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第ニ話 継結~ツユ~

つづき

 ビルの屋上でくたびれた風貌の男性が目の前の女性に謝罪する。


「……すまなかった、俺のせいで。」


「ううん、気にしないで、あんな状況じゃ取り乱すのも無理ないし、貴方の言い分もわかるから」

「それに、私の場合は他の同じような奴と比べて傷の治りは早い方だから」


「……? 同じような奴? まだよくわかっていないんだが、その"奴"ってのをまず説明してくれないか?」


 問われた女性は傷ついた片腕を抑えながら、こちらを向き直し、話し始める。見ればその傷は彼女の言ったとおり、みるみる治ってきている。やはり人間とは異なる存在のようだ。


「まず、私とあいつみたいなのは共通して道具やその他のモノが変化したもの。だけど違う所がある、それはね、私は大事に扱ってもらったモノ。あいつは大事にされなかったり、酷い扱いを受けた上に捨てられたりしたもの」


「つまり、あいつはちゃんとした扱いを受けなかったからああやってたち悪く暴走しちまってるってことか?」


「そういうこと、理解が早くて助かるよ」


「人間達が私達のような存在をどう呼んでいるかはわからないけれど。それは今度調べてみましょう?」


「あ、ああ……」


 先程目の前で起こった光景と今説明してもらった事、同じく目の前に確かに存在する不思議な風貌の女性。夢だと思いたいくらいだが、認めるしかなさそうだった。


「そういえば、君の名前は? 道具だって言っていたが、一体なんの道具なんだ? それともほかのモノなのか?」


「名前? それは貴方が決めて? 私の持ち主は貴方のはずだから。なんのモノかはまだ秘密にしておくね」


「名前を決める!?なぜ?秘密ってなんだ?」


「決まってないから。単純な理由でしょ? 秘密なのはいずれ貴方が気付くだろうし」


「もう何がなんだか……じゃあさっき腕が伸びたからノビコって言うのはどうだ?」


「イ ヤ 」


「俺にお前の名前をつけろって言ったのはお前だろ……じゃあ……ウデミ!」


「なにそのテキトーなの、もっとしっかり決めてくれる? 少し悲しいわ」


 明らかに不服そうな表情をみせる、少しかわいらしいと感じたと同時に、ふと思いついた名があった。

先程の光景、彼女が言い放った、腕を変化させた時の言葉を思い出す。継腕ツギウデか、継ぐ……。


継結ツユはどうだ? 俺のことを助けてくれたし、命を繋いで結ぶって意味でさ、どうかな?」


「今までの2つよりはいい感じ、気に入った!! 今から私はツユ!ふふふっ、名前が付いちゃった。嬉しい」


「そんなに嬉しいのか? それなら考えたかいがあったかな……それで、これからどうするんだ?あいつをどうにかしないと、また街が壊されちまうだろ、あの場所みたいに」


「それについては考えがあるし、あいつを黙らせる方法もある、それはね」


「それは……??」


「たくさん殴って物理的に黙らせる!!!簡単でしょ??」


「そんなんでいいのかよ……」


「どうして?」


「あいつは勝手に使われて勝手に捨てられた挙げ句、いきなり殴られて元に戻されるんだろ?言い分も言えず、何も理解されずに! かわいそうじゃないか!」


「それは貴方たち人間の価値観じゃないの?」


 言われた言葉に反論できず口をつむぐ、そう言われて違うと言えるほど深く相手を思いやって放った言葉ではなかったからだ。それにツユの言い分はもっともだ。道具を使う側の人間が自分勝手に相手の気持ちを理解したつもりで救うつもりであるならいうなればエゴと言えるだろう。

 だが、本当にそんなので解決するのだろうか。さらに疑問を投げかける。


「たくさん殴ったとして、あいつはどうなるんだ? 普通の人間と同じように死ぬのか?」


「私達のような存在は、致命的なダメージを受けると身体が崩れ、元の道具やモノに戻るわ、幸い、私は他の奴らより頑丈でしぶといけどね!!」


「とりあえずわかった……そういえば、さっきの腕は大丈夫なのか?」


「うんっ、もう治った。見て! なんともないでしょ?」


 そう言って抑えていた傷を受けたはずの片腕を見せると、それは先程とは違い、出会った頃と変わらないきれいな腕がそこにはあった。続けて唐突に彼女は両腕を変化させる。その姿はまるで装甲を纏った怪物の腕のようだった。


