族を倒したことも魔王復活を阻止したことも何も知らない。

 無自覚に世界の存亡に関わって無意識にすべて解決してしまっている。


 そこがまた面白い。


「ひょっとしたら彼は本当に女神に寵愛されているのかもしれませんね」


 錫杖を背に背負うとエルティルは夜空を見上げるのだった。



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