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1.理不尽な日々

「聖女様の本が汚れている……貴様の仕業か!?」


 怒号が王宮の執務室に響いた。


 部屋には複数人おり、叫んだのはこの国の王子デナウ。黒髪の端正な顔立ちの青年。


 彼の隣には金髪の美少女が寄り添っている。少女の名はエミール。豊穣の力をもつ聖女。

 

 彼女は悲しそうに涙をぬぐい、王子とともに別の少女を睨んでいた。

 視線の先にいるのは公爵令嬢であるフローラ。銀髪の美しい少女がたたずんでいる。


 彼女は怯えたように震えながらうつむいたまま、「わ、わたくしはそのような事は……」と、答えた。


 途端。


 だんっ!!!


 王子が強く執務机を叩き、フローラの体がびくっとする。


「この本が汚れているのが証拠だ!!!お前以外に誰がいる!!

 婚約者だからといって聖女様に嫌がらせをするとは許せんっ!!三日間の謹慎を申し渡す!

 その言葉に、周りにいた聖女の取り巻きの貴族達が「聖女様に嫌がらせするなんて」「相変わらず底意地の悪い」「恥ずかしくないのかしら」と悪口を言い始める。


 いつもそうだった。


 いわれのない罪を着せられて、聖女の取り巻きの令嬢や王子に責められる。


 公爵令嬢の立場ではあるが、母の身分の低いフローラは父から愛されていなかった。

 領地は別の親戚に譲るという噂まで広まっている。


 それ故屋敷の者にも下に見られてしまい、その関係性からか、周りの貴族も虐げられてしまいっていた。


 そして何より、反論できずただ震えるフローラは、憂さ晴らしに叩く対象として最適だった。

 自分より身分が高いのに反論も報復もしてこない。

 それが貴族の令嬢達にとってどれほど魅力的だったろう。

 彼女はいつしか集団虐めの標的になってしまっていたのだ。


「私彼女に何か失礼な事をしてしまったのかしら」と、はかなげに泣く聖女と、「君のせいじゃゃない。あの女の心根が卑しいだけだ」と慰める王子のセリフを聞きながらフローラは部屋を後にする。


(……なぜこうなったのだろう)


 生まれた時からそうだった。


 身分の低い母はフローラを生むとすぐ死んでしまった。

 父は母が死ぬとフローラを小さな屋敷を用意しそこで育てた。

 まるで存在そのものを隠すかのように、ひっそりと。

 数人の従者と護衛を付けられ、屋敷の中から出ることも叶わず、ずっとそこで暮らしていたのである。


 何度父に会ってみたいと願っても、父は一度も会いに来てくれることはなく、フローラは使用人の愚痴を聞きながら訪問してくれる家庭教師の教育だけうけて育った。


 父に憧れていたこともあった。

 

 一度、母が生きていた時から仕えていた侍女に父の好きなものを聞いて、一緒にお菓子をつくり同封して手紙をだしたこともあった。

 けれど帰ってきたのは――ボロボロに崩されたフローラお手製のお菓子だけで文の一つすらついてなかった。


 フローラを生んだせいで母は死んだ。だから父は私を恨んでいるんだ。

 小さいながらにフローラはその時すべてを悟る。


 そこから、フローラは父に愛されていない子と認定され、使用人たちからも下に見られるようになってしまった。

 家庭教師もいつもフローラを怒鳴りつけ、フローラはいつの間にか謝る癖がついていた。

 フローラの楽しみは自由に買う事が許された本だけ。

 ただ本を読み知識をつけることだけが彼女の楽しみだったのだ。

 そして12歳のある日。なぜか王子の婚約者として王都に行くことになった。


 その時はじめて、父が迎えにきてくれた。


 嬉しかった。やっと自分も存在が認めてもらえたと。


 けれど父がフローラを見る目は冷たく、その夢は幻だったことをすぐに知る。

 初めて会った父は「これか」と舌打ちをしただけで、フローラと目を合わせることはなかった。

 王都に向かう馬車も別の物が用意されていて結局愛されていない事を再確認しただけだったのである。


 城にあがり、王子に挨拶を交わしても、「これだから田舎娘は」とけなされた。


 その様子を隣で見ていた父である公爵もフローラをかばう事なく、フローラを冷たい目で見ているだけだった。

 厳しい妃教育を受け、フローラが勉強にいそしんでいる頃、王子は豊穣の聖女と仲むつましくなっていた。

 聖女はなぜかフローラを敵視しているらしく、フローラに無実の罪をきせてはフローラが裁かれる。

 まだ氷の騎士と言われる父のアレスが王都にいたときはここまでいじめも酷くなかったのだが、父アレスが、他国と協力して大陸西部に巣くう魔獣を倒すと遠征に出かけてから、いじめは露骨になっていった。


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