「……来た」


 静かに呟いた彼女はその大腕で俺を自分の後ろへ守るように伸ばす。次の瞬間、爆発とそれに伴う爆風とともに忘れるはずもない異形の存在が視界に映る。


「見ツけタ……にンげン……にンげンんんンんンッ!!!!」


「悪いけどこの人を貴方の思い通りにさせるつもりはないよ。どうしてもこの人に危害を加えたいなら私を黙らせることね」


「ジャ魔、邪マ、邪魔ぁぁぁぁぁァァアアア!!!!!!!!!!」


 叫びながらこちらに疾走し接近するガス缶の化け物を彼女は遠心力を加えながら肥大化させた拳で力いっぱい殴る。しかしそれを支える足は腕に比べ華奢なのにしっかり足場を踏みしめ身体を支えている。


「まず一発ッ!!!!」


「ごはッッッ!!!」


 抵抗されると思っていなかったのか、単に無策だったのかはわからないが。凄まじいスピードから繰り出された大質量の一撃をもろに受けた化け物は吹き飛びつつ、空中で受け身をとり、ぬるりと着地する。


「私が貴方を止める。万全の状態の私は他とは違うよッ!」


「うるルうううう…がアアアアッ」


 咆哮し、口から巨大な火球を形成する。至近距離ではないとはいえ熱がこちらへ伝わってくるくらい巨大であった。そのまま炎が勢いをつけ迫ってくる。


「見ててね!こいつのこと、さっき言ったとおりなんとかしてみせるから!!!!!」


 そう言い放ち、両腕を手が相手の方向へ向くよう伸ばし巨大な筒のような形へ変貌した。まるで大砲のようだ。


返筒ヘントウッッ!!!!」


 迫って来る火球が巨大な筒へ入り反射するように相反する方向へ勢いを増し発射される。そしてその火球は持ち主へ返却された。


「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアああああああアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……」


 避ける暇も無いほどの勢いで発射された火球をそのまま身に浴びた化け物は炎の中でもがき苦しむ。ガス缶だからだろうか、自らが発するのは良いが他から受けるのは効くらしい。


「そのまま殴るッ!!!」


 彼女は即座に変形させたうでを解除し両腕を再び変化させ、炎の中へ突っ込む。そして先程とは一回りほど小さく、それでいて対象を殴打するにふさわしい形を作り化け物へ連撃を繰り出す。その形とはいわゆる握り拳だ。腹に一発、右頬に一発、往復するようにもう片方の頬へ一発そして心の臓にあたる部分へ渾身の力を込め最後の一発を放つ。


「おおおらあああああああああッ!!!」


 化け物の身体をその右腕が貫き、ガスの缶が心臓のようにむりやり形を歪められた物が身体の中から地面へ落ちる。炎が消え、化け物の身体が崩れ落ちて消える。そしてツユが地面に落ちたはずのガス缶の心臓を持ちこちらへ近づいてくる。


「ほら、なんとかなったでしょ?」


「す、すごいな、君のいう頑丈さは炎も平気なのか、それにあの大砲みたいなのも。ツユ、お前は一体なんの道具なんだ……?」


「ふふふっ、そんなことよりほら、これを見て」


 俺の質問をはぐらかしつつ、ツユはその手にもったガス缶の心臓を見せてくる。その形は歪められた状態から元へ戻っていっていた。


「ほ、ほんとに元に戻った。これで良かったのか?」


「うん、とりあえず元の姿には戻ったみたい。あとはモノを適切に処理するだけ、責任を持って。」


「わかった、ガス缶を捨てる場合の正しい方法で、いいんだよな?」


「それで大丈夫」


「ねえねえ、今何時? 私の記憶が正しければいつもは寝る時間帯だと思うんだけど。」


「なんでそれをお前が知って……てうわっ、もう2時半じゃねえか! 流石に帰って寝なきゃなあ……。つっても、この有様はどうすんだよ?」


「決まってるでしょ。方法は一つ、それは……」


「それは…………?」


「逃げるっ☆」


 そう言った瞬間、瞬時に腕をこちらへ伸ばし、俺を抱き寄せ、ビルの床を片腕で弾き、空へ飛び上がる。嫌な予感がする。


「そーれっ!! 帰るよーーーっ!!」


「またこれかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ」


 再び夜の街の空へ情けない男の悲鳴が響く。忘れられもしないめちゃくちゃな夜だった。



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